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お金もいろいろ

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 地域通貨もお金にちがいありません。しかし、お金とはいえない面もあります。それはお金をどう考えるかによります。ここではそ れに深入りしません。ただ、お金の種類や歴史について簡単に知っておくと、これを考えるよすがとなります。

 ふつう使っている円やドルは何によっても担保されていません。かつて米国のニクソン大統領が金とドルとの交換性を停止したと きから、通貨は無担保の状態にあります。ひとが信頼するから使っているわけです。ひとを有頂天にもさせ、また悲嘆のどん底にも投げ入れるお金、日本 でいえば円ですが、それは考えてみれば、日本銀行の借金の証文です。しかし千円札を持っているひとが、日銀に出かけていって千円の借用書を返す から千円分の何かを寄こせとはいいません。誰もがそれを支払いの手段として使っています。それはみなが使っているからお金として使われているだけです 。しかし、それには、お上がモノやサービスの引き替えに日銀券を受領しなければならないと強制しているから、みながそれを受け入れているという面もあり ます。そうであればこそ、また、ひとはそれに信を置いて使うことにもなります。

 こうした権威や権力が使用することを強制していて、具体的な価値物をなにも参照しない通貨をフィアット・マネー( fiat money)と呼んでいます。地域通貨の場合も、たとえば、イ サカアワーはお上が強制するものではありませんが、その地域の労働時間を表しているといっても、何かのモノで担保されているわけではありませんからフィ アット・マネーに分類できるともいえます。

 お金には、この他に、財担保通貨と呼ばれるものがあります。財やサービスで裏打ちされていて、必要とあらばそれらと引き替え ることができる通貨です。地域通貨が70年代の米国で、こうした方式で実験されたこともあります。誰でもが必要とする生活必需品をいくつか選んでバ スケットにし(これは担保物の価格の変動をなるたけ回避するためです)、それで担保した通貨を発行する方式です。その通貨は交換手段として使われ ると同時に、担保物と引き替えることもできたのでした。

 この二つとも紙券を発行します。ですから、この国のように法律でお金を印刷できるのは国だけだ、ということになりますと、地域 通貨として住民が独自な紙幣を出そうとしても無理なわけです。世界には、フィアット・マネーの形でも、財担保通貨の形でも、地域通貨が試みられたり してきましたし、現在、いくつも存在するのに、残念なことです。

 しかし、お金にはもうひとつ種類があるのです。相互信用貨幣とでも呼びうるシステムがあるのです。システムといったのは実際 のお札を刷らないからです。いわばシステムにぴったり貼り付いているようなお金、つまりシステムを欠いてはお金も存在しない、そうしたお金です。それはど んなものでしょうか。

 そこでまず、お金の歴史をみてみます。

バーターからバーターへ

 お金がなかった時代があります。ひとはすぐ物々交換のことを考えるでしょう。しかし考えてみれば、これはかなり困難なことです 。

 まず個々人は自分の欲しいモノがなにか考えます。そして、代わりに与えるモノを自分がもっているかも検討する必要があります 。そこで、自分が欲しているモノをもっているひとを探しだします。運良くそうしたひとがいたとします。自分の持っているモノと引き替えに欲しいモノを引き渡 してくれるか交渉することになります。しかし事はすんなり運びません。相手が自分の余っているものを欲しいと考えるかどうかは相手次第だからです。

 交渉が成立しなければ、また別の人間を探すことになります。運良く交渉できる相手がいて、交渉条件をつめることになったと しましょう。でもまだハードルがあります。まず、自分と相手の双方の引き渡し条件を決める必要があります。そして、こうした条件を相手が十分に履行す る人間かどうかを調べなければなりません。もし、相手が信用するに値しない場合、あるいは信じるにつき、かなりのリスクが伴うときは、交渉はご破算です 。また最初からやり直しです。

 このように考えると、取引実現には多大の取引コストや情報コストがかかり、加えて販売と購買を同時に実現しなければならな いのが、物々交換の難しさであり、難点であることがわかります。

 ところが、お金の導入は、この難点をかなり解決しました。そのひとが信用できるかどうか(実質的信用)をお金の信用に代えた (そのひとがどんなひとであろうが、そのひとのもつお金は信用できる)わけです。総理大臣がもつ千円札も野宿者がもつ千円札も、千円は千円、信用カ ネ止まり、となるからです。それにお金があると、売りと買いを分離することができて、違う時に違う場所で売りや買いを実行できるようにもなりました。

