政治的処理能力が問われている欧州の金融危機

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曽我 純 :

米金融緩和の狙いはドル安、国債高であったが、最近はドル高、国債安となり狙いとは反対に動いている。米金融緩和策発表の約1週間後に顕著になってきたアイルランドに端を発する金融危機が南欧に伝播しつつあり、対ドルでユーロは3週連続安となった。住宅バブル崩壊や金融機関の不良債権は欧州経済に伸し掛かっており、それらの処理は一筋縄ではいかない。10月のインフレ率も米国の1.2%に対してユーロ圏は1.9%と高く、ユーロの価値は相対的に低下しており、ユーロ売りを誘っている。

07年頃までに膨れた住宅バブルは米国だけでなく欧州でも進行していたことを思い出せば、いままでアイルランドが平穏であったことが不思議である。膿をださねば経済は良くならないことはわかっているが、自国だけの力では手に負えず、アイルランドの回復はユーロ圏等がどれだけ負担に耐えられるかに掛かっている。

7-9月期のユーロ圏実質GDPは前期比0.4%と伸び率は前期よりも0.6ポイント低下し、米国を下回った。アイルランドのGDPはまだ発表されていないが、4-6月期は1.2%低下している。ギリシャは-1.1%とマイナスが続いており、スペインは横ばい、ポルトガルは0.4%の増加だ。ドイツは0.7%伸びたが、前期(2.3%)に比べれば大幅に鈍化した。

アイルランドは24日、財政再建計画を発表したが、前提となる2014年までの4年間の平均実質GDP成長率を2.75%としている。が、住宅バブル崩壊による消費マインドの悪化や巨額の不良債権を抱えて身動きのとれない金融機関の処理などを考えれば、とても実現できる成長率ではなく、計画は絵に描いた餅である。

07年までのアイルランドの実質GDP成長率は驚異的な伸びをみせ、ユーロ圏を大幅に上回っていた。こうした異常に高い伸びは不動産や金融部門に導かれたものであり、実体経済とマネー経済が完全に遊離してしまった。マネー経済の肥大化により、GDPは嵩上げされ、高成長となった。いまその反動減に見舞われている。

08年以降、状況は一変、前年比3.5%のマイナス成長となり、バブルの本家である米国よりも1年早く水面下に落ち込んだ。米国が1946年以来の大幅なマイナスになった09年には、アイルランドのGDPは7.6%減と急低下し、2010年にはいっても前年割れが続いている。これからバブル処理を本格化し、財政支出も削減しながら、2011年から高い成長を遂げることはとうてい不可能である。

単一通貨ユーロを導入し、金融政策も一元化したユーロ圏だが、実体経済の格差は縮小していない。ユーロ圏の7-9月期の実質GDP成長率は前年比1.9%だが、マイナス4.5%のギリシャから最高はドイツ(3.9%)まで格差は大きい。インフレ率もアイルランドの前年比マイナス0.8%から5.2%も上昇しているギリシャまで6.0ポイントの開きがある。これほど違いがあるにもかかわらず、政策金利は1.0%なのである。経済成長率だけみても今の政策金利が適切な国はすくない。

ユーロ圏で捉えると、インフレ率は1.9%上昇しているので、実質政策金利はマイナスとなり低すぎる。アイルランド等の金融部門を救済するために1.0%に抑えているが、正常な経済にとっては有利な措置となる。金融をさらに緩和しなければならない国、反対に引き上げが必要な国もあるが、弱いところに合わせざるを得ない。そして、強い国が手助けしてゆかねばユーロ圏はとても持つまい。ユーロ圏の政治の成熟度が試される事態が続くだろう。

■ 外需の伸び弱くなり政府の負担強まる

10月の貿易統計によれば、日本の輸出は前年比7.8%と8ヵ月連続で伸び率は低下した。対アジアは11.3%と依然2桁増を維持しているが、対米は4.7%に低下、対EUは-1.9%と昨年11月以来のマイナスになった。EUからの輸入は11.5%とやや伸びていることから、円高ユーロ安の影響がでている。最近、円高ユーロ安が再び強まっていることから、ユーロへの輸出はさらに厳しくなりそうだ。いずれにしても輸出の伸びはますます弱くなっており、低迷する内需を補うことができなくなってきている。

輸出を支えているのは一般機械であり、輸出の7.8%増のうち5.2%が一般機械だ。一般機械の輸出額の半分以上はアジア向けである。半導体、映像などの電機機器の伸び率は2.4%に低下し、寄与度は0.5%にすぎない。電気機器は一般機械よりもさらにアジア依存度が高く、日本の輸出はアジアで保たれているといっても過言ではない。そのアジアへの輸出もあきらかに鈍化してきており、数量ベースでは今年1月の前年比63.7%から10月は5.8%に低下し、11月は前年割れになるだろう。

内需が振るわず、輸出も前年を割ることになれば、頼りになるのは政府部門だけだ。民間部門や外需の不振による需要不足は、政府部門の拡大で自動的に補われるだろう。デフレにより消費が低迷し貯蓄が増加するいまの日本では政府支出は拡大せざるを得ない。さかんに法人税率の引き下げが言われているが、企業の設備投資意欲が低いときに、引き下げを実行すれば、政府部門がますます拡大することは貯蓄と投資の恒等関係からあきらかである。企業は政府の肩代わりなどできないのである。

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この記事は「編集者」の寄稿です。2010年11月28日 18:11.

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