企業業績と生産・在庫から足元の日本経済を抉る

曽我 純;
週末値でも原油価格は1バレル100ドルを突破し、08年9月以来の高水準に上昇した。そのほかの商品価格も上昇し、CRB指数は3ヵ月で14.7%高くなり、その上昇率はNYダウの2倍以上になった。商品価格の急騰のわりには債券価格は安定しており、物価上昇による需要減、景気悪化というプロセスを早くも意識しているようだ。
トルシェECB総裁の早期利上げ発言によって、ユーロの短期金利は上昇し、ユーロは買われた。2月の米非農業部門雇用者数は前月比19.2万人増と昨年5月以来の高い伸びとなったが、ユーロ高に変化はなかった。これで非農業部門雇用者数は5ヵ月連続増だが、昨年2月の底からの増加数はまだ126.9万人にすぎず、08年1月をピークとする875万人減の14.5%を取り戻しただけであり、雇用が本格回復したとはとても言えない。2月のISM製造業景況指数は61.4と7ヵ月連続で前月を上回り、04年7月以来の高い水準だが、1月の個人消費支出は前月比0.2%にとどまり、消費が復調したとはいえない。原油高が持続すれば、消費マインドを冷やすことになるし、住宅価格の下落はさらに消費意欲を減退させるだろう。住宅価格の下落はしばしの遅れをともない、消費支出に影響し、延いては足元改善している雇用にも再度過剰感が広がるかもしれない。住宅価格が再調整に向っている一方、農地価格が急騰しつつある。小麦、大豆、トウモロコシの価格騰貴などにより農地は激しく値上りしている。2010年のアイオワの農地価格(インフレ調整後)は1979年のピークに近づきつつある。農地はバブル化の様相を呈しており、バブルが破裂することになれば、金融機関の不良債権が急増し、米景気は腰折れするかもしれない。
好調な企業業績が株高に結びついていると言われているが、実際の数値をみると、業績はピークアウトしており、株価は他の要因で高くなっていることがわかる。財務省の『法人企業統計』によると、昨年10-12月期の全産業の売上高は前年比4.1%と伸び率は2四半期連続で低下し、営業利益は28.9%と3四半期連続の鈍化となった。大企業(資本金10億円以上)を取り上げてもほぼ同じ傾向を示しており、業績拡大の勢いは衰えてきており、今年1-3月期は減収減益になることもあり得る。こうした業績の伸び率低下は設備投資に顕著にあらわれている。全産業の10-12月期の設備投資は前年比3.8%と前期よりも1.2ポイント低下し、低空飛行が続き、失速しそうだ。企業は先行きに自信が持てず、期待収益率が低下していることも、企業の設備投資マインドの改善を遅らせている。売上高営業利益率は3.7%と前年よりも0.7ポイント高く、自己資本比率も36.7%、同0.7ポイント上回り、利益率や財務内容は改善しているけれども、企業の姿勢は慎重なままである。なぜか。
企業が設備投資に踏み出すことができないのは、利益の多くは、人件費を抑制した結果であり、売上高の伸びに匹敵する給与等を支払っていたならば、これほどの利益を出すことができなかったことを十分に承知しているからだ。出すものも出さず利益を嵩上げする行動を大半の企業が実践したのだ。売上高は4.1%伸びたが、人件費は1.4%、人件費の65%を占める従業員給与は1.2%にとどまっている。
1人当たりの売上高は3.4%伸びているが、1人当たりの給与(賞与を含む)は1.3%と低く、これで4四半期連続して後者が前者を大幅に下回ったことになる。人件費を抑えたことなどで売上原価と販管費の伸びも売上高を下回り、営業利益の拡大につながった。人件費の伸びを売上高並みに増やしていれば、営業利益の伸びは17%に低下することになる。利益の源泉は人件費削減と輸出増であったため、企業は業績改善を素直に喜べず、国内最終需要の回復は期待できないと予想し、設備投資に踏み切ることができないのだ。今の業績回復が長続きしないと想定すれば、設備の拡大を抑えることになるが、そのことが企業収益をさらに悪化させるという連鎖が起こる。外需の支えがなくなれば、そのような連鎖によって、企業収益の減少は一気に加速することになる。
  
1月の鉱工業生産指数は前月比2.4%と3ヵ月連続で前月比プラスとなり、回復軌道に乗ったようにみえるが、出荷の伸びは1.1%と2ヵ月連続して生産の伸びを下回り、在庫は4.7%も急増、09年2月以来約2年ぶりの高水準となった。在庫がこれだけ増加したのは、昨年末ポイントが半減した液晶テレビ等の販売減と国内新車販売の不振による。液晶テレビに関連する情報通信機械工業の出荷は前月比16.1%減と2ヵ月連続の大幅減となり、在庫は40.7%と急増した。輸送機械工業も出荷が生産の伸びを下回り、在庫は19.5%と3ヵ月連続で増加した。液晶テレビや自動車の在庫急増によって、1月の耐久消費財の在庫は07年12月以来、約3年ぶりの高水準に積み上がった。
生産指数の前年比伸び率は4.7%と昨年3月をピークに低下している半面、在庫は7.3%と1998年3月以来約13年ぶりの高い伸びとなった。出荷は3.2%と生産を下回り、思うようにモノが出て行っていない様子で、意図せざる在庫が工場や倉庫に積まれているのだ。これほどの在庫の伸び率は、1980年代以降の30年間で6回認められるだけであり、稀なケースに入る。在庫が上昇する過程で、景気はピークを付けていることから、今回の在庫増も景気後退につながる可能性がある。
生産指数は前年比4.7%伸びているが、一般機械工業だけで引っ張っており、それの寄与度は4.3%ときわめて高い。一般機械工業のなかでも半導体製造装置やフラットディスプレイ製造装置の伸びが突出しており、これら一部の製品の生産拡大が、鉱工業生産指数全体を動かしているのだ。だが、電子部品デバイス工業の在庫は前年比53.8%も増加しており、生産調整しなければならない状態に陥っている。生産削減を迫られているときに、半導体製造装置を求めるようなことはしないはずだ。鉱工業生産に対する半導体製造装置の影響が大きいため、半導体製造装置の動向によっては、鉱工業生産は下振れするかもしれない。MEDIA GALLERY?
