2010年10月 Archives

生産の急低下、株式に引導を渡す

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曽我 純:

景気に鈍い動きをしていた株式もついにそれを注視せざるを得なくなった。米国の金融政策ばかりに気をとられていて、肝心な国内経済に注意を怠った付けが回ってきている。株式の景気への反応が遅れただけに、株価の下落は深くなりそうである。

貿易統計が示す輸出(季節調整値)は、すでに今年1月をピークに減少しつつあり、5月以降は5ヵ月連続で前月を下回るという不振だ。株式は日本経済が外需の増減で上下にぶれやすい単純な仕組みを蔑ろにしてきた。輸出の減少は鉱工業生産に直ちにあらわれ、生産は9月まで4ヵ月連続で低下した。生産の低下は景気だけでなく企業業績の悪化でもある。景気や企業業績が急激に悪くなりつつあるときに株式など買えるだろうか。

9月の鉱工業生産指数は前月比1.9%減と減少率は前回調査時の予測(-0.1%)を大幅に上回った。「生産は弱含み」などといっているが、弱含みなどではなく「著しく弱い」だ。10月の生産予測は前月比-3.6%と前回予測(-2.9%)よりもさらにマイナス幅は大きくなった。3.6%もの大きな下落は08年末から09年初めの期間を除けば、01年1月以来であり、過去20年間でも数えることができるほどである。

それほど稀な異常ともいえる生産の落ち込みに直面しても、目にするのは当たり障りのないコメントや正鵠を欠いた報道ばかりである。そうしたコメントや報道が跋扈することが日本を衰退に追いやっている原因のひとつかもしれない。90年代以降、景気や不良債権の異常を異常と捕らえず、杜撰ででたらめな分析をしてきたことが、今日の日本を作ってきたのである。今回も同じ轍を踏もうとしている。

内需は自動車などに政策の後押しがあったにもかかわらず、生産は5月をピークに下降していることは、政府支援がなくなれば生産が急低下することは目に見えている。輸送機械工業は補助金等の恩恵を受けていたが、生産はすでに5月から5ヵ月連続で低下し、9月はピークから11.0%も低下した。輸送機械工業の生産は9月、前月比4.2%低下したが、受注の激減に見舞われ10月は10.5%減もの急低下が予想されている。需要の低迷により電子部品・デバイス工業の生産も前月比5.0%減と前回調査予想を大幅に上回るマイナスとなった。DRAMの需給バランスは崩れたままであり、価格の下落はとまらない。10月の生産予想も前回のプラスからマイナス4.6%へと下方修正された。

鉱工業生産指数は年内、自動車や半導体を中心にかなりの勢いで低下するだろう。10-12月期も前期比減と2四半期連続のマイナスなり、前年の水準を下回るかもしれない。経営者のマインドは冷え込み、設備投資計画を下方修正するところもでてくるだろう。改善が遅れている雇用にも過剰感が強まり、失業率が上昇する事態も考えられる。

9月の小売業販売額と家計の消費支出は前月比3.0%、0.5%それぞれ減少し、消費も弱い。これまで消費は耐久消費財の支出増で大きく落ち込むことはなかったが、10月以降はそうした製品への支出増も期待できず、消費の動きは一層鈍くなるだろう。

慢性的な需要不足から消費者物価指数(生鮮食品を除く)は9月、前月比0.1%減と4ヵ月連続のマイナスとなり、前年比でも1.1%低下した。食料・エネルギーを除けば、前年比1.5%のマイナスであり、今後、需要が細ることになれば、マイナス幅は拡大するだろう。一方、国内企業物価指数は9月、前年比0.1%減となり、消費者物価ほどには下落しなかった。円高だが、国際商品市況の値上りにより、原材料価格が上昇し、企業収益を圧迫している。

商工中金の『中小企業月次景況観測』によると、10月の景況判断指数は46.4と前月比0.9ポイント低下し、2ヵ月連続で前月を下回った。特に、輸送や小売の低下幅が大きく、景気の好転・悪化の目安である50を一度も上回ることなく、下降に転じつつある。景気の山は景況判断指数に遅行するため8月以前に景気は後退局面に入ったと考えられる。製造業の景況判断指数は7月に50.0まで回復したが、その後3ヵ月連続で低下し、10月は48.0となったが、11月は44.9へと大幅に低下すると予想されている。

