2010年11月 Archives

曽我 純 :

米金融緩和の狙いはドル安、国債高であったが、最近はドル高、国債安となり狙いとは反対に動いている。米金融緩和策発表の約1週間後に顕著になってきたアイルランドに端を発する金融危機が南欧に伝播しつつあり、対ドルでユーロは3週連続安となった。住宅バブル崩壊や金融機関の不良債権は欧州経済に伸し掛かっており、それらの処理は一筋縄ではいかない。10月のインフレ率も米国の1.2%に対してユーロ圏は1.9%と高く、ユーロの価値は相対的に低下しており、ユーロ売りを誘っている。

07年頃までに膨れた住宅バブルは米国だけでなく欧州でも進行していたことを思い出せば、いままでアイルランドが平穏であったことが不思議である。膿をださねば経済は良くならないことはわかっているが、自国だけの力では手に負えず、アイルランドの回復はユーロ圏等がどれだけ負担に耐えられるかに掛かっている。

7-9月期のユーロ圏実質GDPは前期比0.4%と伸び率は前期よりも0.6ポイント低下し、米国を下回った。アイルランドのGDPはまだ発表されていないが、4-6月期は1.2%低下している。ギリシャは-1.1%とマイナスが続いており、スペインは横ばい、ポルトガルは0.4%の増加だ。ドイツは0.7%伸びたが、前期(2.3%)に比べれば大幅に鈍化した。

アイルランドは24日、財政再建計画を発表したが、前提となる2014年までの4年間の平均実質GDP成長率を2.75%としている。が、住宅バブル崩壊による消費マインドの悪化や巨額の不良債権を抱えて身動きのとれない金融機関の処理などを考えれば、とても実現できる成長率ではなく、計画は絵に描いた餅である。

07年までのアイルランドの実質GDP成長率は驚異的な伸びをみせ、ユーロ圏を大幅に上回っていた。こうした異常に高い伸びは不動産や金融部門に導かれたものであり、実体経済とマネー経済が完全に遊離してしまった。マネー経済の肥大化により、GDPは嵩上げされ、高成長となった。いまその反動減に見舞われている。

08年以降、状況は一変、前年比3.5%のマイナス成長となり、バブルの本家である米国よりも1年早く水面下に落ち込んだ。米国が1946年以来の大幅なマイナスになった09年には、アイルランドのGDPは7.6%減と急低下し、2010年にはいっても前年割れが続いている。これからバブル処理を本格化し、財政支出も削減しながら、2011年から高い成長を遂げることはとうてい不可能である。

単一通貨ユーロを導入し、金融政策も一元化したユーロ圏だが、実体経済の格差は縮小していない。ユーロ圏の7-9月期の実質GDP成長率は前年比1.9%だが、マイナス4.5%のギリシャから最高はドイツ(3.9%)まで格差は大きい。インフレ率もアイルランドの前年比マイナス0.8%から5.2%も上昇しているギリシャまで6.0ポイントの開きがある。これほど違いがあるにもかかわらず、政策金利は1.0%なのである。経済成長率だけみても今の政策金利が適切な国はすくない。

ユーロ圏で捉えると、インフレ率は1.9%上昇しているので、実質政策金利はマイナスとなり低すぎる。アイルランド等の金融部門を救済するために1.0%に抑えているが、正常な経済にとっては有利な措置となる。金融をさらに緩和しなければならない国、反対に引き上げが必要な国もあるが、弱いところに合わせざるを得ない。そして、強い国が手助けしてゆかねばユーロ圏はとても持つまい。ユーロ圏の政治の成熟度が試される事態が続くだろう。

■ 外需の伸び弱くなり政府の負担強まる

10月の貿易統計によれば、日本の輸出は前年比7.8%と8ヵ月連続で伸び率は低下した。対アジアは11.3%と依然2桁増を維持しているが、対米は4.7%に低下、対EUは-1.9%と昨年11月以来のマイナスになった。EUからの輸入は11.5%とやや伸びていることから、円高ユーロ安の影響がでている。最近、円高ユーロ安が再び強まっていることから、ユーロへの輸出はさらに厳しくなりそうだ。いずれにしても輸出の伸びはますます弱くなっており、低迷する内需を補うことができなくなってきている。