半導体等電子部品の輸出も1月、前年比12.6%減少し、外需も弱くなってきている。半導体電子部品を含む電気機器が1月、前年比7.5%減少し、輸送も0.2%の微増になるなどで輸出総額は1.4%まで低下しており、前年割れになりそうである。そうなれば、外需依存の高い鉱工業生産や機械受注は厳しい状況に追い込まれることになる。
『家計調査』によれば、1月の消費支出(2人以上の世帯)は前年比-0.9%と5ヵ月連続のマイナスとなり沈んだままだ。勤労者世帯に限れば、可
処分所得が3.3%も減少したことから消費支出も1.2%前年を下回った。有効求人倍率は緩やかに改善しているが、失業率は前月比横ばいの4.9%である。男性失業率は5.3%と0.1ポイント低下したが、3月は跳ね上がるかもしれない。内需が大きく上向くシナリオは描けず、このまま輸出が前年割れにでもなれば、09年3月を底に拡大してきた景気は後退に突入するのではないだろうか。
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FRBの国債購入による株高はいつまで続くか

曽我 純 :
昨年11月、FRBは6,000億ドルの国債購入を決めたが、その1ヵ月前から、外人の日本株買いは積極的になり、2月第2週まで連続して買い越している。昨年10月以降の買い越し額は2.4兆円になる。明らかに、FRBの金融緩和措置が外人の日本株買いの契機となり、株価上昇の原動力となった。だが、6月末でFRBの国債購入は終了することから、外人買いもそろそろ最終局面に近づいているように思う。
それにしてもNYダウの上昇力は異常に強く、09年3月の底から2年経過しないうちに、1.9倍ほど値上りした。前回の上昇局面でも同程度値上りしたが、5年を要しており、今回の値上りがいかに急速であったかを物語っている。09年3月の反発要因もFRBの国債等の買い取りであり、FRBの金融緩和策を材料に株価は上がっていった。今回の国債購入は6月末までだが、いまの経済情勢では、FRBの国債購入は必要ではなく、打ち切りとなるだろう。株式買いの主力材料である国債購入が打ち切りとなれば、景気拡大のよほど強いシグナルが発せられない限り、株式上昇の持続は難しい。
FRBは今年の実質経済成長率見通しを昨年11月の3.0%~3.6%から3.4%~3.9%へ上方修正した。上方修正したことは景気の先行きに自信を深めていることであり、これほどの成長を想定していることは、国債購入だけでなく、ゼロ金利政策の変更もあり得る。さらに、足元、名目で4.2%も伸びていながら、ゼロ金利や国債購入を継続する異常な金融政策によって、株式や素材だけでなく物価も反応してきた。1月の米消費者物価指数(コア)は前年比1.0%と前月よりも0.2ポイント高く、昨年5月以来の伸び率となった。2月以降もじわじわ上がるようだと、早い段階でFRBは利上げに踏み切らざるをえない。実質金利がマイナスの異常な状態を断たなければ、株式や商品のバブルは膨れ、08年以降の金融恐慌に耐えた試練や経験が水泡に帰すことになる。
■ 家計は痩せ企業は太る日本社会
GDP統計によると、昨年10-12月期の経済成長率は名目前期比0.6%減と2四半期ぶりのマイナスとなった。マイナス自体めずらしいことではなく、過去10年を振り返れば、しばしばみられる光景であった。消費支出が前期比1.0%減と09年1-3月期以来の減少となったことや公的部門さらに外需までもマイナスになったことが響いた。
自動車販売やたばこの駆け込み需要の反動減が消費を引き下げたことは事実だが、11月までは薄型テレビが急増していたことなどを考え合わせれば、消費の基調は弱いと言わざるを得ない。7-9月期でさえも消費支出は0.3%伸びたにすぎず、駆け込み需要の効果はたかが知れている。減税の恩恵を受けるものは買うけれども、それ以外の消費は削るという姿勢である。
民間部門で寄与度がもっとも高かったのは民間在庫品増加であり、2四半期連続のプラスだ。自動車やたばこの売上減は予想できたことだが、それでも在庫が増加していることは、企業の予想よりも需要は弱いということを示している。
10-12月期の消費を自動車やタバコのせいにし、今年1-3月期以降、成長率は回復するような見方が報じられているが、1月の新車販売は引き続き大幅な前年割れとなるなど、消費不況から抜け出すことは難しいのではないか。それは消費を決定付ける所得が減少しているからだ。10-12月期の雇用者報酬は前期比0.3%減と2四半期連続のマイナスとなり、これが家計の消費マインドを冷やしている最大の原因だ。デフレーターは3四半期連続の前期比マイナスとなり、デフレが和らぐ兆しはみえない。デフレでは消費や設備投資が活発になることは考えられない。デフレ経済では貨幣価値は上がり、ものの価値は下がるので貨幣を貯めることが、もっとも有利な選択になるからだ。しかもいま指摘したように報酬が減少しているので、財布の紐はことさらきつくなる。
10-12月期の名目GDPは金融危機以降の最低(09年1-3月期)を上回っているが、消費支出はそれを下回り、1996年1-3月期以来、約15年ぶりの低い水準に落ち込んだ。国内家計最終消費支出は2008年1-3月期をピークに減少しているが、その間、耐久消費財は5.2%減とサービス(4.0%減)より悪いが、半耐久財(14.3%減)や非耐久財(7.9%減)に比べると、減少率は緩やかである。
暦年のGDPをみると、2009年までの2年間で名目GDPは激減したが、2010年は1.8%の増加にとどまり、回復力は弱い。名目GDPは479.2兆円と昨年より8.3兆円増加したが、2009年を除けば、水準は1991年以来ということになる。さまざまな政策支援があったにもかかわらず昨年の消費支出は前年比1兆円も増加しなかった。これが回復力が弱くなった最大の原因である。民間部門では在庫増加の寄与度が高く、民間設備投資は微増にとどまった。最大の牽引者は外需であり、これだけでGDPを0.9%引き上げた。消費がこれほど弱いのは雇用者報酬が昨年、0.8%しか増えず、悪化する前の2008年を9.2兆円も下回っており、1992年のレベルにとどまっているからだ。
今年度の企業収益は大幅に改善するようだが、これは報酬を低い水準に据え置いているからで、売上の伸びと同程度に給与を引き上げれば、このような増益にはならないはずだ。このような給与抑制と雇用削減を続けることは、同時に需要を削減していることでもある。企業は収益を拡大し太るけれども、家計の取り分は少なくなり痩せていくのでは経済は縮小していくだけである。
昨年4月~12月の上場企業の売上高は前年比7%を超え、経常利益は8割も増えているけれども、同期間の現金給与総額の伸び率は1%にも満たないのである。所定内給与に限ればわずかだがマイナスという酷い状態である。企業は儲けを溜め込み、財務内容は良くなるが、製造した商品が売れなくなるという有効需要の不足を企業自ら演出している。売上高の伸びに比例した分配をしなければ、経済はうまく行かない。不公平な分配から生じた有効需要の喪失は、政府部門の大幅な赤字でもってしても、補えない規模に達している。企業は少なくても、売上高の伸び率に準じた給与を支払わなければならない。そうしなければ、昨年、1%しか伸びなかった設備投資は、深刻な消費需要不足により再びマイナスになり、内需はますます萎んでいくだろう。内需欠乏の墓穴を掘り、外需に頼らざるを得なくなったのは、企業自ら蒔いた種なのである。
