中央銀行演出の危うい相場

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曽我純 :

11月の米雇用統計は予想を下回ったが、NYダウは下落せず、商品市況は大幅に値上りし、債券は売られた。雇用統計に唯一素直に反応したのは為替のドル売りだけである。米10年債の利回りは3.0%と7月中旬以来の高い水準に上昇した。FRBの金融緩和策が発表されてから43ベイシスポイントも上昇し、国債相場はFRBの狙いとは反対の方向に進んでいる。長期金利が上昇すれば、回復力の弱い設備投資やバブル崩壊で落ち込んだままの住宅の回復を阻むことになる。

経済指標を相場に都合よく解釈することで、いつまで株式や商品相場を維持できるのだろうか。悪い指標が発表されても、相場は多数の市場参加者の美人投票に従って価格付けが行われ、必ずしも指標通りには変動しないが、最終的にはファンダメンタルズに屈服せざるを得ない。ファンダメンタルズを蔑ろにし、投機の深みに嵌っていくと、いつのまにか参加者は少なくなり、相場から降りるに降りられなくなる。

FRBのゼロ金利と国債買い取りがいつ終わるのか検討もつかないことが、投機家を強気にさせている最大の要因である。金融部門は金融緩和というコスト低下の恩恵をフルに受けており、金融部門の活動は実体経済からますます離れている。FRBは、金融緩和は資金を経済に行き渡らせ、景気をよくすると考えているが、住宅バブルの崩壊で資産価値は下落し、資金需要はきわめて弱く、金融機関にマネーは溜まり、ヘッジファンド等に貸し出されているはずだ。マネーは実体経済よりむしろ株式、債券、為替、商品といった金融市場に入り込んでおり、相場を吊り上げている。

11月の消費者信頼感指数、11月の主要小売業売上高、11月の新車販売、10月の仮契約住宅販売指数などは景気回復を期待させた半面、11月の雇用統計をはじめ製造業ISMや9月のS&Pケース・シラー住宅価格指数は景気の持続性に疑問を投げかける内容であった。最も注目されていた雇用統計は一顧だにされなかった。

非農業部門雇用者数は前月比3.9万人増と2ヵ月連続のプラスだが、増加数は10月の17.2万人から減少した。民間部門は5.0万人と今年1月以降、11ヵ月連続の増加である。ただ、10月までは4ヵ月連続して10万人を超えており、11月は今年1月以来の低い伸びとなった。しかも、民間部門を支えたのは派遣等の一時雇用(3.9万人増)であり、企業の姿勢は依然慎重である。製造業は1.3万人減と9月の横ばいを除く11月までの3ヵ月は前月比マイナスとなり、夏場以降、製造業は雇用を絞っている。11月の売上が伸びた小売部門の雇用は2.8万人減と2ヵ月ぶりに減少した。

11月の失業率は9.8%と前月比0.2ポイント上昇し、今年4月以来7ヵ月ぶりの高い水準だ。これで9.0%超えは19ヵ月連続となり、第2次石油危機のときに並び、今回はこれを大幅に更新することは間違いない。失業者は1,511万人と前年よりも1.4%減少したが、仕事を諦め労働力人口にカウントされない人が増加し、非労働力人口は35.5%と前年よりも0.4ポイント高くなり、実際の失業者は数値以上である。失業率の高止まりから、長期失業者(27週以上)は631万人、前年を7.0%上回り、失業者の41.8%を占めている。

失業率が歴史的に高い水準に高止まりしていれば、消費の伸びは期待できない。10月の個人消費支出は前年比3.6%伸びたが、7月の4.1%を下回ったままであり、伸びは頭打ちである。高失業率が続けば、個人消費支出は2%台に低下するかもしれない。消費の低迷は設備投資マインドを悪化させるだけでなく、雇用にも影響が及ぶだろう。

9月の住宅価格指数は前月比-0.7%と3ヵ月連続の低下となった。4月末に初回住宅購入者向け減税措置が打ち切られたため、5月以降、住宅販売が減少していることが響いている。住宅需要の低迷が、住宅価格を引き下げ、さらに消費マインドを悪化させるというプロセスに入っているように思う。

雇用や住宅価格の動向などに基づけば、米国経済の回復の道筋はみえてこない。みえてこないばかりか、金融の不安定性が高まり、それが経済を再び撹乱する恐れもでてきている。金融危機を引き起こした張本人は焼け太りの状態となり、金融危機以前と米経済構造はさして変わっていない。これでは、近いうちに、また金融バブルが膨らみ、破裂するという愚が繰り返されることになる。

実体経済に必要な貨幣量をはるかに上回る貨幣を供給することは、放蕩息子にカネを与えることと同じだ。ろくでもないことに湯水のように使い、すってんてんになるのは目に見えている。米国のマネタリーベース(MB)・名目GDP比率は13.3%と金融危機以前に比べると2倍以上である。因みに日本のMBはGDPの20%と米国よりも6ポイント以上高く、しかもこの状態を長期間、続けていることから、日本経済はマネー漬けとなっている。マネー漬けとなっても、一向に景気がよくならないのは、実体経済の必要量をはるかに超えている部分の多くは日々の暮らしの中に入ってきていないからだ。日米の中央銀行によって供給されたマネーは、放蕩息子の浪費のように良からぬところで使われているのである。マネーを野放図にしている付けは、必ずバブル発生・破裂という形で回ってくることを、中央銀行は肝に銘じなければならない。

欧州がアイルランド支援を決め、ECBが資金供給や国債買い取りの継続を発表したことで、ひとまず欧州の金融が落ち着き、投機筋がマネーゲームに参戦してきたように思う。だが、欧州経済が厳しい状況に置かれていることは間違いなく、度々、今回のような危機が起こるだろう。財政を建て直すために、緊縮財政を強いられる国の経済は今年よりも悪化し、政治的な問題が噴出し、経済が混乱する可能性が高い。

EUの経済見通しによると、ユーロ圏の実質GDP成長率は2011年、1.5%と今年より0.2ポイント低くなる。現在、一人勝ちのドイツの減速がユーロ圏に大きく影響する見通しである。青息吐息のアイルランドは今年の-0.2%から0.9%へとプラスを見込んでいるが、金融部門が脆弱で財政を絞るとなれば、プラス成長は非現実的だ。為替の調整メカニズムが作用しないため、引き続き欧州の支援で再生を図るしかない。

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この記事は「編集者」の寄稿です。2010年12月 5日 19:40.

政治的処理能力が問われている欧州の金融危機 は以前の記事です。

景気を悪化させる法人税率の引き下げ は以降の記事です。

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