先週末、7-9月期の米GDPが発表されたが、実質前期比年率2.0%と伸び率は前期を0.3ポイント上回った。GDPは5四半期連続のプラスとなり、米国経済は回復しているようにみえる。だが、09年7-9月期以降の5四半期の回復を特徴づけているのは、需要の急激な減少に伴い在庫を処分した反動から、今度はその積み増しによる寄与が大きかったという点である。2010年7-9月期の在庫の寄与度は1.44%となり、これを除けばGDPは年率0.56%とほぼ横ばいになってしまう。

FRBは10-12月期の実質GDPを前年比3.0%~3.5%と予想しているが、この達成には前期比年率4.4%も伸びなくてはならない。沈滞した経済を回復させるためにFRBは国債を買うとのことだが、銀行にマネーが溜まるだけで、実体経済に影響はない。刺激をうけるのは株式や商品など投機の対象になるものだけである。08年以降の巨額の資産買い取りですでに証明されているにもかかわらず、効果のない愚策が繰り返されようとしている。愚かにも市場は買いとり金額に固唾を呑んでいる。

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米国経済を脅かす中国の利上げ

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曽我 純:

週末のG20はただ寄り集まっただけで、議長声明も陳腐な内容であり、為替相場はこれまでの流れに沿った動きをするだろう。米国が住宅バブル崩壊から立ち直ることができずに内需が低迷している状態では、ドル安により外需の拡大を図りたいのは当然である。米国にとってはいまの為替相場の動向が好ましいのである。唯一人民元にたいしてはドルが高いことが不満だが、体制が違う中国が相手ではどうすることもできない。米国が市場原理主義を唱え、グローバル経済を鼓舞し、世界経済(中国のWTO加盟)に組み入れたことの結果といえる。

中国問題は米国が蒔いた種だが、自分のことは棚に上げ、中国同様、通貨安戦略を採っている。追加金融緩和策をちらつかせているのもその一環である。日本はなすすべがなく、5週連続の円高ドル安だ。米国の通貨安戦略に加え、米国の家計・銀行部門の保有する不良資産、日本の経常黒字、日米物価格差等から円高ドル安はさらに進行するだろう。

FRBが金利をゼロに引き下げてから2年近く経過し、円とともにドルは世界中に散布されている。先進国の金利がいずれも低いのでドルや円を調達し、それを金利高の新興国に投資しているのだ。FRBが買いオペを実施し、資金供給しても、住宅バブル崩壊により不良資産を抱えているため国内の資金需要は弱く、マネーは海外に流失しがちである。日本もゼロ金利期間が長いだけに、世界中に投機マネーを供給してきたし、これからも供給するだろう。ただ、米国のドルは基軸通貨であり、ゼロ金利政策は円と比較にならないほど投機資金を世界のすみずみまで行き渡らせる。FRBのゼロ金利政策は米国の内需拡大に結びつかず、その影響は世界の株式・商品市場等に顕著にあらわれている。

FHFAは21日、管理下に置くFannie MaeとFreddie Macの経営再建で最大2,150億ドルの追加資金を必要とすると発表した。財務省からすでに1,500億ドルの公的資金を注入されているが、一向に事態は良くならない。6月末のバランスシートをみると、両者の合計総資産は5.59兆ドル、その大半をモーゲージローン(4.82兆ドル)が占める。S&Pケース・シラー住宅価格指数によると、7月の住宅価格の水準はピーク比約30%も下落しており、両者のモーゲージローンの不良資産額は計り知れない。10%の不良化でも約5,000億ドルのロスが発生していることになり、FHFAの試算はきわめて楽観的な数値といえる。

モーゲージの問題が蒸し返されていることは、まだまだ家計や銀行が抱えているモーゲージが膿を出し続けていることでもある。不良資産でなく健全な資産になっていれば、問題などでるはずがないからだ。米名目GDPに匹敵する約14兆ドルのモーゲージを2年ほどできれいにすることはできない。バランスシートから完全に除去しなければ、計上されている資産はますます劣化し、不良資産は増加の一途を辿る。そのような事態に陥れば、景気もそれに足を引っ張られ、日本のようにデフレとなり、慢性的な不況になる。米国経済はそのようなリスクを払拭しきれていない。

