長期の米株式値上り率、名目GDPを下回る

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曽我 純 :

NYダウは9週ぶりに下げた。エジプト情勢の緊迫が株式に影響を与えたと言われているが、独裁体制崩壊へと進んでいるのであれば、市場としては歓迎すべきことではないか。混乱に伴いオイルなどが高騰するかもしれないが、長続きはしない。NYダウの下落は相場が過熱していたからだ。過去2年弱で8割も上昇した強気相場が、最終段階に差し掛かっていることを示唆しているように思える。

これまで株高を支えてきたのは、FRBの実体経済にそぐわない金融緩和政策である。昨年10-12月期の名目GDPは前年比4.2%増と5四半期連続のプラスである。これだけプラス成長していながら、ゼロ金利を継続していれば、ゼロ金利の弊害が生じることは間違いない。

マネーを供給すれば、自動的に経済は拡大し、良くなるというマネタリズムの信奉者が金融政策の中枢を占め、実践している。だが、マネーは金融セクターの内部を循環するだけで、非金融部門にはなかなか出て行かない。金融部門というマネーを動かすところにだけとどまり、その金が世界中の株式、債券、商品、為替などの市場で貪欲な利鞘稼ぎに使われている。

FRBや日銀の金融緩和が、再び、金融市場でバブルを作り出している。中央銀行は物価の番人といわれているが、今はデフレの時代であり、物価の問題ではなく、金融市場のそれぞれの商品の高騰に目を向けなければならない。過去の株式や不動産バブルはいずれも、超金融緩和、緩和の長期化、緩和しなくてもよい時に緩和したことがバブル発生に結びついており、中央銀行の金融政策がバブルの主な原因になっている。中央銀行は一般物価よりも金融商品の番人の役割を果たす必要性がますます高まっている。
株高などにより、米消費者マインドは改善しているが、住宅価格は下落している。昨年11月のS&Pケース・シラー住宅価格指数(10都市)は前月比0.4%低下し、これで5ヵ月連続のマイナスである。昨年12月の新築住宅販売戸数は前月比17.5%増の32.9万戸に改善したが、前年比では依然マイナスであり、新設住宅着工件数などを勘案してみると、米不動産市場は引き続き底を這っている状態といえる。

昨年10-12月期の米GDPによると、住宅(名目)は前月比1.4%と2四半期ぶりのプラスになったが、ピーク(06年1-3月期)の約4割の水準にとどまり、住宅・GDP比率は前期と同じ2.2%と過去最低の水準にあり、住宅部門の回復は取り残されたままである。

名目GDPは前期比0.8%増と6四半期連続のプラスになったが、不動産バブル崩壊による景気後退以前(08年第3四半期)からは2.7%伸びているだけだ。前年比伸び率は4.2%と前期よりも0.3ポイント低下し、伸び率は今後低下するだろう。実質でも前期比0.8%増加したが、不況以前のピーク(07年第4四半期)を0.1%上回っているにすぎない。回復力が弱いのは主力の個人消費支出の伸びが低いことに加えて、設備投資と住宅が不況前の水準を大幅に下回っているからだ。他方、貿易赤字の減少と政府支出の拡大が成長を支えているが、2010年10-12月期の政府支出は前期比0.2%減少した。財政が悪化している州・地方が支出削減を余儀なくされ、連邦政府も軍事支出の頭打ちにより前期をわずかに下回った。GDPに占める政府支出の比率は10-12月期、19.3%と前期比0.2ポイント低下し、不況を乗り切るために政府支出を拡大した09年7-9月期に比べれば0.6ポイントの低下である。

名目のGDP・政府支出比率は1990年代後半、急速に低下したが、2000年頃を底に、再び上昇、現在約20%の水準にある。この比率の下降・上昇の変化は非軍事と軍事支出にわけてみると、軍事支出の動向がこうした変化を引き起こしていることがわかる。1969年以降の約40年間のGDPに占めるそれぞれの比率は、非軍事支出の13.0%~15.5%に対して、軍事支出は3.8%~9.0%と変化が大きく、政府支出・名目GDP比率の変化は軍事支出の動向により変化していることがわかる。市場万能主義や小さな政府を標榜しているけれども、米国の非軍事・GDP比率は住宅バブルで沸いていたときも上昇しており、市場主義とは異なる政策を実施していたのである。

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2010年までの10年間の米実質GDP成長率は年率1.7%となり、1930年代以降の8回のなかで最低となった。これまでの最低は1930年代の2.7%だったが、これを1ポイントも下回ってしまった。実質成長率は60年代の年率4%台から70年代には3%台に低下し、80年代、90年代は引き続き3%台を維持していたが、00年代、実質成長率は一気に1%台に落ち込んでしまった。こうしてみれば、日本ほど顕著ではないが、米国の経済成長率も1940年代の5.6%をピークにはっきりと鈍化していることがわかる。情報革命が成長を高くするなどといわれているが、そのような姿はGDP統計からは読み取ることができない。

00年代のダウは年率0.7%(値上りだけで配当は無視)となり、90年代の15.1%から急低下した。1910年以降では1910年台のマイナス1.2%に次ぐ下から3番目に悪い数値である。最悪のパフォーマンスは大恐慌に陥った30年代のマイナス2.2%であり、GDP物価指数(マイナス1.6%)以上に落ち込んだ。

2010年までの過去80年間の成長率はダウが年率5.5%と名目GDPの6.6%を下回っている。GDP物価指数は3%なので、実質的には年率2.5%の値上がり益が確保された。米国でさえも実質的な値上り率はこのように低く、長期投資といえども高い利益を出すことの難しさを心に銘記すべきである。

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この記事は「編集者」の寄稿です。2011年1月30日 17:10.

遊戯場と化してしまった日本の株式市場 は以前の記事です。

輸出頼みの生産と支出を切詰める家計 は以降の記事です。

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