資産価格の上昇を煽るFRBの金融緩和策

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曽我 純:

3日発表のFRBの金融緩和策は世界の株式や商品市場を活気づけた。NYダウは6営業日連続の上昇で08年9月8日以来の高い水準に回復し、金は過去最高を更新した。ドルのばらまき政策により、円を除く主要通貨に対してドルは弱くなった。長期金利は第1次量的緩和時(09年3月18日)のようには低下しなかった。第1次時点では株式は6,000ドル台に急落していたため、V字型に回復した。国債利回りは当日2.53%に急低下したが、その後3%台後半に急上昇していった。

米株式は金融緩和をすでに織り込んでいるため、このレベルからさらに上昇するには、実体経済の回復力が強まることが必要である。2010年7-9月期の実質GDP は第1次量的緩和期の09年1-3月期を3.3%上回っているだけであり、回復は緩慢である。10月の非農業部門雇用者は前月比15.1万人増と5ヵ月ぶりのプラスとなった。10月のISM景況感指数は製造業、非製造業ともに前月比プラスとなったが、前者は4月、後者は3月~5月の水準を下回ったままである。失業率の高止まりなどから、個人消費支出は9月、前月比0.2%と弱く、米国経済の不透明感は拭えていない。

FRBは6,000億ドルの国債を買い入れ、銀行にマネーを供給するが、家計等は不良資産を抱えたままであり、資金需要は弱く、銀行は貸出を伸ばすことはできない。銀行は国債を売却して入手した資金を国債に注ぎ込むか、資金運用機関に貸し出すか、貸出先は限られている。そうした分野にしかマネー需要は出てこないからだ。FRBの金融緩和は市場関係者に資産価格の値上り期待を抱かせ、株式や商品へのマネーの流入を誘いでいる。

バーナンキFRB議長は4日、ワシントン・ポスト紙への寄稿文で、金融緩和は資産価格の上昇効果が期待でき、それによって経済成長は促進されると述べている。これは実体経済の低迷を資産価格の上昇によって引き上げようとするものである。このような考え方は本末転倒であり、バーナンキFRB議長の放った第2弾の量的緩和は、グリーンスパン前FRB議長が、今回の住宅バブルを膨らませた04年までの超低金利政策を彷彿させる。サブプライムのように貸さないほうがよいところや貸してはいけないところへ資金が貸し出されつつある。

株式などの資産価格は実体経済を反映するものであり、その逆ではない。住宅バブルの破裂によって、住宅価格は大幅に下落し、不良資産や差し押さえ等の問題を処理している段階にあるため、米国経済の7割を占める個人消費が本格的に回復することはない。そのような経済環境下で株式や商品だけが上昇していけば、資産価格は実体経済から離れていくばかりである。住宅バブル崩壊の処理が道半ばのなかで、再び株式や商品相場が急落すれば、米国経済の土台は揺らぐことになり、元の健全な状態に戻るに予想もできない時間を要することになる。

バーナンキFRB議長はとにかく貨幣をばらまけば、景気は良くなると考えているようだ。貨幣需要が出てこないばかりか、FRBがさらなる金融緩和を実施したことは、景気は悪くデフレの心配もあると受け取られ、流動性選好はますます強まり、貨幣は経済に回らなくなる。ケインズのいう資本の限界効率が回復せず、消費性向も低下するなど、例え、貨幣が経済に流れたとしても、貨幣の供給は経済の刺激には結びつきにくい。

住宅のようなストックが毀損しているときには、強い流動性選好や資本の限界効率の低下によって、金融政策は実体経済の回復にはほとんど効かないのだ。効くとすれば資産価格の上昇であるが、これは一時的であり、しかもバブルの形成・崩壊という金融システムを破綻させる劇薬である。07年中央から深刻になってきた住宅バブルの破裂のようなことが、FRBの2度の量的緩和によって再び引き起こされようとしている。金融や市場関係者によって作り上げられたシナリオに乗ったバーナンキFRB議長の罪は重い。

日本株も米株高に連れ高している。今年度上期の企業業績がほぼ出揃ったが、日経の集計によると、全産業の経常利益は上期、10.68兆円、前年比2.6倍に拡大した。通期の18.31兆円予想から下期は7.63兆円と上期を3割近く下回る。09年度下期の経常利益は8.18兆円であるから、今年度下期は前年を6.3%下回る減益予想である。経常利益の前年比伸び率がピークアウトし、しかも減益に転じるときの株価上昇リスクは極めて高い。

10月の新車販売台数が前年比26.7%減と大幅に落ち込んだが、向こう1年、このような状態が続くだろう。9月の現金給与総額は前年比0.9%増加したが、前年が1.9%も減少していたからであり、景況感が悪化している状況下では、これからも良くて微増だと思う。所定内給与はプラス0.1%と浮上したものの、この程度の持ち直しでは購買意欲を掻き立てることはできない。総実労働時間は産業計で前月比横ばいとなり、製造業では2ヵ月連続のマイナスとなった。自動車、半導体等の減産により製造業の労働時間は減少するだろう。

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この記事は「編集者」の寄稿です。2010年11月 7日 19:34.

生産の急低下、株式に引導を渡す は以前の記事です。

米追加金融緩和策の弊害早くも露呈 は以降の記事です。

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