9月の米住宅着工件数は前月比0.3%増と3ヵ月連続で増加した。だが、7-9月期では前期比2.2%減であり、なかでも1戸建ては10.8%減少した。先行きを占う建築許可件数は9月、前月比5.6%減少し、前年も10.9%下回った。1戸建ては0.5%とプラスに転じたが、過去3ヵ月の水準はきわめて低く09年4月以来の低水準であり、米住宅市場は超低空飛行の状態にあり、失速する可能性もある。

9月の米鉱工業生産指数は前月比-0.2%と15ヵ月ぶりのマイナスになり、設備稼働率も74.7%と過去3ヵ月ほぼ変わらず、景気は曲がり角に差し掛かってきていることを示している。7-9月期では米鉱工業生産指数は前期比1.2%と伸び率は前期よりも0.6ポイント低下し、09年4-6月期以来の低い伸びだ。消費財の伸びは拡大したが、設備投資関連の鈍化が目立つ。特に、7-9月期のハイテク関連は1.5%と前期(5.3%)から大幅に低下し、設備稼働率も73.4%、前期比0.7ポイント低下した。

米景気先行指数は前月比0.3%と3ヵ月連続のプラスとなったが、一致指数は9月までの3ヵ月間横ばいとなり、ディフュージョン・インデックスは4月の100%から9月は50%まで低下している。先行性を示す一致・遅行比率も3ヵ月連続で低下しており、米国経済は景気後退へのシグナルを発している。07年12月以来の中国の突然の利上げは、為替でうるさい米国経済への当て付けとも取れる。

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曽我 純:

州司法当局がモーゲージを調査するとの発表により、米銀行株は売られ、株価指数も頭が重くなってきた。景気に対する楽観的見方やFRBの金融緩和期待により上昇してきただけに、不安材料がでるとすぐに買いの手が引っ込む。NYダウはおそらく4月の高値に達することなく反落するだろう。
本当に米国経済が確かな回復をしているのであれば、株式が上昇力を強め、ドルも強くなっているはずだ。だが、現実にはドルは売られており、ドル離れが続いている。米国経済の回復は表面的、一時的なものであり、内部には依然マグマが溜まっており、容易によくならない。金融恐慌を引き起こした不動産バブル崩壊の揺れは終わってはいない。米商業銀行の不動産貸付は9月、3.63兆ドルと減少しているが、ピーク(09年5月)から0.24兆ドルの減少にとどまり、バブル崩壊の膿がでてしまったとはいえない。資産価値下落に伴う不良資産を抱えた状態にあり、銀行のバランスシートは傷がついたままだ。だから、ドルが敬遠されているのである。3.63兆ドルのどの程度が傷ついているのか、本当のところがわからないことが、米国経済への不信感を強め、通貨安となっている。

9月の米商業銀行の商工業、不動産貸付は10.1%、3.3%それぞれ前年を下回っている一方、預金は3.4%増加しているため、日本の銀行と同じようにマネーを持て余している。FRBが国債買いを増額し、銀行にマネーをさらに供給しても、銀行は資金需要がないので国債等の有価証券を買わざるを得ない。新たなマネー需要がなかなか出てこないのは、家計や銀行等が不良資産を保有しており、その処理が進んでいないからだ。不良資産を抱えたうえにさらに借金を重ねるような行動は取らず、不良資産が清算されてから借入するのが普通である。米国のように不良資産が存在する経済や物価が下落する日本のデフレ経済ではFRBや日銀の国債等の資産購入はほとんど効き目がない。借金を増やすことができず、借金が不利となる状況では、新規の資金需要は弱く、ひいては資金は流れにくく、乗数効果も期待できない。

FRBの追加緩和策などに期待して株式に手を出せば、大やけどをすることになる。国債買い増しが景気拡大策にならないことが、すぐに明らかになるからだ。あたかもこうした金融政策が景気回復に役立つと当局はいうけれども、すでに述べた理由や約15年にもおよぶ日本の経験が効果のなさを実証している。過去に何度も政府や日銀の政策に期待して痛い目にあったことを忘れてはいけない。

