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偽金一味の寓話(モーリス・アレ、『資本課税と貨幣改革』より)

:: Morino,Eiichi

 もっとお金があればいいと思うでしょ。

 そこで、君たちが偽金作りの一味だとしよう。この偽金は精巧で絶対に見破られないんだ、ぐふふ・・・。

 君たちは毎月10億円作る。さあ、これをどうするかだ。

 まー 二つやり方があるんだけど、一つはこれをとにかく使って、欲しかった商品やサービスをどんどこ購入して、カネがあったらこーしたかったという夢を叶える。10億円使うのはきっと大変だろーねー。

 もう一つは、誰かに貸し付ける方法があるね。

 まず、とにかく使っちゃうとすると、これは世の中全体からみてどーいうことなんだろう。お金はモノやサービスを買える力、購買力なんだけど、だからこれと引き替えに欲しいものが手に入るわけだけど、君たちは10億分作っちゃったわけだ。購買力は消費者全体がもってるけど、それが全部で1000億だったとすると、これに10億がプラスされたわけだ。

 世の中には1010億の購買力があることになった。ところが世の中にある商品やサービスの量は変わらない。すると、この10億増えた分だけ、商品からみたお金の値打ちは下がる、逆にいうと商品の値段が高くなるわけよ。モノの値段が上がるとじゃあ、儲かりそうだから俺もひとつ作るか、というひともでてくるけど、それで新たな商品が市場に出てくるにはかなり時間がかかる。それまではモノが高くなりカネの値打ちが減る。購買力をもってる消費者全体がこの値打ちが減った分、つまり10億分だね、それをかぶることになるんだ。

 だから君たち、偽金作りがだよ、10億作ると、消費者全体が10億横領されちゃうわけだ。

 そこで、ちょっと考えてみてよ、これって、中央銀行が新しく10億のちゃんとした札を刷って世の中に出したときとどこが違うんだい。中央銀行は偽金作りじゃないよね、でも10億紙幣を増刷したとするでしょ、世の中では同じことが起こるんだ。お上の歳出っていうのはいつも増え続けている、これを賄わなくちゃならないし、中央銀行に札を刷らせて、これを借りる格好で、国の支出を賄ってる。でも、新しい札を刷ると、その分だけ消費者全体の購買力を取り上げることになるんだ。これは先取りというもんだね、なぜって、消費者全体は自分のもってる購買力を使う段になって商品の値段が上がっていることに気づくわけだし、モノを作ったり、販売したりしている奴らが値を上げていると思っちゃう。でも実は、その前に、お札を作ったところが、購買が起こる前に、新たに刷った分だけ取り去っているわけ。よっぽど価格騰貴、つまりインフレが進まないと国民世論はこのことに気づかないっていうわけ。

 これは一種の税金だよね、それも、モノを売ったり買ったりする前に、それと気づかれずに徴収できるんだからうまい方法だ。

 ケインズはこれをインフレ税というふうに呼んで、どんな政府もこうしたやり方への誘惑を捨てきれないものだといってる。

 つまり、世の中にあるお金の量(プロは実質貨幣残高とかいうんだよ)に新しくお金を追加して薄めちゃうわけね、薄められるほーが気づかないうちに。アメリカンコーヒーになるってわけ。

 でもこれはシンプルだよね、すぐタネがわかっちゃう。

 ところで、もう一つやり方があったね。

 君たち、偽金を作っても、使うのは大変だっただろー。10億も作ったんだから、1億使っても。まだ9億、まるで所ジョージ的状況だったわけだ。

 そこで、もうひとつのやり方を考えてみよう。

 さっきは君たちは偽造した10億で、市場のいろんな商品やサービスを購入した。今度はこの金額を、個人や企業に貸し付けるんだ。もちろん平均的な利息はとるよ、貸付期間は短期でも、中期でも、長期でもいい。君たち一味が受け取る利息はメンバー全員に配分される、喧嘩しないようにさ。それで君たちは受け取った利息で自分たちの好みの商品などを購入するってわけだ。

 そこで、10億を1か月間、貸し付けたとしよう。借り手は10億、受け取るわけだ。彼はこれをすぐ使う。この間、話したみたいに、それは国民全員が生産した分から10億先取りしてることになる。10億の使い手からみれば先取りなんだ。経済全体からみると10億の購買力が突然、どこからか降ってきたことになる。君たちがこの間したことを今度は、借り手がしているっていうこと。だけど、違いは1か月後には、借り手の彼は君たちに借りた10億を返さなくちゃならない。これは経済全体から10億の購買力が突然、消えてなくなることでもあるね。借り手は、おまけにこの借入に対応した利息も一緒に返さなきゃならない。借り手は10億は借りた分だから返す、その分は使ってるんだから借りる前の状態に戻っただけ。だけど利息分は負担しなくちゃならないわけだ。君たちのふところにはこれが転がり込むんだ。この利息は平均的な利率で貸したんだから、銀行が利益が上がるような率のものだ、それが君たちのものになった。これって、やはり国民全員が作ったもの、つまり国民生産だけど、それに対する先取りだよね。この時点で利息分が先取りされてるわけ。

