景気後退期に入った日本経済

曽我 純:

09年3月を谷として回復してきた今回の景気は早後退に転じたようだ。8月が景気の山になれば、拡大期間は17ヵ月となり、戦後の景気拡大で最短だった22ヵ月を下回ることになる。これまで景気は拡大したとはいえ、急激な生産の落ち込みにたいする戻りであり、それも外需の回復によりもたらされたものであった。GDPの最終消費支出は景気回復後の5四半期中2四半期が前期比マイナスとなり、日本経済は景気後退期のようなたどたどしさであった。それも政策の後押しで車などの耐久消費財がよく売れたからであり、これがなければ、内需はもっと低迷していたはずだ。だが、減税や補助金で消費を促しても、この程度の消費にとどまったことは、減税等の恩恵を受ける商品は購入したが、それ以外のものについては消費を削減し、総額ではほとんど増やしていないといってもよい。消費を増やすことができないのは、将来の報酬に明るい展望がもてないからだ。雇用者報酬は4-6月期まで2四半期連続の前期比増だが、水準自身は極めて低く1992年にまで遡ることができるほどである。18年前の生活を強いられるような報酬で景気が回復するだろうか。
さらに消費に悪い影響を及ぼしているのは低給与の階級が著しく増加していることである。国税庁の『民間給与実態統計調査』によると、09年分の100万円以下、200万円以下、300万円以下の給与所得者は全体の42.0%を占め、10年前と比較すると、8.9ポイントも上昇している。400万円以下を入れると6割を超える。購買するにも購買力の乏しい層が増大しているので消費はじり貧をたどることになろう。
景気一致指数は11本の系列で構成されているが、ぶれの大きい製造業が6本、そのなかに鉱工業生産指数関連が4本含まれている。だから製造業が良くなれば景気は回復したことになるし、景気を製造業で定義しているともいえる。
景気の良し悪しを決める鉱工業生産指数は低下しつつある。8月の生産指数は前月比-0.3%と予想を大幅に下回り3ヵ月連続のマイナスとなり、景気後退のシグナルを発した。景気一致指数の構成要素に基づけば、生産指数のピーク辺りが景気のピークに当たるからだ。予測は生産指数の一段の低下を示しており、9月、10月は前月比-0.1%、-2.9%それぞれ低下する見通しである。予測通りになれば5ヵ月連続の低下となり、景気は急激に下降していることになる。
生産低下の主因は補助金等が打ち切られて、販売の急低下を見込んだ自動車の減産である。9月の新車販売台数は補助金を早々使い切ったため、前年比4.1%減少した。10月以降、新車販売は激減し、輸送機械は大幅な減産を余儀なくされよう。鉱工業生産指数に占める輸送機械工業(船舶・鉄道車両を除く)のウエイトは15.7%と高いだけでなく、鉄鋼業や金属・非鉄などへの影響力が大きく、輸送機械工業の生産低下は製造業全般の生産水準の低下に繋がる。
輸送機械工業だけでなく、電子部品・デバイス工業も8月まで3ヵ月連続の前月比マイナスである。前年比では1月の68.8%をピークに8月は16.5%まで鈍化する一方、在庫は27.1%まで増加してきた。半導体の価格は大幅に下落しており、半導体産業は生産と価格の両面から厳しい局面を迎えている。これまで、半導体関連の回復により、電子部品・デバイスだけでなく半導体製造装置の生産拡大により一般機械工業も伸びてきたが、半導体の価格下落につれて、半導体製造装置も生産減に向うことは避けられないと思う。ウエイトの高い輸送機械、電子部品・デバイス、一般機械の3業種(ウエイト36.9%)の生産減が素材関連に波及することにより、年末にかけて鉱工業生産は急速に低下し、景気後退が一層強まるだろう。
週の初めに発表された8月の貿易統計によると、輸出(季節調整値)は前月比2.3%減と4ヵ月連続で減少した。輸出は今年1月がピークとなり、8月は昨年11月以来の低い水準に低下した。輸出の減少とともに鉱工業生産指数も低下しており、日本の製造業は海外の需要に左右される脆弱な体質からまったく改善されていないことがわかる。企業は円高を不振の元凶にするが、為替の影響はさほど大きくない。日本の輸出に及ぼす最大の要因は世界の景気変動であり、世界の景気後退期には輸出は落ち込み、世界景気が好調なときには円高でも輸出は伸びる。輸出と為替の関係は明確ではなく、そのようなことも考えることなく介入する政府の行為はナンセンスである。
貿易黒字も8月までの8ヵ月で4.3兆円、所得収支も7月までに7.6兆円の黒字を計上しており、実需に基づく巨額の円買いドル売りが発生しているのだ。企業自身の円買いドル売りにより、円高ドル安になっているのである。自分で円高にしておきながら、円高を非難するということに矛盾を感じないのだろうか。何度経験しても、為替を悪玉にするしか能の無い政府や企業が問題なのである。
8月の対米輸出は金額で前年比8.8%と7月の25.9%から急低下した。価格の影響は-2.3%とマイナス幅は前月比-1.1ポイント拡大したが、数量は11.5%と16ポイントも一気に低下した。対EU輸出は価格の影響が大きいが数量の低下幅は小幅であり、対米のような輸出減に見舞われていない。8月の対米輸出の伸び率急低下は、電気機器や輸送用機器が不振に陥ったからである。この傾向が続けば、米国景気は弱く、いまの株高は浮かれ、舞い上がったものとみられ、急落するだろう。8月の対米輸出は3年前の07年(1.39兆円)の55.9%にすぎず、最近の輸出の伸び率低下は米国経済が本格回復に向かっていないことを裏付けている。
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米国経済の抱える根深い問題

曽我 純:
日本の債券利回りは週末、8月末以来の1%割れとなり、日経平均株価は9,500円を下回った。FRBが追加金融緩和姿勢を明らかにしたことにより、米国でも債券利回りは低下し、為替相場は円高ドル安に進んだ。一方、NYダウは4週連続で上昇し、4月末以来の高い水準に回復した。
 