9月の経済指標は国内景気が悪化していることを示唆している。商工中金の『中小企業月次景況観測』によれば、9月の景況判断指数は前月比1.1ポイント減の47.3と4ヵ月ぶりに低下した。10月予想はさらに低下しており、中小企業の景気は一段厳しくなる見通しである。内閣府の『景気ウォッチャー調査』によると、9月の景気の現状判断DIは41.2と前月比3.9ポイント減と2ヵ月連続で大幅に低下した。同じく『消費動向調査』も消費者マインドが冷えていることを示している。9月の消費者態度指数(一般世帯)は41.2と前月比1.2ポイント低下し、3ヵ月連続の前月比マイナスとなった。政府の減税や補助金によって自動車、家電、住宅・リフォーム等の販売が伸びていたときから、すでに消費者心理は悪化していたことになる。自動車の補助金打ち切りなどから、今後、内需の落ち込みは大きくなり、消費者や経営者のマインドはいま以上に悪化するだろう。

輸出の伸び率は低下しているが、9月は大幅に鈍化する見通しだ。9月上中旬の輸出は前年比6.1%と8月(19.1%)から急低下した。まだ下旬の動向によっては変動する余地はあるが、1桁増には間違いないだろう。これだけ輸出の伸び率が鈍化することは、世界の需要が弱くなっていることでもある。9月上中旬の輸入は2.4%と輸出の伸びを下回り、内需の弱さが露呈している。
週初に発表された8月のOECD景気先行指数(CLI)は前月比-0.1%の102.9と2ヵ月連続で低下し、世界景気の後退が視野に入ってきた。CLIの前年比伸び率は8月、5.8%と3月をピークに低下している。日本の輸出の前年比伸び率は2月をピークに6ヵ月連続で低下しており、CLIとほぼ同じ波長を描いている。過去の両者のグラフをみると、CLIの先行性が認められるが、近年は同じように変化していることがわかる。

内需の不振に輸出減が加われば、日本経済の後退は釣瓶落としの様相を呈するだろう。0.1%下げるかどうかというような不毛な議論に時間を浪費しているようなときではない。ゼロ金利にしてもマネーは保有コストがゼロであるため家計や企業は保有しつづけ、経済活動の中へ入っていかない。ゼロ金利政策では埒が明かないのである。

9月の預金通貨は前年比2.5%と伸び率は3ヵ月連続で上昇し、残高は417.7兆円に増加した。定期預金などの準通貨(残高555.1兆円)の伸び率は9月、0.7%に低下した。これだけ国民はマネーを持っているけれども、なかなか使わない。使わせる仕組みを作らなければ日本経済は沈んでいくだけである。

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米株式バブルによるドル安

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曽我 純:

日銀は5日、0.1%の政策金利を0%~0.1%に変更し、ゼロ金利の長期継続、さらに資産(国債、社債、指数連動型上場投資信託、不動産投資信託)買入等の基金を創設することを発表した。こうした措置で景気が好転するくらいであれば、とっくに日本経済はよくなっていたはずだ。0.1%の低下でなにができるというのだろうか。ゼロ金利も経験済みのことだし、政策変更の効果があらわれるところといえば、資産買入も加わり市場の価格形成の歪みや投機といった副作用がでてくるだけではないか。

8月の銀行貸出は前年を2.0%も下回っている半面、預金は2.7%も増加している。金利がほとんど付かなくても、保有コストが掛からないため銀行にかねが集まり、銀行はかねを持て余しているのだ。貸出がマイナスということは貸すよりも返済が多いことであり、そこへ預金が流入してくるので、銀行はかねをどうしていいのかわからない。一番手っ取り早いのは国債を買うことである。日銀も買うのだから、国債価格の上昇は間違いなく、その甘い汁を吸うために銀行も国債買いに走っている。このような状態が続けば、国債は供給不足に陥るだろう。新規の国債発行を抑制しようとしているが、国債需要が旺盛になるので発行を増額しなければならないことになるだろう。結局、家計の貯蓄増は国債発行というかたちで国が吸収し、政府の支出増となるのである。

銀行が国債を買い、それを日銀が買うという流れが強まり、0.8%台に低下した国債利回りはさらに低下するだろう。03年6月には0.4%台まで低下したが、2010年までの10年間の年率経済成長率がマイナスになるように、収益率の観点からは限りなく低下しても不思議ではない。

政策金利をゼロにしてもかねは実体経済のなかを循環しない。デフレでかねの価値が自動的に上がり、保有意欲は弥が上にも高まる。他方、借手は負債額が増価するので極力借入を抑える。家計はかねを貯め、企業は借金を減らすので貯蓄超過の状態が常態化している。ゼロ金利でもかねは実体経済には入って行かず、マネーゲームの中に入っていきやすい。ゼロ金利なので僅かの鞘を抜くことができれば、利益を収めることができるので、投機市場に流入しがちだ。だから、実体経済が沈滞していても投機だけが活発になり歪な経済になる。実体経済は低迷したまま投機だけが勢いを増すことになれば、早晩、投機は行き詰まり、破綻することになる。

