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曽我 純 :

大地震と原発の崩壊で為替、株式市場は大きく揺れた。地震と原発は日本経済に大打撃を与え、元の経済水準に回復するには数年を要するだろう。多数の人命が失われ、精神的ダメージは計り知れず、地盤が沈下しているなど、元に戻らないところもある。原発が収束に向かうのか、メルトダウンがさらに進行し、破局を迎えるのか、によっても日本は大きく左右されるだろう。

円ドル相場は16日のNY市場で一時76円25銭まで円が急騰し、1995年4月19日の79円75銭を約16年ぶりに更新した。投機業者の円買いの動きにみんなが乗り一気に円高に進んだからだ。ヘッジファンドなどの投機業者の為替売買プログラムには過去の地震直後の仔細なデータが入力されており、単にそれに基づいて売買した結果が、このような円高ドル安になった。ファンダメンタルズでは、日本経済は悪化するのだから、円は売られることになるけれども、短期的にはコンピューターのプログラム売買(円買いドル売り指令)が市場で優勢になったのだ。プロの投機業者にアマも追随していったのである。

このような大惨事が発生したときに、頼れるのは過去にどのようなことが市場で起こったか、ということぐらいしかたいていの人は考えられない。阪神大震災後に円高に突き進んでいるので、市場参加者は、今回も同じようなことが起こるだろうと予想したことが、円高の大きな流れを作ったはずだ。だから、一旦円買いドル売りのプログラムに基づき売買が執行されてしまうと、その後、円高ドル安は長くは持続しないはずだ。しばらくすると、地震・原発が日本にどのように影響するかわかってくるので、そうした通常の情報を頼りに売買する姿勢が強くなり、コンピューターによる猛烈な円買いという一時的な偏った売買は影を潜めることになる。

18日、G7は急遽電話会議を開き協調介入を発表したが、当局はプログラム売買の短期的な特性を十分に理解していないのではないか。16日に付けた76円台は瞬間であり、同日、NY市場は79円60銭で引けており、介入などしなくても元の水準から大幅に乖離することはない。今回のようなM9.0という大地震は市場でなかなか消化されず、円高期待が円高をもたらすという形で円高が進行していった。だが、ファンダメンタルズと異なる理解不能な現象など長期間続かない。期待だけに基づく不確実性の高い状況下で、そのようなポジションを長く持つとリスクが大きくなりすぎ、円買いのポジションをすばやく手仕舞わなければならないからだ。だから自然に円買いドル売りは収まり、急激な円高ドル安は修正されることになる。鳩首会議で強調介入したことは当局の為替にたいする知識や能力の欠如を示すものだ。

さらに言えば、為替や株式が乱高下する原因を作り出したのは政府・中央銀行であり、彼らが放ったマネーが暴れ馬のように荒れ狂っているのである。日銀は14日以降、日銀当座預金を増やしており、18日には32.7兆円と前週比15兆円も増加している。貸出の前年割れが続き、金融機関は余剰資金の使途に困っている状態で、むやみに現金を増やしてなにになるのだろうか。そうした金が必要なところへ向う保証などなにもない。日銀がなすべきことは現金を被災地に確実に届けることくらいだ。為替や株式の変動を意識した行動にでたのであれば、市場を歪めるだけでありお門違いだ。ゼロ金利を長期間続けるなど、日銀の金融政策は限界点にとどいており、なにかをできるなど考えないほうがよい。

日本の生命保険会社が外債などの有価証券を売っているから、円高になっているのだという話を聞くが、日本の超保守的な主体性のない生保などが、そのような行動を取れるはずがない。阪神大震災のときもドル資産を売却したような行動は取っていないし、そもそもそのような決断力など持ち合わせていない。為替・株式市場を牛耳っているのは外人であり、市場が激しく変動したのは、かれらが円買い、債券買い、株売り注文を出し、その動きに国内勢は釣られて動いているだけだ。
日本株についても為替と同じで、2日で16.1%も急落したのは外人の売りである。そもそも外人が東証1部の売買高の6割以上を占めていることから、日本株市場は完全に外人の領地なのである。決断力に乏しい日本人には株式や為替のような相場には向いていないのかもしれない。おまけに資産運用の歴史も短く、運用者の質にも問題がある。生保や銀行などが為替や株価の変動に一喜一憂するようでは困るのだ。

自由に変動することによって均衡に至るという理屈に基づき作った市場を「想定外」という言葉ですべてを反故にすることはとうてい許されることではない。日本の90年代のバブル崩壊以降でも「想定外」の現象はしばしば起こった。金融機関は巨額の損失を抱え二進も三進もいかなくなり、国の介入でなんとか生き延びた。結局、「想定外」で行き詰まれば、あっさり自己責任は放擲され、国民が負担し面倒をみなければならなくなる。

市場主義がまったく貫徹できないにもかかわらず、小泉政権は米国の尻馬に乗り、規制緩和、市場万能を高らかに宣言した。だが、08年の米不動産バブル破裂により、日本経済の落ち込みは本家よりも激しく、米発の津波により国内経済はずたずたにされた。

今回の原発も「想定外」で処理されかねない。『原子力損害の賠償に関する法律』によると、賠償額は1事業所当たり1,200億円以内であり、それを超える場合には国が面倒を見ますということが決まっている。さらに「損害が異常に巨大な天災地変により生じたものであるときには、この限りではない」。今回の地震が「異常に巨大な天災」に当たれば、東電は賠償を免れることになるのだ。かつての巨大銀行が生き延びたように、独占企業は法律で存続できるような仕組みが整備されていた。

原発事故がおこらなくても、原発が稼動するかぎり核廃物は増加しつづける。国債の増加が憂えられているけれども本当に憂えなければならないのは核廃物である。09年度に原発で発生した放射線固体廃棄物は72,425本(経済産業省、『平成21年度 原子力施設における放射性廃棄物の管理状況及び放射線業務従事者の線量管理状況について』、一本=200リットルドラム缶換算)、前年比7.1%増である。年度末の保管量は3.9%増の648,453本と6年連続増である。これ以外にも「ふげん」、「もんじゅ」といった研究開発段階の施設、さらに加工施設、再処理施設からも核廃物は多量にでてくるのだ。実用原発だけでも保管量は牛乳パックで約1.3億本、国民1人当たり約1本抱えていることになる。

核廃物の増加によって放射能を浴びるリスクは高くなり、しかもこうしたゴミに永久に金を注ぎ込まなくてはならない。国債は国が借入れを印した紙でできた証書で、今は額面100万円であれば年1.2万円の利子がもらえる。が、核廃物はコストが掛かり、その上、放射能を完全に封じ込めることは不可能であり、生態系を汚染する。何千年、何万年もだれが保管するのだろうか。「想定外」を作り出しているのは、原発を作り動かしている国と電力会社なのである。「想定外」を非難しながら自ら核廃物という「想定外」の忌わしい世界を作りだしているのである。米住宅バブルを作ったのは金融機関であり、金融機関のでたらめな貸付が「想定外」を作り出したが、それと原発のメルトダウンや核廃物の問題は、当事者の思い上りから招いた人災という意味では同根なのである。

さらに酷いのは原発で働いている従業員の格差だ。福島第1原発の従業員は09年度、10,303人(経済産業省)いるが、このうち東電の社員は1,108人と全体の1割ほどであり、9割方は協力企業の人たちだ。雇用機会の少ない地元住民にとっては「安全な原発」で働けることは、安定した収入を得ることのできる職場であった。だが、これほど東電社員を少なくしているのは、人件費だけでなく、リスクの高い職場だからである。平均線量は東電社員の0.8ミリシーベルトに対して協力会社の社員は1.5ミリシーベルトと東電社員の約倍の放射能を浴びている。国際放射線防護委員会では1ミリシーベルトの被曝で将来10,000人に1人のガン発生が考えられるとしており(原子力情報資料室)、微量の被曝でもガンに罹るリスクは高いのである。協力会社の社員は1ミリシーベルトを超えており、将来、ガンが発生するリスクは東電社員よりもはるかに高くなる。

