米国経済の抱える根深い問題

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曽我 純:

日本の債券利回りは週末、8月末以来の1%割れとなり、日経平均株価は9,500円を下回った。FRBが追加金融緩和姿勢を明らかにしたことにより、米国でも債券利回りは低下し、為替相場は円高ドル安に進んだ。一方、NYダウは4週連続で上昇し、4月末以来の高い水準に回復した。
 
米株式の上昇は公表された経済指標の内容に釣り合ったものではなく、株式は実体経済から乖離しつつある。米国経済は住宅バブル崩壊の影響を依然強く受けており、景気回復のための確かな足場は築かれていない。FRBの『Flow of Funds』によると、6月末の米モーゲージ残高は14.0兆ドル、前年比3.7%減少しているだけで、米国経済は巨額の不良資産を保有した状態にある。7月のFHFA住宅価格指数は前月比0.5%減と2ヵ月連続のマイナスとなり、指数は今回の下落過程で最低を更新、ピーク(07年4月)からの下落率は13.8%に拡大した。モーゲージ残高に単純にこの下落率を適用すると約2兆ドルの損失が発生していることになる。

モーゲージを家計や企業に貸付しているのは政府支援企業や商業銀行であり、借入の返済が滞り、差し押さえ物件が増加することによって、貸手の資産価値は減価し、巨額の不良資産が発生している。政府支援企業等がモーゲージの最大の貸手であり、6.11兆ドルもの残高がある。これを抜本的に処理するには1兆ドル単位の金が必要になるため米政府は時間を掛けて徐々に処理しようとしている。住宅バブル崩壊による不良資産の清算がなかなか進展しないことは、米国の景気はいつまでも不安定な状態が続くことでもある。

景気回復が期待できないことが債券利回りの低下やドル安となってあらわれているのだ。債券利回りは3週連続で低下し、8月第3週以来の低水準である。債券利回りは歴史的な低下をみせているが、資金需要は出てこない。8月の米商業銀行貸付は前年比-0.4%と14ヵ月連続の前年割れだ。リース関連が含まれているためマイナス幅は縮小しているが、商工業貸付は-12.4%と依然2桁減だし、不動産貸付は4.3%減だが、マイナス幅は前月の戦後最大から0.4ポイントの改善にとどまる。貸出が減少する半面、預金は前年比3.2%伸びているため、商業銀行の証券と現金は15.1%、20.6%それぞれ拡大している。

FEBのバランスシートの総資産は2.31兆ドル(9月22日)に膨れているが、大半は米財務省証券(0.8兆ドル)とモーゲージ担保証券(1.09兆ドル)である。加盟銀行からの預金(1.26兆ドル)と銀行券(0.91兆ドル)で証券類を購入しているが、これから満期、繰り上げ償還となるモーゲージ担保証券の売却価格が購入価格を下回れば、FRBの571億ドルの自己資本はすぐに底を付き、財務省から資本注入してもらう必要が生じる。FRBの自己資本比率は2.5%と商業銀行(11.6%)の約2割の水準であり、高いレバレッジが銀行経営を揺るがしたが、いまやFRBがその危険性が最も高いといえる。因みに日銀の自己資本比率は2.1%とFRBよりもさらに低く、株価は週末、50,000円とバブル崩壊後の安値(03年3月の40,000円、最高値は1988年12月の755,000円)に接近した。

先週発表された米住宅関連指標をみると、米住宅市場は超低水準の状況が続きそうである。8月の住宅着工件数は年率59.8万戸、前月比10.5%増加と回復しつつあるようにみえるが、一戸建てに限れば43.8万戸、4.3%増にとどまったほか、先行きを示す許可件数の一戸建ては1.2%減と5ヵ月連続の前月比減になり、とても底を打ったとはいえない。

8月の中古住宅販売件数は年率4.13百万戸、前月比7.6%増加したが、7月の27.0%もの急落後であり、6月比は21.5%減、前年比では-19.0%である。
週末発表の8月の新築一戸建て住宅販売は年率28.8万戸、前月比横ばいとなり、減税が終了して激減した5月の28.2万戸近い歴史的低水準で推移している。2009年の37.5万戸は1963年の調査開始以来最低を更新したが、今年は2年連続で最低を更新しそうだ。そうなると5年連続の前年割れとなり、05年のピークの4分の1程度になる。米住宅産業がトンネルからいつ抜け出すことができるのか予測はできない。ただ、いえることは住宅関連の不良資産が清算され、家計や銀行のバランスシートがきれいにならなければ、新たに住宅を買い求める人はそれほど増えないということである。そのような状態にならなければ、上昇率が1%を下回り、さらにゼロに近づくような物価環境を反転させることも難しい。米国経済が安定を取り戻すには幾多の障害を乗り越える必要がある。

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この記事は「編集者」の寄稿です。2010年9月26日 20:54.

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