企業業績と生産・在庫から足元の日本経済を抉る

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曽我 純;

週末値でも原油価格は1バレル100ドルを突破し、08年9月以来の高水準に上昇した。そのほかの商品価格も上昇し、CRB指数は3ヵ月で14.7%高くなり、その上昇率はNYダウの2倍以上になった。商品価格の急騰のわりには債券価格は安定しており、物価上昇による需要減、景気悪化というプロセスを早くも意識しているようだ。

トルシェECB総裁の早期利上げ発言によって、ユーロの短期金利は上昇し、ユーロは買われた。2月の米非農業部門雇用者数は前月比19.2万人増と昨年5月以来の高い伸びとなったが、ユーロ高に変化はなかった。これで非農業部門雇用者数は5ヵ月連続増だが、昨年2月の底からの増加数はまだ126.9万人にすぎず、08年1月をピークとする875万人減の14.5%を取り戻しただけであり、雇用が本格回復したとはとても言えない。2月のISM製造業景況指数は61.4と7ヵ月連続で前月を上回り、04年7月以来の高い水準だが、1月の個人消費支出は前月比0.2%にとどまり、消費が復調したとはいえない。原油高が持続すれば、消費マインドを冷やすことになるし、住宅価格の下落はさらに消費意欲を減退させるだろう。住宅価格の下落はしばしの遅れをともない、消費支出に影響し、延いては足元改善している雇用にも再度過剰感が広がるかもしれない。住宅価格が再調整に向っている一方、農地価格が急騰しつつある。小麦、大豆、トウモロコシの価格騰貴などにより農地は激しく値上りしている。2010年のアイオワの農地価格(インフレ調整後)は1979年のピークに近づきつつある。農地はバブル化の様相を呈しており、バブルが破裂することになれば、金融機関の不良債権が急増し、米景気は腰折れするかもしれない。

好調な企業業績が株高に結びついていると言われているが、実際の数値をみると、業績はピークアウトしており、株価は他の要因で高くなっていることがわかる。財務省の『法人企業統計』によると、昨年10-12月期の全産業の売上高は前年比4.1%と伸び率は2四半期連続で低下し、営業利益は28.9%と3四半期連続の鈍化となった。大企業(資本金10億円以上)を取り上げてもほぼ同じ傾向を示しており、業績拡大の勢いは衰えてきており、今年1-3月期は減収減益になることもあり得る。こうした業績の伸び率低下は設備投資に顕著にあらわれている。全産業の10-12月期の設備投資は前年比3.8%と前期よりも1.2ポイント低下し、低空飛行が続き、失速しそうだ。企業は先行きに自信が持てず、期待収益率が低下していることも、企業の設備投資マインドの改善を遅らせている。売上高営業利益率は3.7%と前年よりも0.7ポイント高く、自己資本比率も36.7%、同0.7ポイント上回り、利益率や財務内容は改善しているけれども、企業の姿勢は慎重なままである。なぜか。

企業が設備投資に踏み出すことができないのは、利益の多くは、人件費を抑制した結果であり、売上高の伸びに匹敵する給与等を支払っていたならば、これほどの利益を出すことができなかったことを十分に承知しているからだ。出すものも出さず利益を嵩上げする行動を大半の企業が実践したのだ。売上高は4.1%伸びたが、人件費は1.4%、人件費の65%を占める従業員給与は1.2%にとどまっている。

1人当たりの売上高は3.4%伸びているが、1人当たりの給与(賞与を含む)は1.3%と低く、これで4四半期連続して後者が前者を大幅に下回ったことになる。人件費を抑えたことなどで売上原価と販管費の伸びも売上高を下回り、営業利益の拡大につながった。人件費の伸びを売上高並みに増やしていれば、営業利益の伸びは17%に低下することになる。利益の源泉は人件費削減と輸出増であったため、企業は業績改善を素直に喜べず、国内最終需要の回復は期待できないと予想し、設備投資に踏み切ることができないのだ。今の業績回復が長続きしないと想定すれば、設備の拡大を抑えることになるが、そのことが企業収益をさらに悪化させるという連鎖が起こる。外需の支えがなくなれば、そのような連鎖によって、企業収益の減少は一気に加速することになる。
  
1月の鉱工業生産指数は前月比2.4%と3ヵ月連続で前月比プラスとなり、回復軌道に乗ったようにみえるが、出荷の伸びは1.1%と2ヵ月連続して生産の伸びを下回り、在庫は4.7%も急増、09年2月以来約2年ぶりの高水準となった。在庫がこれだけ増加したのは、昨年末ポイントが半減した液晶テレビ等の販売減と国内新車販売の不振による。液晶テレビに関連する情報通信機械工業の出荷は前月比16.1%減と2ヵ月連続の大幅減となり、在庫は40.7%と急増した。輸送機械工業も出荷が生産の伸びを下回り、在庫は19.5%と3ヵ月連続で増加した。液晶テレビや自動車の在庫急増によって、1月の耐久消費財の在庫は07年12月以来、約3年ぶりの高水準に積み上がった。
生産指数の前年比伸び率は4.7%と昨年3月をピークに低下している半面、在庫は7.3%と1998年3月以来約13年ぶりの高い伸びとなった。出荷は3.2%と生産を下回り、思うようにモノが出て行っていない様子で、意図せざる在庫が工場や倉庫に積まれているのだ。これほどの在庫の伸び率は、1980年代以降の30年間で6回認められるだけであり、稀なケースに入る。在庫が上昇する過程で、景気はピークを付けていることから、今回の在庫増も景気後退につながる可能性がある。

生産指数は前年比4.7%伸びているが、一般機械工業だけで引っ張っており、それの寄与度は4.3%ときわめて高い。一般機械工業のなかでも半導体製造装置やフラットディスプレイ製造装置の伸びが突出しており、これら一部の製品の生産拡大が、鉱工業生産指数全体を動かしているのだ。だが、電子部品デバイス工業の在庫は前年比53.8%も増加しており、生産調整しなければならない状態に陥っている。生産削減を迫られているときに、半導体製造装置を求めるようなことはしないはずだ。鉱工業生産に対する半導体製造装置の影響が大きいため、半導体製造装置の動向によっては、鉱工業生産は下振れするかもしれない。MEDIA GALLERY?


半導体等電子部品の輸出も1月、前年比12.6%減少し、外需も弱くなってきている。半導体電子部品を含む電気機器が1月、前年比7.5%減少し、輸送も0.2%の微増になるなどで輸出総額は1.4%まで低下しており、前年割れになりそうである。そうなれば、外需依存の高い鉱工業生産や機械受注は厳しい状況に追い込まれることになる。
『家計調査』によれば、1月の消費支出(2人以上の世帯)は前年比-0.9%と5ヵ月連続のマイナスとなり沈んだままだ。勤労者世帯に限れば、可処分所得が3.3%も減少したことから消費支出も1.2%前年を下回った。有効求人倍率は緩やかに改善しているが、失業率は前月比横ばいの4.9%である。男性失業率は5.3%と0.1ポイント低下したが、3月は跳ね上がるかもしれない。内需が大きく上向くシナリオは描けず、このまま輸出が前年割れにでもなれば、09年3月を底に拡大してきた景気は後退に突入するのではないだろうか。

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この記事は「編集者」の寄稿です。2011年3月 6日 21:20.

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「想定外」を怒る一方、自ら「想定外」を作り出している政府と電力会社 は以降の記事です。

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