輸出を支えているのは一般機械であり、輸出の7.8%増のうち5.2%が一般機械だ。一般機械の輸出額の半分以上はアジア向けである。半導体、映像などの電機機器の伸び率は2.4%に低下し、寄与度は0.5%にすぎない。電気機器は一般機械よりもさらにアジア依存度が高く、日本の輸出はアジアで保たれているといっても過言ではない。そのアジアへの輸出もあきらかに鈍化してきており、数量ベースでは今年1月の前年比63.7%から10月は5.8%に低下し、11月は前年割れになるだろう。

内需が振るわず、輸出も前年を割ることになれば、頼りになるのは政府部門だけだ。民間部門や外需の不振による需要不足は、政府部門の拡大で自動的に補われるだろう。デフレにより消費が低迷し貯蓄が増加するいまの日本では政府支出は拡大せざるを得ない。さかんに法人税率の引き下げが言われているが、企業の設備投資意欲が低いときに、引き下げを実行すれば、政府部門がますます拡大することは貯蓄と投資の恒等関係からあきらかである。企業は政府の肩代わりなどできないのである。

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投機が渦巻く日本の株式市場

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曽我 純:

日経平均株価は3週連続高となり、週末値では今年5月第2週以来の1万円台乗せとなった。予想株価収益率をみると日本株は海外に比べて割安ではなく、最近の日本株の上昇を説明できる材料はない。東証1部の売買代金の約7割を占める外人の買いで、株価は引き上げられている。商品市況があまりにも上昇しすぎたので、そこから撤退し、その資金を日本株に振り向けているのだろうか。株売り、債券買いのポジションを手仕舞う結果なのだろうか。いずれにしても投機資金による流入であることは間違いなく、流入が続くのか、途切れるのか、流出に転じるのかで日本株の帰趨は決まる。

株式市場が外人に7割も支配されていることは異常だ。今日本株に起こっていることは、新興国に投機資金が流入し市場が撹乱され、経済が混乱するのとおなじことである。海外の投機者によって、株価の変動が激しくなり、それにより日本経済が混乱するのでは困る。株式崩壊の90年代以降、何回株式の変動で経済が正常に機能しなくなったことだろう。日本経済は投機に弄ばれてきたといえる。投機から経済を護らなければいけないところを、投機を煽る政策を採ったことが最大の失敗であった。ケインズの「企業が投機の渦巻のなかの泡沫となると事態は重大である」(『一般理論』、p.159)との指摘は今の日本経済の実情を突いている。いまからでも株式から投機を遮断する取引税等の導入を図る必要がある。

■ はなはだ心もとないGDPの中身

1万円に乗せたことで、外人の当面の目標は達成されたと思う。今後、利益が上方修正されるような状況であれば、株価は持続するかもしれないが、これまでは、政府の経済政策により、日本経済は実力以上に嵩上げされていたが、今年度下期は政策効果が薄れていくことから、反動減に見舞われ、10-12月期以降のGDPは2四半期連続で減少するかもしれない。新車販売台数は10月、前年比26.7%減に落ち込み、景気にマイナスに作用しているが、エコポイントの薄型テレビ等も12月以降は、ポイント半減で売れ行きは激減するだろう。外需の輸出はすでに5ヵ月連続の前月比減となり、製造業の業績の足を引っ張っている。10月の鉱工業生産指数は大幅に低下する見通しであり、これも製造業の業績悪化を裏付けることになろう。

週初に発表された7-9月期のGDPをみても、政策効果があってもこの程度なのかという内容であった。デフレーターは前期比0.2%、前年比2.0%それぞれ低下した。前期比では2四半期連続、前年比では6四半期連続のマイナスである。名目GDPは前期比0.7%増加したが、4-6月期が前期比0.7%減だったため、1-3月期の規模に戻っただけだ。

0.7%増の寄与度をみると、最大は民間在庫品増加で0.4%、次が民間最終消費支出の0.2%である。まことに心もとない内容であり、これでは成長しているとはいえない。在庫はおそらく意図せざる増加であり、10-12月期はこれがマイナス幅をおおきくするだろう。民間最終消費支出が前期比0.4%伸びたくらいでは、成長率は決して高くならない。7-9月期の民間最終消費支出の規模は284.6兆円、GDPの58.9%を占めているが、前年よりも0.9ポイントの低下だ。民間最終消費支出は底であった09年1-3月期に比べても1.1%しか増加していない。

