景気後退期に入った日本経済

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曽我 純:

09年3月を谷として回復してきた今回の景気は早後退に転じたようだ。8月が景気の山になれば、拡大期間は17ヵ月となり、戦後の景気拡大で最短だった22ヵ月を下回ることになる。これまで景気は拡大したとはいえ、急激な生産の落ち込みにたいする戻りであり、それも外需の回復によりもたらされたものであった。GDPの最終消費支出は景気回復後の5四半期中2四半期が前期比マイナスとなり、日本経済は景気後退期のようなたどたどしさであった。それも政策の後押しで車などの耐久消費財がよく売れたからであり、これがなければ、内需はもっと低迷していたはずだ。だが、減税や補助金で消費を促しても、この程度の消費にとどまったことは、減税等の恩恵を受ける商品は購入したが、それ以外のものについては消費を削減し、総額ではほとんど増やしていないといってもよい。消費を増やすことができないのは、将来の報酬に明るい展望がもてないからだ。雇用者報酬は4-6月期まで2四半期連続の前期比増だが、水準自身は極めて低く1992年にまで遡ることができるほどである。18年前の生活を強いられるような報酬で景気が回復するだろうか。

さらに消費に悪い影響を及ぼしているのは低給与の階級が著しく増加していることである。国税庁の『民間給与実態統計調査』によると、09年分の100万円以下、200万円以下、300万円以下の給与所得者は全体の42.0%を占め、10年前と比較すると、8.9ポイントも上昇している。400万円以下を入れると6割を超える。購買するにも購買力の乏しい層が増大しているので消費はじり貧をたどることになろう。

景気一致指数は11本の系列で構成されているが、ぶれの大きい製造業が6本、そのなかに鉱工業生産指数関連が4本含まれている。だから製造業が良くなれば景気は回復したことになるし、景気を製造業で定義しているともいえる。

景気の良し悪しを決める鉱工業生産指数は低下しつつある。8月の生産指数は前月比-0.3%と予想を大幅に下回り3ヵ月連続のマイナスとなり、景気後退のシグナルを発した。景気一致指数の構成要素に基づけば、生産指数のピーク辺りが景気のピークに当たるからだ。予測は生産指数の一段の低下を示しており、9月、10月は前月比-0.1%、-2.9%それぞれ低下する見通しである。予測通りになれば5ヵ月連続の低下となり、景気は急激に下降していることになる。

生産低下の主因は補助金等が打ち切られて、販売の急低下を見込んだ自動車の減産である。9月の新車販売台数は補助金を早々使い切ったため、前年比4.1%減少した。10月以降、新車販売は激減し、輸送機械は大幅な減産を余儀なくされよう。鉱工業生産指数に占める輸送機械工業(船舶・鉄道車両を除く)のウエイトは15.7%と高いだけでなく、鉄鋼業や金属・非鉄などへの影響力が大きく、輸送機械工業の生産低下は製造業全般の生産水準の低下に繋がる。

輸送機械工業だけでなく、電子部品・デバイス工業も8月まで3ヵ月連続の前月比マイナスである。前年比では1月の68.8%をピークに8月は16.5%まで鈍化する一方、在庫は27.1%まで増加してきた。半導体の価格は大幅に下落しており、半導体産業は生産と価格の両面から厳しい局面を迎えている。これまで、半導体関連の回復により、電子部品・デバイスだけでなく半導体製造装置の生産拡大により一般機械工業も伸びてきたが、半導体の価格下落につれて、半導体製造装置も生産減に向うことは避けられないと思う。ウエイトの高い輸送機械、電子部品・デバイス、一般機械の3業種(ウエイト36.9%)の生産減が素材関連に波及することにより、年末にかけて鉱工業生産は急速に低下し、景気後退が一層強まるだろう。

週の初めに発表された8月の貿易統計によると、輸出(季節調整値)は前月比2.3%減と4ヵ月連続で減少した。輸出は今年1月がピークとなり、8月は昨年11月以来の低い水準に低下した。輸出の減少とともに鉱工業生産指数も低下しており、日本の製造業は海外の需要に左右される脆弱な体質からまったく改善されていないことがわかる。企業は円高を不振の元凶にするが、為替の影響はさほど大きくない。日本の輸出に及ぼす最大の要因は世界の景気変動であり、世界の景気後退期には輸出は落ち込み、世界景気が好調なときには円高でも輸出は伸びる。輸出と為替の関係は明確ではなく、そのようなことも考えることなく介入する政府の行為はナンセンスである。

貿易黒字も8月までの8ヵ月で4.3兆円、所得収支も7月までに7.6兆円の黒字を計上しており、実需に基づく巨額の円買いドル売りが発生しているのだ。企業自身の円買いドル売りにより、円高ドル安になっているのである。自分で円高にしておきながら、円高を非難するということに矛盾を感じないのだろうか。何度経験しても、為替を悪玉にするしか能の無い政府や企業が問題なのである。

8月の対米輸出は金額で前年比8.8%と7月の25.9%から急低下した。価格の影響は-2.3%とマイナス幅は前月比-1.1ポイント拡大したが、数量は11.5%と16ポイントも一気に低下した。対EU輸出は価格の影響が大きいが数量の低下幅は小幅であり、対米のような輸出減に見舞われていない。8月の対米輸出の伸び率急低下は、電気機器や輸送用機器が不振に陥ったからである。この傾向が続けば、米国景気は弱く、いまの株高は浮かれ、舞い上がったものとみられ、急落するだろう。8月の対米輸出は3年前の07年(1.39兆円)の55.9%にすぎず、最近の輸出の伸び率低下は米国経済が本格回復に向かっていないことを裏付けている。

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この記事は「編集者」の寄稿です。2010年10月 3日 17:22.

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