原発従業員の総計は83,489人、内訳は電力会社の社員9,210人、協力会社の社員74,279人と福島第1とほぼ同じ構成である。平均線量をみると電力会社社員、協力会社社員は0.3ミリシーベルト、1.1ミリシーベルトといずれも福島第1を下回っており、福島第1の職場環境が劣悪であったことがわかる。福島第1の協力会社社員は09年度で1.5ミリシーベルトだったが、2000年度には2.7ミリシーベルトも被曝していた。東電社員は0.8ミリシーベルトと09年度と変わらず、福島第1は放射能漏れが際立った原発だったといえる。

「安全な原発」といいながら原発の運転の大部分は協力会社の社員を使い、手の汚れる現業部門はほぼかれらに任せていた。大惨事になっても現場で働くのは協力会社であり、東電社員は傍観するしかないのだろう。社長がほとんど姿をみせず、情報開示が杜撰であり、停電の連絡も混乱をもたらすなど、会社のこうした動きをみていると、ますます人災の思いを強くせざるを得ないのは私だけだろうか。

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曽我 純;

週末値でも原油価格は1バレル100ドルを突破し、08年9月以来の高水準に上昇した。そのほかの商品価格も上昇し、CRB指数は3ヵ月で14.7%高くなり、その上昇率はNYダウの2倍以上になった。商品価格の急騰のわりには債券価格は安定しており、物価上昇による需要減、景気悪化というプロセスを早くも意識しているようだ。

トルシェECB総裁の早期利上げ発言によって、ユーロの短期金利は上昇し、ユーロは買われた。2月の米非農業部門雇用者数は前月比19.2万人増と昨年5月以来の高い伸びとなったが、ユーロ高に変化はなかった。これで非農業部門雇用者数は5ヵ月連続増だが、昨年2月の底からの増加数はまだ126.9万人にすぎず、08年1月をピークとする875万人減の14.5%を取り戻しただけであり、雇用が本格回復したとはとても言えない。2月のISM製造業景況指数は61.4と7ヵ月連続で前月を上回り、04年7月以来の高い水準だが、1月の個人消費支出は前月比0.2%にとどまり、消費が復調したとはいえない。原油高が持続すれば、消費マインドを冷やすことになるし、住宅価格の下落はさらに消費意欲を減退させるだろう。住宅価格の下落はしばしの遅れをともない、消費支出に影響し、延いては足元改善している雇用にも再度過剰感が広がるかもしれない。住宅価格が再調整に向っている一方、農地価格が急騰しつつある。小麦、大豆、トウモロコシの価格騰貴などにより農地は激しく値上りしている。2010年のアイオワの農地価格(インフレ調整後)は1979年のピークに近づきつつある。農地はバブル化の様相を呈しており、バブルが破裂することになれば、金融機関の不良債権が急増し、米景気は腰折れするかもしれない。

好調な企業業績が株高に結びついていると言われているが、実際の数値をみると、業績はピークアウトしており、株価は他の要因で高くなっていることがわかる。財務省の『法人企業統計』によると、昨年10-12月期の全産業の売上高は前年比4.1%と伸び率は2四半期連続で低下し、営業利益は28.9%と3四半期連続の鈍化となった。大企業(資本金10億円以上)を取り上げてもほぼ同じ傾向を示しており、業績拡大の勢いは衰えてきており、今年1-3月期は減収減益になることもあり得る。こうした業績の伸び率低下は設備投資に顕著にあらわれている。全産業の10-12月期の設備投資は前年比3.8%と前期よりも1.2ポイント低下し、低空飛行が続き、失速しそうだ。企業は先行きに自信が持てず、期待収益率が低下していることも、企業の設備投資マインドの改善を遅らせている。売上高営業利益率は3.7%と前年よりも0.7ポイント高く、自己資本比率も36.7%、同0.7ポイント上回り、利益率や財務内容は改善しているけれども、企業の姿勢は慎重なままである。なぜか。

企業が設備投資に踏み出すことができないのは、利益の多くは、人件費を抑制した結果であり、売上高の伸びに匹敵する給与等を支払っていたならば、これほどの利益を出すことができなかったことを十分に承知しているからだ。出すものも出さず利益を嵩上げする行動を大半の企業が実践したのだ。売上高は4.1%伸びたが、人件費は1.4%、人件費の65%を占める従業員給与は1.2%にとどまっている。

1人当たりの売上高は3.4%伸びているが、1人当たりの給与(賞与を含む)は1.3%と低く、これで4四半期連続して後者が前者を大幅に下回ったことになる。人件費を抑えたことなどで売上原価と販管費の伸びも売上高を下回り、営業利益の拡大につながった。人件費の伸びを売上高並みに増やしていれば、営業利益の伸びは17%に低下することになる。利益の源泉は人件費削減と輸出増であったため、企業は業績改善を素直に喜べず、国内最終需要の回復は期待できないと予想し、設備投資に踏み切ることができないのだ。今の業績回復が長続きしないと想定すれば、設備の拡大を抑えることになるが、そのことが企業収益をさらに悪化させるという連鎖が起こる。外需の支えがなくなれば、そのような連鎖によって、企業収益の減少は一気に加速することになる。
  
1月の鉱工業生産指数は前月比2.4%と3ヵ月連続で前月比プラスとなり、回復軌道に乗ったようにみえるが、出荷の伸びは1.1%と2ヵ月連続して生産の伸びを下回り、在庫は4.7%も急増、09年2月以来約2年ぶりの高水準となった。在庫がこれだけ増加したのは、昨年末ポイントが半減した液晶テレビ等の販売減と国内新車販売の不振による。液晶テレビに関連する情報通信機械工業の出荷は前月比16.1%減と2ヵ月連続の大幅減となり、在庫は40.7%と急増した。輸送機械工業も出荷が生産の伸びを下回り、在庫は19.5%と3ヵ月連続で増加した。液晶テレビや自動車の在庫急増によって、1月の耐久消費財の在庫は07年12月以来、約3年ぶりの高水準に積み上がった。
生産指数の前年比伸び率は4.7%と昨年3月をピークに低下している半面、在庫は7.3%と1998年3月以来約13年ぶりの高い伸びとなった。出荷は3.2%と生産を下回り、思うようにモノが出て行っていない様子で、意図せざる在庫が工場や倉庫に積まれているのだ。これほどの在庫の伸び率は、1980年代以降の30年間で6回認められるだけであり、稀なケースに入る。在庫が上昇する過程で、景気はピークを付けていることから、今回の在庫増も景気後退につながる可能性がある。

生産指数は前年比4.7%伸びているが、一般機械工業だけで引っ張っており、それの寄与度は4.3%ときわめて高い。一般機械工業のなかでも半導体製造装置やフラットディスプレイ製造装置の伸びが突出しており、これら一部の製品の生産拡大が、鉱工業生産指数全体を動かしているのだ。だが、電子部品デバイス工業の在庫は前年比53.8%も増加しており、生産調整しなければならない状態に陥っている。生産削減を迫られているときに、半導体製造装置を求めるようなことはしないはずだ。鉱工業生産に対する半導体製造装置の影響が大きいため、半導体製造装置の動向によっては、鉱工業生産は下振れするかもしれない。MEDIA GALLERY?