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FRBの資産拡大と財政赤字

曽我 純 :
昨年11月、FRBは6,000億ドルの国債買い入れを発表し、その後、着々と購入しているが、国債価格は下落し、利回りは上昇しつつある。国債利回りは昨年10月末比、約1%も上昇してしまった。消費者物価指数(コア)は昨年12月、前年比0.8%の上昇にとどまり、物価はきわめて安定しているが、昨年10-12月期の名目GDPは前年比4.2%も伸びており、景気は回復軌道に乗っているからだ。
国債利回りは名目経済成長率に近づいていくだろう。2010年までの10年間の年平均経済成長率が4.0%であったことから、国債利回りはその当たりのレベルが妥当な水準ではないかと思う。
4%を上回る経済成長に達しながら、なおもFRBは買いオペを続行し、マネーを供給している。長期金利を下げるのではなく上げる役割を演じているのだ。政策金利をゼロに置いているので、長短金利差は3.3%に拡大し、金融機関の収益拡大を後押ししている。一方、非金融機関は資金コストが上昇し、設備投資意欲が削がれることになる。
FRBのしていることは、マネーを供給すれば、自動的に経済は良くなるとの考えに基づいている。ただ、経済がすでに巡航速度に回復している状態で、なおかつ貨幣を供給すれば、住宅バブルが発生したように、新たなバブルが膨らむことになる。おそらく、株式や商品などは、FRBの資金供給によって、バブル化しつつある。
FRBは非金融部門に直接に貨幣を供給できないので、本当に必要なところに資金がとどくかどうかはわからない。供給した貨幣の大部分は金融部門に滞留しており、良からぬところに向っているのだろう。連邦政府の支出は09年度、3.0兆ドルと前年比0.5兆ドルも増加し、財政赤字は08年度の0.64兆ドルから1.54兆ドルに拡大した。だが、GDP統計をみると、09年の政府支出は前年比360億ドル(1.3%増)増加しているにすぎない。財政支出の大半は金融部門の不良債権処理に使われたのだろう。
買いオペの拡大によって、FRBは先週水曜日時点で1.16兆ドルの国債を保有している。11月以降、0.33兆ドル増加しており、すでに目標の半分以上を消化したことになる。買いオペにより、FRBの総資産は過去最大の2.5兆ドルに拡大し、マネタリーベースも2.1兆ドルに膨れた。マネータリーベースのうち1.16兆ドルは準備預金であり、その大半(1.09兆ドル)は超過準備である。超過準備は本来ならば金融機関が貸出等に回す資金だが、FRBがそれを元手に各種証券を購入しているのだ。
金融危機の影響により、09年の米国経済はマイナス成長になったが、名目では1.7%減少しただけである。因みに、日本はマイナス6.6%と金融危機の震源地よりも酷い落ち込みとなった。1.7%の減少では、それほど大騒ぎする必要はなく、FRBによる大規模な金融支援もどれだけ実体経済に必要であったか疑問である。
米国経済はもともと不況に強い構造になっている。2009年の名目GDPは消費、設備投資、住宅がそれぞれ減少、総額2,500億ドル減となったが、なかでも輸入は大幅に減少し、輸入超過額の減少が消費や設備投資などのマイナスを半分以上消してしまった。輸入に頼る体質が不況下ではそれが緩衝装置となり、経済の落ち込みを緩やかにしたのである。さらに不況でも大きく落ち込まない個人消費のウエイトが高く、変動の激しい設備投資の比率が低いことも、成長率の振幅を小さくしている。
米国と正反対なのが日本であり、外需依存度が高く、個人消費のウエイトが低い一方、設備投資のウエイトが高いという経済構造が振幅を激しくしている。こうした仕組みにより、日本経済は、米国をはるかに上回る規模で収縮し、いまだに名目経済成長率は2%程度にとどまっている。
2010年の米経済成長率は名目3.8%に回復したが、在庫の寄与度が約3割を占め、設備投資の回復力はなお弱く、08年の水準を15%も下回っている。輸入超過額は再び拡大しているため、企業利益の回復は財政赤字に依存したものといえる。
2010年までの10年間に米名目GDPは1.47倍に拡大した。部門別の伸びを比較すると、もっとも拡大したのは政府部門の1.73倍であり、1.51倍の個人消費がそれに続き、設備投資は1.11倍にとどまった。政府支出のなかでは国防が2.2倍、非国防は1.61倍となり、2010年の国防支出は8,178億ドル、GDPの5.6%を占めており、米国経済は軍需産業という浪費で保たれているといえる。米国は市場経済の国であるといいながら、政府部門は2010年、20.5%と10年間で3.1ポイント上昇した。
住宅バブル期のような個人消費の伸びの再来はなく、設備投資も高い伸びが期待できなければ、結局、成長は政府部門に頼らざるを得ない。FRBもいつまでも買いオペを続けるわけにもいくまい。異常に膨れたFRBの資産を元の状態に戻すことは容易ではない。政府部門のウエイトを下げることも、長期的な課題として取り組むことになるだろう。米株式市場は浮かれているけれども、米国経済の中身について手放しで喜べるような内容ではないことは明らかである。米株式に追随している日本の株式はさらに危ういのではないだろうか。
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輸出頼みの生産と支出を切詰める家計

曽我 純 :
昨年12月の鉱工業生産指数は前月比+3.1%と2ヵ月連続で増加した。出荷は1.1%増にとどまったため、在庫は1.4%増加した。生産がプラスに転じたのは、輸出が昨年8月を底に4ヵ月連続して前月を上回っているからだ。このまま輸出が伸びていけば、生産はさらに上向き、製造業の収益も拡大することになるだろう。ただ、1月上旬の輸出は前年比-6.9%と09年11月以来のマイナスになり、輸出の伸びが持続するかどうか不透明である。企業収益と株式は、輸出の伸びが持続するかどうかに依存しているので、輸出動向から目を離すことができない。
12月の生産に寄与したのは情報通信、電子部品・デバイス、輸送機械などだが、生産は伸びたものの、在庫も増加しており、生産調整も考えられる。薄型テレビの影響で昨年11月まで7ヵ月連続のプラスだった情報通信の出荷は12月、前月比6.6%減少する半面、在庫は14.0%増加した。電子部品・デバイスは出荷も2ヵ月連続のプラスだが、在庫は5ヵ月連続増となり、過剰生産が続いている。輸送機械の在庫は2ヵ月連続増だが、在庫率は4ヵ月連続のプラスとなり、意図せざる在庫増の局面にあるのではないか。財別では耐久消費財と生産財の生産が伸びたが、在庫はいずれも増加し、特に、耐久消費財の動向には注意を要する。