特にそのような傾向が顕著にあらわれているのが米株式市場と金を中心とする商品市場である。9月の米非農業部門雇用者は前月比9.5万人減少したが、NYダウは5月以来約5ヵ月ぶりに11,000ドルを回復した。非農業部門雇用者は4ヵ月連続の前月比マイナスとなり、米国経済の状態は良くない。民間部門の雇用者は前月比6.4万人増加したが、政府部門が15.9万人減少した。民間部門の増加数も2ヵ月連続減である。政府部門の雇用者は2,223万人と非農業部門雇用者の17.1%を占め、製造業の約2倍に規模である。政府雇用者の64%は地方政府で雇用されており、財政の悪化などから教育関連が約5万人削減されるなど地方で7.6万人減少した。

9月のISM非製造業景況感指数は53.2と前月比1.7ポイント改善したが、7月に比べれば1.1ポイント下回っている。9月のISM製造業景況感指数は前月比マイナスとなり、5月以降では8月を除けばすべて前月を下回った。企業利益の伸び率も鈍化しつつあり、米企業経営者のマインドは優れない。そうした経済状況下で、FRBのゼロ金利政策の長期化や国債買入の増額期待を背景に、株式市場は上昇力を強め投機的になっている。

米10年債の利回りは週末、2.39%と09年1月以来の低い水準に低下した。期待成長率の低下とゼロ金利の継続期待が国債利回りの低下に繋がったと考えられる。期待成長率の低下にもかかわらず異常なゼロ金利の長期化が株高の期待感を高めているのだと思う。だが、実際に成長率鈍化が顕在化したときには株価は大幅な調整を余儀なくされるだろう。4-6月期の名目GDPは前年比3.9%伸びたが、10-12月期には現状の国債利回りに近い水準に鈍化する見通しである。

ゼロ金利の長期化で米国の借金体質はさらに強められるだろう。1980年代以降の米国負債残高は急増しており、2009年末には50.2兆ドルとGDPの3.5倍の規模に達した。経済を立ち直らせるためのゼロ金利が、金融のウエイトを高め、負債漬けからの脱却を難しくしている。

ドル安になっているのは米株式が実体経済を離れバブルになっているからだ。株高は短期資金がうまく波に乗っていることで維持されているが、一旦、下落するとみんなが売り手になるため一気に値崩れしてしまう。米株式がそのような状態にあるため、ドル離れが起きているのだ。バブル崩壊に伴う後遺症を引きずり、期待成長率が低下しているなかで株式バブルが形成されている。

日銀がゼロ金利復活を発表した5日は円安ドル高にふれたが、6日以降は3営業日連続の円高ドル安となり、8日は1ドル=81円台で引けた。1995年4月の過去最高値79円75銭を突破するのは時間の問題だ。

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景気後退期に入った日本経済

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曽我 純:

09年3月を谷として回復してきた今回の景気は早後退に転じたようだ。8月が景気の山になれば、拡大期間は17ヵ月となり、戦後の景気拡大で最短だった22ヵ月を下回ることになる。これまで景気は拡大したとはいえ、急激な生産の落ち込みにたいする戻りであり、それも外需の回復によりもたらされたものであった。GDPの最終消費支出は景気回復後の5四半期中2四半期が前期比マイナスとなり、日本経済は景気後退期のようなたどたどしさであった。それも政策の後押しで車などの耐久消費財がよく売れたからであり、これがなければ、内需はもっと低迷していたはずだ。だが、減税や補助金で消費を促しても、この程度の消費にとどまったことは、減税等の恩恵を受ける商品は購入したが、それ以外のものについては消費を削減し、総額ではほとんど増やしていないといってもよい。消費を増やすことができないのは、将来の報酬に明るい展望がもてないからだ。雇用者報酬は4-6月期まで2四半期連続の前期比増だが、水準自身は極めて低く1992年にまで遡ることができるほどである。18年前の生活を強いられるような報酬で景気が回復するだろうか。