半導体等電子部品の輸出も1月、前年比12.6%減少し、外需も弱くなってきている。半導体電子部品を含む電気機器が1月、前年比7.5%減少し、輸送も0.2%の微増になるなどで輸出総額は1.4%まで低下しており、前年割れになりそうである。そうなれば、外需依存の高い鉱工業生産や機械受注は厳しい状況に追い込まれることになる。
『家計調査』によれば、1月の消費支出(2人以上の世帯)は前年比-0.9%と5ヵ月連続のマイナスとなり沈んだままだ。勤労者世帯に限れば、可処分所得が3.3%も減少したことから消費支出も1.2%前年を下回った。有効求人倍率は緩やかに改善しているが、失業率は前月比横ばいの4.9%である。男性失業率は5.3%と0.1ポイント低下したが、3月は跳ね上がるかもしれない。内需が大きく上向くシナリオは描けず、このまま輸出が前年割れにでもなれば、09年3月を底に拡大してきた景気は後退に突入するのではないだろうか。

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圧政のリスクを喚起する

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曽我 純 ;

チュニジアのベンアリ政権崩壊がドミノのようにアフリカの独裁国家を揺さぶり、強権政治に引導を渡している。リビアが石油産出国であるため、原油相場が高騰し、これによって景気の先行きに不安が生じ、株式は調整を強めつつある。

先週末、WTIは97.88ドル、前週比13.5%も上昇し、08年9月以来の高値を付けた。特に、米国の個人消費は原油高に敏感であり、これまでも原油が高騰するときには消費がダメージを受けたことが、景気の先行きを暗くした。

景気や企業業績悪化懸念から主要国の株式は売られ、国債は買われ、原油高の影響が米景気により強く働くという見通しから対円・ユーロでドルは売られた。

アフリカ独裁政権崩壊の影響がアフリカだけにとどまらず、アジアなどに波及すれば、そのインパクトは計り知れない。共産党一党独裁の中国にもすでにその兆候はあらわれており、自由を抑圧していたマグマは一気に噴出しかねないし、いずれは大爆発し、独裁体制は滅ぶだろう。

日本をはじめ世界中の企業が中国に進出してきたが、一党独裁で政治、言論に自由のない国へ進出するリスクはきわめて高いことを肝に銘じるべきだ。マルクスによれば下部構造がその他すべてを規定するが、経済よりも自由が高位にあることをわすれてはならない。政権が崩れ、新政権が樹立されれば、すべては没収されることになるだろう。目先の利益ほしさに、みんなで渡れば怖くないという浅はかな考えで、出て行いけば、最終的にすってんてんになってしまうことを覚悟しておかねばならない。

企業は中国の政治支配のようにトップの経営者が権力を握っており、支配している仕組みになっている。中小企業の多くはアフリカの軍事国家のように、すべては経営者の思うままに、経営されているのだ。そのような企業では合理性、効率性とかのものさしは通用しない。トップの顔色を窺いながら、意思決定はなされ、理不尽な意見が通るのである。大企業経営者の権力の振る舞いは強弱あるけれども、権力構造が中国のそれと似ていることが、中国へ躊躇なく進出していることと関連があるように思う。政治体制は問わず、安い労働力を利用して金儲けができればそれでよいというのが、企業の行き方なのである。独裁政権に手を貸していることなど、頭の片隅にもないのだろう。

アフリカの軍事国家が転覆しかけると、欧米諸国は軍事政権を非難するが、それまでは軍需品を供給しながら、軍事政権を支え、政権維持に手を貸してきた。特に、旧宗主国である欧米諸国はいままで軍事政権と結託し、互いに甘い汁を吸ってきたが、軍事政権の是非にはまったく無頓着であった。欧米は民主主義を唱えながらも、アフリカをその程度の扱いしかしてこなかったことを、今回の激変はあからさまにした。

経済の変化は悪くなるときは速いが、今回の政権崩壊のプロセスをみても、政権の変化は激変であり、これに的確に対応することは不可能である。1月半ばにベンアリ政権が倒れ、2月11日にムバラク大統領が辞任しても、株式市場は遠い出来事のように、気に掛けず上昇を続けていた。経済的というか金勘定だけで判断し動いたことの限界が露呈したともとれる。

■ 現行の金融政策はマイナス成長では通用しない

アフリカの圧政が倒れたのは、必需品の価格上昇による困窮を起爆剤とし、抑圧により鬱積していた精神的苦痛から解放されたいという要求が強まったからだ。物価の上昇は弱者の生活を直撃する。小麦やトウモロコシ等の価格の異常な値上がりはぎりぎりのところで生活している人たちを追い込んだ。

素原料材価格の上昇を主導したのは米国や日本の金融政策である。FRBや日銀のなんら根拠のない思い込みによる金融政策が、世界的弱者の生活を追い詰めた。日米の金融政策はまさにカネを世界にばら撒き、投機を後押ししている政策といえるだろう。新興国は金融引き締めに転じているが、経済や金融の規模に大人と子供いやそれ以上の格差があるので、新興国の金融政策では制御できず、防ぎようがないのである。ニューヨークやロンドンなどからホットマネーが津波のように押し寄せてくれば、ひとたまりもなく呑み込まれてしまう。1997年のアジア金融危機の経験はほとんど活かされていない。カネの出入りをチェックするなんらかの仕組みがなければ、小国は大海に浮かぶ小船のように大国のマネーに翻弄されるだろう。

08年の金融危機によりさまざまな改革案が出されたけれども、巨大金融機関、投資信託、ヘッジファンド等のカネの動きを規制する改革は実行されていない。オフショアやオフバランスの勘定なども放置されたままであり、金融機関の実態は依然きわめてわかりにくい。目に見えない部分が大きすぎて、実際のバランスシートでは正体を摑むことができない。こうした正体不明の法人のカネを野放しにしていれば、社会的に好ましいところに投資され、経済が豊かになるのではなく、社会の歪みを大きくする危険性のほうが大きい。為替、株式、商品市場には日々巨額の資金が流出入しており、これらの流れを監視することなどとてもできないだろう。せいぜい取引コストを引き上げるような課税を国際的に導入することくらいの手立てしかない。

米国では6,000億ドルの国債買い取りのプログラムを実行中だが、1月の米商業銀行の商工業と不動産貸付は依然前年を下回っている。これだけ買いオペをしても金融機関から市中にはなかなかカネが出て行かないのである。市中に出回らないことは、こうした買いオペは機能していないといえる。自国経済の拡大に結びつかず、新興国の経済を危機に陥れる金融政策が平然と続けられている。

日銀の金融政策もいまの日銀政策委員のメンバーで金融政策を実施することが相応しいのか疑問であり、再度、検討する必要がある。異常な低金利を16年も続けていながら、国内需要は確りした足取りを取り戻せないことは、そのような金融政策は今の日本経済に通用しないことを証明している。抗がん剤のように、副作用が大きく、金融政策で日本経済は衰退しているといえるかもしれない。

通常の金融政策は、経済がプラス成長し、物価が上昇している状態では通用する。だが、1994年をピークにGDP物価指数が下落しているようなデフレ経済では、日銀の金融政策は無力なのである。2010年のGDP物価指数は88.8と12年連続で低下し、1981年以来29年ぶりの低い水準である。1990年代のはじめを境に日本経済はがらりと変わったが、その変化を見ようともせず、従来通りの金融政策を踏襲してきた。

株式・不動産バブル破裂の衝撃は深くて長い。放置していた不良資産の山が実体経済を蝕んでいったのである。『国民経済計算』によれば、日本の総資産から負債を差し引いた正味資産は09年末、2,712兆円、1991年のピークから819兆円減少した。不良資産処理に伴う正味資産の急激な減少により消費は低迷し、1992年でほぼ物価上昇は止り、デフレに陥った。だが、当時、政府や日銀などは日本経済をデフレとはとらえず、それまでと同じような処方箋で経済の舵取りができると思っていた。

