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明日を恐れて今日を生きる

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森野 栄一

安全ということ

 この世のはかない生を営む者がいちばんに求めるものっていったいなんだい。

 う〜ん、それは、安全っていうことじゃないかな。つまり生活の維持っていうこと。

 ぼくらがなんで隣人と結びつきを求めるのか、ぼくらを脅かすものがあるからじゃないかな。この世の中には、なかには悪いやつもいるし、収入がなければ飢えちゃうし、暖房がなけりゃ、凍えちゃう寒さもあるし、知恵がなければだまされちゃうかもしれないし。そう、病気もあったね。とにかく、そういうものから自分を守らなきゃならないわけでしょ。

経済上の安全

 そういうときにさ、あれこれあるけど、いちばんに経済的な問題があるよね。経済上の安全さ。

 今の時代、こうした安全を妨げてるものっていっぱいあると思うでしょ。

 例えばだよ、お父さんが仕事をなくしちゃって、そう、リストラとかにあっちゃって、失業したとするでしょう。家族は生活に困っちゃうわけさ。いまでも失業者は多いし、景気がよくなっても、企業の経営を効率化しようっていうんで、人減らしっていうんだけど、そういう傾向、どんどん進むばかりでしょ。

 昔、企業戦士っていったけど、もーれつに会社のために働いてさ、それで会社も大きくなり、立派な会社のビルが甍(いらか)を競うように東京には建ってさ、でもバブルが潰れて10年近く経つ。そうしたら、君なんて要らないってんで、窓際だの、リストラだの仕事を奪われる。会社に残っている人もいつ自分の番かと戦々恐々。そんな10年間が続いている。

 こうーいう話もあるよ。会社でリストラをやらなくちゃならなくなった。それを実行するよう命じられた人が、ほんとはしたくないけど、リストラ対象の人たちが会社を辞めるようずいぶん意地悪をしてさ、とうとう予定のリストラを達成して、上司に報告した。上司はよくやった。じゃあ、今度は君の番だな、って。あれ、まー、まったく、油断も隙もあったもんじゃない。

借りた時間を生きる

 こういう世の中って、ひとが明日を恐れて今日を過ごさなきゃならないっていうことでしょ。

 えっ、自分は大丈夫だって?

 でも分からないさ。この国の経済の仕組み、つまり円で出来てる世界だけどさ。それはずいぶん辛い、薄情な仕組みになってるんだよ。

 たとえばね、いま、気軽にお金を借りるひとがいるけど、借金してみればわかるよ。借金って期限がきたら返さなきゃならないでしょ。つまり、自分の将来の時間を今使って生きてるようなもの。将来をいま生きてしまうようなもんでしょ。それだって借金を返せての話。

 ふつうは、もっと豊かになろうとして借金する人よりも、今日の生活の必要からカネを借りる人のほうが多いはず。お金の足りない人が、利息を含めてもっと多くなる返済ができるわけないでしょ。どんどん明日を恐れて生活しなきゃならなくなる。

 つまり、利息分だけ自分の将来の時間が取り去られている。返せなくなったら、自分の時間の終わりっていうこと。

心配は他にもあるね

 それ以外にだって人を恐れさせるものはあるね。

 大きいのは、食料問題。

 この国で、1億2千万の人間が食べていける食料が生産できてるかい。自給率はすごく低いんだ。幸い、いまはお金があるから外国から買えるけどね。

 でも人類は環境を痛めつけているから、地球の気候さえ変わってきちゃって、外国でも食料が足りなくなることだって考えられるだろう。

 今は食料を売ってくれてる国も、自分の国で足りないときに、いくら高いお金を出すからっていっても、なかなか売ってくれないよね。そうなったら、どうするんだい。

 千円札を鍋で煮て食べるのかい。

 ぼくらは、明日を恐れて生きるしかない状況にあるんだね〜。

 じゃあ、なんか方法がないのかな。ぼくらが隣人や仲間や友達と仲良くしたり、手を結んだりするのは、どこかでお互いに安全を保証しあいたいという気持ちがあるからでしょ。もちろん、100%頼りになんかならないさ。それでいいのさ。100%頼りにすることは、頼りきることでしょ。それは相手に、迷惑というもの。

 そうはいっても、お互いにできるだけ助け合う、そういう気持ちは大切さ。

 でも、カネが絡むと、人間って分からないものだよ。信頼があるってことは裏切りもあるってことだ。じゃあ、そんな食えない連中とは手を切って、山のなかででも、一人で暮らすかい。いや、人を食えない連中にしているのは、人の責任じゃないのさ。カネが絡んでるのがいけない。

 じゃあ、人の信頼が出てくるようなおカネがあったっていいのにね。

 実はあるんですよ。いま、世界でも、この国でもいろいろに始まっているんだ。地域通貨っていうんだ。

地域で支え合い、安心で、生き生きした地域を

 ふつうのお金は、冷たい関係しかくれないよね。カネがカタキさ。でも地域通貨は善意と優しさを運ぶものなんだ。

 地域通貨ってのはね、まず、信頼できる仲間を作る。その中で、サービスとかモノを交換するわけ。そのとき、クーポン券みたいのを発行して使ったり、通帳みたいな手帳を活用したり、チップみたいのをやりとりすることもある。形は自分たちにあったものを使えばいい。カネが絡むとちょっと気まずくなるようなこともお互いに頼みやすくなる。人の善意が表に出やすくなるんだ。あったかい関わりができるんだ。

 それに地域の人間たちが地域でできたモノを交換し合うようになるし、「お互い様」の気持ちが地域を豊かにするし、元気にしてくれる。地域で儲けたカネがどこか余所にもってかれちゃうということもない。地域の豊かさが地域で回る仕組みさ。

 昔から言うでしょ。豊かになるには、方法は一つしかない。「入るを計って出ずるを制す」、ですよ。いくら地場の人間ががんばって稼いでも、それが余所に出ていってしまっちゃあ、なんにもならない。

最初は子供だましにみえても

 始めは遊びみたいにみえるかもしれないけど、地域通貨を始めてみるとわかるさ。地域通貨の輪が少し大きくなれば、なっただけ、明日を恐れて生活しなくてすむようになるってことが。

 もう少し大きくなれば、またそれだけ、安全が増えるってことも。そして、その分、人生が楽しくなって、地域も生き生きしてくるっていうことも分かると思う。

 各地で始めてるけど、いまはね、まだささやかなもんさ(外国ではすごく発展してるのもあるけど)。生活の0.0000001%くらいかもしれないけど。

 でもね、その分は安全を保証し合っていることが実感できてる。この数字はきっと増えていくにちがいないよ。

いつか、50%くらいにでもなったら、大変さ。この地域は人の笑顔が溢れかえる、元気な地域になってるよ。

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