FRBの資産拡大と財政赤字

| No TrackBacks
曽我 純 :

昨年11月、FRBは6,000億ドルの国債買い入れを発表し、その後、着々と購入しているが、国債価格は下落し、利回りは上昇しつつある。国債利回りは昨年10月末比、約1%も上昇してしまった。消費者物価指数(コア)は昨年12月、前年比0.8%の上昇にとどまり、物価はきわめて安定しているが、昨年10-12月期の名目GDPは前年比4.2%も伸びており、景気は回復軌道に乗っているからだ。

国債利回りは名目経済成長率に近づいていくだろう。2010年までの10年間の年平均経済成長率が4.0%であったことから、国債利回りはその当たりのレベルが妥当な水準ではないかと思う。

4%を上回る経済成長に達しながら、なおもFRBは買いオペを続行し、マネーを供給している。長期金利を下げるのではなく上げる役割を演じているのだ。政策金利をゼロに置いているので、長短金利差は3.3%に拡大し、金融機関の収益拡大を後押ししている。一方、非金融機関は資金コストが上昇し、設備投資意欲が削がれることになる。

FRBのしていることは、マネーを供給すれば、自動的に経済は良くなるとの考えに基づいている。ただ、経済がすでに巡航速度に回復している状態で、なおかつ貨幣を供給すれば、住宅バブルが発生したように、新たなバブルが膨らむことになる。おそらく、株式や商品などは、FRBの資金供給によって、バブル化しつつある。

FRBは非金融部門に直接に貨幣を供給できないので、本当に必要なところに資金がとどくかどうかはわからない。供給した貨幣の大部分は金融部門に滞留しており、良からぬところに向っているのだろう。連邦政府の支出は09年度、3.0兆ドルと前年比0.5兆ドルも増加し、財政赤字は08年度の0.64兆ドルから1.54兆ドルに拡大した。だが、GDP統計をみると、09年の政府支出は前年比360億ドル(1.3%増)増加しているにすぎない。財政支出の大半は金融部門の不良債権処理に使われたのだろう。

買いオペの拡大によって、FRBは先週水曜日時点で1.16兆ドルの国債を保有している。11月以降、0.33兆ドル増加しており、すでに目標の半分以上を消化したことになる。買いオペにより、FRBの総資産は過去最大の2.5兆ドルに拡大し、マネタリーベースも2.1兆ドルに膨れた。マネータリーベースのうち1.16兆ドルは準備預金であり、その大半(1.09兆ドル)は超過準備である。超過準備は本来ならば金融機関が貸出等に回す資金だが、FRBがそれを元手に各種証券を購入しているのだ。

金融危機の影響により、09年の米国経済はマイナス成長になったが、名目では1.7%減少しただけである。因みに、日本はマイナス6.6%と金融危機の震源地よりも酷い落ち込みとなった。1.7%の減少では、それほど大騒ぎする必要はなく、FRBによる大規模な金融支援もどれだけ実体経済に必要であったか疑問である。

米国経済はもともと不況に強い構造になっている。2009年の名目GDPは消費、設備投資、住宅がそれぞれ減少、総額2,500億ドル減となったが、なかでも輸入は大幅に減少し、輸入超過額の減少が消費や設備投資などのマイナスを半分以上消してしまった。輸入に頼る体質が不況下ではそれが緩衝装置となり、経済の落ち込みを緩やかにしたのである。さらに不況でも大きく落ち込まない個人消費のウエイトが高く、変動の激しい設備投資の比率が低いことも、成長率の振幅を小さくしている。

米国と正反対なのが日本であり、外需依存度が高く、個人消費のウエイトが低い一方、設備投資のウエイトが高いという経済構造が振幅を激しくしている。こうした仕組みにより、日本経済は、米国をはるかに上回る規模で収縮し、いまだに名目経済成長率は2%程度にとどまっている。

2010年の米経済成長率は名目3.8%に回復したが、在庫の寄与度が約3割を占め、設備投資の回復力はなお弱く、08年の水準を15%も下回っている。輸入超過額は再び拡大しているため、企業利益の回復は財政赤字に依存したものといえる。

2010年までの10年間に米名目GDPは1.47倍に拡大した。部門別の伸びを比較すると、もっとも拡大したのは政府部門の1.73倍であり、1.51倍の個人消費がそれに続き、設備投資は1.11倍にとどまった。政府支出のなかでは国防が2.2倍、非国防は1.61倍となり、2010年の国防支出は8,178億ドル、GDPの5.6%を占めており、米国経済は軍需産業という浪費で保たれているといえる。米国は市場経済の国であるといいながら、政府部門は2010年、20.5%と10年間で3.1ポイント上昇した。

住宅バブル期のような個人消費の伸びの再来はなく、設備投資も高い伸びが期待できなければ、結局、成長は政府部門に頼らざるを得ない。FRBもいつまでも買いオペを続けるわけにもいくまい。異常に膨れたFRBの資産を元の状態に戻すことは容易ではない。政府部門のウエイトを下げることも、長期的な課題として取り組むことになるだろう。米株式市場は浮かれているけれども、米国経済の中身について手放しで喜べるような内容ではないことは明らかである。米株式に追随している日本の株式はさらに危ういのではないだろうか。

全文をPDFで読む↓

No TrackBacks

TrackBack URL: http://grsj.org/mt/mt-tb.cgi/29

この記事について

この記事は「編集者」の寄稿です。2011年2月13日 19:07.

輸出頼みの生産と支出を切詰める家計 は以前の記事です。

FRBの国債購入による株高はいつまで続くか は以降の記事です。

ホームページ

ホームページ