2010年までの10年間のGDP物価指数は年率1.2%減であり、名目GDPは同0.5%のマイナスである。マイナス成長でデフレの経済状態では、国内で貨幣需要はプラスになることはなく、創出されたカネは需要不足を補うための財政赤字に用立てられるほかは、海外へ流出することになる。全国銀行勘定をみると、銀行の国債保有高は1993年の28.7兆円から2010年には146.2兆円へと増加する一方、貸出は479.9兆円から420.4兆円に減少している。国債の増加から銀行の総資産に占める有価証券の比率は16.3%から29.9%に上昇した。これからの10年間もマイナス成長は不可避であり、銀行の貸出は減少し続けるだろう。ゼロ金利と買いオペという従来の金融政策では、こうした逆境に立ち向かうことはできない。

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曽我 純 :

昨年11月、FRBは6,000億ドルの国債購入を決めたが、その1ヵ月前から、外人の日本株買いは積極的になり、2月第2週まで連続して買い越している。昨年10月以降の買い越し額は2.4兆円になる。明らかに、FRBの金融緩和措置が外人の日本株買いの契機となり、株価上昇の原動力となった。だが、6月末でFRBの国債購入は終了することから、外人買いもそろそろ最終局面に近づいているように思う。

それにしてもNYダウの上昇力は異常に強く、09年3月の底から2年経過しないうちに、1.9倍ほど値上りした。前回の上昇局面でも同程度値上りしたが、5年を要しており、今回の値上りがいかに急速であったかを物語っている。09年3月の反発要因もFRBの国債等の買い取りであり、FRBの金融緩和策を材料に株価は上がっていった。今回の国債購入は6月末までだが、いまの経済情勢では、FRBの国債購入は必要ではなく、打ち切りとなるだろう。株式買いの主力材料である国債購入が打ち切りとなれば、景気拡大のよほど強いシグナルが発せられない限り、株式上昇の持続は難しい。

FRBは今年の実質経済成長率見通しを昨年11月の3.0%~3.6%から3.4%~3.9%へ上方修正した。上方修正したことは景気の先行きに自信を深めていることであり、これほどの成長を想定していることは、国債購入だけでなく、ゼロ金利政策の変更もあり得る。さらに、足元、名目で4.2%も伸びていながら、ゼロ金利や国債購入を継続する異常な金融政策によって、株式や素材だけでなく物価も反応してきた。1月の米消費者物価指数(コア)は前年比1.0%と前月よりも0.2ポイント高く、昨年5月以来の伸び率となった。2月以降もじわじわ上がるようだと、早い段階でFRBは利上げに踏み切らざるをえない。実質金利がマイナスの異常な状態を断たなければ、株式や商品のバブルは膨れ、08年以降の金融恐慌に耐えた試練や経験が水泡に帰すことになる。

■ 家計は痩せ企業は太る日本社会

GDP統計によると、昨年10-12月期の経済成長率は名目前期比0.6%減と2四半期ぶりのマイナスとなった。マイナス自体めずらしいことではなく、過去10年を振り返れば、しばしばみられる光景であった。消費支出が前期比1.0%減と09年1-3月期以来の減少となったことや公的部門さらに外需までもマイナスになったことが響いた。
自動車販売やたばこの駆け込み需要の反動減が消費を引き下げたことは事実だが、11月までは薄型テレビが急増していたことなどを考え合わせれば、消費の基調は弱いと言わざるを得ない。7-9月期でさえも消費支出は0.3%伸びたにすぎず、駆け込み需要の効果はたかが知れている。減税の恩恵を受けるものは買うけれども、それ以外の消費は削るという姿勢である。

民間部門で寄与度がもっとも高かったのは民間在庫品増加であり、2四半期連続のプラスだ。自動車やたばこの売上減は予想できたことだが、それでも在庫が増加していることは、企業の予想よりも需要は弱いということを示している。

10-12月期の消費を自動車やタバコのせいにし、今年1-3月期以降、成長率は回復するような見方が報じられているが、1月の新車販売は引き続き大幅な前年割れとなるなど、消費不況から抜け出すことは難しいのではないか。それは消費を決定付ける所得が減少しているからだ。10-12月期の雇用者報酬は前期比0.3%減と2四半期連続のマイナスとなり、これが家計の消費マインドを冷やしている最大の原因だ。デフレーターは3四半期連続の前期比マイナスとなり、デフレが和らぐ兆しはみえない。デフレでは消費や設備投資が活発になることは考えられない。デフレ経済では貨幣価値は上がり、ものの価値は下がるので貨幣を貯めることが、もっとも有利な選択になるからだ。しかもいま指摘したように報酬が減少しているので、財布の紐はことさらきつくなる。

10-12月期の名目GDPは金融危機以降の最低(09年1-3月期)を上回っているが、消費支出はそれを下回り、1996年1-3月期以来、約15年ぶりの低い水準に落ち込んだ。国内家計最終消費支出は2008年1-3月期をピークに減少しているが、その間、耐久消費財は5.2%減とサービス(4.0%減)より悪いが、半耐久財(14.3%減)や非耐久財(7.9%減)に比べると、減少率は緩やかである。

暦年のGDPをみると、2009年までの2年間で名目GDPは激減したが、2010年は1.8%の増加にとどまり、回復力は弱い。名目GDPは479.2兆円と昨年より8.3兆円増加したが、2009年を除けば、水準は1991年以来ということになる。さまざまな政策支援があったにもかかわらず昨年の消費支出は前年比1兆円も増加しなかった。これが回復力が弱くなった最大の原因である。民間部門では在庫増加の寄与度が高く、民間設備投資は微増にとどまった。最大の牽引者は外需であり、これだけでGDPを0.9%引き上げた。消費がこれほど弱いのは雇用者報酬が昨年、0.8%しか増えず、悪化する前の2008年を9.2兆円も下回っており、1992年のレベルにとどまっているからだ。

今年度の企業収益は大幅に改善するようだが、これは報酬を低い水準に据え置いているからで、売上の伸びと同程度に給与を引き上げれば、このような増益にはならないはずだ。このような給与抑制と雇用削減を続けることは、同時に需要を削減していることでもある。企業は収益を拡大し太るけれども、家計の取り分は少なくなり痩せていくのでは経済は縮小していくだけである。

昨年4月~12月の上場企業の売上高は前年比7%を超え、経常利益は8割も増えているけれども、同期間の現金給与総額の伸び率は1%にも満たないのである。所定内給与に限ればわずかだがマイナスという酷い状態である。企業は儲けを溜め込み、財務内容は良くなるが、製造した商品が売れなくなるという有効需要の不足を企業自ら演出している。売上高の伸びに比例した分配をしなければ、経済はうまく行かない。不公平な分配から生じた有効需要の喪失は、政府部門の大幅な赤字でもってしても、補えない規模に達している。企業は少なくても、売上高の伸び率に準じた給与を支払わなければならない。そうしなければ、昨年、1%しか伸びなかった設備投資は、深刻な消費需要不足により再びマイナスになり、内需はますます萎んでいくだろう。内需欠乏の墓穴を掘り、外需に頼らざるを得なくなったのは、企業自ら蒔いた種なのである。

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FRBの資産拡大と財政赤字

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曽我 純 :

昨年11月、FRBは6,000億ドルの国債買い入れを発表し、その後、着々と購入しているが、国債価格は下落し、利回りは上昇しつつある。国債利回りは昨年10月末比、約1%も上昇してしまった。消費者物価指数(コア)は昨年12月、前年比0.8%の上昇にとどまり、物価はきわめて安定しているが、昨年10-12月期の名目GDPは前年比4.2%も伸びており、景気は回復軌道に乗っているからだ。

国債利回りは名目経済成長率に近づいていくだろう。2010年までの10年間の年平均経済成長率が4.0%であったことから、国債利回りはその当たりのレベルが妥当な水準ではないかと思う。