1月の鉱工業生産は前月比5.7%の大幅増、2月は1.2%の低下が予想されている。1月は一般機械や輸送が大幅に拡大する見通しになっているが、はたして予想通りに伸びるだろうか。国内新車販売台数は1月、前年比21.5%減と引き続き大幅なマイナスになっており、この傾向は8月頃まで続くだろう。一般機械は半導体製造装置のウエイトが高く、これによって大きく変動する。12月の半導体製造装置の生産は前月比7.7%減少し、一般機械も1.0%減少したが、1月は拡大するのだろう。前年比で半導体製造装置は99.4%も増加したため、一般機械の生産は32.8%伸びた。鉱工業生産指数は前年比4.6%増加したが、一般機械だけで4.3%引き上げており、半導体製造装置の鉱工業生産への影響は極めて大きい。半導体製造装置と鉱工業生産の前年比伸び率はほぼパラレルであり、鉱工業生産が変化率の大きい半導体製造装置に追随している。
『家計調査』によると、昨年12月の1世帯当たりの消費支出(2人以上の世帯)は前年比3.2%減と4ヵ月連続のマイナスとなり、しかも減少率は09年7月以来、1年5ヵ月ぶりの大幅減となった。エコポイントによって引き上げられていた耐久消費財が落ち込んだことが主な要因だが、それだけとは言い切れない。ウエイトの大きいサービスが9ヵ月、食品は11ヵ月それぞれ連続減となっており、家計の支出抑制の姿勢は強い。
勤労者世帯に限れば、消費支出は昨年11月まで5ヵ月連続の前年比プラスであったが、12月は2.7%減少した。09年、08年の12月も前年割れのため、12月は3年連続減となり、07年12月比7.9%も減少している。消費減の最大の要因は可処分所得の減少である。09年12月は6.4%もの大幅減となったが、昨年12月も1.3%減少し、2年連続のマイナスとなり、12月としては過去10年で最低となった。企業業績は回復しているが、先行き不透明などと理由をつけ、雇用者報酬を上げようとはしない。企業みずから消費を冷やす根源を作り出しており、これでは消費拡大は望むべくもない。
報酬を下げれば企業は雇用を増やすわけでもない。雇用者報酬が減少すれば、消費は控えられ、企業が生産した商品は売れなくなる。雇用者報酬減少分よりも消費減少分が大きいことがますます経済を悪化させる。悪化を食い止めているのが財政赤字と超過輸出であり、支払った税金をはるかに超える額を政府は支出・購入し、海外への支払を受取が上回ることで経済の落ち込み防いでいる状況である。
昨年12月の失業率は4.9%と前月よりも0.2ポイント低下したが、就職を諦め失業者の分類に入らない非労働力人口が増加していることも、失業率の低下につながっている。逆に言えば、労働力人口比率(労働力人口を15歳以上の人口で割った数値、ただし労働力人口は就業者に失業者を加えたもの)は低下し続けており、昨年12月は前年比0.1ポイント低下の59.1%である。2010年は59.6%と3年連続の低下で、10年前と比べれば2.8ポイントも低下してしまった。昨年の就業者数は6,256万人と3年連続の減少となり、10年前に比べれば190万人も減少してしまった。
昨年12月の非農林雇用者数は前年比9万人増と6ヵ月連続のプラスだが、9、10月に比べれば、増加の勢いは衰えてきた。男女別では男の14万人減に対して、女は23万人増加しており、しかも男は減少し続けているが、女は6ヵ月連続で増加している。
米国の失業率は1月、9.0%と前月比0.4ポイントの大幅な低下だ。米国は10代の失業率が25.7%と依然高いため、25歳以上に限れば7.6%に低下する。さらに学歴別では大卒以上は4.2%だが、高卒は9.4%、高校を卒業していない層は14.2%と跳ね上がり、米国は学歴が物を言う社会であることが見て取れる。
失業期間が27週以上の長期失業者は1月、前月比3.6%減少し、雇用環境は徐々に改善しつつある。ただ、失業率の改善は、日本と同じように、非労働力人口に分類される人の増加が寄与しており、手放しで喜べる状況ではない。非労働力人口は前月比0.4%、前年比では2.4%も上昇しており、労働力人口比率は64.2%、前年比0.6ポイント低下した。
日本の昨年12月と比較すると、労働力人口比率は日本が米国よりも5.1ポイント低い。米国並みに労働力人口比率が上昇すれば、現状よりも労働力人口は568万人増加することになる。日本は人口が減少しているので、労働力人口比率を米国以上に引き上げる必要がある。
失業率は改善したが、非農業部門雇用者数は前月比3.6万人増と前月の増加数(12.1万人)を下回った。製造業は4.9万人増と3ヵ月連続のプラスとなったが、サービス部門が3.2万人の増加にとどまったため、民間部門も5.0万人と前月より大幅に増加数は減少した。建設部門は依然減少しており、1月は545.5万人と1996年4月以来、約15年ぶりの低い水準となり、ピーク(2006年4月)からは227万人も減少してしまった。因みに、日本の建設業の就業者数は12月、507万人と減少しているが、名目GDPが米国の約4割の規模にしてはまだ多いように思う。
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長期の米株式値上り率、名目GDPを下回る

曽我 純 :
NYダウは9週ぶりに下げた。エジプト情勢の緊迫が株式に影響を与えたと言われているが、独裁体制崩壊へと進んでいるのであれば、市場としては歓迎すべきことではないか。混乱に伴いオイルなどが高騰するかもしれないが、長続きはしない。NYダウの下落は相場が過熱していたからだ。過去2年弱で8割も上昇した強気相場が、最終段階に差し掛かっていることを示唆しているように思える。
これまで株高を支えてきたのは、FRBの実体経済にそぐわない金融緩和政策である。昨年10-12月期の名目GDPは前年比4.2%増と5四半期連続のプラスである。これだけプラス成長していながら、ゼロ金利を継続していれば、ゼロ金利の弊害が生じることは間違いない。
マネーを供給すれば、自動的に経済は拡大し、良くなるというマネタリズムの信奉者が金融政策の中枢を占め、実践している。だが、マネーは金融セクターの内部を循環するだけで、非金融部門にはなかなか出て行かない。金融部門というマネーを動かすところにだけとどまり、その金が世界中の株式、債券、商品、為替などの市場で貪欲な利鞘稼ぎに使われている。
FRBや日銀の金融緩和が、再び、金融市場でバブルを作り出している。中央銀行は物価の番人といわれているが、今はデフレの時代であり、物価の問題ではなく、金融市場のそれぞれの商品の高騰に目を向けなければならない。過去の株式や不動産バブルはいずれも、超金融緩和、緩和の長期化、緩和しなくてもよい時に緩和したことがバブル発生に結びついており、中央銀行の金融政策がバブルの主な原因になっている。中央銀行は一般物価よりも金融商品の番人の役割を果たす必要性がますます高まっている。
株高などにより、米消費者マインドは改善しているが、住宅価格は下落している。昨年11月のS&Pケース・シラー住宅価格指数(10都市)は前月比0.4%低下し、これで5ヵ月連続のマイナスである。昨年12月の新築住宅販売戸数は前月比17.5%増の32.9万戸に改善したが、前年比では依然マイナスであり、新設住宅着工件数などを勘案してみると、米不動産市場は引き続き底を這っている状態といえる。
