日本経済を弱くする税制改革

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曽我 純 : 

今年度の企業(全規模、短観)の経常利益は前年比28.2%もの大幅増が見込まれる。懐が暖かい企業の税金を軽減する半面、給与が伸びていない家計の負担を増やすような税制改正が本当に日本経済を強くするのだろうか。日本経済の構造的な問題は、GDPに占める個人消費支出比率が低く、設備投資や輸出に過度に依存していることである。消費支出を増やすことが先決問題であり、消費が拡大すれば自然に設備投資は拡大する。今回の措置では消費支出は削減され、設備投資は冷え込むことになるだろう。高額所得者の給与控除額に上限を設けたが、それだけでは所得格差を縮小することはならず、今後累進税率を強める一方、500万円以下の給与所得者(給与所得者の73.8%を占める)の所得税を引き下げなければならない。

企業は内部にカネを溜め込むばかりで、支出する意欲はない。先行き消費環境は改善されず、期待収益率は高くならないと予想しているからだ。今年度の設備投資額(ソフトウェアを含む、土地除く、短観)は前年比2.3%と2年連続で大幅に落ち込んでいたが、回復力は極めて弱く、これでは日本経済は強くならない。政府による消費刺激策がほぼ終了したことから、今後、消費が伸びると期待することはできない。9月まで改善していた企業の業況(「良い」-「悪い」、全規模、短観)は12月、-11%と前期比1ポイント悪化し、来年3月には-18%へと一層低下する見通しである。景況の悪化に伴い、企業は設備投資計画を見直すかもしれない。

政府のもうひとつの失敗は証券優遇税制の2年延長である。株式の譲渡所得や配当について、10%の軽減税率を13年末まで適用するという。「貯蓄から投資へ」という謳い文句で、2003年4月に10%の優遇税制は導入され、すでに7年経過したが、株式はもとより経済への効果もほとんどみることができない。家計の貯蓄が減少し、有価証券保有が増加したわけでもなく、単に、超短期売買の投機家が増えただけで、株式市場は博打場といってよい市場に成り下がってしまった。

10月までの月平均売買高回転率(株数)は137%と昨年に比べれば低下しているが、それでも異常に高い値であることは間違いない。優遇税制の導入と株価の回復などから売買回転率は03年以降急上昇し、04年以降は80年代後半のバブル期を上回った状態が続いており、売買高からみれば日本の株式はバブル化している。優遇税制に加えゼロ金利の長期化は株式の活況を招いたが、実体経済の沈滞脱却には繋がらなかった。政府は株式のバブルを継続したいようだが、このような異常な売買を断ち切り、株式市場を正常な姿に戻さなければ、実体経済に再び悪影響することになりかねない。

■ 米連邦政府の債務急増

先週、日経平均株価の終値の高安は23円にすぎず、株式は完全に膠着状態にある。3月までの業況の悪化や今年度下期の経常利益減益予想などがでれば、ここからさらに買い上がるわけにも行くまい。日本株を主導している米株式も頭が重くなってきていることも、外人の買い増し余力の低下となっている。米減税法案が成立したことから、米株式を押し上げる力は弱まり、これまでの上昇の反動があらわれてくるだろう。

11月の米商業銀行の不動産貸付は前年比4.9%減と09年10月以降の前年割れで最大のマイナス幅となった。遡ることができる1948年以降でもマイナスになったのは09年10月がはじめてであり、米国で不動産貸付がマイナスになること事態、異常であり記録的といえる。ゼロ金利を導入してから2年経過したけれども、米不動産部門は回復といえるような状況ではないことが貸付からあきらかとなった。

FRBによると、米家計の住宅金融残高は9月末、10.1兆ドル、前年比2.6%減にとどまっている。ピークの08年3月末比でも5,000億ドル、4.7%減と家計の借金の処理は進んでいない。これでは住宅部門の回復は望むべくもない。11月の米住宅着工件数は55.5万戸と2ヵ月連続で前月を上回ったが、依然、水準は低く底這い状態であり、先行きの動向を示す許可件数は53.0万戸と前月を下回り、米住宅市場の回復は予想がつかない。

米国内非金融部門の債務残高は9月末、35.85兆ドル、前年比3.7%増である。家計部門は13.42兆ドル、1.8%減、企業部門は10.95兆ドルの横ばいに対して、連邦政府は19.6%増の9.05兆ドルだ。リーマンショック以前の08年6月末の連邦政府債務(5.43兆ドル)と比較すると3.62兆ドルも増加しており、これが金融部門の債務の肩代りに該当する。金融部門の債務は9月末、14.44兆ドルとピークから2.67兆ドル減少しており、金融部門は身軽になる代わりに、政府部門が重荷を背負ったことになる。金融部門の悪い部分は政府やFRBに移転しているだけで、それらを清算してしまっているわけではない。FRBはなおも資金供給し、金融部門を支援しようとしているのだから、清算はいつになることやら。向こう何年間も米国経済の本格回復は見込めそうもない。

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この記事は「編集者」の寄稿です。2010年12月19日 19:36.

景気を悪化させる法人税率の引き下げ は以前の記事です。

金融緩和による商品市況の高騰 は以降の記事です。

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