4%を上回る経済成長に達しながら、なおもFRBは買いオペを続行し、マネーを供給している。長期金利を下げるのではなく上げる役割を演じているのだ。政策金利をゼロに置いているので、長短金利差は3.3%に拡大し、金融機関の収益拡大を後押ししている。一方、非金融機関は資金コストが上昇し、設備投資意欲が削がれることになる。

FRBのしていることは、マネーを供給すれば、自動的に経済は良くなるとの考えに基づいている。ただ、経済がすでに巡航速度に回復している状態で、なおかつ貨幣を供給すれば、住宅バブルが発生したように、新たなバブルが膨らむことになる。おそらく、株式や商品などは、FRBの資金供給によって、バブル化しつつある。

FRBは非金融部門に直接に貨幣を供給できないので、本当に必要なところに資金がとどくかどうかはわからない。供給した貨幣の大部分は金融部門に滞留しており、良からぬところに向っているのだろう。連邦政府の支出は09年度、3.0兆ドルと前年比0.5兆ドルも増加し、財政赤字は08年度の0.64兆ドルから1.54兆ドルに拡大した。だが、GDP統計をみると、09年の政府支出は前年比360億ドル(1.3%増)増加しているにすぎない。財政支出の大半は金融部門の不良債権処理に使われたのだろう。

買いオペの拡大によって、FRBは先週水曜日時点で1.16兆ドルの国債を保有している。11月以降、0.33兆ドル増加しており、すでに目標の半分以上を消化したことになる。買いオペにより、FRBの総資産は過去最大の2.5兆ドルに拡大し、マネタリーベースも2.1兆ドルに膨れた。マネータリーベースのうち1.16兆ドルは準備預金であり、その大半(1.09兆ドル)は超過準備である。超過準備は本来ならば金融機関が貸出等に回す資金だが、FRBがそれを元手に各種証券を購入しているのだ。

金融危機の影響により、09年の米国経済はマイナス成長になったが、名目では1.7%減少しただけである。因みに、日本はマイナス6.6%と金融危機の震源地よりも酷い落ち込みとなった。1.7%の減少では、それほど大騒ぎする必要はなく、FRBによる大規模な金融支援もどれだけ実体経済に必要であったか疑問である。

米国経済はもともと不況に強い構造になっている。2009年の名目GDPは消費、設備投資、住宅がそれぞれ減少、総額2,500億ドル減となったが、なかでも輸入は大幅に減少し、輸入超過額の減少が消費や設備投資などのマイナスを半分以上消してしまった。輸入に頼る体質が不況下ではそれが緩衝装置となり、経済の落ち込みを緩やかにしたのである。さらに不況でも大きく落ち込まない個人消費のウエイトが高く、変動の激しい設備投資の比率が低いことも、成長率の振幅を小さくしている。

米国と正反対なのが日本であり、外需依存度が高く、個人消費のウエイトが低い一方、設備投資のウエイトが高いという経済構造が振幅を激しくしている。こうした仕組みにより、日本経済は、米国をはるかに上回る規模で収縮し、いまだに名目経済成長率は2%程度にとどまっている。

2010年の米経済成長率は名目3.8%に回復したが、在庫の寄与度が約3割を占め、設備投資の回復力はなお弱く、08年の水準を15%も下回っている。輸入超過額は再び拡大しているため、企業利益の回復は財政赤字に依存したものといえる。

2010年までの10年間に米名目GDPは1.47倍に拡大した。部門別の伸びを比較すると、もっとも拡大したのは政府部門の1.73倍であり、1.51倍の個人消費がそれに続き、設備投資は1.11倍にとどまった。政府支出のなかでは国防が2.2倍、非国防は1.61倍となり、2010年の国防支出は8,178億ドル、GDPの5.6%を占めており、米国経済は軍需産業という浪費で保たれているといえる。米国は市場経済の国であるといいながら、政府部門は2010年、20.5%と10年間で3.1ポイント上昇した。

住宅バブル期のような個人消費の伸びの再来はなく、設備投資も高い伸びが期待できなければ、結局、成長は政府部門に頼らざるを得ない。FRBもいつまでも買いオペを続けるわけにもいくまい。異常に膨れたFRBの資産を元の状態に戻すことは容易ではない。政府部門のウエイトを下げることも、長期的な課題として取り組むことになるだろう。米株式市場は浮かれているけれども、米国経済の中身について手放しで喜べるような内容ではないことは明らかである。米株式に追随している日本の株式はさらに危ういのではないだろうか。

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輸出頼みの生産と支出を切詰める家計

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曽我 純 :

昨年12月の鉱工業生産指数は前月比+3.1%と2ヵ月連続で増加した。出荷は1.1%増にとどまったため、在庫は1.4%増加した。生産がプラスに転じたのは、輸出が昨年8月を底に4ヵ月連続して前月を上回っているからだ。このまま輸出が伸びていけば、生産はさらに上向き、製造業の収益も拡大することになるだろう。ただ、1月上旬の輸出は前年比-6.9%と09年11月以来のマイナスになり、輸出の伸びが持続するかどうか不透明である。企業収益と株式は、輸出の伸びが持続するかどうかに依存しているので、輸出動向から目を離すことができない。

12月の生産に寄与したのは情報通信、電子部品・デバイス、輸送機械などだが、生産は伸びたものの、在庫も増加しており、生産調整も考えられる。薄型テレビの影響で昨年11月まで7ヵ月連続のプラスだった情報通信の出荷は12月、前月比6.6%減少する半面、在庫は14.0%増加した。電子部品・デバイスは出荷も2ヵ月連続のプラスだが、在庫は5ヵ月連続増となり、過剰生産が続いている。輸送機械の在庫は2ヵ月連続増だが、在庫率は4ヵ月連続のプラスとなり、意図せざる在庫増の局面にあるのではないか。財別では耐久消費財と生産財の生産が伸びたが、在庫はいずれも増加し、特に、耐久消費財の動向には注意を要する。

1月の鉱工業生産は前月比5.7%の大幅増、2月は1.2%の低下が予想されている。1月は一般機械や輸送が大幅に拡大する見通しになっているが、はたして予想通りに伸びるだろうか。国内新車販売台数は1月、前年比21.5%減と引き続き大幅なマイナスになっており、この傾向は8月頃まで続くだろう。一般機械は半導体製造装置のウエイトが高く、これによって大きく変動する。12月の半導体製造装置の生産は前月比7.7%減少し、一般機械も1.0%減少したが、1月は拡大するのだろう。前年比で半導体製造装置は99.4%も増加したため、一般機械の生産は32.8%伸びた。鉱工業生産指数は前年比4.6%増加したが、一般機械だけで4.3%引き上げており、半導体製造装置の鉱工業生産への影響は極めて大きい。半導体製造装置と鉱工業生産の前年比伸び率はほぼパラレルであり、鉱工業生産が変化率の大きい半導体製造装置に追随している。

『家計調査』によると、昨年12月の1世帯当たりの消費支出(2人以上の世帯)は前年比3.2%減と4ヵ月連続のマイナスとなり、しかも減少率は09年7月以来、1年5ヵ月ぶりの大幅減となった。エコポイントによって引き上げられていた耐久消費財が落ち込んだことが主な要因だが、それだけとは言い切れない。ウエイトの大きいサービスが9ヵ月、食品は11ヵ月それぞれ連続減となっており、家計の支出抑制の姿勢は強い。

勤労者世帯に限れば、消費支出は昨年11月まで5ヵ月連続の前年比プラスであったが、12月は2.7%減少した。09年、08年の12月も前年割れのため、12月は3年連続減となり、07年12月比7.9%も減少している。消費減の最大の要因は可処分所得の減少である。09年12月は6.4%もの大幅減となったが、昨年12月も1.3%減少し、2年連続のマイナスとなり、12月としては過去10年で最低となった。企業業績は回復しているが、先行き不透明などと理由をつけ、雇用者報酬を上げようとはしない。企業みずから消費を冷やす根源を作り出しており、これでは消費拡大は望むべくもない。

