「円安株高」から「円安株安」へ

投稿者 曽我純, 3月9日 午後3:19, 2013年

米国の雇用が順調に改善していることから、週末の為替相場はドル全面高となった。円ドル相場は96円台に上昇し、対ユーロでは3ヵ月ぶりの高値である。円ドル相場は昨年9月以降約18円も円安ドル高に振れ、2009年8月以来3年7ヵ月ぶりの円安だ。日米が金融緩和を唱え続けていることに、日米経済の回復テンポの差が加わったからである。それにしても輸入が輸出よりも多くなっているときの20%を超える急激な円安ドル高は、輸入物価の上昇を通して、日本経済に悪影響することは間違いない。物価が上昇すれば、消費が減少し、経済は悪化するだろう。物価の上昇が為替相場にも影響し、円安ドル高が一層進み、円安がさらに物価を上げるという悪循環に陥りかねない。

今は円安の良い側面ばかりに光が当てられているが、悪い側面が出てくると、特に債券相場は、打撃を受けことは必至だ。物価上昇を2%に引き上げるという馬鹿げた目標を日銀は掲げたが、もしそのように物価が上昇すれば、債券利回りは2%を超えるだろう。円安でありながら、債券高というのは矛盾しており、矛盾を解消する激しい動きが必ず起こる。そうなれば、多量に国債を抱えている金融機関は信用問題が持ち上がり、株式も崩れることになるだろう。

 為替、債券、株式の関係はまさにナイフエッジのたとえのように、極めて不安定な関係にある。これを当局が首尾よく操作しても、一方が良くなれば、他方に歪みが溜まることになり、3者が心地よい水準を維持することは難しい。ましてやそれらをコントロールすることなどできないのである。一時的にコントロールできたとしても、そこには内部矛盾を抱え込むことになる。

 米株式はFRBの止め処ない買いオペで上昇している。買いオペの継続により、FRBの総資産は6日時点、3.11兆ドルと過去最高を更新。2月の非農業部門雇用者が前月比23.6万人増加と2010年10月以降28ヵ月連続で増加し、失業率は9.5%から7.7%に低下した。これだけ雇用が改善しても巨額の買いオペを続けるのである。これを頼りに、株式と債券は我が世の春を謳歌している。もし、相場が崩れそうになれば、FRBが買いオペの増額なりで防いでくれるという安心感があるからだ。相場はFRB総資産の関数となっている。

 日銀の総資産は2月28日時点、163.5兆円とこちらも過去最高である。経済規模との比較では、日銀総資産は名目GDPの34.7%だが、FRBは19.6%と日銀総資産の規模がいかに巨額かがわかる。次期総裁候補は「やれることは何でもやる」(4日)というのであるから、日銀総資産はどこまでも増え続けるのだろう。日銀と金融機関で国債を買いまくり、政府債務はますます膨れ、政府部門の経済に占める比率は上昇することになる。

 日銀の国債残高は08年12月の63.1兆円を底に拡大に転じたが、2012年以降の増加ペースにはギアが入り、急増しつつある。こうした買いオペの効果がもっともあらわれているのが、国債と株式である。日銀が国債残高を増やし始めたときから、国債利回りは一貫して下がり続け、株式は大きく崩れることなく、買いオペにより積極的になってからは、上昇傾向を強め、昨年11月以降は異常な値上りをしている。日銀によるバブル相場であることはあきらかであり、日銀は国債買取から抜け出すことができなくなった。

 実体経済は決して良くはない。1月の鉱工業生産は前月比1.0%伸び、2月予想は大幅な増加を見込んでいるが、需要は弱く、生産拡大の持続には疑問だ。1月の小売業販売は前年比1.1%減少し、総実労働時間も-1.5%と2ヵ月連続の前年割れだ。家計調査の消費支出は2.1%と2ヵ月ぶりのプラスになったが、新車販売台数が前年比2桁減になったにもかかわらず、自動車等購入は大幅に増加している。

 1月の就業者(男)は前年比マイナスと3ヵ月連続減であり、特に、雇用者が減少している。非農林の週平均就業時間は4ヵ月連続の前年割れだ。1月の産業別雇用者数をみても非農林は前年比11万人増加したが、製造業は34万人減と減少に歯止めが掛からない。復旧工事で建設関連は人手不足といわれているが、建設雇用は2ヵ月連続の減少となっている。新設住宅着工件数も1月、前年比5.0%と伸び率は昨年10月をピークに3ヵ月連続の低下である。福島、岩手の伸びは低く、宮城はマイナスだ。非居住(床面積)は1月、前年比2.8%減と6ヵ月ぶりのマイナスとなり、建設も勢いはなくなってきている。大盤振る舞いの公共工事が5月、6月から本格化する予定だけれども、雇用動向などからみると、成り手がみつからず、人材面から消化できないのではないか。

 円安ドル高の効果は思いのほか弱く、期待はずれになりそうだ。企業は円安メリットを享受できると株式は急騰しているが、世界経済の足取りの弱さも加わり、企業収益への影響も限定的となり、失望売りで値を消すだろう。「円安株高」から「円安株安」という局面が近づいている。 

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