補助金、エコポイントがありながら民間最終消費支出が伸びないのは、報酬の低迷と将来の見通しが暗いからだ。事実、7-9月期の雇用者報酬は前期比0.1%減少しており、過去3四半期ほぼ同じである。前年比では1.0%増加しているが、これは前年同期が3.8%減少しているからであり、08年7-9月期に比較すると2.8%も減少している。家計の財布の紐はきつく縛られたままであり、消費の回復が期待できるような状態ではない。

■ デフレに近づく米国経済

米国経済も基本的には変化に乏しく、景気の足取りは重い。10月の小売売上高は前月比1.2%と大幅に伸びたが、自動車等を除けば0.4%とそれほどでもない。家具と家電はマイナスになるなど売上は全体に広がっていない。

10月の米鉱工業生産指数は前月比横ばいと前月のようにマイナスにはならなかったものの、それでも生産水準は金融危機の期間を除けば、6年前の04年秋の低い水準である。前年比では6月がピークとなり、すでに4ヵ月連続で伸び率は低下している。設備稼働率は74.8%と過去4ヵ月ほぼ横ばいだが、ハイテク関連は71.9%と全産業を下回っているばかりでなく、6月以降6ヵ月連続で低下している。

設備稼働率の回復の遅れは、消費者物価(CPI)の上昇を押える要因になっている。10月の米CPI(食品・エネルギーを除く)は前月比横ばいとなり、これで指数は3ヵ月同じである。CPIが横ばいになることは、カネとモノの交換が不活発になってきており、景気がよくないことを示している。CPIの前年比上昇率は0.6%と1957年以降では最低となり、米国はデフレ経済に近づきつつある。CPIは設備稼働率に遅行する傾向にあり、今後、設備稼働率が低下することになれば、日本のようにCPIはマイナスになるだろう。

デフレを示唆するもうひとつの指標に住宅着工件数を挙げることができる。10月は51.9万戸、前月比11.7%も減少し、最低であった09年4月以来の水準に落ち込んだ。4月末に減税が打ち切られてから、住宅着工は減少傾向にあり、これもCPIに影響している。住宅着工の縮小は消費減に繋がり、米国経済をデフレに近づけることになる。

今月に入り2度も預金準備率を引き上げた中国の引き締め策は明らかに米国への対抗措置だ。米国の金融緩和の効果を掻き消そうとしている。米国は中国の金融政策に振り回されている。おそらく、中国は利上げに踏み切り、さらに米国経済を追い詰めるだろう。米国は為替の問題を持ち出すことができなくなるかもしれない。米国は国内要因だけでなく中国からもデフレ圧力が掛かってきそうだ。

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米追加金融緩和策の弊害早くも露呈

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曽我純:

3日発表の米金融緩和策の市場への効果は出尽くした。Dowは金融緩和策を発表した前日以来の低い水準に下落し、商品市況は急落した。金融緩和は世界にhot moneyをばら撒き、投機を煽り、株や商品価格を押し上げた。すでに、こうした流れは9月以降顕著になってきており、公表から1週間も経過しないうちに、賞味期限切れとなり、抗がん剤のような副作用があらわれてきた。

世界経済が減速していながら、株式や素材価格が上昇することは、実需ではなく単に値上り益だけを求めた投機マネーが流入していることを示している。FRBが国債を買うことによって、金利が下がり、それが景気を刺激することになるのだが、緩和策発表後、短期金利は横ばい、長期金利は上昇しており、FRBの目論見は投機家の期待を満足させただけとなった。

そもそも3ヵ月物の金利は0.3%を下回っており、いくら信用を緩めても、低下幅はたかが知れている。日本と違い米国経済はデフレではなく、7-9月期の名目GDPは前年比4.4%増と長期金利(2.6%)を大幅に上回っているため、長期金利の低下余地は乏しく、民間設備投資や住宅の購入を促すことはできない。

金融緩和をほのめかしたことにより、9月以降、株式や商品市場には政策を先取りした買いが活発になり、上昇力を強めていた。期待で上昇していただけに期待が現実になれば目標を失い、立ち竦むことになる。

資源価格の上昇は、輸入に依存している新興国の物価を押し上げ、インフレを警戒しなければならなくなった。原油や銅などの素材を大量に輸入している中国の物価が上昇するのは必至だ。FRBの金融緩和方針が期待を膨らませ、値上りすることのない資源価格を引き上げ、負の効果を世界経済に与えたことは間違いない。金融緩和は米国の為替や長期金利を思ったように動かすことができず、インフレ懸念や欧州の金融不安の引き金となった。アイルランド国債等の急落も、米金融緩和により、ユーロ高ドル安、国債価格の上昇を期待して買い持ちした投機者の読みが外れたからではないか。