昨年10-12月期の米GDPによると、住宅(名目)は前月比1.4%と2四半期ぶりのプラスになったが、ピーク(06年1-3月期)の約4割の水準にとどまり、住宅・GDP比率は前期と同じ2.2%と過去最低の水準にあり、住宅部門の回復は取り残されたままである。
名目GDPは前期比0.8%増と6四半期連続のプラスになったが、不動産バブル崩壊による景気後退以前(08年第3四半期)からは2.7%伸びているだけだ。前年比伸び率は4.2%と前期よりも0.3ポイント低下し、伸び率は今後低下するだろう。実質でも前期比0.8%増加したが、不況以前のピーク(07年第4四半期)を0.1%上回っているにすぎない。回復力が弱いのは主力の個人消費支出の伸びが低いことに加えて、設備投資と住宅が不況前の水準を大幅に下回っているからだ。他方、貿易赤字の減少と政府支出の拡大が成長を支えているが、2010年10-12月期の政府支出は前期比0.2%減少した。財政が悪化している州・地方が支出削減を余儀なくされ、連邦政府も軍事支出の頭打ちにより前期をわずかに下回った。GDPに占める政府支出の比率は10-12月期、19.3%と前期比0.2ポイント低下し、不況を乗り切るために政府支出を拡大した09年7-9月期に比べれば0.6ポイントの低下である。
名目のGDP・政府支出比率は1990年代後半、急速に低下したが、2000年頃を底に、再び上昇、現在約20%の水準にある。この比率の下降・上昇の変化は非軍事と軍事支出にわけてみると、軍事支出の動向がこうした変化を引き起こしていることがわかる。1969年以降の約40年間のGDPに占めるそれぞれの比率は、非軍事支出の13.0%~15.5%に対して、軍事支出は3.8%~9.0%と変化が大きく、政府支出・名目GDP比率の変化は軍事支出の動向により変化していることがわかる。市場万能主義や小さな政府を標榜しているけれども、米国の非軍事・GDP比率は住宅バブルで沸いていたときも上昇しており、市場主義とは異なる政策を実施していたのである。
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2010年までの10年間の米実質GDP成長率は年率1.7%となり、1930年代以降の8回のなかで最低となった。これまでの最低は1930年代の2.7%だったが、これを1ポイントも下回ってしまった。実質成長率は60年代の年率4%台から70年代には3%台に低下し、80年代、90年代は引き続き3%台を維持していたが、00年代、実質成長率は一気に1%台に落ち込んでしまった。こうしてみれば、日本ほど顕著ではないが、米国の経済成長率も1940年代の5.6%をピークにはっきりと鈍化していることがわかる。情報革命が成長を高くするなどといわれているが、そのような姿はGDP統計からは読み取ることができない。
00年代のダウは年率0.7%(値上りだけで配当は無視)となり、90年代の15.1%から急低下した。1910年以降では1910年台のマイナス1.2%に次ぐ下から3番目に悪い数値である。最悪のパフォーマンスは大恐慌に陥った30年代のマイナス2.2%であり、GDP物価指数(マイナス1.6%)以上に落ち込んだ。
2010年までの過去80年間の成長率はダウが年率5.5%と名目GDPの6.6%を下回っている。GDP物価指数は3%なので、実質的には年率2.5%の値上がり益が確保された。米国でさえも実質的な値上り率はこのように低く、長期投資といえども高い利益を出すことの難しさを心に銘記すべきである。
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遊戯場と化してしまった日本の株式市場

 曽我 純 :

日経平均株価は2日連続の値下がりとなり、昨年末以来の低い水準に後戻りした。いつものことだが、下げるときのスピードは速い。11営業日を要した上げがたった2営業日の下げで吹き飛ぶのだから。こうした変化をうまく捉えて、利益を出すことは至難の業だ。たいていはやられてしまうのが落ちである。相場の加熱状態が続いていたので、いつ下げても不思議ではないと思いながらも、ついつい油断して決断を遅らせていたら、あっと言う間にロスが発生してしまう。
株式売買で稼ぐことがこれほど大変であるのに、多くの個人が為替取引にのめり込んでいる事態は異常である。まさに博打そのものである。金利がゼロなのですこしでも稼ぎたいとの思いは分からないでもないが、これまでの歴史を顧みるまでもなく、博打に関わる悲惨な結末の事例は枚挙に遑がない。
毎月分配金型の投資信託も元本を減らしているのが多数ある。日本の国債利回りが1.2%の状態で、これを大幅に上回る運用などを期待してはならない。目先の利益を追求するあまり、元本が損なわれるのでは元も子もない。国債利回り以上を謳った高収益商品は高リスクの危険な商品に間違いない。どこかにからくりを仕組んでおり、詐欺的商品である。それほど良い商品であり、高利回りを得られるのであれば、銀行、証券会社等は自分で購入すればよいではないか。それで十分に収益を確保すればよい。あるいは相場に自信があるのであれば、自己売買で十分な利益をだすことができるだろう。これができないのは、高収益商品は存在せず、相場を正しく読むこともできないからだ。因みに、株式相場が下降しているときの証券会社の業績は軒並み悪い。このことは、証券会社が株式相場を的確に捉えていないことの証左である。
株式や為替の変動を予測することができず、どのように動くかだれもわからないのである。分かれば短期間で巨額の富を手に入れることができる。そのような証券会社など出現したためしがない。株価や為替相場を当てることは所詮無理なのだ。無駄なことをしているといってもよい。もともとできないことを、あたかもできるかのように吹聴し、そこにマンパワーを注ぐ。個人投資家をパソコンに釘付けにし、取り引きに熱中させる。それで手数料や運用管理費等を稼ぐ。損が発生してもそれは自己責任だと、取り合わない。製造業ではあってはならないことが、金融業では罷り通るのである。
アメリカ人は予測好きな国民であり、それがウォール街という博打場を育ててきたのである。国民性の所産といってもよいだろう。米金融機関の急速な拡大に伴って、米国流の金融システムが日本やヨーロッパに伝播していった。
しかし、金融部門自体はなんら付加価値を生産せず、非金融部門に寄生しているため、金融部門の拡大は社会にとって決して好ましいことではない。株式や為替の取り引きをしても付加価値は発生しない。単に名義が変わるだけで、手数料というコストが発生するだけなのだ。金融機関は手数料等を稼ぐためになるべく頻繁に取り引きするように仕向ける。だから、取り引き回数を極力減らすことは非金融部門のコストを低下させ、金融機関の収益を減らすことになる。付加価値がでてこない取り引きをいくら繰り返しても経済に活力は生まれてこない。また、金融部門の経済に占める割合が高くなれば、それだけ、経済に及ぼす影響も大きくなり、不安定化要因になる。