米株式の上昇は公表された経済指標の内容に釣り合ったものではなく、株式は実体経済から乖離しつつある。米国経済は住宅バブル崩壊の影響を依然強く受けており、景気回復のための確かな足場は築かれていない。FRBの『Flow of Funds』によると、6月末の米モーゲージ残高は14.0兆ドル、前年比3.7%減少しているだけで、米国経済は巨額の不良資産を保有した状態にある。7月のFHFA住宅価格指数は前月比0.5%減と2ヵ月連続のマイナスとなり、指数は今回の下落過程で最低を更新、ピーク(07年4月)からの下落率は13.8%に拡大した。モーゲージ残高に単純にこの下落率を適用すると約2兆ドルの損失が発生していることになる。
モーゲージを家計や企業に貸付しているのは政府支援企業や商業銀行であり、借入の返済が滞り、差し押さえ物件が増加することによって、貸手の資産価値は減価し、巨額の不良資産が発生している。政府支援企業等がモーゲージの最大の貸手であり、6.11兆ドルもの残高がある。これを抜本的に処理するには1兆ドル単位の金が必要になるため米政府は時間を掛けて徐々に処理しようとしている。住宅バブル崩壊による不良資産の清算がなかなか進展しないことは、米国の景気はいつまでも不安定な状態が続くことでもある。
景気回復が期待できないことが債券利回りの低下やドル安となってあらわれているのだ。債券利回りは3週連続で低下し、8月第3週以来の低水準である。債券利回りは歴史的な低下をみせているが、資金需要は出てこない。8月の米商業銀行貸付は前年比-0.4%と14ヵ月連続の前年割れだ。リース関連が含まれているためマイナス幅は縮小しているが、商工業貸付は-12.4%と依然2桁減だし、不動産貸付は4.3%減だが、マイナス幅は前月の戦後最大から0.4ポイントの改善にとどまる。貸出が減少する半面、預金は前年比3.2%伸びているため、商業銀行の証券と現金は15.1%、20.6%それぞれ拡大している。
FEBのバランスシートの総資産は2.31兆ドル(9月22日)に膨れているが、大半は米財務省証券(0.8兆ドル)とモーゲージ担保証券(1.09兆ドル)である。加盟銀行からの預金(1.26兆ドル)と銀行券(0.91兆ドル)で証券類を購入しているが、これから満期、繰り上げ償還となるモーゲージ担保証券の売却価格が購入価格を下回れば、FRBの571億ドルの自己資本はすぐに底を付き、財務省から資本注入してもらう必要が生じる。FRBの自己資本比率は2.5%と商業銀行(11.6%)の約2割の水準であり、高いレバレッジが銀行経営を揺るがしたが、いまやFRBがその危険性が最も高いといえる。因みに日銀の自己資本比率は2.1%とFRBよりもさらに低く、株価は週末、50,000円とバブル崩壊後の安値(03年3月の40,000円、最高値は1988年12月の755,000円)に接近した。
先週発表された米住宅関連指標をみると、米住宅市場は超低水準の状況が続きそうである。8月の住宅着工件数は年率59.8万戸、前月比10.5%増加と回復しつつあるようにみえるが、一戸建てに限れば43.8万戸、4.3%増にとどまったほか、先行きを示す許可件数の一戸建ては1.2%減と5ヵ月連続の前月比減になり、とても底を打ったとはいえない。
8月の中古住宅販売件数は年率4.13百万戸、前月比7.6%増加したが、7月の27.0%もの急落後であり、6月比は21.5%減、前年比では-19.0%である。
週末発表の8月の新築一戸建て住宅販売は年率28.8万戸、前月比横ばいとなり、減税が終了して激減した5月の28.2万戸近い歴史的低水準で推移している。2009年の37.5万戸は1963年の調査開始以来最低を更新したが、今年は2年連続で最低を更新しそうだ。そうなると5年連続の前年割れとなり、05年のピークの4分の1程度になる。米住宅産業がトンネルからいつ抜け出すことができるのか予測はできない。ただ、いえることは住宅関連の不良資産が清算され、家計や銀行のバランスシートがきれいにならなければ、新たに住宅を買い求める人はそれほど増えないということである。そのような状態にならなければ、上昇率が1%を下回り、さらにゼロに近づくような物価環境を反転させることも難しい。米国経済が安定を取り戻すには幾多の障害を乗り越える必要がある。
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景気後退の局面が近づく日本経済

曽我 純:

日経平均株価は週末比1.4%増と2週連続で上昇した。半面、債券は3週連続で安く、これまでの債券買い、株式売りのポジションの一部が解消されたようだ。米失業保険申請件数の改善や米貿易統計の好意的解釈、さらには日本のGDPの上方修正など、過去の出来事を持ち出し、相場は煽られた。株式は先行性があると主張しながら、そうした考えを反故にし、単なるこじつけによって相場は持ち上げられた。景気が真剣に論じられたわけではなく、曖昧な状況のなかで醸し出された相場だけに、回復は一時的であり、長続きはしない。

GDPなどの経済指標を吟味すると政府、報道機関、それに歩調を合わせる証券会社等の上っ面の解釈とは正反対の結論がでてくる。名目GDP(2次速報値)は設備投資等の上方修正により、前期比-0.6%と1次速報値から0.3ポイントマイナス幅は縮小した。設備投資は前期比+1.5%と3四半期連続のプラスとなり、前年比でも1.6%増と7四半期ぶりのプラスとなった。設備投資は上方修正されたが、個人消費は変わらず、個人消費が不振のままでは、設備投資の回復も長持ちしないことは自明である。

先週、設備投資関連の指標がいくつか発表されたが、そこからいえることは、設備投資はすでに伸びの頂点近くにあり、今後、伸びは急速に鈍化する可能性が高いということである。そうした設備投資のピークアウトと輸出の減少により景気は悪化し、年内には景気後退のシグナルがでるだろう。

7月の機械受注によると、民需(船舶・電力を除く)は前月比8.8%と2ヵ月連続増となり、前年比では15.9%も増加した。特に、製造業は前月比10.1%、昨年の下落率が大きいとはいえ前年比では39.8%も拡大した。一方、非製造業(船舶・電力を除く)は前月比8.1%、前年比でも3.5%と回復力は弱い。民需に外需などを加えた受注総額も前年比23.4%と高い伸びを維持している。7月の民需(船舶・電力を除く)の前年比伸び率は06年6月以来約4年ぶり、受注総額は03年6月以来約7年ぶりの高い伸びとなった。機械受注の前年比伸び率のピーク近くに景気の山があることから、景気も向こう半年以内にピークを付けるのではないか。