 君たちの手元には、いま返してもらった10億があるね。君たちはこれを別の誰かにまた貸そうと考える。今度の借り手もこれをすぐ使って、国民生産からの10億分の先取りを実行する。経済全体にはやはり10億の購買力が生まれる。返済のときはさっきと同じ。君たちの手元に10億もどったときに、国民生産に対する先取りは利子分で、君たちが先取りしてるんだ。君たちはこのプロセスを繰り返すことができる。それも、いつまででも繰り返せるんだ。

 繰り返すほどに君たちの取り分は増える。取り分の利息分まで貸し付ければ、さらに取り分は増える。偽金を作るには苦労がいるだろ。でも初めに10億作っちゃえば、こうしたやり方を無限にくりかえしていけばいいんだ、君たちは初めに作った10億を超える金額を手にすることになるよ。ひとさまが作り上げた価値へのピンハネを永遠に続けられる、それも、繰り返すほどに額も増えるって寸法さ。こたえられないね。

 だけど、これも理屈はシンプルだ。実はまだやり方があるんだよ、第三の方法が。しかしそのためには、君たち以外に、ある詐欺師に登場してもらわないといけないんだ、銀行というね。

 君たちには偽金を10億も作ったことはいい経験だっただろー。カネを持っていればなんとでも交換できる、なんでも買えたんだ、これがカネの王権というものだ、他のモノやサービスをもっていてそーいうことができるかい。つまりなんかモノをもっていて、望む通りのモノと自由に交換できたかい。サービスでもいいよ、君はまだ若いだろー。働きたいところではどこでも働けて報酬をもらえたかい、違うだろー、自由が通じないってことは社会性がそれだけ、つまり通じないっていうことだけ、低いということさ。でもカネをもったら万能だっただろー。カネは社会性があるってことよ、鼻もひっかけてくれなかったおねえさんがにっこり笑いかけてくれただろー、別に君たちが急にもてるようになったわけじゃあねーぞ。君たちがカネをもっているからさ、カネは、生身の人間や人間が作ったモノや人間が提供するサービスより社会性があるんだよ、いったい誰がそんなふうにしてるんだい、神様かい。違うよね。俺たちだよー。俺たちなんだよー。だから、10億のカネを使うに困ったら、今度は、だれでも借りてくれただろー。

 どうしてだい、みんながカネに通用する力を与えて、そしてカネにだけは信用をおいてるからだよー。そのぶんだけ俺たちはおたがいに信用してねえってこと。鼻ピアスの君たちを誰も信用しなくても、君たちの持ってるカネは十分に信用されるわけよ。

 だから君たちは借り手にこまらないことも知ったっーこと。

 10億作る前は君たちはカネに困っていただろー、だからこんなやばいことに手を染めたはずだ、そして望みもかなった。でも君たちはまだワルとしては一流じゃあないね、目の前の大きなビルに気がつかないのかい。これだからびんぼー人だったやつはヤだね。まー、ビンボーだったから知らなくても、相手にされなくても仕方ないけど、いまなら相手にしてもらえるぞ。ほら、そこにあるビルだよ、銀行って書いてあるだろー。

 なにするところかって。これだから困るね、元びんぼー人は。少しカネわけてくれるんなら教えてやらー。さっき君たちは世間並みの利息つきでカネを貸すことを覚えたろー。貸したカネは返してもらったうえに利息まで手に出来た。こたえられらなかったはずさ。でも、貸したカネが帰ってくるまで心配だっただろー。なにせひとは信用できないしね。あれこれ理由をつけたり、なんのかんのいったりして。でもそれをがまんできる程度に利息は高かったはずさ。銀行ってところは、君たちのカネを預かってくれるのさ。銀行からみれば借りるってこと、だから利息もつくよ。でも利息はそんなに高くない。君たちが出そうと思ったらいつでも出せるしね、ひとに貸すのとその点、違うんだ。この点は君たちには好都合だろ。それに銀行に預けておけば心配がいらない、誰かにカネを盗まれるとかそーいう心配もないわけだ。ひとつ使ってみるかい。

 さあ、ここが銀行だ、入りずらいって、なにいってんだよ、おまえたちは10億ももってんだぞ、その偽金は絶対ばれっこないんだ。こんな仰々しい石造りの建物だから、ひるんでいるのかい。実はこういう道具立てで、おめーらよりすごいことしてる連中だってことは、そのうちわかるだろーよ。さあ、はいんなよ。さあ。