報酬を下げれば企業は雇用を増やすわけでもない。雇用者報酬が減少すれば、消費は控えられ、企業が生産した商品は売れなくなる。雇用者報酬減少分よりも消費減少分が大きいことがますます経済を悪化させる。悪化を食い止めているのが財政赤字と超過輸出であり、支払った税金をはるかに超える額を政府は支出・購入し、海外への支払を受取が上回ることで経済の落ち込み防いでいる状況である。

昨年12月の失業率は4.9%と前月よりも0.2ポイント低下したが、就職を諦め失業者の分類に入らない非労働力人口が増加していることも、失業率の低下につながっている。逆に言えば、労働力人口比率(労働力人口を15歳以上の人口で割った数値、ただし労働力人口は就業者に失業者を加えたもの)は低下し続けており、昨年12月は前年比0.1ポイント低下の59.1%である。2010年は59.6%と3年連続の低下で、10年前と比べれば2.8ポイントも低下してしまった。昨年の就業者数は6,256万人と3年連続の減少となり、10年前に比べれば190万人も減少してしまった。

昨年12月の非農林雇用者数は前年比9万人増と6ヵ月連続のプラスだが、9、10月に比べれば、増加の勢いは衰えてきた。男女別では男の14万人減に対して、女は23万人増加しており、しかも男は減少し続けているが、女は6ヵ月連続で増加している。

米国の失業率は1月、9.0%と前月比0.4ポイントの大幅な低下だ。米国は10代の失業率が25.7%と依然高いため、25歳以上に限れば7.6%に低下する。さらに学歴別では大卒以上は4.2%だが、高卒は9.4%、高校を卒業していない層は14.2%と跳ね上がり、米国は学歴が物を言う社会であることが見て取れる。

失業期間が27週以上の長期失業者は1月、前月比3.6%減少し、雇用環境は徐々に改善しつつある。ただ、失業率の改善は、日本と同じように、非労働力人口に分類される人の増加が寄与しており、手放しで喜べる状況ではない。非労働力人口は前月比0.4%、前年比では2.4%も上昇しており、労働力人口比率は64.2%、前年比0.6ポイント低下した。

日本の昨年12月と比較すると、労働力人口比率は日本が米国よりも5.1ポイント低い。米国並みに労働力人口比率が上昇すれば、現状よりも労働力人口は568万人増加することになる。日本は人口が減少しているので、労働力人口比率を米国以上に引き上げる必要がある。

失業率は改善したが、非農業部門雇用者数は前月比3.6万人増と前月の増加数(12.1万人)を下回った。製造業は4.9万人増と3ヵ月連続のプラスとなったが、サービス部門が3.2万人の増加にとどまったため、民間部門も5.0万人と前月より大幅に増加数は減少した。建設部門は依然減少しており、1月は545.5万人と1996年4月以来、約15年ぶりの低い水準となり、ピーク(2006年4月)からは227万人も減少してしまった。因みに、日本の建設業の就業者数は12月、507万人と減少しているが、名目GDPが米国の約4割の規模にしてはまだ多いように思う。

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曽我 純 :

NYダウは9週ぶりに下げた。エジプト情勢の緊迫が株式に影響を与えたと言われているが、独裁体制崩壊へと進んでいるのであれば、市場としては歓迎すべきことではないか。混乱に伴いオイルなどが高騰するかもしれないが、長続きはしない。NYダウの下落は相場が過熱していたからだ。過去2年弱で8割も上昇した強気相場が、最終段階に差し掛かっていることを示唆しているように思える。

これまで株高を支えてきたのは、FRBの実体経済にそぐわない金融緩和政策である。昨年10-12月期の名目GDPは前年比4.2%増と5四半期連続のプラスである。これだけプラス成長していながら、ゼロ金利を継続していれば、ゼロ金利の弊害が生じることは間違いない。

マネーを供給すれば、自動的に経済は拡大し、良くなるというマネタリズムの信奉者が金融政策の中枢を占め、実践している。だが、マネーは金融セクターの内部を循環するだけで、非金融部門にはなかなか出て行かない。金融部門というマネーを動かすところにだけとどまり、その金が世界中の株式、債券、商品、為替などの市場で貪欲な利鞘稼ぎに使われている。

FRBや日銀の金融緩和が、再び、金融市場でバブルを作り出している。中央銀行は物価の番人といわれているが、今はデフレの時代であり、物価の問題ではなく、金融市場のそれぞれの商品の高騰に目を向けなければならない。過去の株式や不動産バブルはいずれも、超金融緩和、緩和の長期化、緩和しなくてもよい時に緩和したことがバブル発生に結びついており、中央銀行の金融政策がバブルの主な原因になっている。中央銀行は一般物価よりも金融商品の番人の役割を果たす必要性がますます高まっている。
株高などにより、米消費者マインドは改善しているが、住宅価格は下落している。昨年11月のS&Pケース・シラー住宅価格指数(10都市)は前月比0.4%低下し、これで5ヵ月連続のマイナスである。昨年12月の新築住宅販売戸数は前月比17.5%増の32.9万戸に改善したが、前年比では依然マイナスであり、新設住宅着工件数などを勘案してみると、米不動産市場は引き続き底を這っている状態といえる。

昨年10-12月期の米GDPによると、住宅(名目)は前月比1.4%と2四半期ぶりのプラスになったが、ピーク(06年1-3月期)の約4割の水準にとどまり、住宅・GDP比率は前期と同じ2.2%と過去最低の水準にあり、住宅部門の回復は取り残されたままである。

名目GDPは前期比0.8%増と6四半期連続のプラスになったが、不動産バブル崩壊による景気後退以前(08年第3四半期)からは2.7%伸びているだけだ。前年比伸び率は4.2%と前期よりも0.3ポイント低下し、伸び率は今後低下するだろう。実質でも前期比0.8%増加したが、不況以前のピーク(07年第4四半期)を0.1%上回っているにすぎない。回復力が弱いのは主力の個人消費支出の伸びが低いことに加えて、設備投資と住宅が不況前の水準を大幅に下回っているからだ。他方、貿易赤字の減少と政府支出の拡大が成長を支えているが、2010年10-12月期の政府支出は前期比0.2%減少した。財政が悪化している州・地方が支出削減を余儀なくされ、連邦政府も軍事支出の頭打ちにより前期をわずかに下回った。GDPに占める政府支出の比率は10-12月期、19.3%と前期比0.2ポイント低下し、不況を乗り切るために政府支出を拡大した09年7-9月期に比べれば0.6ポイントの低下である。

名目のGDP・政府支出比率は1990年代後半、急速に低下したが、2000年頃を底に、再び上昇、現在約20%の水準にある。この比率の下降・上昇の変化は非軍事と軍事支出にわけてみると、軍事支出の動向がこうした変化を引き起こしていることがわかる。1969年以降の約40年間のGDPに占めるそれぞれの比率は、非軍事支出の13.0%~15.5%に対して、軍事支出は3.8%~9.0%と変化が大きく、政府支出・名目GDP比率の変化は軍事支出の動向により変化していることがわかる。市場万能主義や小さな政府を標榜しているけれども、米国の非軍事・GDP比率は住宅バブルで沸いていたときも上昇しており、市場主義とは異なる政策を実施していたのである。

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2010年までの10年間の米実質GDP成長率は年率1.7%となり、1930年代以降の8回のなかで最低となった。これまでの最低は1930年代の2.7%だったが、これを1ポイントも下回ってしまった。実質成長率は60年代の年率4%台から70年代には3%台に低下し、80年代、90年代は引き続き3%台を維持していたが、00年代、実質成長率は一気に1%台に落ち込んでしまった。こうしてみれば、日本ほど顕著ではないが、米国の経済成長率も1940年代の5.6%をピークにはっきりと鈍化していることがわかる。情報革命が成長を高くするなどといわれているが、そのような姿はGDP統計からは読み取ることができない。