9日発表の『法人企業景気予測調査(調査時点、8月15日)によると、2010年度上期(4月~9月)の全産業の設備投資(ソフトウエアを含む、土地を除く)は前年比11.8%と前回調査から4.1ポイント下方修正され、下期は5.8%と2.6ポイント上方修正された。下期は上方修正されたものの伸び率は上期の半分程度に鈍化する見通しである。四半期別では4-6月期の前年比-3.4%から7-9月期には27.6%の急増を見込んでおり、これから判断すれば、下期は急低下になり、設備投資の伸びは今がピークといえる。

2010年度の全産業の売上高は上期の4.7%から下期は1.2%に低下し、経常利益も54.5%から16.3%に鈍化すると予想されている。大企業全産業の景況判断BSI(「上昇」-「下降」、社数構成比)は7-9月期の7.1%から10-12月期には0.1%に低下する見通しである。

鉱工業生産の資本財出荷指数(輸送機械を除く)は7月、35.7%も伸びるなど設備投資関連指標は、いつ下落してもおかしくない高いところまできている。鉱工業生産指数の動きも鈍い。7月の生産指数(季節調整値)は95.3と5月を2ヵ月連続で下回っており、今後低下が顕著になれば、景気はあきらかに後退という判断が下される。過去の景気のピークはいずれも生産指数の高値近辺にあるからだ。

因みに、米鉱工業生産指数は6月の前月比横ばいから7月は1.0%伸びた。独は6月の0.6%減から7月は横ばいとなりもたついている。前年比では日本同様、ドイツは4月をピークに鈍化傾向がはっきりあらわれており、米国は6月の伸びがピークになりそうだ。

7月の景気動向指数によると先行指数は前月比0.8%低下し、3月をピークに低下傾向が鮮明である。先行性の強い一致・遅行指数比率も4月をピークに下落しており、景気の勢いは弱くなっている。一致指数は7月、前月比+0.5%と2ヵ月連続で上昇したが、4月以降は足踏み状態であり、やはり景気のテンポは緩やかになってきている。

各指標を3ヵ月前との比較で景気の拡大後退を見極めるディフュージョン・インデックスも景気の良い悪いの分かれ目である50%を先行指数は7月まで2ヵ月連続で下回った。昨年10月に100%を付けた後も今年4月までは高い水準を維持していたが、5月に大幅に低下してから、様子はがらりと変わってきた。一致指数は昨年11月に100%に達した後、今年5月までの6ヵ月間、連続して90%を超えていたが、6月、55%、7月、50%と大幅に低下した。一致指数が50%を上から下に切るときが、景気の山であるから、9月、10月にも一致指数は景気の転換点を捉えるかもしれない。

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米雇用統計を過少評価した市場

曽我 純:

週末のNYダウは8月の雇用統計(8時30分公表)が予想をよりも良かったため10時頃までは上昇したが、10時発表のISM非製造業景況感指数が前月を下回ったため反落、だがその後じり高となり、その日の高値圏で引けた。どうも株価は雇用統計の要因だけで上昇したわけではなさそうだ。

雇用統計発表後、一時1ドル=85円台の円安に振れたが、すぐに84円台に戻し、その後目立った変化はなく、1ドル=84円30銭で引け、週末比では約1円の円高ドル安だ。本当に、米国経済の回復力が増すのであれば、円安ドル高に方向転換していたはずだ。そうならなかったのは、非農業部門雇用者が引き続きマイナスになり、景気後退のリスクが高くなったからだ。一方、米10年債の利回りは3営業日連続の上昇となり、約3週間ぶりの高い水準となった。こちらは景気の過度の不安が払拭されたと判断したようだ。だが、非農業部門雇用者の減少は景気の転換を示すものであり、債券の売りはいずれ買い戻しを迫られるだろう。

雇用統計が予想を上回ったとはいえ、非農業部門雇用者は前月比5.4千人減と3ヵ月連続の減少となり、米国経済は拡大から縮小に転換しつつある。民間部門の雇用者は6.7万人増と8ヵ月連続のプラスだが、前月に比べれば増加数は4万人減である。4-6月期の月平均増加数は11.7万人だが、7月、8月の平均は8.7万人といまのところ4-6月期を下回っている。民間部門の増加は主に人材派遣の増加であり、前年比では民間部門が30.7万人増加しているが、そのうち人材派遣は38.3万人も増加しており、民間部門の雇用は一時的な雇用によってなんとか支えられている状態だ。企業の景気の先行きに対する自信のなさがあらわれている。

8月の非農業部門雇用者は前年比0.2%増と12ヵ月連続で改善しているが、伸び率は前月よりも0.1ポイントの上昇にとどまった。前年同月が前年を4.9%も下回っていることからみれば、前年比での改善もきわめて緩やかだといえる。雇用の改善の遅れから個人消費支出も7月、前年比3.4%と前月よりは0.2ポイント上昇したものの、3月の4.0%増を超えることなく、ピークアウトしつつあるような情勢である。

非農業部門雇用者が3ヵ月連続の前月比マイナスとなり、失業率が9.6%と前月比0.1ポイント上昇するなど米雇用環境の悪化は続き、米国経済の原動力である個人消費が回復する条件は整っていない。失業率の9%超えは16ヵ月連続となり、高失業率の長期化が個人消費の回復を妨げている。米国の人口は年約1.0%増加しているため年100万人以上の新規雇用が創出されなければ、失業率は低下していかない。足元、雇用者は前年比横ばいであり、上昇力は弱く、米国が失業率の高止まりの状態から抜け出すことは容易ではない。

耐久消費財の主力である自動車の販売が8月、前年比21.0%減と10ヵ月ぶりに前年を下回った。住宅販売はいずれも悪化しており、これも個人消費の不振の原因になるだろう。いままでは経済対策で支えられてきたが、その効果は薄れてきており、民間部門の力だけでどの程度踏ん張れるかが試されようとしている。

日本の景気は輸出で持ち直してきたが、輸出が完全に頭打ちになり、鉱工業生産も7月、前月比0.3%と伸び悩んでいる。減税・補助金の恩恵が9月末に迫ったため、自動車販売は8月、前年比46.7%増と急増した。10月以降はその反動があらわれ大幅に減少するだろう。需要の先食いであり、年度後半はそれが剥げ、自動車産業は厳しい事態に陥るだろう。自動車産業は鉄などの素材からエレクトロニクス部品まで裾野が広いだけに、製造業全体に影響するのは必至だ。その輸送機械工業の生産指数は前月比-1.3%と3月をピークに4ヵ月連続のマイナスとなり、早々減産体制に入っている。