 簡単だっただろー。カネをもってきゃあ預かってくれるんだ、それにわずかだが利息もつくぞ、通帳に10億の数字があるだろー。それに預金利息というのがつくんだ。

 いままでみたいに貸した先がほんとうに返してくれるか心配無用だ。安心していられる。

 でも連中はなんでこんなことしてるんだい。

 実はな、連中は貸方と借方というの二つの欄がある自分の通帳みたいな仕組みをもってんだ。おまえらの通帳にはいま預けた10億がかいてあるだけだろ、ところが、連中は、いま預かった10億を借方(資産の部)にも書き込むんだ、もちろん10億は、おまえたちから借りてるわけだろー、だから借りだな、いわば、これ難しくは債務っていうんだけど、借りだから負債の部(貸方)のほうにも10億って数字を書き込むんだ。

 なんでそんなことするんだい。

 まーおめえ、ちょっと話はややこしくなるからよく聞けよ。

 だれでもいいや、Xとしよう。そいつに、銀行は、たとえば1か月、この10億を貸すわけだ。そのとき連中はX向けに口座をつくるのさ。そーおまえらに作ったような口座をだよ。それでその口座に10億って数字をいれる。連中にとってはこの数字はおまえたちからの借りだろー、それを自分たちの通帳(難しくいえばバランスシートっていうんだけどよ)では資産の部に書き込むんだ。つまり、自分たちの資産ってわけよ。だから貸し付けるというわけさ。

 おい、ちょっと待ってくれよ。それは俺たちの大事な偽金だぜ、作るのにはちょいと苦労したんだ。

 いや、連中にしたら、おめーらから10億借りたんだからちゃんと負債の部に10億って計上してる、だけど手元に10億あるんだから資産の部にも10億計上するっていうぜ。どこがいけないんだ、と。

 いや、ちょっと待てよー。カネは俺らが作った10億しかないんだぞ、それをなんだい。

 銀行の客Xは借り入れた10億が通帳にある。ここからおめーらの作った10億を直接引き出して使うわけじゃあない。世の中にゃなー、小切手って便利なものがある。小切手用紙にペンをサッと一走りさせる。誰か業者、そうだなYとしよう。そいつからXがなにか購入するとき、その小切手を使うわけさ。このYも同じ銀行の顧客だとしよう。Yは受け取った小切手を銀行に持っていく。銀行は、小切手に書いてある金額分をXの口座からYの口座に移すんだ。数字を書き換えるだけさ。銀行からみるとだよXの口座から減った分はYの口座にあるから、自分とこにある10億に変わりがあるわけじゃあない。銀行はまた別の客Zに貸し出せるわけさ。XはYから実際にモノを買ってた、Yも銀行に預けたカネで小切手を発行してモノを買うだろう。でも銀行の10億は一文も減っちゃあいない。でもカネっていうモノを買う力、購買力っていうんだけど、どんどん増やせるわけだわな。

 そりゃー、いけねー。

 おれたちゃ苦労して、10億偽札を作っただけなんだぜ。それをなんだい、連中はいくらでも勝手に増やせるっていうことじゃあねーか。

 まー 偽金作りなんだからそーかっこいいこともいえないはずだろ、ただ世の中には、たいしたワルもいるってことよ、勉強になったかい。このやろー。

 偽金作り一味の寓話は3つあったわけですが、このどれもが貨幣量増加の複雑なプロセスに対応しています。つまり。昔も今も、貨幣創造すなわち購買力の創造のプロセスを表現しているわけです。偽金作り一味だけが貨幣創造がもたらす資源を享受するケースと、銀行システムがこうした資源を銀行自身や預金者に配分するケースが取り上げられています。いずれも、信用創造というメカニズムが不当な権利を社会的に創造していること、そして腐敗と不正義とモラルの低下をもたらし、経済社会に不均衡をもたらし、病的な営利主義と制御しがたい投機によって社会を危機に導いていること、これらを理解する出発点として役立つと思います。議論は少しづつしなくちゃなりませんが、ここでは、最後に、くろうと筋ならピンとくるような、古典からの引用を一つあげておきます。

 ジュグラー波で有名なジュグラーの一文です。

「通商上の危機は信用の動きにおける根本的変化の結果である。・・信用とは何か。たんなる支払い約束と引き替えの購買力か。銀行あるいは金貸しの機能は支払約束付きの債務の購入である。・・・濫用に導かれる信用の実行のみが商業上の危機をもたらす・・信用は起動的な原理であり、それは推進力を与える。たんなる手形、為替手形への署名によって無限であるかにみえる購買力が創造される。事業の発展に好都合な、価格の高騰は信用の故だ。・・・製品の交換のたびに新たなな支払い約束が生まれ・・販売の度に、たんなる支払い約束でしかないものと引き替えに生産物が引き渡される・・こうした購買力すべてが価格にはねかえっていく」 

Clement Juglar, Les crises commerciales, 1889

昔も今も同じことが行われ、同じ警告が繰り返されています。

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