遊戯場と化してしまった日本の株式市場

| No TrackBacks
 曽我 純 :

日経平均株価は2日連続の値下がりとなり、昨年末以来の低い水準に後戻りした。いつものことだが、下げるときのスピードは速い。11営業日を要した上げがたった2営業日の下げで吹き飛ぶのだから。こうした変化をうまく捉えて、利益を出すことは至難の業だ。たいていはやられてしまうのが落ちである。相場の加熱状態が続いていたので、いつ下げても不思議ではないと思いながらも、ついつい油断して決断を遅らせていたら、あっと言う間にロスが発生してしまう。

株式売買で稼ぐことがこれほど大変であるのに、多くの個人が為替取引にのめり込んでいる事態は異常である。まさに博打そのものである。金利がゼロなのですこしでも稼ぎたいとの思いは分からないでもないが、これまでの歴史を顧みるまでもなく、博打に関わる悲惨な結末の事例は枚挙に遑がない。

毎月分配金型の投資信託も元本を減らしているのが多数ある。日本の国債利回りが1.2%の状態で、これを大幅に上回る運用などを期待してはならない。目先の利益を追求するあまり、元本が損なわれるのでは元も子もない。国債利回り以上を謳った高収益商品は高リスクの危険な商品に間違いない。どこかにからくりを仕組んでおり、詐欺的商品である。それほど良い商品であり、高利回りを得られるのであれば、銀行、証券会社等は自分で購入すればよいではないか。それで十分に収益を確保すればよい。あるいは相場に自信があるのであれば、自己売買で十分な利益をだすことができるだろう。これができないのは、高収益商品は存在せず、相場を正しく読むこともできないからだ。因みに、株式相場が下降しているときの証券会社の業績は軒並み悪い。このことは、証券会社が株式相場を的確に捉えていないことの証左である。

株式や為替の変動を予測することができず、どのように動くかだれもわからないのである。分かれば短期間で巨額の富を手に入れることができる。そのような証券会社など出現したためしがない。株価や為替相場を当てることは所詮無理なのだ。無駄なことをしているといってもよい。もともとできないことを、あたかもできるかのように吹聴し、そこにマンパワーを注ぐ。個人投資家をパソコンに釘付けにし、取り引きに熱中させる。それで手数料や運用管理費等を稼ぐ。損が発生してもそれは自己責任だと、取り合わない。製造業ではあってはならないことが、金融業では罷り通るのである。

アメリカ人は予測好きな国民であり、それがウォール街という博打場を育ててきたのである。国民性の所産といってもよいだろう。米金融機関の急速な拡大に伴って、米国流の金融システムが日本やヨーロッパに伝播していった。

しかし、金融部門自体はなんら付加価値を生産せず、非金融部門に寄生しているため、金融部門の拡大は社会にとって決して好ましいことではない。株式や為替の取り引きをしても付加価値は発生しない。単に名義が変わるだけで、手数料というコストが発生するだけなのだ。金融機関は手数料等を稼ぐためになるべく頻繁に取り引きするように仕向ける。だから、取り引き回数を極力減らすことは非金融部門のコストを低下させ、金融機関の収益を減らすことになる。付加価値がでてこない取り引きをいくら繰り返しても経済に活力は生まれてこない。また、金融部門の経済に占める割合が高くなれば、それだけ、経済に及ぼす影響も大きくなり、不安定化要因になる。

日本の80年代のように金融機関が巨額の株式を保有し、不動産貸出を急拡大させたように、預金を投機資産に投入し、金融部門は肥大化した。米国の金融機関は返済が不確かな住宅ローンへの驀進や焦げ付く可能性の高い住宅ローンなどを組み込んだ証券への投資でバランスシートが著しく拡大した。両国ともに「大きすぎて潰せない」の一言で、損失は非金融部門に押し付け、金融機関は存続している。荒療治でないので、金融機関の体調はいつまでもすぐれず、非金融部門からの補給をうけなければならない。非金融部門の犠牲の上に金融部門は成り立っているのである。

Bank of America、JP Morgan Chase、 Citigroupの総資産は昨年末、それぞれ2兆ドル前後と引き続き巨額であり、これらの金融機関が危機に陥ると、米国経済は只では済まないことになる。金融規制を推進していた経済再生諮問会議のボルカー氏の後任に、オバマ大統領はGEのCEOであるジェフ・イメルト氏を起用したので、昨年7月に成立した金融規制改革法が金融機関寄りに修正される恐れが出てきた。

***

昨年の東証1部の売買代金は1.44兆円(1日当たり)と前年より4.6%減少し、これで3年連続減だ。だが、減少したとはいえ、21年前の株式バブルのピークを10.6%上回っている。1992年には売買代金は2,000億円台に落ち込み、その後、長い低迷が続いていたが、日銀のゼロ金利、手数料自由化、インターネット取引等により売買代金は急増し、07年には3兆円を突破した。まさにバブルの再来である。

売買代金を名目GDPで割った数値は07年、1.42倍となり、3年連続で過去最高を更新した。昨年は0.72倍と3年連続で低下したが、それでも89年を0.07ポイント下回っているだけである。昨年の売買回転率(東証1部、2部、マザーズ、株数)は133.2%と07年のピークに比べれば25.6ポイント低下したが、株式バブル期の88年(98.1%)を大きく上回っており、日本の株式流通市場が異常な状態にあることに変わりはない。

流通市場は活況を呈しているが、資金調達を担う発行市場の規模は昨年、4兆円に満たなかった。企業は十分な資金を保有しており、株式市場で調達する必要がないからだ。株式市場といっても、その本来の機能をほとんど果たすことなく、短期的な鞘を求めた遊戯場と体たらくしているのが実情なのである。

04年以降の異常な株式売買にもかかわらず、日本経済は浮上するどころか、縮小の道をはっきり進んでいる。株式市場の活況は経済の拡大に結びつかないばかりか、徒に経済を撹乱し、実体経済の妨げになっている。金融取引はコスト高になるだけで、経済に利益をもたらさないからだ。株式取引に課税し、譲渡益課税は早く元に戻すなどこれまでの政策を180度変える必要がある。このまま株式市場を放置し続けることになれば、日本経済の遊戯場化はさらに進行するだろう。

全文をPDFで読む↓

No TrackBacks

TrackBack URL: http://grsj.org/mt/mt-tb.cgi/26

この記事について

この記事は「編集者」の寄稿です。2011年1月24日 11:51.

FRBは不良債権を封じ込めることができるか は以前の記事です。

長期の米株式値上り率、名目GDPを下回る は以降の記事です。

ホームページ

ホームページ