7月の鉱工業生産は前月比プラスになったとはいえ、過去4ヵ月の数値はほぼ横ばいといって差し支えない。米国経済が思わしくないことや円高ドル安などから考えれば、年度後半に生産が低下する可能性が高い。鉱工業生産を前月比プラスにしたのは一般機械工業である。一般機械工業は4.3%も増加し、これだけで鉱工業生産を0.6ポイント引き上げた。これで一般機械工業は4ヵ月連続の伸びとなり、回復は著しいが7月の生産指数は88.1(2005年=100)と鉱工業生産指数の95,3を大幅に下回っており、出遅れている。一般機械工業の生産を牽引しているのは半導体製造装置やフラットパネル・ディスプレイ製造装置であり、特に前者は前年比2倍近い伸びとなった。ただ、そうした生産設備は需要拡大後、収縮が常について回ることから年度後半はそのような局面も考えられる。すでに鉱工業生産に高いウェイトをもつ電子部品・デバイスの生産は2ヵ月連続、出荷は3ヵ月連続の前月比減となり、在庫も上昇傾向にある。電子部品・デバイスの生産減はやがて半導体製造装置等に影響し、そのときは鉱工業生産の低下を加速させるだろう。

『法人企業統計』によれば、4-6月期の大企業営業利益は前年比2.5倍に拡大した。営業利益拡大の要因は原価と販管費を売上高の伸び以下に抑制したからである。特に、人件費は前年比1.9%削減し、販管費は0.9%減少した。原価の伸びも売上高を1.6ポイント下回り、大幅な増益要因となった。人件費以外のコストの中身は不明であるが、原材料費等のあらゆる支出がカットされたと考えられる。だが、支出の削減は売り手の側からみれば販売減であり、人件費のカットは消費の不振となって跳ね返ってくる。こうした企業の利益捻出法では一時的には利益はでるが、永続的には利益はでない。企業自身が有効需要の芽を摘んでいるからだ。

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有価証券取引税を復活させるべし

曽我 純:

日経平均株価は24日、昨年5月以来の9,000円割れとなり、週末値もその水準に戻ることなく引けた。急激な円高ドル安が下げの要因といわれているが、もともと海外株式に比較して日本株が割高であったことや企業業績を甘くみていたことが主因であり、為替はそのような曖昧な判断に鉄槌を下したまでのことだ。

株価が下落すれば市場の警鐘だとか督促相場だとかいつもの身勝手な要求がでてくるが、道楽息子の要求となんら変わるところはない。市場は常に正しい判断をしていると捉えている市場原理主義の人が、下落が激しくなると豹変し、政府や日銀にねだってくる。常にすべての条件を織り込み、適正な価格付けが成されているのであれば、政府・日銀の政策は一時的な効果にとどまり撹乱要因になるだけではないか。

人間がしていることは間違いだらけであり、市場もそれに違わず常に間違った価格付けをしている。だから価格は一瞬たりとも止まることはないのだ。特に、株式市場は心理的な要素が強くでる傾向があり、一方方向に行きやすく、また行き過ぎる。今回の相場も4月に業績誇張による11,000円超えという行き過ぎの反動であり、いまは適正な水準を摸索している過程ととらえるべきだ。政府や日銀が介入すれば、それだけ適正水準への移行が遅れ、無駄な時間を費やすことになる。

いまだに日本の株式売買高回転率は異常に高く、投機が渦巻いており、とてもまともな市場とはいえない。ほぼゼロ金利で税の優遇措置がとられるなど03年以降の回復から株式市場は投機に染まっている。「貯蓄から投資」などというばかげた標語を掲げ、国全体を投機に邁進させる運動がはびこった。浅ましい行為である。金融が経済の全面に出たときにうまくいったことがあるだろうか。1929年の米大恐慌を持ち出すまでもなく、マネーがマネーのために活動することは投機の爆発的な拡散と崩壊であり、それによって経済は破壊されることになる。金融はあくまでも家計や企業活動という実物経済を支えるための脇役であり、それが経済の主役に躍り出れば、経済はマネーに撹乱され、激しい恐慌に陥ることになる。

日本の株式市場は依然博打の状態から抜け出せず、それが日本経済の長期不況の原因のひとつになっている。株式や為替などに現を抜かすのではなく、本業に精を出す必要がある。いくら損失を出せば株式から手を引くことができるのだろうか。企業や家計はリスクの高い株式をバランスシートから外さなければならない。儲かるのは胴元や証券会社、投資信託会社だけであり、株式を保有している家計、企業はそのことをわかっていない。家計や企業は金融機関からこれまでいくら吸い取られたことか。政府のお墨付けで株式や投資信託に預けたお金が目減りし、将来に不安を招いていることも日本経済にマイナスに影響している。

政府や日銀も株安や円高ドル安を止める手立ては無い。03年から1年3ヵ月の間に約35兆円の円売り介入をしたけれども、円高を阻止することはできなかった。日本だけの単独介入では為替相場を動かすことはできない。政府の景気対策も見え透いたものであるし、日銀の貸出も日銀がゼロ金利で企業に直接貸し付けるのであれば借手は出てくるけれども、そのようなことはできるはずがない。7月の消費者物価は前月比-0.3%と2ヵ月連続の低下となりデフレは強まりつつある。銀行の貸出は7月、前年比-1.9%と前年割れが続いており、企業などは借金を返している。

金融の肥大化を防ぎ、日本経済を正常にするためには有価証券取引税を復活させるべきだ。税負担によって、超短期売買を追い払うことができ、市場を正常な姿に戻すことができる。0.5%の税率でもいまの東証1部の売買代金を前提にすれば年1兆円超の税収になる。譲渡益課税は税率を20%に戻す。こうした措置をとれば、長期的には日本経済にプラスになる。投機が鎮まり、より長期の視点から株式を考えることから、経済の不安定要因のひとつが取り除かれ、経済にプラスに作用するだろう。株式関連業種は縮小する半面、非金融部門に資源を投入できる余裕がでてくる。
有価証券取引税を復活させれば、外人は慌てて日本株を売るだろう。おそらく売却して手にした円はドルに交換され、円安ドル高が急速に進行するに違いない。これまでのありきたりの政策ではなく、強い意志を示す政策でなければ、市場だけでなく日本経済もよくならない。