そうして、お金は商品貨幣→貴金属貨幣→紙幣→信用貨幣(帳簿貨幣)→電子貨幣と長い旅路をたどってきました(図参 照)。

<バーターからバーターに回帰する貨幣の歴史>

無貨幣経済 →  商品貨幣   →   信用貨幣

直接的ないし  標準的交換       素材的価値がなく

間接的交換 −→手段として   ┌−→ 商品準備を欠いた

  ↓     の一定の財   ↑     貨幣

多極間清算     ↓     |      ↓

システム(    適当な    |    帳簿貨幣

穀物振替制、   金属     |      ↓

神殿交換など)   ↓     |    電子貨幣

  ↑      100%   |      |

  |      金準備の   |      |

  |      表象貨幣   |      |

  |     (金属貨幣、  |      |

  |      銀行貨幣)−−┘      |

  └−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−┘

しかし、ひとは利便をお金によってえた反面、お金に過大な力を与えてお金という道具を主人とするようになってしまったのです。そ れがお金が導入されて以来の世相というものです。

 しかし人間は物々交換が行われていたころ、その諸困難を前に交換をあきらめていたわけではありません。たった二人の間での 物々交換ではなく、多くの人間の間で、つまり多角間でバーターを実現していたことが知られています。

 よく知られているのは神殿交換です。ひとは余剰物を神殿にもっていきます。そしてそこにある自分が必要とするものをもって帰 ります。神殿で行われることで、神様が見ているわけですから、不正をせずに交換が行われるわけです。

 こうした多角間の清算システムは貨幣の登場で姿を消しました。しかし、そうした多角間清算システムがいま、バータークラブと いう形で甦っています。地域通貨のなかで甦ったのが最初ではありません。実は、情報ネットワークの発展のなかで、多国籍企業のような大企業が自社 の専用通信回線やそれをリンクさせた回線を活用して取引をバーター決済し始めたのです。80年代に入って、30年代の各地の補完通貨(地域通貨) の実践に大きな影響を与えたシルビオ・ゲゼルの理論の支持者が作るINWO(自然的経済秩序のための国際協会)がスイスで、同じ様な原理で、それも市民のイニシアティブで、市民自身のために、それを始めようと しました。それはターレントという計算単位のお金を使い、取引の多角間清算を行うバータークラブを作るものでした。これは現在でもスイスをはじめとして 取り組みが続けられています。

 この仕組みは、交換リングと呼ばれて欧州各地に広がりました。社会関係が深まったいまの社会で、情報システムの発展によ って物々交換の難点を解決し、お金への従属を回避するシステムが可能になったのです。物々交換が持っていた取引コストや情報コストの高さを克服 し、道具として役立つお金で精算されるバーターのシステムの可能性がでてきたのです。

 これにはいくつもの利点があります。

 1、お互いの信頼の輪ができることで、ひとの実質的な信用が確立します。つまり、輪の仲間になることで、お互いに興信所を 頼まなくても信頼しあえるわけです。これは取引コストの削減効果もあり、取引者双方にメリットとなります。

 2、これまでのお金のような、取引用途で資金を借り入れると利子という料金を支払う必要がないので、これまた取引コストや 資本コストが減ることになります。

 3 1,2の削減分は信頼の輪の維持に必要なコストがかかるにしても、それを補ってあまりあります。

交換の輪(リング)

 交換リングの本質はきわめてシンプルです。ギブとテイクをポイント制で処理する信頼の輪をつくる、というものです。要するに、 相互に信用を与え合い、それをリングの人間たちが個性的な呼び名を付けた通貨(ポイント)で清算するわけです。いわば貸し借りの関係ですが、貸し( プラスポイント)、借り(マイナスポイント)を会員の誰との取引で清算してもかまいません。その意味で、間接的相互性と表現されることもあります。

 この通貨には、利子はつきません。ゼロ利子のお金が利用できるわけです。ですから取引には購入から入ることもできます。その 場合は、彼や彼女の口座にマイナスポイントが立ちます。しかしこのマイナスは時間が経過しても増えません。いつか自分が提供できるモノを需要してくれ るリングのメンバーと別の取引をして、販売者に回れば、清算されていきます。そこでは、ひとは生産者であると同時に消費者です。

 現代社会はテクノロジーの発展もあって、先進国では、ひとの欲望をかきたて満たそうとするモノやサービスがあふれています。な にもかにも満ち足りているように見えます。でも一つだけ不足しているものがあります。お金です。たとえお金が余っていても使い切るほどに購買を決心させ るほど、世の中、幸せにはできていません。そうした本位通貨の経済を片目でみて、もうひとつのオプションが可能となるのです。交換リングの会員になると 、たとえ失業して収入がなくても、取引ができます。失業者は働く能力はあるのです。その能力は輪のなかで需要されることもあるからです。

 人間どこかに取り柄がありますし、それを欲しがってくれるひともかならず出てくるものです。でも本位貨幣の経済は利息のつくお 金の仕組みで動いています。ひとはみな急かされています。ところが交換リングは、マイナスポイントがたっていても、それをゆっくり待つ仕組みとなっていま す。こうしたお互いに信用を与え合うタイプの地域通貨では、貸し借りが、ゼロ利子のゆえに時間がたっても増えませんし、他者のために自分がなにができ るのか、自分を見つめていく余裕を与えあっていくシステムとなっています。