日本の80年代のように金融機関が巨額の株式を保有し、不動産貸出を急拡大させたように、預金を投機資産に投入し、金融部門は肥大化した。米国の金融機関は返済が不確かな住宅ローンへの驀進や焦げ付く可能性の高い住宅ローンなどを組み込んだ証券への投資でバランスシートが著しく拡大した。両国ともに「大きすぎて潰せない」の一言で、損失は非金融部門に押し付け、金融機関は存続している。荒療治でないので、金融機関の体調はいつまでもすぐれず、非金融部門からの補給をうけなければならない。非金融部門の犠牲の上に金融部門は成り立っているのである。
Bank of America、JP Morgan Chase、 Citigroupの総資産は昨年末、それぞれ2兆ドル前後と引き続き巨額であり、これらの金融機関が危機に陥ると、米国経済は只では済まないことになる。金融規制を推進していた経済再生諮問会議のボルカー氏の後任に、オバマ大統領はGEのCEOであるジェフ・イメルト氏を起用したので、昨年7月に成立した金融規制改革法が金融機関寄りに修正される恐れが出てきた。
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昨年の東証1部の売買代金は1.44兆円(1日当たり)と前年より4.6%減少し、これで3年連続減だ。だが、減少したとはいえ、21年前の株式バブルのピークを10.6%上回っている。1992年には売買代金は2,000億円台に落ち込み、その後、長い低迷が続いていたが、日銀のゼロ金利、手数料自由化、インターネット取引等により売買代金は急増し、07年には3兆円を突破した。まさにバブルの再来である。
売買代金を名目GDPで割った数値は07年、1.42倍となり、3年連続で過去最高を更新した。昨年は0.72倍と3年連続で低下したが、それでも89年を0.07ポイント下回っているだけである。昨年の売買回転率(東証1部、2部、マザーズ、株数)は133.2%と07年のピークに比べれば25.6ポイント低下したが、株式バブル期の88年(98.1%)を大きく上回っており、日本の株式流通市場が異常な状態にあることに変わりはない。
流通市場は活況を呈しているが、資金調達を担う発行市場の規模は昨年、4兆円に満たなかった。企業は十分な資金を保有しており、株式市場で調達する必要がないからだ。株式市場といっても、その本来の機能をほとんど果たすことなく、短期的な鞘を求めた遊戯場と体たらくしているのが実情なのである。
04年以降の異常な株式売買にもかかわらず、日本経済は浮上するどころか、縮小の道をはっきり進んでいる。株式市場の活況は経済の拡大に結びつかないばかりか、徒に経済を撹乱し、実体経済の妨げになっている。金融取引はコスト高になるだけで、経済に利益をもたらさないからだ。株式取引に課税し、譲渡益課税は早く元に戻すなどこれまでの政策を180度変える必要がある。このまま株式市場を放置し続けることになれば、日本経済の遊戯場化はさらに進行するだろう。
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FRBは不良債権を封じ込めることができるか

曽我 純 :
NYDOWは7週連続高となり、週末比では08年6月第3週以来の高い水準に上昇した。09年3月第1週の底値から78%も上昇し、米株式は住宅バブルで高騰した高値の領域に踏み出したといえる。DOWの株価収益率は約15倍と昨年の11月初めに比べると1ポイント上昇しており、利益よりも期待で値上りしていることがわかる。信用の行過ぎた緩和が株式をファンダメンタルズから離れさせようとしている。
鉱工業生産指数は昨年12月、前月比0.8%伸び、08年8月以来の生産水準を回復し、小売売上高も0.6%上昇するなど、実体経済が回復傾向にあることも、株価を後押ししている。しかも、12月の消費者物価指数のコアは前月比0.1%、前年比でも0.8%ときわめて安定しており、理想的な物価環境にある。
実体経済が好調に推移しているともいえる状況下において、FRBがマネーを金融機関にばら撒かざるを得ないのは、金融部門に依然大きな穴があいた状態にあるからだ。米商業銀行の商工業貸付は12月、前年比5.5%減と09年5月以降20ヵ月連続の前年割れだし、不動産貸付も4.5%減と15ヵ月連続のマイナスとなり回復の兆しはみえない。FRBは金融機関に湯水のように資金供給しているにもかかわらず、主要な貸出はプラスにならないのである。それは商業銀行の総貸付に占める不動産貸付の割合が12月、53.4%とピークからは低下したとはいえ長期の水準からみれば異常に高いことに関係している。金額でも3.61兆ドルとピークの09年5月(3.87兆ドル)から6.7%しか減少していない。このことは、商業銀行の不動産貸付が不良化しており、まだ多くの不良債権を抱えたままだということを示唆している。資金需要が乏しいところに、銀行が多額の焦げ付き債権を保有していることも、貸付が伸びない要因である。
国の管理下にあるファニーメイ、フレディマックがいつまで爆弾を抱え込んだままでいられるのだろうか。これら政府支援企業の資産は09年末の3.01兆ドルから2010年3月末には6.88兆ドルに急拡大、9月末でも6.65兆ドルと巨額である。資産の大半を占めるモーゲージ(9月末5.03兆ドル)は恐らくかなりの部分が不良化しているはずだ。
ファニーメイ、フレディマックは昨年7月、上場廃止(NYSE)となり、政府丸抱えになった。政府はなんとしても、不良モーゲージを封じ込め、長期戦略で少しずつ悪いところを処理していこうという方針のようだ。
政府支援企業は支援企業債を発行して資金調達しているが、その規模は9月末、6.44兆ドルである。支援企業モーゲージプール等を入れると企業支援債は総額7.59兆ドルとなる。支援債の保有者としては商業銀行(1.31兆ドル)、FRB(1.23兆ドル)、海外(1.2兆ドル)、投資信託(0.75兆ドル)といったところが大所だ。これだけの債務を抱えている支援企業が行き詰まると、そのショックは南欧などの比ではない。いま政府支援企業の問題は表立ってはいないが、地価の一段の下落などをきっかけにいつ爆発するとも限らない。
政府支援企業を支えるために、FRBはゼロ金利に加え6,000億ドルの買いオペを実施しているが、FRBの総資産の半分以上を支援企業債で占めていることは、いかにも異常だ。ベースマネーが増加するといっても、マネーは政府支援企業に行くだけである。そこから先に回るマネーは僅かなものだと思う。いうなればマネーをブラックボックスに注ぎ込んでいるようなものである。
経済指標の改善も一時的なものに終わるかもしれない。米国経済は不動産バブル崩壊の傷を深く負ったままの状態にあるからだ。政府支援企業を中心にした金融機関の不良債権が概ね処理されるまでは、米国経済の本格回復は期待できない。
米国経済が爆弾を抱えていることが、対ドルで円を強い水準に釘付けにしているようにも思える。米国同様、欧州も住宅バブル崩壊から立ち直るには程遠い状況にあり、そのことがユーロの上昇を阻んでいる。
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暴落するか否かの瀬戸際にある商品市況