企業収益を決定付けるといってよい輸出が減少している。7月の輸出(季節調整値)は前月比1.4%減と4月をピークに3ヵ月連続のマイナスである。これから判断すると、製造業の利益はすでにピークアウトしていることになる。輸出(金額)の前年比伸び率も7月、23.5%と5ヵ月連続の低下となり、より顕著に輸出の勢いが弱くなっていることがわかる。特に、アジアへの輸出の伸びが鈍化しており、欧米の景気鈍化がアジアへも波及しているようだ。

先週発表の米住宅関連指標はいずれも酷いものであった。4-6月期のGDPも実質前期比0.4%と下方修正され、バーナンキFRB議長も27日の講演で「生産と雇用の回復ペースは減速している」と述べたが、7月以降は減速ではなく後退ではないか。7月、FRBは実質GDPの予想伸び率を3.0%~3.5%(2010年第4四半期の前年比)へと4月から下方修正したが、いまの経済状態では1%台の成長にとどまるだろう。 FRBも金利の下げ余地はほとんどなく、買オペの増額くらいだが、米商業銀行の貸出は7月、前年比-1.2%のマイナスであり、銀行は現金を入手しても借手を見つけ難い。事ここに至っては、中央銀行では成す術がなくお手上げの状態といえる。

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日本はデフレ、米国は住宅バブル破裂でマネー回らず

曽我 純:

日経平均株価は2週連続の下落となり、昨年11月第4週以来の低い水準で引けた。他方、債券利回りは18日、0.9%まで低下し、これで7営業日連続の1%割れである。株式売り債券買いは巨額の利益を懐に入れたことだろう。国内と米国景気が良くないことに加えて、円高の進行が株売り債券買いという美人投票に投機家を走らせている。4-6月期の名目GDPは前年比0.2%伸びたが、10-12月期は、再びマイナス成長になる可能性が高いことから、債券利回りの一段の低下は十分に考えられる。

3ヵ月前と比較すると、欧米の株価指数が横ばいか上回っているのに対して日経平均株価だけが大きく下落している。下落したけれども、株価収益率(=株価/利益)は依然欧米よりも高く、日本株は割高である。日本はマイナス成長経済なので株価収益率は限りなく低くならなければならないはずだ。現在、日経平均株価の予想株価収益率は16倍弱だが10倍以下に低下しても不思議ではない。利益が変わらなければ、株価は3分の2、いや2分の1に下落してやっと妥当な水準に達したといえるのではないか。

4-6月期の名目GDPは前期比0.9%減と3四半期ぶりのマイナスである。09年7-9月期の底から0.8%の増加にとどまり、日本経済はまさに底を這っている状態だ。これほど低迷しているのは、民間最終消費支出が不振であり、4-6月期も5四半期前の底(09年1-3月期)に近い水準にあるからだ。GDPの約6割を占める民間最終消費支出が伸びなければ、経済は拡大するわけがない。4-6月期の雇用者報酬は前期比0.1%減少し、1-3月期を除けば08年4-6月期以降マイナスであり、報酬が減少し、先行きも期待できないようでは、消費は伸びない。6月の失業率は5.3%と4ヵ月連続の上昇となり、不確実性が高まる環境下でだれが消費を増やすだろうか。

4-6月期のデフレーターは前年比-1.8%と前期よりも1ポイントマイナス幅は縮小したが、こうしたデフレが消費よりもマネー選好を強め、マネーの流を止めている。デフレは今になって始まったわけではなく、1994年頃からの現象であり、デフレは日本経済に染み込んでいる。人口減少下でのデフレ克服は通常の金融政策では歯が立たない。日銀が買オペを増額し、市中にマネーを供給しても、だれも借金を増やそうとはしないので結局金融機関にとどまり、国債に回ることになる。日銀の買オペは金融機関の国債を吸収し、金融機関は国が発行する国債を引き受ける。国債発行で手にしたマネーは国の予算として使われるが、総歳出は大幅に増額されないので、財政効果もさして期待できない。

米国経済の行方からみれば、NYダウも割高だ。景気後退観測を背景に米債券利回りは2%台半ばまで低下してきた。7月の米住宅着工件数は54.6万戸と低迷し、許可件数のうち特に一戸建ては前年を13.2%も下回り、住宅は再び減少が濃厚になってきた。住宅が悪化することは、バブル崩壊の処理が長引くだけでなく、個人消費を冷やし、延いては景気の後退に繋がる。

FRBが政策金利をほぼゼロに引き下げてから1年9ヵ月経過しようとしているが、商業銀行の住宅貸付は7月、前年比-4.6%と最悪の前月よりも0.1%ポイントの小幅改善にとどまり、不動産市場は萎縮したままだ。通常、政策金利が下がれば、それにやや遅れて不動産貸付も回復していたが、今回はまったく反応しない。下げられないところまで下げてもまだ貸出は減少する。それだけ、不動産バブル破裂の後遺症は大きく、今の不動産市場は正常な状態からは程遠いということだ。商業銀行の不動産貸付は7月、3.65兆ドルとピーク(09年5月)比5.7%減にとどまり、総貸付に占める割合も53.4%と引き続き高く、銀行が正常な姿に戻るには、5年、10年の歳月が必要になるかもしれない。

米住宅ローンの中心的役割を担っている住宅金融公社(Fannie Mae とFreddie Mac)は赤字から脱却できず、8月5日、財務省に公的資金の追加申請をした。Fannie Mae とFreddie Macの住宅抵当貸付の合計残高は6月末、4.82兆ドル、総資産は5.59兆ドルと巨額であり、財務省は公的資金を底なし沼に注いでいるようだ。米国が経済を立て直す気概があるのであれば、住宅金融公社にいつまでもだらだら公的資金を与えるのではなく、思い切って清算する以外にはない。このような状態が続けば、病状は回復せず、20年間もの不況から抜け出すことができない日本の二の舞を演じることにも成りかねない。財務省は住宅金融公社にすでに累計1,500億ドルものマネーを注入しているが、経済は再下降に陥ろうとしている。ということは住宅金融公社へのマネー供給は無益だったということである。公的資金の注入は不良債権の補填に使われるだけで、マネーの本来の機能を発揮することができないからだ。マネーが循環できなければ、モノやサービスの遣り取りも行うこともできない。マネーが経済全体でよく回るような環境が整備されなければ、経済活動は決して活発にはならないだろう。

