中央銀行の金融政策に騙されてはならない

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曽我 純:

州司法当局がモーゲージを調査するとの発表により、米銀行株は売られ、株価指数も頭が重くなってきた。景気に対する楽観的見方やFRBの金融緩和期待により上昇してきただけに、不安材料がでるとすぐに買いの手が引っ込む。NYダウはおそらく4月の高値に達することなく反落するだろう。
本当に米国経済が確かな回復をしているのであれば、株式が上昇力を強め、ドルも強くなっているはずだ。だが、現実にはドルは売られており、ドル離れが続いている。米国経済の回復は表面的、一時的なものであり、内部には依然マグマが溜まっており、容易によくならない。金融恐慌を引き起こした不動産バブル崩壊の揺れは終わってはいない。米商業銀行の不動産貸付は9月、3.63兆ドルと減少しているが、ピーク(09年5月)から0.24兆ドルの減少にとどまり、バブル崩壊の膿がでてしまったとはいえない。資産価値下落に伴う不良資産を抱えた状態にあり、銀行のバランスシートは傷がついたままだ。だから、ドルが敬遠されているのである。3.63兆ドルのどの程度が傷ついているのか、本当のところがわからないことが、米国経済への不信感を強め、通貨安となっている。

9月の米商業銀行の商工業、不動産貸付は10.1%、3.3%それぞれ前年を下回っている一方、預金は3.4%増加しているため、日本の銀行と同じようにマネーを持て余している。FRBが国債買いを増額し、銀行にマネーをさらに供給しても、銀行は資金需要がないので国債等の有価証券を買わざるを得ない。新たなマネー需要がなかなか出てこないのは、家計や銀行等が不良資産を保有しており、その処理が進んでいないからだ。不良資産を抱えたうえにさらに借金を重ねるような行動は取らず、不良資産が清算されてから借入するのが普通である。米国のように不良資産が存在する経済や物価が下落する日本のデフレ経済ではFRBや日銀の国債等の資産購入はほとんど効き目がない。借金を増やすことができず、借金が不利となる状況では、新規の資金需要は弱く、ひいては資金は流れにくく、乗数効果も期待できない。

FRBの追加緩和策などに期待して株式に手を出せば、大やけどをすることになる。国債買い増しが景気拡大策にならないことが、すぐに明らかになるからだ。あたかもこうした金融政策が景気回復に役立つと当局はいうけれども、すでに述べた理由や約15年にもおよぶ日本の経験が効果のなさを実証している。過去に何度も政府や日銀の政策に期待して痛い目にあったことを忘れてはいけない。

9月の経済指標は国内景気が悪化していることを示唆している。商工中金の『中小企業月次景況観測』によれば、9月の景況判断指数は前月比1.1ポイント減の47.3と4ヵ月ぶりに低下した。10月予想はさらに低下しており、中小企業の景気は一段厳しくなる見通しである。内閣府の『景気ウォッチャー調査』によると、9月の景気の現状判断DIは41.2と前月比3.9ポイント減と2ヵ月連続で大幅に低下した。同じく『消費動向調査』も消費者マインドが冷えていることを示している。9月の消費者態度指数(一般世帯)は41.2と前月比1.2ポイント低下し、3ヵ月連続の前月比マイナスとなった。政府の減税や補助金によって自動車、家電、住宅・リフォーム等の販売が伸びていたときから、すでに消費者心理は悪化していたことになる。自動車の補助金打ち切りなどから、今後、内需の落ち込みは大きくなり、消費者や経営者のマインドはいま以上に悪化するだろう。

輸出の伸び率は低下しているが、9月は大幅に鈍化する見通しだ。9月上中旬の輸出は前年比6.1%と8月(19.1%)から急低下した。まだ下旬の動向によっては変動する余地はあるが、1桁増には間違いないだろう。これだけ輸出の伸び率が鈍化することは、世界の需要が弱くなっていることでもある。9月上中旬の輸入は2.4%と輸出の伸びを下回り、内需の弱さが露呈している。
週初に発表された8月のOECD景気先行指数(CLI)は前月比-0.1%の102.9と2ヵ月連続で低下し、世界景気の後退が視野に入ってきた。CLIの前年比伸び率は8月、5.8%と3月をピークに低下している。日本の輸出の前年比伸び率は2月をピークに6ヵ月連続で低下しており、CLIとほぼ同じ波長を描いている。過去の両者のグラフをみると、CLIの先行性が認められるが、近年は同じように変化していることがわかる。

内需の不振に輸出減が加われば、日本経済の後退は釣瓶落としの様相を呈するだろう。0.1%下げるかどうかというような不毛な議論に時間を浪費しているようなときではない。ゼロ金利にしてもマネーは保有コストがゼロであるため家計や企業は保有しつづけ、経済活動の中へ入っていかない。ゼロ金利政策では埒が明かないのである。

9月の預金通貨は前年比2.5%と伸び率は3ヵ月連続で上昇し、残高は417.7兆円に増加した。定期預金などの準通貨(残高555.1兆円)の伸び率は9月、0.7%に低下した。これだけ国民はマネーを持っているけれども、なかなか使わない。使わせる仕組みを作らなければ日本経済は沈んでいくだけである。

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この記事は「編集者」の寄稿です。2010年10月17日 18:27.

米株式バブルによるドル安 は以前の記事です。

米国経済を脅かす中国の利上げ は以降の記事です。

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