曽我 純:
OECD景気先行指数が夏以降頭打ちになり、世界経済の回復力が弱くなっているときに、商品市況が急騰することは、あきらかにバブルが発生していることを示している。先行指数そのものも高水準にあり、現状以上に伸びる可能性は低い。株価が反発する前の08年12月に原油や銅の市況は底を打ち、いままでほぼ右肩上がりできた。この間の値上り率は銅で3.3倍、原油は2.6倍に達している。09年3月を底に反発したNYDOWの75%を大幅に上回っており、投機資金が商品市場に雪崩れ込んでいることがわかる。
商品価格の上昇は原材料価格を引き上げ、企業収益に影響してくる。日米とも生産財価格が消費財価格の上昇率を上回っており、企業利益を圧迫している様子が窺える。さらに上昇すると、インフレに繋がることになり、金融当局は金融引き締めに踏み出さざるを得なくなる。そうなれば短期金利は急上昇し、資金コストが増加、設備投資マインドは冷やされ、景気は後退するだろう。
米国や日本はGDP成長率がプラスでありながら、ゼロ金利を続けていることが、商品相場を高騰に導いているのだ。自然災害ではなく人災なのである。実需が伴わないのに巨額の買いオペを実施し、金融機関に資金供給していることも、投機を助長している。ゼロ金利が長引き、商品相場がさらに高騰すれば、短期金利上昇懸念から長期金利もいままで以上に上昇することになる。そのような過程で、商品相場も腰折れとなり、一気に値が崩れることになるかもしれない。
商品市況の暴落は資産価値の激減となり、負債との齟齬が生じることになる。住宅価格崩落のような規模ではないが、それでも景気にある程度のインパクトはあるはずだし、景気の撹乱要因になることは間違いない。商品市況急落が株式市場へと波及する恐れもあり、そのような事態になれば景気に及ぼす影響はさらに大きくなる。
米国のように住宅市場がいまだ病んでいる状態では、商品投機の破綻は信用の問題を再燃させることになる。信用不安が出てくれば、資金の流通は途絶えがちになり、当然ものの動きも悪くなる。商品市況が暴落すれば、デフレにある日本経済はデフレが一段深刻になり、家計も企業も支出をさらに絞るだろう。
ゼロ金利の恩恵を最も受けているのは金融セクターである。金融危機を引き起こした張本人が気づいてみれば、最大の利益享受者になっているのだ。米国などは長短金利差が3%もあるので、金融機関の収益は大幅に拡大するはずだ。非金融セクターは被害者だが、ゼロ金利による直接的な便益はない。
日本のようにデフレではマネーは自動的に増価するので、家計も企業も現・預金等の流動資産を厚くすることでデフレに対処している。逆に、借金は重くなるので、極力減らす。借金を返済し、現・預金を増やすことがデフレ経済を乗り切る最良の方法なので、日本経済はこのような資金の動きが今年も続くことになる。
米非農業部門雇用者数は12月まで3ヵ月連続の前月比増だが、春頃のような増勢ではなく、回復は緩やかである。米鉱工業生産指数を四半期でみると、7-9月期の前期比1.5%から10月、11月の平均は0.1%の微増にとどまっており、09年7-9月期以降の回復過程で10-12月期の伸びは最低になりそうだ。10-12月期の全産業設備稼働率は75.0%と前期比1.1ポイント上昇したが、ハイテク産業は73.2%、0.7ポイント低下した。PMIの非製造業は春の数値を越えたけれども、製造業は依然したまわっており、景気が全体的に良くなっているわけではない。
『短観』(12月調査)によると、日本の大企業経常利益は今年度下期、前年比-1.0%の減益になる見通しだ。前回調査から下方修正されており、収益は企業の思い通りに進んでいない。機械セクターの利益は大幅増益を維持しているけれども、電気や輸送は2桁減益になりそうである。しかも前回の9月調査から大幅な下方修正となり、予想以上に業績は悪化している。
11月の鉱工業生産指数は前月比1.0%と6ヵ月ぶりのプラスになり、12月、1月は大幅に伸びると予測されている(新車販売が前年を約3割下回り、薄型テレビなどの家電の売上が激減していながら鉱工業生産が伸びるほど他の分野が強いとは考え難い)。12月が予測通りに伸びても、10-12月期の鉱工業生産は前期比1.5%減少する。製造業の総実労働時間も10月、11月では7-9月期比1.0%減、全産業でも0.8%減少している。10-12月期の業績は製造業だけでなく、全産業で減益になるかもしれない。浮かれている株式は収益を直視せざるを得なくなる。
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金融緩和による商品市況の高騰

曽我 純 :
米国の長期金利は上昇しているが、短期金利の上昇力は弱く、長短金利差は拡大し、金融機関の収益環境は改善している。景気回復が確かであれば、長期金利よりも短期金利がより速く上昇するはずだ。そうならないのは、景気の足取りがあやふやであり、資金需要が弱いからだ。FRBの買いオペで銀行に資金を供給しても、そこから先へは金が流れていかない。企業は先行きの景気に自信が持てず、設備投資を積極的にしようとは思っていないからだ。金が行き着く先はマネーゲームに興じる部門である。借入コストが低いので、僅かな鞘を求めて株式や商品市場で頻繁に売買を繰り返す。8月末比、原油は27.2%、銅は25.4%も上昇しており、商品市況の高騰はいかにも実体経済から掛け離れた動きだ。日銀やFRBの金融緩和に端に発するこうした投機の過熱はいずれ経済を撹乱させることになるだろう。実体経済の拡大に繋がらない金融緩和は止めるべきだ。
7-9月期の米GDPは名目で前年比4.5%も伸びており、実体経済の成長率からみれば長期金利の3%台は低いといえる。GDP物価指数は前年比1.2%上昇しており、実質短期金利はマイナスになる。政策金利をゼロに据え置いていることの弊害が大きくなりそうだ。FRBは住宅価格下落に伴う不良資産救済の視点が強くなりすぎ、金融政策は正道を踏み外している。
■ 政府の債務拡大以外に日本経済を維持する術はない
11月の貿易統計によると、輸出は前月比1.7%と3ヵ月連続のプラスとなった。伸び率は小幅だが、輸出の減少が止ったことは、日本経済にプラスである。前年比でも9.1%上昇し、前月を1.3ポイント上回った。円高にもかかわらず、対EUが前月の前年比-1.9%から10.1%増へと改善したことが大きい。特に、一般機械や自動車の輸出が好調であった。他方、コンピューターなどの売れ行きが好ましくなく、半導体等の電気機器は5.8%減と2ヵ月連続のマイナスとなった。世界的にも半導体等電子部品は不調であり、11月の同輸出は前年比3.0%減と09年10月以来13ヵ月ぶりのマイナスになった。DRAMの価格も下げ止らず、需給のバランスは崩れたままである。
半導体等電子部品の輸出が前年比プラスからマイナスに転換したとき、株価は概ね下落している。11月末の日経平均株価は前月比8.0%上昇しており、先週末の株価も11月末よりも3.4%高く、これまでの局面とは異なる。だが、12月の半導体等電子部品の輸出動向によっては、株価に大きな変化が生じるかもしれない。