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思慮に欠ける政治家の言説がデフレを強める

曽我 純:

10年物国債の利回りが、約7年ぶりに1%を下回った。政治家の思いつきのような思慮に欠ける消費税率引き上げ議論が、国債買いに弾みをつけた。消費税率の引き上げを持ち出すだけで、個人消費は萎縮し、日本経済のデフレはさらに酷くなることが予想されるからだ。上げるといっても数年後だから、あるいは景気が回復してからなどと条件をつけても、上げることは間違いないので、そのとき経済は急角度で落ち込むことになるだろう。総人口の減少と高速高齢化という体力弱体化の著しい状況下で、消費税率引き上げは想像以上の経済収縮を引き起こすはずだ。安易な増税方法を採用するまえに、いままでほったらかしていた不公平な税制を改めるなど成すべきことは多々ある。

08年度で全法人数の71.5%が欠損で法人税を納めていない状況でありながら、政治だけでなくマスコミからも法人税率の引き下げが必要だという論調が多い。消費税率を引き上げ、法人税率を引き下げることが強い経済になる方法だと宣う。需要が減退するような税制が経済をなぜ強くすることがきるのだろうか。こうした矛盾した考えを平然と取り上げ、それに対してだれも不平不満を鳴らすことなく、沈黙している。常識が通用しないで、一方方向に走り出す日本の変わらぬ習性が、日本経済衰退の推進力になっているといえる。

税収がこれほど不足していながら法人税率の低下を主張するとは、普通では考えられない。法人税率を下げて本当に強い経済が実現できるのだろうか。税率引き下げによる純利益拡大で企業は積極的に設備投資を増やすのだろうか。

大手都市銀行は1996年度以降ほとんど税金を払っていない。しかも、大半の都市銀行は実質的には破綻したにもかかわらず、それでも、1億円を超える所得を得ている銀行経営者はいるし、従業員の給与も高い。銀行が社会の常識から外れた行動を取っていることをこれほど如実に示している例はない。だからバブルが破裂して20年以上経過しても、銀行組織は活性化せず収益率も改善しないのだ。

銀行等の金融機関を除く法人を取り上げてみても、たとえ法人税率を引き下げ純利益が増加しても、それで企業が競争力を強化できる方策を採るとはいえない。90年代以降の企業行動を顧みるならば、法人税の引き下げが企業体質の改善に結びつき、収益率を引き上げることができたかというと、否定的に答えざるをえない。

『法人企業統計』によると、全産業の保有している投資有価証券は08年度末、192.8兆円と10年前に比較して約2.6倍にも膨れている。この数字は法人税率の引き下げは、日本経済の回復手段にならない裏付けとなる。企業の要求と行動は矛盾しているのだ。手元流動資産は10年前とほぼ同じ規模だが、投資有価証券だけは異常に増加しており、日本企業は稼いだ利益の多くを投資有価証券に投入していることがわかる。これは現金が有価証券に移転しただけであり、こうした使い方では、企業の利益が増加しても、経済は強くならず、法人税率の低下は、政府や経済界の主張するような有効な結果をまったくもたらさない。すでに企業は十分な資金を所有しており、使途で悩んでいるのだ。そのような企業に税金を減額してなにになるのだろう。

財政赤字の問題は貯蓄と投資の恒等関係に入りこんでいるため、財政赤字を改善する方法を見つけることはできない。方程式ならば解くことができるけれども、恒等式であるためにあるがままの状態を容認するしかない。貯蓄が一定で、設備投資や輸出超過額が拡大すれば、財政赤字は縮小するが、貯蓄が増加すれば、そうともいえない。実際に、これから設備投資や輸出超過額が増加するとは考え難く、財政の負担は容易に軽くならないだろう。貯蓄の減少が政府支出拡大に歯止めを掛けることになる。ただ、日本人の特性から、所得が減少しても貯蓄率が上昇することも予想され、貯蓄の減少はかなり先のことになるだろう。それまでは財政赤字がそれを吸収するという状態が続くかもしれない。企業収益の一部は財政赤字に依存しており、他の事情が変わらなければ、財政赤字の削減は企業収益にマイナスに作用する。企業にとって財政赤字削減は声を大にして言えないことなのである。

政治家たちの消費税率引き上げや財政赤字削減シナリオに加えて、世界景気のピークアウトを示す経済指標があきらかになり、債券買い株式売りのポジションはさらに積み上げられるだろう。

6月のOECD景気先行指数は前月比0.1%減と09年2月以来1年4ヵ月ぶりに前月を下回った。日本は0.1%のプラスだが、米国がマイナスになったほか、フランスやイギリスも前月比減となった。アジア主要5ヵ国は3月以降4ヵ月連続の低下となり、先進国よりも早く景気減速は始まっている。

7月の米非農業部門雇用者数は前月比13.1万人と2ヵ月連続の減少となり、6月以降米景気は拡大から縮小に転じた可能性が高い。巷間、金融政策の追加策が叫ばれているが、政策金利がほぼゼロの状態では、金融政策によって景気を持ち上げることはできない。財政の出動がなければ米国経済は景気後退に陥ることになる。1ドル=85円台に進行した円高ドル安は、相対的な米景気の悪化により、80円を目指すことになるだろう。
(来週は休みます)

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年末に向け深刻化する世界経済

曽我 純:

日経平均株価は7月末も9,000円台で引け、これで3ヵ月連続の1万円割れである。重要な経済指標が製造業の先行き不安を示唆しており、株式保有のリスクは高まっている。FRB議長が議会証言で、景気に対して「異例なほど不確か」と表現したことなどから、米株式も頭打ちとなっている。ほぼゼロ金利の状態が長期化することや資金需要が弱くなっていることからユーロドル(3ヵ月物)金利は6月半ばをピークに低下しつつある。ユーロ圏よりも米景気に対して先行き不透明感が強まり、対ドルのユーロ相場は約3ヵ月ぶりに1.3ドル台に上昇した。ユーロ高ドル安により、投機資金は商品市況に流入しつつある。円ドル相場にも、景況感のわずかな違いやそうした違いによる変化を先取りする動きがあらわれている。

