米雇用統計を過少評価した市場

曽我 純:

週末のNYダウは8月の雇用統計(8時30分公表)が予想をよりも良かったため10時頃までは上昇したが、10時発表のISM非製造業景況感指数が前月を下回ったため反落、だがその後じり高となり、その日の高値圏で引けた。どうも株価は雇用統計の要因だけで上昇したわけではなさそうだ。

雇用統計発表後、一時1ドル=85円台の円安に振れたが、すぐに84円台に戻し、その後目立った変化はなく、1ドル=84円30銭で引け、週末比では約1円の円高ドル安だ。本当に、米国経済の回復力が増すのであれば、円安ドル高に方向転換していたはずだ。そうならなかったのは、非農業部門雇用者が引き続きマイナスになり、景気後退のリスクが高くなったからだ。一方、米10年債の利回りは3営業日連続の上昇となり、約3週間ぶりの高い水準となった。こちらは景気の過度の不安が払拭されたと判断したようだ。だが、非農業部門雇用者の減少は景気の転換を示すものであり、債券の売りはいずれ買い戻しを迫られるだろう。

雇用統計が予想を上回ったとはいえ、非農業部門雇用者は前月比5.4千人減と3ヵ月連続の減少となり、米国経済は拡大から縮小に転換しつつある。民間部門の雇用者は6.7万人増と8ヵ月連続のプラスだが、前月に比べれば増加数は4万人減である。4-6月期の月平均増加数は11.7万人だが、7月、8月の平均は8.7万人といまのところ4-6月期を下回っている。民間部門の増加は主に人材派遣の増加であり、前年比では民間部門が30.7万人増加しているが、そのうち人材派遣は38.3万人も増加しており、民間部門の雇用は一時的な雇用によってなんとか支えられている状態だ。企業の景気の先行きに対する自信のなさがあらわれている。

8月の非農業部門雇用者は前年比0.2%増と12ヵ月連続で改善しているが、伸び率は前月よりも0.1ポイントの上昇にとどまった。前年同月が前年を4.9%も下回っていることからみれば、前年比での改善もきわめて緩やかだといえる。雇用の改善の遅れから個人消費支出も7月、前年比3.4%と前月よりは0.2ポイント上昇したものの、3月の4.0%増を超えることなく、ピークアウトしつつあるような情勢である。

非農業部門雇用者が3ヵ月連続の前月比マイナスとなり、失業率が9.6%と前月比0.1ポイント上昇するなど米雇用環境の悪化は続き、米国経済の原動力である個人消費が回復する条件は整っていない。失業率の9%超えは16ヵ月連続となり、高失業率の長期化が個人消費の回復を妨げている。米国の人口は年約1.0%増加しているため年100万人以上の新規雇用が創出されなければ、失業率は低下していかない。足元、雇用者は前年比横ばいであり、上昇力は弱く、米国が失業率の高止まりの状態から抜け出すことは容易ではない。

耐久消費財の主力である自動車の販売が8月、前年比21.0%減と10ヵ月ぶりに前年を下回った。住宅販売はいずれも悪化しており、これも個人消費の不振の原因になるだろう。いままでは経済対策で支えられてきたが、その効果は薄れてきており、民間部門の力だけでどの程度踏ん張れるかが試されようとしている。

日本の景気は輸出で持ち直してきたが、輸出が完全に頭打ちになり、鉱工業生産も7月、前月比0.3%と伸び悩んでいる。減税・補助金の恩恵が9月末に迫ったため、自動車販売は8月、前年比46.7%増と急増した。10月以降はその反動があらわれ大幅に減少するだろう。需要の先食いであり、年度後半はそれが剥げ、自動車産業は厳しい事態に陥るだろう。自動車産業は鉄などの素材からエレクトロニクス部品まで裾野が広いだけに、製造業全体に影響するのは必至だ。その輸送機械工業の生産指数は前月比-1.3%と3月をピークに4ヵ月連続のマイナスとなり、早々減産体制に入っている。

7月の鉱工業生産は前月比プラスになったとはいえ、過去4ヵ月の数値はほぼ横ばいといって差し支えない。米国経済が思わしくないことや円高ドル安などから考えれば、年度後半に生産が低下する可能性が高い。鉱工業生産を前月比プラスにしたのは一般機械工業である。一般機械工業は4.3%も増加し、これだけで鉱工業生産を0.6ポイント引き上げた。これで一般機械工業は4ヵ月連続の伸びとなり、回復は著しいが7月の生産指数は88.1(2005年=100)と鉱工業生産指数の95,3を大幅に下回っており、出遅れている。一般機械工業の生産を牽引しているのは半導体製造装置やフラットパネル・ディスプレイ製造装置であり、特に前者は前年比2倍近い伸びとなった。ただ、そうした生産設備は需要拡大後、収縮が常について回ることから年度後半はそのような局面も考えられる。すでに鉱工業生産に高いウェイトをもつ電子部品・デバイスの生産は2ヵ月連続、出荷は3ヵ月連続の前月比減となり、在庫も上昇傾向にある。電子部品・デバイスの生産減はやがて半導体製造装置等に影響し、そのときは鉱工業生産の低下を加速させるだろう。

『法人企業統計』によれば、4-6月期の大企業営業利益は前年比2.5倍に拡大した。営業利益拡大の要因は原価と販管費を売上高の伸び以下に抑制したからである。特に、人件費は前年比1.9%削減し、販管費は0.9%減少した。原価の伸びも売上高を1.6ポイント下回り、大幅な増益要因となった。人件費以外のコストの中身は不明であるが、原材料費等のあらゆる支出がカットされたと考えられる。だが、支出の削減は売り手の側からみれば販売減であり、人件費のカットは消費の不振となって跳ね返ってくる。こうした企業の利益捻出法では一時的には利益はでるが、永続的には利益はでない。企業自身が有効需要の芽を摘んでいるからだ。

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この記事について

この記事は「編集者」の寄稿です。2010年9月 5日 21:10.

有価証券取引税を復活させるべし は以前の記事です。

景気後退の局面が近づく日本経済 は以降の記事です。

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