 このリングのなかでは、お金の秘密が誰にでもみえるようになります。つまり、取引が行われるとき、供給者の口座にプラス、需 要者の口座にマイナスが立ちます。そのとき実は、取引額に対応したお金が生まれているのです(胎化する)。そして取引で、プラスとマイナスの相殺が行 われるときはお金は取引を媒介する交換手段としての役目を果たして死ね(不胎化する)のです。ふつうの本位貨幣の世界ではこれをしているのは中央 銀行です。それがリングの会員間の取引で可能になってしまうのです。つまり自分たちで必要なお金、あるいは取引手段を生み出すことができるわけです 。本位通貨建ての世界では、お金の供給は金融システムが握っています。世の中で必要とされるお金の出てくる蛇口を緩めたり締めたりする力はふつう の人間には与えられていません。蛇口を緩め具合を決めているのはお金の調達費用、別なふうにいえばお金の利用料金である利子です。それはいつも 高低があるにしても、必ずプラスです。その料金は資金を調達した生産者の販売するあらゆる商品のなかに入り込み消費者が負担させられていきます。

WIR、陰経済がもたらす耐性

 人間の身体は交換神経と副交換神経が支配しているといいます。物事には陰陽があるともいいます。そのような原理を比喩 的に使うとすれば、経済にも陽経済(Yang economy)と陰経 済(Yin Economy)があることになります。私たちが通常生活し ている経済はお金の量が限られていて、利息の付く円の世界です。これはいわば陽経済といえるでしょう。そこでは、ひとは経済の果実を巡って激烈な競 争にしのぎを削っています。でもそれだけでは物事のバランスがとれませんし、陰経済が必要となります。それは競争でなく連帯の世界です。そうした世界 にはそれにふさわしいお金のシステムが必要でしょう。交換リングの仕組みはそれに最適です。このシステムは景気変動が付き物の陽経済の否定的な影 響から、事業者や消費者、さらには地域の経済を守ることができるからです。

 その好例がスイスにあります。交換リングのいちばん古く、最も成功し、発展した事例であるWIR(ヴィア)銀行です。スイスは大銀行が集中する国際金融の中心地でもあり ます。しかし、産業の8割が中小企業という産業構造がもうひとつの顔です。その中小企業の2割弱が会員となっている交換リングがWIRです。欧州はEU統合の流れのなかで、激しい競争が展開されてきました。しかしスイスの中小企業は強靱な体力を維持しています。 その秘密は、陰経済も持ち合わせているからでしょう。WIRの 会員企業はスイスフラン建ての取引とあわせ、ヴィア建ての取引も可能です。複数通貨建てで取引が可能なのです。WIRから会員がWIR建てで融資を受けるときは僅かなプラスの金利がつきますが、WIR建てで会員企業が取引している部分は資金の導入コストがかかりません。そ れに加えて、会員の大きな輪は相互に安定した販路を提供することになっているからです。

 1934年に協同組合として設立されたWIRは、1936年にスイスの銀行法のもとでWIR銀 行となりましたが、今日、8万口座を超えるきわめて巨大な組織に発展し、スイスの中小企業に不可欠の存在となっています。このことが示しているのは 、国民が、国民通貨、つまりスイスフラン建ての経済関係以外に、WIR建ての経済関係をもつことで、人々が自律的に、自ら自身で連帯した社会的・経済的な安全ネットを作り上げていることでもあります。

 本位貨幣経済(フラン建て経済)は、経済力のある者に有利に仕組まれています。しかし、資本家経済が強要する資本導 入における高コストや景気循環による犠牲などに対して、WIR 建て経済が支えとなることで、強靱な耐性を会員企業は獲得しているのです。

 WIRはその歴史的経緯のなかで、 いくつもの困難に直面してきましたが、現実的な姿勢でこれらを克服してきました。その基本、多極間の清算システムの理念、相互性の理念が放棄さ れたことはありません。危機に遭遇するたびに、相互的な連帯の理念が再確認され、人々が自分自身で、資本家経済における金融システムと同様の 、信用創造機能まで掌中にするシステムをもち、経済連帯の利益を実現してきました。

 WIRも交換リングですから、会員は 借入から取引に入ることができます。そのことで、貨幣システムの実体経済への支配力に対抗する力を与えられます。現在、融資に、低いとはいえプラス の利子がつく点など問題点もありますが、交換リングの試みが、長い歴史の中で、各種の経済環境の変化に対応して成果を上げている事例として、注 目されるべき事例のひとつとなっています。もし我が国

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