円高は輸出の手取額に大きな影響を及ぼしている。特に、ユーロに対して円は大幅に上昇したことから、6月のユーロへの輸出は数量では27.2%伸びたものの、価格が14.3%下落し、金額では9.0%にとどまった。対米輸出も価格が5.0%低下し、手取額に影響した。

為替が輸出にマイナスに作用しているとはいえ、数量でもピークアウトしており、内需が不振の日本経済は厳しい局面に立たされている。6月の輸出(数量)は前年比27.5%と2月をピークに伸び率は4ヵ月連続で鈍化している。対米は前月の伸びを上回ったが、ユーロとアジアは低下した。特に、アジアは5ヵ月連続で低下し、伸び率も米国、ユーロを下回った。アジアへの輸出の3分の1を占める中国は、金額で前年比22.0%とアジアの31.6%よりも低く、世界的に需要が弱くなっていることが窺える。

前月比でみても6月の輸出(季節調整値)は-1.8%と2ヵ月連続で減少し、昨年12月以来の低い水準に低下した。四半期ベースでも4-6月期は前期比1.1%減と5四半期ぶりに減少し、これまで日本経済を牽引してきた輸出は一変、マイナス要因になってきた。

鉱工業生産指数は輸出との相関関係が極めて強く、輸出の伸び悩みが生産指数にはっきりあらわれてきた。6月の鉱工業生産指数は前月比1.5%減と4ヵ月ぶりのマイナスだ。出荷は2ヵ月連続減となる半面、在庫は3ヵ月連続の増加となり、在庫の予想外の増加が生産の低下に繋がっている。6月の生産指数は前月時点の予想(0.4%)を下回り、7月予想も前月の1.0%から-0.2%に下方修正された。

ウエイトの高い電子部品・デバイス工業の生産は前月比4.3%減少し、在庫が2ヵ月連続で増加したほか、情報通信工業の生産も2.1%減、在庫は32.7%も急増するなど製造業の主力分野に陰りがみえる。製造業全体で広く使用される非鉄金属の生産は前月比-2.7%と3ヵ月連続のマイナスとなり、多くの分野で生産調整が進行している。
 
6月の鉱工業生産指数の前年比伸び率は17.0%と3月のピーク(31.8%)から大幅に鈍化する一方、在庫は1.2%と09年1月以来1年半ぶりに前年を上回った。在庫が意図せざるものであり、これからも増加率が拡大することになれば、生産の伸びは著しく低下することになるだろう。

米国では住宅減税の打ち切りで住宅着工件数は5月、6月と2ヵ月連続で減少した。6月分は54.9万戸と4月比19.1%も減少し、昨年の9月以来の規模に落ち込んだ。住宅に連動して小売売上高も6月まで2ヵ月連続の前月比減となり、消費者マインドも悪化してきた。米住宅がなかなか回復できないのは、住宅バブルが完全に清算されていないからだ。住宅金融公社は政府支援がなければ存続できず、1兆ドルもの住宅抵当証券をFRBが引き続き抱えている状況では、住宅市場の回復は望むべくも無い。

週末、4-6月期の米GDPが公表されたが、実質では前期比0.6%と伸び率は2四半期連続で低下し、景気の減速が顕著になってきた。おそらく7-9月期は設備投資や住宅が減少に転じ、景気の減速はより強まるだろう。米国経済の拡大が緩慢に推移しているのは、経済のエンジンである個人消費が、雇用の改善の遅れなどにより、前期比0.4%とスローダウンしたからだ。政府の経済対策の効果は、今後ますます弱くなり、このままでは民間部門主導の回復は難しい。

住宅部門だけを取り上げても、06年1月のバブル絶頂期には年率229.2万戸に達していたが、いまの水準はまだその24%にすぎない。229.2万戸の住宅を埋め尽くす膨大な消費が経済を肥大化させたが、それが4分の1に縮小しただけでなく、債務の返済に追われているのだから、消費が回復するには相当の時間を要する。ユーロについても住宅バブル崩壊の影響があるし、日本は経済、政治の両面で右往左往し続けており、混迷から抜け出す処方箋を描ける知恵がまったくでてこない。年末にむけて、世界経済は深刻な様相をみせるだろう。

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経済指標を等閑にした株式

曽我 純:

週後半の持ち直しにより日経平均株価は週末比4.2%上昇した。米国株式が5営業日連続増となったことによる他律的な上昇である。日本経済に関する経済指標は株式売りのシグナルを発していたが、これらをすべて等閑視してしまった。自らの判断ではなく、他者に追随したツケが回ってくることは、90年代以降の経済を思い出せば明らかなことだけれども、いつもの思慮に欠ける投資判断がなされてしまった。

8日には5月の『機械受注』が発表されたが、受注総額は10.8%減少し、昨年11月以来の低い水準である。内需関連はことごとく不振で外需だけが伸びた。内需が沈み外需が伸びたため外需・受注総額比率は43.7%と前月より5.8ポイント上昇し、08年5月以来の高い比率となり、過去最高(08年1月)に近づいてきた。機械受注は外需に支配されており、外需が伸びなければ設備投資関連は動きが取れない事態に陥っている。設備投資の先行指数になると言われている民需(船舶・電力を除く)を外需が上回る状態が4-6月期も続くだろう。

外需はピークでは月1.5兆円を上回るときもあったが、金融危機以降激減し、09年2月には3,000億円程度に縮小した。その後、順調に回復したが、3月以降はほぼ横ばいとなり、トレンドは変わってきた。一方、民需(船舶・電力を除く)の回復は遅れ、昨年11月にやっと底を打った。底は打ったものの回復力は極めて弱く、5月は前月比9.1%減少し、昨年11月の底を7.2%上回っているだけだ。昨年11月の最低水準は上回っているものの、90年代の3回のボトムをいずれも下回っており、今の水準自体が異常であることを裏付けている。

機械受注の外需と輸出の相関関係は強く、今年の初めまで両者は回復していたが、数ヵ月前から回復の勢いは衰えてしまい頭打ちとなっている。機械受注が発表された日に6月上中旬の貿易統計が明らかになったが、輸出は前年比22.5%と前月よりも13.8ポイントも低下した。下旬が加われば6月分も変わってくるが、5月の伸びを下回るのは確実だし、おそらく、前月比でも減少するはずだ。5月も前月比マイナスとなっているので、6月も減少すれば2ヵ月連続減となり、輸出のピークアウト感が強まるだろう。そうなれば生産の低下も予想され、製造業の業績も期待できなくなる。
5月の輸出額は前年比32.1%と3ヵ月連続の低下なり、6月は20%台へとさらに低下する見通しだ。輸出のなかでも変動の激しい半導体等電子部品は5月、前年比25.6%と1月の83.2%をピークに4ヵ月連続で伸び率は低下している。5月の世界半導体売上高は前年比47.6%伸びたが、前月に比べれば2.8ポイント低下しており、日本の半導体産業の力が落ちてきたとはいえ、世界景気の減速下では、半導体の伸びも鈍るだろう。

