米追加金融緩和策の弊害早くも露呈

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曽我純:

3日発表の米金融緩和策の市場への効果は出尽くした。Dowは金融緩和策を発表した前日以来の低い水準に下落し、商品市況は急落した。金融緩和は世界にhot moneyをばら撒き、投機を煽り、株や商品価格を押し上げた。すでに、こうした流れは9月以降顕著になってきており、公表から1週間も経過しないうちに、賞味期限切れとなり、抗がん剤のような副作用があらわれてきた。

世界経済が減速していながら、株式や素材価格が上昇することは、実需ではなく単に値上り益だけを求めた投機マネーが流入していることを示している。FRBが国債を買うことによって、金利が下がり、それが景気を刺激することになるのだが、緩和策発表後、短期金利は横ばい、長期金利は上昇しており、FRBの目論見は投機家の期待を満足させただけとなった。

そもそも3ヵ月物の金利は0.3%を下回っており、いくら信用を緩めても、低下幅はたかが知れている。日本と違い米国経済はデフレではなく、7-9月期の名目GDPは前年比4.4%増と長期金利(2.6%)を大幅に上回っているため、長期金利の低下余地は乏しく、民間設備投資や住宅の購入を促すことはできない。

金融緩和をほのめかしたことにより、9月以降、株式や商品市場には政策を先取りした買いが活発になり、上昇力を強めていた。期待で上昇していただけに期待が現実になれば目標を失い、立ち竦むことになる。

資源価格の上昇は、輸入に依存している新興国の物価を押し上げ、インフレを警戒しなければならなくなった。原油や銅などの素材を大量に輸入している中国の物価が上昇するのは必至だ。FRBの金融緩和方針が期待を膨らませ、値上りすることのない資源価格を引き上げ、負の効果を世界経済に与えたことは間違いない。金融緩和は米国の為替や長期金利を思ったように動かすことができず、インフレ懸念や欧州の金融不安の引き金となった。アイルランド国債等の急落も、米金融緩和により、ユーロ高ドル安、国債価格の上昇を期待して買い持ちした投機者の読みが外れたからではないか。

新興国の物価上昇懸念が金利を引き上げ、景気拡大を抑えるだろう。日本の景気は言うに及ばず、米国の足取りも不確かであり、ユーロ経済は減速しつつある。これで新興国の景気が資源高、利上げで腰折れすることになれば、世界経済がおかしくなるのは目に見えている。

FRBの意味のない金融緩和が世界経済を苦境に追い込んでいる。08年10月以降、信用不安により準備預金の急増という形で銀行の資産は現金に傾斜してきた。FRBの国債やMBSの買い取りが銀行への資金供給となったが、貸付には回らず準備預金、国債に充当されてきた。10月の商業銀行の現金残高は1.12兆ドル、総資産の9.3%を占めており、金融危機以前の08年8月(2.9%)に比べれば、商業銀行の現金保有比率は異常に高い状態で推移している。商業銀行に買いオペでいくらマネーを供給しても現金を積み上げた状態が続いており、市中にでていかないのだ。このように貨幣が循環しない状況が続けば、FRBの資金供給作戦は失敗の烙印を押されることになるだろう。そもそも、貨幣を供給すれば経済が回復するというミルトン・フリードマンの思想を踏襲しているバーナンキFRB議長では、米国経済を立ち直らせることは無理なのである。

GDPは貯蓄と投資の関係で決まるのであり、貨幣供給は金利に影響する場合にのみGDPに関わってくるだけだ。金利が低下したとしても、消費性向等他の条件が変化すればその限りではない。家計が住宅価格の下落やローン返済で苦しんでいるときに、消費が回復することはないだろうし、消費の低迷が続けば、企業の設備投資意欲も盛り上がることは難しい。中間選挙で民主党が敗北したため、財政面からの景気てこ入れは期待できなくなり、米国経済は2番底に陥る事態もあり得るのではないか。


10月の米商業銀行の商工業貸出は前年比8.4%減と18ヵ月連続のマイナスだが、日本の銀行計の貸出も2.0%減と前年割れが続いている。「景気対応緊急保証制度」(36兆円規模、8,000万円まで無担保、信用保証協会の100%保証、期間来年3月末まで)で銀行は安心して貸し出すことができるにもかかわらず貸出は一向に持ち直さない。預金は3.1%も増加しているので、銀行は国債を買わざるをえない。それしか選択肢がないのだ。

『消費動向調査』によると、消費者態度指数(一般世帯)は6月をピークに4ヵ月連続の低下となった。7-9月期の企業業績が急増したのとは対照的である。7-9月期の上場企業の売上高は10%近く伸びた半面、勤労者世帯の実収入は0.2%の微増にとどまった。実収入は09年7-9月期が4.6%も減少しているため、2年前との比較では4.4%減である。大企業との比較とはいえ、企業の売上と勤労者収入の伸び率の隔たりはあまりにも大きい。営業利益が前年の5割り増しに拡大したのは、人件費を抑えた結果なのだ。人件費を切り詰めることによって、個々の企業の利益は増加するが、購買力が伴わないので長続きしない。一時的な利益拡大に終わらせないためにも、企業は売上の拡大と同じように人件費も増やさなければならない。

9月の景気動向指数によると、CIの先行指数は前月比-0.6%と3ヵ月連続の低下となり、一致指数も-1.3%と18ヵ月ぶりに低下した。ディフージョン・インデックス(DI)の先行指数も6月以降、景気の分れ目である50%を下回っている。一致指数は9月、55.6%と3月まで3ヵ月連続の100%を境に低下しつつあり、景気後退の範囲が広がりつつある。10月は50%を切ることになり、DIからも政府は景気後退判断を突きつけられるだろう。

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この記事は「編集者」の寄稿です。2010年11月14日 19:30.

資産価格の上昇を煽るFRBの金融緩和策 は以前の記事です。

投機が渦巻く日本の株式市場 は以降の記事です。

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