新興国の物価上昇懸念が金利を引き上げ、景気拡大を抑えるだろう。日本の景気は言うに及ばず、米国の足取りも不確かであり、ユーロ経済は減速しつつある。これで新興国の景気が資源高、利上げで腰折れすることになれば、世界経済がおかしくなるのは目に見えている。

FRBの意味のない金融緩和が世界経済を苦境に追い込んでいる。08年10月以降、信用不安により準備預金の急増という形で銀行の資産は現金に傾斜してきた。FRBの国債やMBSの買い取りが銀行への資金供給となったが、貸付には回らず準備預金、国債に充当されてきた。10月の商業銀行の現金残高は1.12兆ドル、総資産の9.3%を占めており、金融危機以前の08年8月(2.9%)に比べれば、商業銀行の現金保有比率は異常に高い状態で推移している。商業銀行に買いオペでいくらマネーを供給しても現金を積み上げた状態が続いており、市中にでていかないのだ。このように貨幣が循環しない状況が続けば、FRBの資金供給作戦は失敗の烙印を押されることになるだろう。そもそも、貨幣を供給すれば経済が回復するというミルトン・フリードマンの思想を踏襲しているバーナンキFRB議長では、米国経済を立ち直らせることは無理なのである。

GDPは貯蓄と投資の関係で決まるのであり、貨幣供給は金利に影響する場合にのみGDPに関わってくるだけだ。金利が低下したとしても、消費性向等他の条件が変化すればその限りではない。家計が住宅価格の下落やローン返済で苦しんでいるときに、消費が回復することはないだろうし、消費の低迷が続けば、企業の設備投資意欲も盛り上がることは難しい。中間選挙で民主党が敗北したため、財政面からの景気てこ入れは期待できなくなり、米国経済は2番底に陥る事態もあり得るのではないか。


10月の米商業銀行の商工業貸出は前年比8.4%減と18ヵ月連続のマイナスだが、日本の銀行計の貸出も2.0%減と前年割れが続いている。「景気対応緊急保証制度」(36兆円規模、8,000万円まで無担保、信用保証協会の100%保証、期間来年3月末まで)で銀行は安心して貸し出すことができるにもかかわらず貸出は一向に持ち直さない。預金は3.1%も増加しているので、銀行は国債を買わざるをえない。それしか選択肢がないのだ。

『消費動向調査』によると、消費者態度指数(一般世帯)は6月をピークに4ヵ月連続の低下となった。7-9月期の企業業績が急増したのとは対照的である。7-9月期の上場企業の売上高は10%近く伸びた半面、勤労者世帯の実収入は0.2%の微増にとどまった。実収入は09年7-9月期が4.6%も減少しているため、2年前との比較では4.4%減である。大企業との比較とはいえ、企業の売上と勤労者収入の伸び率の隔たりはあまりにも大きい。営業利益が前年の5割り増しに拡大したのは、人件費を抑えた結果なのだ。人件費を切り詰めることによって、個々の企業の利益は増加するが、購買力が伴わないので長続きしない。一時的な利益拡大に終わらせないためにも、企業は売上の拡大と同じように人件費も増やさなければならない。

9月の景気動向指数によると、CIの先行指数は前月比-0.6%と3ヵ月連続の低下となり、一致指数も-1.3%と18ヵ月ぶりに低下した。ディフージョン・インデックス(DI)の先行指数も6月以降、景気の分れ目である50%を下回っている。一致指数は9月、55.6%と3月まで3ヵ月連続の100%を境に低下しつつあり、景気後退の範囲が広がりつつある。10月は50%を切ることになり、DIからも政府は景気後退判断を突きつけられるだろう。

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曽我 純:

3日発表のFRBの金融緩和策は世界の株式や商品市場を活気づけた。NYダウは6営業日連続の上昇で08年9月8日以来の高い水準に回復し、金は過去最高を更新した。ドルのばらまき政策により、円を除く主要通貨に対してドルは弱くなった。長期金利は第1次量的緩和時(09年3月18日)のようには低下しなかった。第1次時点では株式は6,000ドル台に急落していたため、V字型に回復した。国債利回りは当日2.53%に急低下したが、その後3%台後半に急上昇していった。