OECDによると、5月の景気先行指数は前月比0.1%と6ヵ月連続で伸び率は低下しており、世界景気拡大のテンポはあきらかに鈍化してきた。欧州を中心に採られる緊縮財政や脆弱な金融部門が実体経済に悪影響することは避けられず、今後、景気先行指数は現状レベルを維持することができなくなるだろう。

OECD景気先行指数の前年比伸び率は10.7%と依然高いが、2月を境に低下しており、今後、急速に鈍化していく見通しである。日本の輸出もOECD景気先行指数とほぼ似た動きをしており、輸出の前年比伸び率は大幅に低下し、企業業績のピークアウト感も強まるだろう。利益という株価の決定要因があやふやになる状況では株価の戻りは一時的であり、下落リスクは引き続き高いと判断している。

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米バブルの膿が出尽くすまで続く利回りの低下

曽我 純:

先週発表の日米の経済指標は景気の先行きに不安を感じさせる内容であった。その前の週にも米国の住宅統計に減税切れの影響が顕著にあらわれ、日本の貿易統計も前月比減となるなど、これまで景気を支えていたところが失速してきた様子が明らかになってきた。米国も消費者信頼感指数の大幅低下や製造業景況感の後退、さらに雇用の勢いのなさ等の弱い指標が相次いだ。ここまではっきりと景気不透明のシグナルが点れば、株式売り、債券買いの姿勢が強まるのは当然である。

日経平均株価は4月のピークから約2,000円、NYダウは約1,500ドルそれぞれ下げた。他方、日本の国債利回りは1.0%を目指すほどに低下し、米国は09年4月以来の3.0%割れとなった。いずれも金利の歴史に残る記録的な低利回りといえる。

1930年代の米大恐慌でも利回りは大幅に低下したが、2%台に低下したのは1934年であり、経済成長率が2桁のマイナスになったからといって、直ちに、国債利回りが急低下したのではない。その後も低下し続け、1940年には1%台にまで下落した。大恐慌から抜け出し正常な経済に戻るには長期の時間を必要とすることが、国債利回りから窺い知ることができる。

今回の米国の不動産大不況も数年で治癒するような病ではなく、5年以上の時間を要するのではないか。景気は在庫調整などで一時的に回復したが、実体経済には病巣が残っており、その部分を根絶しなければ再び経済は下降していくことになる。5月の住宅販売の落ち込みは、不動産バブルが弾けきっていないことを裏付けており、モーゲージ残高がピークからそれほど減少していないことは、実体経済から依然不釣合いなほど、家計がモーゲージを保有していることを示している。

1933年、米国はニューディール政策で景気回復を図るが、効果は限定的で国債利回りは低下基調を変えることはなかった。1933年の米名目GDPは1929年の約半分に落ち込んでしまい、1929年を越えたのは第2次世界大戦開始後の1942年であり、元に回復するには12年掛かった。実質GDPは7年後の1936年に1929年を越えたけれども、それは1933年まで物価が大幅に下落するデフレの嵩上げによるものであり、実質が回復したからといって景気が本当に良くなったわけではない。1934年以降も物価の上昇は緩やかであり、1938年、1939年には再びマイナスに陥り、実際にデフレから抜け出すことができたのは第2次世界大戦に突入してからである。

米国債利回りの上昇はデフレが収束したことを確認してからということになるが、それでも上昇力はきわめて緩慢であり、2%台の低い水準は1955年まで続き、年平均で3%を超えたのは1956年である。1955年までの20年間、米国債利回りは3%未満の低い状態が続いたのである。

こうした米大恐慌後の米国経済と国債利回りの動きを検討してみると、米不動産大不況がかなりの確度で終息したといえるまでは、長期間、国債利回りは低い水準で推移する可能性が高いということである。経済成長率が正常なところまで回復したとしても、不動産バブルの膿が出尽くすまでは、国債利回りはなかなか本格的に上昇するところまでいかないかもしれない。10年毎の米名目経済成長率(年平均)は1970年代の10.0%から2010年までの10年は4.0%に低下する見通しであり、2020年まではさらに減速するだろう。こうした成長力の衰えも国債利回りの低下を促しているように思える。

■ 増益率のピークアウト感が株売り・債券買いを促す

日本の国債利回りはすでに13年間も2.0%以下の水準にある。2010年までの10年間の名目経済成長率がマイナス0.6%になることを勘案するならば、現状1%程度の利回りも下がりすぎとはいえない。すでに経験しているが1%以下に下がることは、なにも不思議なことではない。

5月の小売業や卸売業の販売額は前年比2.8%、0.7%といずれも前月の伸びを大幅に下回った。しかも、拡大しているのは自動車や燃料などの一部の業種に偏っており、これらの業種が不振に陥れば、プラスからマイナスへの変化は速いだろう。輸出減に連動して鉱工業生産も5月、3ヵ月ぶりの前月比減となった半面、在庫と在庫率はいずれも2ヵ月連続増となり、国内需要の不振などで思うように、ものがでていっていないようだ。1-3月期の生産は前期比7.0%増加したが、4-6月期は1.9%の伸びに低下するだろう。『家計調査』によれば、5月の勤労者世帯の可処分所得は前年を6.2%も下回った。これでは消費が伸びるわけがない。

6月調査の『短観』の業況判断は大企業で12ポイント改善したが、先行きは2ポイントの改善にとどまっている。経常利益見通しも大企業では、10年度上期の39.7%に対して下期は10.5%に鈍化する。特に、製造業の下期は2.7%と昨年度並みの水準にとどまると予想している。経常利益の伸びは09年度下期がピークとなり、伸び率はどんどん低下している。そのようなときには株式の魅力はなくなる。最近の経済指標に基づけば、短観の上期経常利益予想は下方修正されるだろう。下方修正を予想させるような指標が公表される度に、株式は大量の売りを浴びるだろう。

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