生産の急低下、株式に引導を渡す

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曽我 純:

景気に鈍い動きをしていた株式もついにそれを注視せざるを得なくなった。米国の金融政策ばかりに気をとられていて、肝心な国内経済に注意を怠った付けが回ってきている。株式の景気への反応が遅れただけに、株価の下落は深くなりそうである。

貿易統計が示す輸出(季節調整値)は、すでに今年1月をピークに減少しつつあり、5月以降は5ヵ月連続で前月を下回るという不振だ。株式は日本経済が外需の増減で上下にぶれやすい単純な仕組みを蔑ろにしてきた。輸出の減少は鉱工業生産に直ちにあらわれ、生産は9月まで4ヵ月連続で低下した。生産の低下は景気だけでなく企業業績の悪化でもある。景気や企業業績が急激に悪くなりつつあるときに株式など買えるだろうか。

9月の鉱工業生産指数は前月比1.9%減と減少率は前回調査時の予測(-0.1%)を大幅に上回った。「生産は弱含み」などといっているが、弱含みなどではなく「著しく弱い」だ。10月の生産予測は前月比-3.6%と前回予測(-2.9%)よりもさらにマイナス幅は大きくなった。3.6%もの大きな下落は08年末から09年初めの期間を除けば、01年1月以来であり、過去20年間でも数えることができるほどである。

それほど稀な異常ともいえる生産の落ち込みに直面しても、目にするのは当たり障りのないコメントや正鵠を欠いた報道ばかりである。そうしたコメントや報道が跋扈することが日本を衰退に追いやっている原因のひとつかもしれない。90年代以降、景気や不良債権の異常を異常と捕らえず、杜撰ででたらめな分析をしてきたことが、今日の日本を作ってきたのである。今回も同じ轍を踏もうとしている。

内需は自動車などに政策の後押しがあったにもかかわらず、生産は5月をピークに下降していることは、政府支援がなくなれば生産が急低下することは目に見えている。輸送機械工業は補助金等の恩恵を受けていたが、生産はすでに5月から5ヵ月連続で低下し、9月はピークから11.0%も低下した。輸送機械工業の生産は9月、前月比4.2%低下したが、受注の激減に見舞われ10月は10.5%減もの急低下が予想されている。需要の低迷により電子部品・デバイス工業の生産も前月比5.0%減と前回調査予想を大幅に上回るマイナスとなった。DRAMの需給バランスは崩れたままであり、価格の下落はとまらない。10月の生産予想も前回のプラスからマイナス4.6%へと下方修正された。

鉱工業生産指数は年内、自動車や半導体を中心にかなりの勢いで低下するだろう。10-12月期も前期比減と2四半期連続のマイナスなり、前年の水準を下回るかもしれない。経営者のマインドは冷え込み、設備投資計画を下方修正するところもでてくるだろう。改善が遅れている雇用にも過剰感が強まり、失業率が上昇する事態も考えられる。

9月の小売業販売額と家計の消費支出は前月比3.0%、0.5%それぞれ減少し、消費も弱い。これまで消費は耐久消費財の支出増で大きく落ち込むことはなかったが、10月以降はそうした製品への支出増も期待できず、消費の動きは一層鈍くなるだろう。

慢性的な需要不足から消費者物価指数(生鮮食品を除く)は9月、前月比0.1%減と4ヵ月連続のマイナスとなり、前年比でも1.1%低下した。食料・エネルギーを除けば、前年比1.5%のマイナスであり、今後、需要が細ることになれば、マイナス幅は拡大するだろう。一方、国内企業物価指数は9月、前年比0.1%減となり、消費者物価ほどには下落しなかった。円高だが、国際商品市況の値上りにより、原材料価格が上昇し、企業収益を圧迫している。

商工中金の『中小企業月次景況観測』によると、10月の景況判断指数は46.4と前月比0.9ポイント低下し、2ヵ月連続で前月を下回った。特に、輸送や小売の低下幅が大きく、景気の好転・悪化の目安である50を一度も上回ることなく、下降に転じつつある。景気の山は景況判断指数に遅行するため8月以前に景気は後退局面に入ったと考えられる。製造業の景況判断指数は7月に50.0まで回復したが、その後3ヵ月連続で低下し、10月は48.0となったが、11月は44.9へと大幅に低下すると予想されている。

先週末、7-9月期の米GDPが発表されたが、実質前期比年率2.0%と伸び率は前期を0.3ポイント上回った。GDPは5四半期連続のプラスとなり、米国経済は回復しているようにみえる。だが、09年7-9月期以降の5四半期の回復を特徴づけているのは、需要の急激な減少に伴い在庫を処分した反動から、今度はその積み増しによる寄与が大きかったという点である。2010年7-9月期の在庫の寄与度は1.44%となり、これを除けばGDPは年率0.56%とほぼ横ばいになってしまう。

FRBは10-12月期の実質GDPを前年比3.0%~3.5%と予想しているが、この達成には前期比年率4.4%も伸びなくてはならない。沈滞した経済を回復させるためにFRBは国債を買うとのことだが、銀行にマネーが溜まるだけで、実体経済に影響はない。刺激をうけるのは株式や商品など投機の対象になるものだけである。08年以降の巨額の資産買い取りですでに証明されているにもかかわらず、効果のない愚策が繰り返されようとしている。愚かにも市場は買いとり金額に固唾を呑んでいる。

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この記事は「編集者」の寄稿です。2010年10月31日 22:07.

米国経済を脅かす中国の利上げ は以前の記事です。

資産価格の上昇を煽るFRBの金融緩和策 は以降の記事です。

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