米株式は金融緩和をすでに織り込んでいるため、このレベルからさらに上昇するには、実体経済の回復力が強まることが必要である。2010年7-9月期の実質GDP は第1次量的緩和期の09年1-3月期を3.3%上回っているだけであり、回復は緩慢である。10月の非農業部門雇用者は前月比15.1万人増と5ヵ月ぶりのプラスとなった。10月のISM景況感指数は製造業、非製造業ともに前月比プラスとなったが、前者は4月、後者は3月~5月の水準を下回ったままである。失業率の高止まりなどから、個人消費支出は9月、前月比0.2%と弱く、米国経済の不透明感は拭えていない。

FRBは6,000億ドルの国債を買い入れ、銀行にマネーを供給するが、家計等は不良資産を抱えたままであり、資金需要は弱く、銀行は貸出を伸ばすことはできない。銀行は国債を売却して入手した資金を国債に注ぎ込むか、資金運用機関に貸し出すか、貸出先は限られている。そうした分野にしかマネー需要は出てこないからだ。FRBの金融緩和は市場関係者に資産価格の値上り期待を抱かせ、株式や商品へのマネーの流入を誘いでいる。

バーナンキFRB議長は4日、ワシントン・ポスト紙への寄稿文で、金融緩和は資産価格の上昇効果が期待でき、それによって経済成長は促進されると述べている。これは実体経済の低迷を資産価格の上昇によって引き上げようとするものである。このような考え方は本末転倒であり、バーナンキFRB議長の放った第2弾の量的緩和は、グリーンスパン前FRB議長が、今回の住宅バブルを膨らませた04年までの超低金利政策を彷彿させる。サブプライムのように貸さないほうがよいところや貸してはいけないところへ資金が貸し出されつつある。

株式などの資産価格は実体経済を反映するものであり、その逆ではない。住宅バブルの破裂によって、住宅価格は大幅に下落し、不良資産や差し押さえ等の問題を処理している段階にあるため、米国経済の7割を占める個人消費が本格的に回復することはない。そのような経済環境下で株式や商品だけが上昇していけば、資産価格は実体経済から離れていくばかりである。住宅バブル崩壊の処理が道半ばのなかで、再び株式や商品相場が急落すれば、米国経済の土台は揺らぐことになり、元の健全な状態に戻るに予想もできない時間を要することになる。

バーナンキFRB議長はとにかく貨幣をばらまけば、景気は良くなると考えているようだ。貨幣需要が出てこないばかりか、FRBがさらなる金融緩和を実施したことは、景気は悪くデフレの心配もあると受け取られ、流動性選好はますます強まり、貨幣は経済に回らなくなる。ケインズのいう資本の限界効率が回復せず、消費性向も低下するなど、例え、貨幣が経済に流れたとしても、貨幣の供給は経済の刺激には結びつきにくい。

住宅のようなストックが毀損しているときには、強い流動性選好や資本の限界効率の低下によって、金融政策は実体経済の回復にはほとんど効かないのだ。効くとすれば資産価格の上昇であるが、これは一時的であり、しかもバブルの形成・崩壊という金融システムを破綻させる劇薬である。07年中央から深刻になってきた住宅バブルの破裂のようなことが、FRBの2度の量的緩和によって再び引き起こされようとしている。金融や市場関係者によって作り上げられたシナリオに乗ったバーナンキFRB議長の罪は重い。

日本株も米株高に連れ高している。今年度上期の企業業績がほぼ出揃ったが、日経の集計によると、全産業の経常利益は上期、10.68兆円、前年比2.6倍に拡大した。通期の18.31兆円予想から下期は7.63兆円と上期を3割近く下回る。09年度下期の経常利益は8.18兆円であるから、今年度下期は前年を6.3%下回る減益予想である。経常利益の前年比伸び率がピークアウトし、しかも減益に転じるときの株価上昇リスクは極めて高い。

10月の新車販売台数が前年比26.7%減と大幅に落ち込んだが、向こう1年、このような状態が続くだろう。9月の現金給与総額は前年比0.9%増加したが、前年が1.9%も減少していたからであり、景況感が悪化している状況下では、これからも良くて微増だと思う。所定内給与はプラス0.1%と浮上したものの、この程度の持ち直しでは購買意欲を掻き立てることはできない。総実労働時間は産業計で前月比横ばいとなり、製造業では2ヵ月連続のマイナスとなった。自動車、半導体等の減産により製造業の労働時間は減少するだろう。

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