週末、政府は来年度の予算案を決めた。一般会計は総額92.4兆円、2010年度当初予算比微増である。ただ、補正後に対しては4.3兆円下回り、GDPを1%弱引き下げる。歳入の公債金は44.2兆円とほぼ前年度並みとなり、3年連続で租税・印紙収入(39.6兆円)を上回る。租税・印紙収入は前年度を1.3兆円上回る見通しだが、水準自体は低く、09年度、2010年度を除けば、1985年度以来の低い税収である。
租税・印紙収入が少ないからといって、いきなり国債発行を大幅に削減することになれば、それだけ需要が減少し、GDPは大幅に落ち込むことになる。企業収益は激減し、失業率は急上昇、需要減によりデフレはさらに強まり、日本経済は悲惨な状態に陥るだろう。
貯蓄があることが、政府の赤字を支えている。家計調査によると、09年の勤労者世帯の平均消費性向は74.6%である。月平均10.8万円の黒字であり、これが預金や保険料にむかっているのだ。金融機関は集まってくる金をなにかで運用しなければならない。貸出はマイナスであるから、国債を購入せざるを得ない。国にとっては負債だが、家計からみれば資産になる。いまは非金融法人も黒字であるので、その貯蓄も国の赤字をファイナンスしている。いずれにせよ黒字の部門から赤字の部門へと資金が流れることにより、貯蓄と投資は等しくなるのだ。必然的にそうなるので、だれも止めることはできない。だから、政府の債務残高が天文学的規模に達し、さらに拡大することが必至だけれども、国の債務の膨張を食い止め、縮小することはできないのである。他の事情がかわらずに、政府の債務拡大を止めれば、経済は直ちに麻痺状態に陥る。家計や非金融法人の貯蓄はすぐに減少することはなく、毎年、高水準の貯蓄が発生するだろう。設備投資が貯蓄の多くを吸収するほど拡大するとは考え難いことから、政府が需要を作り出す以外に経済を維持する方法はない。(次号は休みます)
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日本経済を弱くする税制改革

曽我 純 : 
今年度の企業(全規模、短観)の経常利益は前年比28.2%もの大幅増が見込まれる。懐が暖かい企業の税金を軽減する半面、給与が伸びていない家計の負担を増やすような税制改正が本当に日本経済を強くするのだろうか。日本経済の構造的な問題は、GDPに占める個人消費支出比率が低く、設備投資や輸出に過度に依存していることである。消費支出を増やすことが先決問題であり、消費が拡大すれば自然に設備投資は拡大する。今回の措置では消費支出は削減され、設備投資は冷え込むことになるだろう。高額所得者の給与控除額に上限を設けたが、それだけでは所得格差を縮小することはならず、今後累進税率を強める一方、500万円以下の給与所得者(給与所得者の73.8%を占める)の所得税を引き下げなければならない。
企業は内部にカネを溜め込むばかりで、支出する意欲はない。先行き消費環境は改善されず、期待収益率は高くならないと予想しているからだ。今年度の設備投資額(ソフトウェアを含む、土地除く、短観)は前年比2.3%と2年連続で大幅に落ち込んでいたが、回復力は極めて弱く、これでは日本経済は強くならない。政府による消費刺激策がほぼ終了したことから、今後、消費が伸びると期待することはできない。9月まで改善していた企業の業況(「良い」-「悪い」、全規模、短観)は12月、-11%と前期比1ポイント悪化し、来年3月には-18%へと一層低下する見通しである。景況の悪化に伴い、企業は設備投資計画を見直すかもしれない。
政府のもうひとつの失敗は証券優遇税制の2年延長である。株式の譲渡所得や配当について、10%の軽減税率を13年末まで適用するという。「貯蓄から投資へ」という謳い文句で、2003年4月に10%の優遇税制は導入され、すでに7年経過したが、株式はもとより経済への効果もほとんどみることができない。家計の貯蓄が減少し、有価証券保有が増加したわけでもなく、単に、超短期売買の投機家が増えただけで、株式市場は博打場といってよい市場に成り下がってしまった。
10月までの月平均売買高回転率(株数)は137%と昨年に比べれば低下しているが、それでも異常に高い値であることは間違いない。優遇税制の導入と株価の回復などから売買回転率は03年以降急上昇し、04年以降は80年代後半のバブル期を上回った状態が続いており、売買高からみれば日本の株式はバブル化している。優遇税制に加えゼロ金利の長期化は株式の活況を招いたが、実体経済の沈滞脱却には繋がらなかった。政府は株式のバブルを継続したいようだが、このような異常な売買を断ち切り、株式市場を正常な姿に戻さなければ、実体経済に再び悪影響することになりかねない。
■ 米連邦政府の債務急増
先週、日経平均株価の終値の高安は23円にすぎず、株式は完全に膠着状態にある。3月までの業況の悪化や今年度下期の経常利益減益予想などがでれば、ここからさらに買い上がるわけにも行くまい。日本株を主導している米株式も頭が重くなってきていることも、外人の買い増し余力の低下となっている。米減税法案が成立したことから、米株式を押し上げる力は弱まり、これまでの上昇の反動があらわれてくるだろう。
11月の米商業銀行の不動産貸付は前年比4.9%減と09年10月以降の前年割れで最大のマイナス幅となった。遡ることができる1948年以降でもマイナスになったのは09年10月がはじめてであり、米国で不動産貸付がマイナスになること事態、異常であり記録的といえる。ゼロ金利を導入してから2年経過したけれども、米不動産部門は回復といえるような状況ではないことが貸付からあきらかとなった。
FRBによると、米家計の住宅金融残高は9月末、10.1兆ドル、前年比2.6%減にとどまっている。ピークの08年3月末比でも5,000億ドル、4.7%減と家計の借金の処理は進んでいない。これでは住宅部門の回復は望むべくもない。11月の米住宅着工件数は55.5万戸と2ヵ月連続で前月を上回ったが、依然、水準は低く底這い状態であり、先行きの動向を示す許可件数は53.0万戸と前月を下回り、米住宅市場の回復は予想がつかない。
米国内非金融部門の債務残高は9月末、35.85兆ドル、前年比3.7%増である。家計部門は13.42兆ドル、1.8%減、企業部門は10.95兆ドルの横ばいに対して、連邦政府は19.6%増の9.05兆ドルだ。リーマンショック以前の08年6月末の連邦政府債務(5.43兆ドル)と比較すると3.62兆ドルも増加しており、これが金融部門の債務の肩代りに該当する。金融部門の債務は9月末、14.44兆ドルとピークから2.67兆ドル減少しており、金融部門は身軽になる代わりに、政府部門が重荷を背負ったことになる。金融部門の悪い部分は政府やFRBに移転しているだけで、それらを清算してしまっているわけではない。FRBはなおも資金供給し、金融部門を支援しようとしているのだから、清算はいつになることやら。向こう何年間も米国経済の本格回復は見込めそうもない。
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