00年代のダウは年率0.7%(値上りだけで配当は無視)となり、90年代の15.1%から急低下した。1910年以降では1910年台のマイナス1.2%に次ぐ下から3番目に悪い数値である。最悪のパフォーマンスは大恐慌に陥った30年代のマイナス2.2%であり、GDP物価指数(マイナス1.6%)以上に落ち込んだ。

2010年までの過去80年間の成長率はダウが年率5.5%と名目GDPの6.6%を下回っている。GDP物価指数は3%なので、実質的には年率2.5%の値上がり益が確保された。米国でさえも実質的な値上り率はこのように低く、長期投資といえども高い利益を出すことの難しさを心に銘記すべきである。

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 曽我 純 :

日経平均株価は2日連続の値下がりとなり、昨年末以来の低い水準に後戻りした。いつものことだが、下げるときのスピードは速い。11営業日を要した上げがたった2営業日の下げで吹き飛ぶのだから。こうした変化をうまく捉えて、利益を出すことは至難の業だ。たいていはやられてしまうのが落ちである。相場の加熱状態が続いていたので、いつ下げても不思議ではないと思いながらも、ついつい油断して決断を遅らせていたら、あっと言う間にロスが発生してしまう。

株式売買で稼ぐことがこれほど大変であるのに、多くの個人が為替取引にのめり込んでいる事態は異常である。まさに博打そのものである。金利がゼロなのですこしでも稼ぎたいとの思いは分からないでもないが、これまでの歴史を顧みるまでもなく、博打に関わる悲惨な結末の事例は枚挙に遑がない。

毎月分配金型の投資信託も元本を減らしているのが多数ある。日本の国債利回りが1.2%の状態で、これを大幅に上回る運用などを期待してはならない。目先の利益を追求するあまり、元本が損なわれるのでは元も子もない。国債利回り以上を謳った高収益商品は高リスクの危険な商品に間違いない。どこかにからくりを仕組んでおり、詐欺的商品である。それほど良い商品であり、高利回りを得られるのであれば、銀行、証券会社等は自分で購入すればよいではないか。それで十分に収益を確保すればよい。あるいは相場に自信があるのであれば、自己売買で十分な利益をだすことができるだろう。これができないのは、高収益商品は存在せず、相場を正しく読むこともできないからだ。因みに、株式相場が下降しているときの証券会社の業績は軒並み悪い。このことは、証券会社が株式相場を的確に捉えていないことの証左である。

株式や為替の変動を予測することができず、どのように動くかだれもわからないのである。分かれば短期間で巨額の富を手に入れることができる。そのような証券会社など出現したためしがない。株価や為替相場を当てることは所詮無理なのだ。無駄なことをしているといってもよい。もともとできないことを、あたかもできるかのように吹聴し、そこにマンパワーを注ぐ。個人投資家をパソコンに釘付けにし、取り引きに熱中させる。それで手数料や運用管理費等を稼ぐ。損が発生してもそれは自己責任だと、取り合わない。製造業ではあってはならないことが、金融業では罷り通るのである。

アメリカ人は予測好きな国民であり、それがウォール街という博打場を育ててきたのである。国民性の所産といってもよいだろう。米金融機関の急速な拡大に伴って、米国流の金融システムが日本やヨーロッパに伝播していった。

しかし、金融部門自体はなんら付加価値を生産せず、非金融部門に寄生しているため、金融部門の拡大は社会にとって決して好ましいことではない。株式や為替の取り引きをしても付加価値は発生しない。単に名義が変わるだけで、手数料というコストが発生するだけなのだ。金融機関は手数料等を稼ぐためになるべく頻繁に取り引きするように仕向ける。だから、取り引き回数を極力減らすことは非金融部門のコストを低下させ、金融機関の収益を減らすことになる。付加価値がでてこない取り引きをいくら繰り返しても経済に活力は生まれてこない。また、金融部門の経済に占める割合が高くなれば、それだけ、経済に及ぼす影響も大きくなり、不安定化要因になる。

日本の80年代のように金融機関が巨額の株式を保有し、不動産貸出を急拡大させたように、預金を投機資産に投入し、金融部門は肥大化した。米国の金融機関は返済が不確かな住宅ローンへの驀進や焦げ付く可能性の高い住宅ローンなどを組み込んだ証券への投資でバランスシートが著しく拡大した。両国ともに「大きすぎて潰せない」の一言で、損失は非金融部門に押し付け、金融機関は存続している。荒療治でないので、金融機関の体調はいつまでもすぐれず、非金融部門からの補給をうけなければならない。非金融部門の犠牲の上に金融部門は成り立っているのである。

Bank of America、JP Morgan Chase、 Citigroupの総資産は昨年末、それぞれ2兆ドル前後と引き続き巨額であり、これらの金融機関が危機に陥ると、米国経済は只では済まないことになる。金融規制を推進していた経済再生諮問会議のボルカー氏の後任に、オバマ大統領はGEのCEOであるジェフ・イメルト氏を起用したので、昨年7月に成立した金融規制改革法が金融機関寄りに修正される恐れが出てきた。

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昨年の東証1部の売買代金は1.44兆円(1日当たり)と前年より4.6%減少し、これで3年連続減だ。だが、減少したとはいえ、21年前の株式バブルのピークを10.6%上回っている。1992年には売買代金は2,000億円台に落ち込み、その後、長い低迷が続いていたが、日銀のゼロ金利、手数料自由化、インターネット取引等により売買代金は急増し、07年には3兆円を突破した。まさにバブルの再来である。

売買代金を名目GDPで割った数値は07年、1.42倍となり、3年連続で過去最高を更新した。昨年は0.72倍と3年連続で低下したが、それでも89年を0.07ポイント下回っているだけである。昨年の売買回転率(東証1部、2部、マザーズ、株数)は133.2%と07年のピークに比べれば25.6ポイント低下したが、株式バブル期の88年(98.1%)を大きく上回っており、日本の株式流通市場が異常な状態にあることに変わりはない。

流通市場は活況を呈しているが、資金調達を担う発行市場の規模は昨年、4兆円に満たなかった。企業は十分な資金を保有しており、株式市場で調達する必要がないからだ。株式市場といっても、その本来の機能をほとんど果たすことなく、短期的な鞘を求めた遊戯場と体たらくしているのが実情なのである。

04年以降の異常な株式売買にもかかわらず、日本経済は浮上するどころか、縮小の道をはっきり進んでいる。株式市場の活況は経済の拡大に結びつかないばかりか、徒に経済を撹乱し、実体経済の妨げになっている。金融取引はコスト高になるだけで、経済に利益をもたらさないからだ。株式取引に課税し、譲渡益課税は早く元に戻すなどこれまでの政策を180度変える必要がある。このまま株式市場を放置し続けることになれば、日本経済の遊戯場化はさらに進行するだろう。

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曽我 純 :

NYDOWは7週連続高となり、週末比では08年6月第3週以来の高い水準に上昇した。09年3月第1週の底値から78%も上昇し、米株式は住宅バブルで高騰した高値の領域に踏み出したといえる。DOWの株価収益率は約15倍と昨年の11月初めに比べると1ポイント上昇しており、利益よりも期待で値上りしていることがわかる。信用の行過ぎた緩和が株式をファンダメンタルズから離れさせようとしている。

鉱工業生産指数は昨年12月、前月比0.8%伸び、08年8月以来の生産水準を回復し、小売売上高も0.6%上昇するなど、実体経済が回復傾向にあることも、株価を後押ししている。しかも、12月の消費者物価指数のコアは前月比0.1%、前年比でも0.8%ときわめて安定しており、理想的な物価環境にある。