さらに消費に悪い影響を及ぼしているのは低給与の階級が著しく増加していることである。国税庁の『民間給与実態統計調査』によると、09年分の100万円以下、200万円以下、300万円以下の給与所得者は全体の42.0%を占め、10年前と比較すると、8.9ポイントも上昇している。400万円以下を入れると6割を超える。購買するにも購買力の乏しい層が増大しているので消費はじり貧をたどることになろう。

景気一致指数は11本の系列で構成されているが、ぶれの大きい製造業が6本、そのなかに鉱工業生産指数関連が4本含まれている。だから製造業が良くなれば景気は回復したことになるし、景気を製造業で定義しているともいえる。

景気の良し悪しを決める鉱工業生産指数は低下しつつある。8月の生産指数は前月比-0.3%と予想を大幅に下回り3ヵ月連続のマイナスとなり、景気後退のシグナルを発した。景気一致指数の構成要素に基づけば、生産指数のピーク辺りが景気のピークに当たるからだ。予測は生産指数の一段の低下を示しており、9月、10月は前月比-0.1%、-2.9%それぞれ低下する見通しである。予測通りになれば5ヵ月連続の低下となり、景気は急激に下降していることになる。

生産低下の主因は補助金等が打ち切られて、販売の急低下を見込んだ自動車の減産である。9月の新車販売台数は補助金を早々使い切ったため、前年比4.1%減少した。10月以降、新車販売は激減し、輸送機械は大幅な減産を余儀なくされよう。鉱工業生産指数に占める輸送機械工業(船舶・鉄道車両を除く)のウエイトは15.7%と高いだけでなく、鉄鋼業や金属・非鉄などへの影響力が大きく、輸送機械工業の生産低下は製造業全般の生産水準の低下に繋がる。

輸送機械工業だけでなく、電子部品・デバイス工業も8月まで3ヵ月連続の前月比マイナスである。前年比では1月の68.8%をピークに8月は16.5%まで鈍化する一方、在庫は27.1%まで増加してきた。半導体の価格は大幅に下落しており、半導体産業は生産と価格の両面から厳しい局面を迎えている。これまで、半導体関連の回復により、電子部品・デバイスだけでなく半導体製造装置の生産拡大により一般機械工業も伸びてきたが、半導体の価格下落につれて、半導体製造装置も生産減に向うことは避けられないと思う。ウエイトの高い輸送機械、電子部品・デバイス、一般機械の3業種(ウエイト36.9%)の生産減が素材関連に波及することにより、年末にかけて鉱工業生産は急速に低下し、景気後退が一層強まるだろう。

週の初めに発表された8月の貿易統計によると、輸出(季節調整値)は前月比2.3%減と4ヵ月連続で減少した。輸出は今年1月がピークとなり、8月は昨年11月以来の低い水準に低下した。輸出の減少とともに鉱工業生産指数も低下しており、日本の製造業は海外の需要に左右される脆弱な体質からまったく改善されていないことがわかる。企業は円高を不振の元凶にするが、為替の影響はさほど大きくない。日本の輸出に及ぼす最大の要因は世界の景気変動であり、世界の景気後退期には輸出は落ち込み、世界景気が好調なときには円高でも輸出は伸びる。輸出と為替の関係は明確ではなく、そのようなことも考えることなく介入する政府の行為はナンセンスである。

貿易黒字も8月までの8ヵ月で4.3兆円、所得収支も7月までに7.6兆円の黒字を計上しており、実需に基づく巨額の円買いドル売りが発生しているのだ。企業自身の円買いドル売りにより、円高ドル安になっているのである。自分で円高にしておきながら、円高を非難するということに矛盾を感じないのだろうか。何度経験しても、為替を悪玉にするしか能の無い政府や企業が問題なのである。

8月の対米輸出は金額で前年比8.8%と7月の25.9%から急低下した。価格の影響は-2.3%とマイナス幅は前月比-1.1ポイント拡大したが、数量は11.5%と16ポイントも一気に低下した。対EU輸出は価格の影響が大きいが数量の低下幅は小幅であり、対米のような輸出減に見舞われていない。8月の対米輸出の伸び率急低下は、電気機器や輸送用機器が不振に陥ったからである。この傾向が続けば、米国景気は弱く、いまの株高は浮かれ、舞い上がったものとみられ、急落するだろう。8月の対米輸出は3年前の07年(1.39兆円)の55.9%にすぎず、最近の輸出の伸び率低下は米国経済が本格回復に向かっていないことを裏付けている。

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