実体経済が好調に推移しているともいえる状況下において、FRBがマネーを金融機関にばら撒かざるを得ないのは、金融部門に依然大きな穴があいた状態にあるからだ。米商業銀行の商工業貸付は12月、前年比5.5%減と09年5月以降20ヵ月連続の前年割れだし、不動産貸付も4.5%減と15ヵ月連続のマイナスとなり回復の兆しはみえない。FRBは金融機関に湯水のように資金供給しているにもかかわらず、主要な貸出はプラスにならないのである。それは商業銀行の総貸付に占める不動産貸付の割合が12月、53.4%とピークからは低下したとはいえ長期の水準からみれば異常に高いことに関係している。金額でも3.61兆ドルとピークの09年5月(3.87兆ドル)から6.7%しか減少していない。このことは、商業銀行の不動産貸付が不良化しており、まだ多くの不良債権を抱えたままだということを示唆している。資金需要が乏しいところに、銀行が多額の焦げ付き債権を保有していることも、貸付が伸びない要因である。

国の管理下にあるファニーメイ、フレディマックがいつまで爆弾を抱え込んだままでいられるのだろうか。これら政府支援企業の資産は09年末の3.01兆ドルから2010年3月末には6.88兆ドルに急拡大、9月末でも6.65兆ドルと巨額である。資産の大半を占めるモーゲージ(9月末5.03兆ドル)は恐らくかなりの部分が不良化しているはずだ。

ファニーメイ、フレディマックは昨年7月、上場廃止(NYSE)となり、政府丸抱えになった。政府はなんとしても、不良モーゲージを封じ込め、長期戦略で少しずつ悪いところを処理していこうという方針のようだ。

政府支援企業は支援企業債を発行して資金調達しているが、その規模は9月末、6.44兆ドルである。支援企業モーゲージプール等を入れると企業支援債は総額7.59兆ドルとなる。支援債の保有者としては商業銀行(1.31兆ドル)、FRB(1.23兆ドル)、海外(1.2兆ドル)、投資信託(0.75兆ドル)といったところが大所だ。これだけの債務を抱えている支援企業が行き詰まると、そのショックは南欧などの比ではない。いま政府支援企業の問題は表立ってはいないが、地価の一段の下落などをきっかけにいつ爆発するとも限らない。

政府支援企業を支えるために、FRBはゼロ金利に加え6,000億ドルの買いオペを実施しているが、FRBの総資産の半分以上を支援企業債で占めていることは、いかにも異常だ。ベースマネーが増加するといっても、マネーは政府支援企業に行くだけである。そこから先に回るマネーは僅かなものだと思う。いうなればマネーをブラックボックスに注ぎ込んでいるようなものである。

経済指標の改善も一時的なものに終わるかもしれない。米国経済は不動産バブル崩壊の傷を深く負ったままの状態にあるからだ。政府支援企業を中心にした金融機関の不良債権が概ね処理されるまでは、米国経済の本格回復は期待できない。

米国経済が爆弾を抱えていることが、対ドルで円を強い水準に釘付けにしているようにも思える。米国同様、欧州も住宅バブル崩壊から立ち直るには程遠い状況にあり、そのことがユーロの上昇を阻んでいる。

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曽我 純:

OECD景気先行指数が夏以降頭打ちになり、世界経済の回復力が弱くなっているときに、商品市況が急騰することは、あきらかにバブルが発生していることを示している。先行指数そのものも高水準にあり、現状以上に伸びる可能性は低い。株価が反発する前の08年12月に原油や銅の市況は底を打ち、いままでほぼ右肩上がりできた。この間の値上り率は銅で3.3倍、原油は2.6倍に達している。09年3月を底に反発したNYDOWの75%を大幅に上回っており、投機資金が商品市場に雪崩れ込んでいることがわかる。

商品価格の上昇は原材料価格を引き上げ、企業収益に影響してくる。日米とも生産財価格が消費財価格の上昇率を上回っており、企業利益を圧迫している様子が窺える。さらに上昇すると、インフレに繋がることになり、金融当局は金融引き締めに踏み出さざるを得なくなる。そうなれば短期金利は急上昇し、資金コストが増加、設備投資マインドは冷やされ、景気は後退するだろう。

米国や日本はGDP成長率がプラスでありながら、ゼロ金利を続けていることが、商品相場を高騰に導いているのだ。自然災害ではなく人災なのである。実需が伴わないのに巨額の買いオペを実施し、金融機関に資金供給していることも、投機を助長している。ゼロ金利が長引き、商品相場がさらに高騰すれば、短期金利上昇懸念から長期金利もいままで以上に上昇することになる。そのような過程で、商品相場も腰折れとなり、一気に値が崩れることになるかもしれない。

商品市況の暴落は資産価値の激減となり、負債との齟齬が生じることになる。住宅価格崩落のような規模ではないが、それでも景気にある程度のインパクトはあるはずだし、景気の撹乱要因になることは間違いない。商品市況急落が株式市場へと波及する恐れもあり、そのような事態になれば景気に及ぼす影響はさらに大きくなる。

米国のように住宅市場がいまだ病んでいる状態では、商品投機の破綻は信用の問題を再燃させることになる。信用不安が出てくれば、資金の流通は途絶えがちになり、当然ものの動きも悪くなる。商品市況が暴落すれば、デフレにある日本経済はデフレが一段深刻になり、家計も企業も支出をさらに絞るだろう。

ゼロ金利の恩恵を最も受けているのは金融セクターである。金融危機を引き起こした張本人が気づいてみれば、最大の利益享受者になっているのだ。米国などは長短金利差が3%もあるので、金融機関の収益は大幅に拡大するはずだ。非金融セクターは被害者だが、ゼロ金利による直接的な便益はない。

日本のようにデフレではマネーは自動的に増価するので、家計も企業も現・預金等の流動資産を厚くすることでデフレに対処している。逆に、借金は重くなるので、極力減らす。借金を返済し、現・預金を増やすことがデフレ経済を乗り切る最良の方法なので、日本経済はこのような資金の動きが今年も続くことになる。


米非農業部門雇用者数は12月まで3ヵ月連続の前月比増だが、春頃のような増勢ではなく、回復は緩やかである。米鉱工業生産指数を四半期でみると、7-9月期の前期比1.5%から10月、11月の平均は0.1%の微増にとどまっており、09年7-9月期以降の回復過程で10-12月期の伸びは最低になりそうだ。10-12月期の全産業設備稼働率は75.0%と前期比1.1ポイント上昇したが、ハイテク産業は73.2%、0.7ポイント低下した。PMIの非製造業は春の数値を越えたけれども、製造業は依然したまわっており、景気が全体的に良くなっているわけではない。

『短観』(12月調査)によると、日本の大企業経常利益は今年度下期、前年比-1.0%の減益になる見通しだ。前回調査から下方修正されており、収益は企業の思い通りに進んでいない。機械セクターの利益は大幅増益を維持しているけれども、電気や輸送は2桁減益になりそうである。しかも前回の9月調査から大幅な下方修正となり、予想以上に業績は悪化している。
11月の鉱工業生産指数は前月比1.0%と6ヵ月ぶりのプラスになり、12月、1月は大幅に伸びると予測されている(新車販売が前年を約3割下回り、薄型テレビなどの家電の売上が激減していながら鉱工業生産が伸びるほど他の分野が強いとは考え難い)。12月が予測通りに伸びても、10-12月期の鉱工業生産は前期比1.5%減少する。製造業の総実労働時間も10月、11月では7-9月期比1.0%減、全産業でも0.8%減少している。10-12月期の業績は製造業だけでなく、全産業で減益になるかもしれない。浮かれている株式は収益を直視せざるを得なくなる。

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