2010年9月 Archives

米国経済の抱える根深い問題

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曽我 純:

日本の債券利回りは週末、8月末以来の1%割れとなり、日経平均株価は9,500円を下回った。FRBが追加金融緩和姿勢を明らかにしたことにより、米国でも債券利回りは低下し、為替相場は円高ドル安に進んだ。一方、NYダウは4週連続で上昇し、4月末以来の高い水準に回復した。
 
米株式の上昇は公表された経済指標の内容に釣り合ったものではなく、株式は実体経済から乖離しつつある。米国経済は住宅バブル崩壊の影響を依然強く受けており、景気回復のための確かな足場は築かれていない。FRBの『Flow of Funds』によると、6月末の米モーゲージ残高は14.0兆ドル、前年比3.7%減少しているだけで、米国経済は巨額の不良資産を保有した状態にある。7月のFHFA住宅価格指数は前月比0.5%減と2ヵ月連続のマイナスとなり、指数は今回の下落過程で最低を更新、ピーク(07年4月)からの下落率は13.8%に拡大した。モーゲージ残高に単純にこの下落率を適用すると約2兆ドルの損失が発生していることになる。

モーゲージを家計や企業に貸付しているのは政府支援企業や商業銀行であり、借入の返済が滞り、差し押さえ物件が増加することによって、貸手の資産価値は減価し、巨額の不良資産が発生している。政府支援企業等がモーゲージの最大の貸手であり、6.11兆ドルもの残高がある。これを抜本的に処理するには1兆ドル単位の金が必要になるため米政府は時間を掛けて徐々に処理しようとしている。住宅バブル崩壊による不良資産の清算がなかなか進展しないことは、米国の景気はいつまでも不安定な状態が続くことでもある。

景気回復が期待できないことが債券利回りの低下やドル安となってあらわれているのだ。債券利回りは3週連続で低下し、8月第3週以来の低水準である。債券利回りは歴史的な低下をみせているが、資金需要は出てこない。8月の米商業銀行貸付は前年比-0.4%と14ヵ月連続の前年割れだ。リース関連が含まれているためマイナス幅は縮小しているが、商工業貸付は-12.4%と依然2桁減だし、不動産貸付は4.3%減だが、マイナス幅は前月の戦後最大から0.4ポイントの改善にとどまる。貸出が減少する半面、預金は前年比3.2%伸びているため、商業銀行の証券と現金は15.1%、20.6%それぞれ拡大している。

FEBのバランスシートの総資産は2.31兆ドル(9月22日)に膨れているが、大半は米財務省証券(0.8兆ドル)とモーゲージ担保証券(1.09兆ドル)である。加盟銀行からの預金(1.26兆ドル)と銀行券(0.91兆ドル)で証券類を購入しているが、これから満期、繰り上げ償還となるモーゲージ担保証券の売却価格が購入価格を下回れば、FRBの571億ドルの自己資本はすぐに底を付き、財務省から資本注入してもらう必要が生じる。FRBの自己資本比率は2.5%と商業銀行(11.6%)の約2割の水準であり、高いレバレッジが銀行経営を揺るがしたが、いまやFRBがその危険性が最も高いといえる。因みに日銀の自己資本比率は2.1%とFRBよりもさらに低く、株価は週末、50,000円とバブル崩壊後の安値(03年3月の40,000円、最高値は1988年12月の755,000円)に接近した。

先週発表された米住宅関連指標をみると、米住宅市場は超低水準の状況が続きそうである。8月の住宅着工件数は年率59.8万戸、前月比10.5%増加と回復しつつあるようにみえるが、一戸建てに限れば43.8万戸、4.3%増にとどまったほか、先行きを示す許可件数の一戸建ては1.2%減と5ヵ月連続の前月比減になり、とても底を打ったとはいえない。

8月の中古住宅販売件数は年率4.13百万戸、前月比7.6%増加したが、7月の27.0%もの急落後であり、6月比は21.5%減、前年比では-19.0%である。
週末発表の8月の新築一戸建て住宅販売は年率28.8万戸、前月比横ばいとなり、減税が終了して激減した5月の28.2万戸近い歴史的低水準で推移している。2009年の37.5万戸は1963年の調査開始以来最低を更新したが、今年は2年連続で最低を更新しそうだ。そうなると5年連続の前年割れとなり、05年のピークの4分の1程度になる。米住宅産業がトンネルからいつ抜け出すことができるのか予測はできない。ただ、いえることは住宅関連の不良資産が清算され、家計や銀行のバランスシートがきれいにならなければ、新たに住宅を買い求める人はそれほど増えないということである。そのような状態にならなければ、上昇率が1%を下回り、さらにゼロに近づくような物価環境を反転させることも難しい。米国経済が安定を取り戻すには幾多の障害を乗り越える必要がある。

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景気後退の局面が近づく日本経済

曽我 純:

日経平均株価は週末比1.4%増と2週連続で上昇した。半面、債券は3週連続で安く、これまでの債券買い、株式売りのポジションの一部が解消されたようだ。米失業保険申請件数の改善や米貿易統計の好意的解釈、さらには日本のGDPの上方修正など、過去の出来事を持ち出し、相場は煽られた。株式は先行性があると主張しながら、そうした考えを反故にし、単なるこじつけによって相場は持ち上げられた。景気が真剣に論じられたわけではなく、曖昧な状況のなかで醸し出された相場だけに、回復は一時的であり、長続きはしない。

GDPなどの経済指標を吟味すると政府、報道機関、それに歩調を合わせる証券会社等の上っ面の解釈とは正反対の結論がでてくる。名目GDP(2次速報値)は設備投資等の上方修正により、前期比-0.6%と1次速報値から0.3ポイントマイナス幅は縮小した。設備投資は前期比+1.5%と3四半期連続のプラスとなり、前年比でも1.6%増と7四半期ぶりのプラスとなった。設備投資は上方修正されたが、個人消費は変わらず、個人消費が不振のままでは、設備投資の回復も長持ちしないことは自明である。

先週、設備投資関連の指標がいくつか発表されたが、そこからいえることは、設備投資はすでに伸びの頂点近くにあり、今後、伸びは急速に鈍化する可能性が高いということである。そうした設備投資のピークアウトと輸出の減少により景気は悪化し、年内には景気後退のシグナルがでるだろう。

7月の機械受注によると、民需(船舶・電力を除く)は前月比8.8%と2ヵ月連続増となり、前年比では15.9%も増加した。特に、製造業は前月比10.1%、昨年の下落率が大きいとはいえ前年比では39.8%も拡大した。一方、非製造業(船舶・電力を除く)は前月比8.1%、前年比でも3.5%と回復力は弱い。民需に外需などを加えた受注総額も前年比23.4%と高い伸びを維持している。7月の民需(船舶・電力を除く)の前年比伸び率は06年6月以来約4年ぶり、受注総額は03年6月以来約7年ぶりの高い伸びとなった。機械受注の前年比伸び率のピーク近くに景気の山があることから、景気も向こう半年以内にピークを付けるのではないか。

9日発表の『法人企業景気予測調査(調査時点、8月15日)によると、2010年度上期(4月~9月)の全産業の設備投資(ソフトウエアを含む、土地を除く)は前年比11.8%と前回調査から4.1ポイント下方修正され、下期は5.8%と2.6ポイント上方修正された。下期は上方修正されたものの伸び率は上期の半分程度に鈍化する見通しである。四半期別では4-6月期の前年比-3.4%から7-9月期には27.6%の急増を見込んでおり、これから判断すれば、下期は急低下になり、設備投資の伸びは今がピークといえる。

2010年度の全産業の売上高は上期の4.7%から下期は1.2%に低下し、経常利益も54.5%から16.3%に鈍化すると予想されている。大企業全産業の景況判断BSI(「上昇」-「下降」、社数構成比)は7-9月期の7.1%から10-12月期には0.1%に低下する見通しである。

鉱工業生産の資本財出荷指数(輸送機械を除く)は7月、35.7%も伸びるなど設備投資関連指標は、いつ下落してもおかしくない高いところまできている。鉱工業生産指数の動きも鈍い。7月の生産指数(季節調整値)は95.3と5月を2ヵ月連続で下回っており、今後低下が顕著になれば、景気はあきらかに後退という判断が下される。過去の景気のピークはいずれも生産指数の高値近辺にあるからだ。

因みに、米鉱工業生産指数は6月の前月比横ばいから7月は1.0%伸びた。独は6月の0.6%減から7月は横ばいとなりもたついている。前年比では日本同様、ドイツは4月をピークに鈍化傾向がはっきりあらわれており、米国は6月の伸びがピークになりそうだ。

7月の景気動向指数によると先行指数は前月比0.8%低下し、3月をピークに低下傾向が鮮明である。先行性の強い一致・遅行指数比率も4月をピークに下落しており、景気の勢いは弱くなっている。一致指数は7月、前月比+0.5%と2ヵ月連続で上昇したが、4月以降は足踏み状態であり、やはり景気のテンポは緩やかになってきている。

各指標を3ヵ月前との比較で景気の拡大後退を見極めるディフュージョン・インデックスも景気の良い悪いの分かれ目である50%を先行指数は7月まで2ヵ月連続で下回った。昨年10月に100%を付けた後も今年4月までは高い水準を維持していたが、5月に大幅に低下してから、様子はがらりと変わってきた。一致指数は昨年11月に100%に達した後、今年5月までの6ヵ月間、連続して90%を超えていたが、6月、55%、7月、50%と大幅に低下した。一致指数が50%を上から下に切るときが、景気の山であるから、9月、10月にも一致指数は景気の転換点を捉えるかもしれない。

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米雇用統計を過少評価した市場

曽我 純:

週末のNYダウは8月の雇用統計(8時30分公表)が予想をよりも良かったため10時頃までは上昇したが、10時発表のISM非製造業景況感指数が前月を下回ったため反落、だがその後じり高となり、その日の高値圏で引けた。どうも株価は雇用統計の要因だけで上昇したわけではなさそうだ。

雇用統計発表後、一時1ドル=85円台の円安に振れたが、すぐに84円台に戻し、その後目立った変化はなく、1ドル=84円30銭で引け、週末比では約1円の円高ドル安だ。本当に、米国経済の回復力が増すのであれば、円安ドル高に方向転換していたはずだ。そうならなかったのは、非農業部門雇用者が引き続きマイナスになり、景気後退のリスクが高くなったからだ。一方、米10年債の利回りは3営業日連続の上昇となり、約3週間ぶりの高い水準となった。こちらは景気の過度の不安が払拭されたと判断したようだ。だが、非農業部門雇用者の減少は景気の転換を示すものであり、債券の売りはいずれ買い戻しを迫られるだろう。

雇用統計が予想を上回ったとはいえ、非農業部門雇用者は前月比5.4千人減と3ヵ月連続の減少となり、米国経済は拡大から縮小に転換しつつある。民間部門の雇用者は6.7万人増と8ヵ月連続のプラスだが、前月に比べれば増加数は4万人減である。4-6月期の月平均増加数は11.7万人だが、7月、8月の平均は8.7万人といまのところ4-6月期を下回っている。民間部門の増加は主に人材派遣の増加であり、前年比では民間部門が30.7万人増加しているが、そのうち人材派遣は38.3万人も増加しており、民間部門の雇用は一時的な雇用によってなんとか支えられている状態だ。企業の景気の先行きに対する自信のなさがあらわれている。

8月の非農業部門雇用者は前年比0.2%増と12ヵ月連続で改善しているが、伸び率は前月よりも0.1ポイントの上昇にとどまった。前年同月が前年を4.9%も下回っていることからみれば、前年比での改善もきわめて緩やかだといえる。雇用の改善の遅れから個人消費支出も7月、前年比3.4%と前月よりは0.2ポイント上昇したものの、3月の4.0%増を超えることなく、ピークアウトしつつあるような情勢である。

非農業部門雇用者が3ヵ月連続の前月比マイナスとなり、失業率が9.6%と前月比0.1ポイント上昇するなど米雇用環境の悪化は続き、米国経済の原動力である個人消費が回復する条件は整っていない。失業率の9%超えは16ヵ月連続となり、高失業率の長期化が個人消費の回復を妨げている。米国の人口は年約1.0%増加しているため年100万人以上の新規雇用が創出されなければ、失業率は低下していかない。足元、雇用者は前年比横ばいであり、上昇力は弱く、米国が失業率の高止まりの状態から抜け出すことは容易ではない。

耐久消費財の主力である自動車の販売が8月、前年比21.0%減と10ヵ月ぶりに前年を下回った。住宅販売はいずれも悪化しており、これも個人消費の不振の原因になるだろう。いままでは経済対策で支えられてきたが、その効果は薄れてきており、民間部門の力だけでどの程度踏ん張れるかが試されようとしている。

日本の景気は輸出で持ち直してきたが、輸出が完全に頭打ちになり、鉱工業生産も7月、前月比0.3%と伸び悩んでいる。減税・補助金の恩恵が9月末に迫ったため、自動車販売は8月、前年比46.7%増と急増した。10月以降はその反動があらわれ大幅に減少するだろう。需要の先食いであり、年度後半はそれが剥げ、自動車産業は厳しい事態に陥るだろう。自動車産業は鉄などの素材からエレクトロニクス部品まで裾野が広いだけに、製造業全体に影響するのは必至だ。その輸送機械工業の生産指数は前月比-1.3%と3月をピークに4ヵ月連続のマイナスとなり、早々減産体制に入っている。

7月の鉱工業生産は前月比プラスになったとはいえ、過去4ヵ月の数値はほぼ横ばいといって差し支えない。米国経済が思わしくないことや円高ドル安などから考えれば、年度後半に生産が低下する可能性が高い。鉱工業生産を前月比プラスにしたのは一般機械工業である。一般機械工業は4.3%も増加し、これだけで鉱工業生産を0.6ポイント引き上げた。これで一般機械工業は4ヵ月連続の伸びとなり、回復は著しいが7月の生産指数は88.1(2005年=100)と鉱工業生産指数の95,3を大幅に下回っており、出遅れている。一般機械工業の生産を牽引しているのは半導体製造装置やフラットパネル・ディスプレイ製造装置であり、特に前者は前年比2倍近い伸びとなった。ただ、そうした生産設備は需要拡大後、収縮が常について回ることから年度後半はそのような局面も考えられる。すでに鉱工業生産に高いウェイトをもつ電子部品・デバイスの生産は2ヵ月連続、出荷は3ヵ月連続の前月比減となり、在庫も上昇傾向にある。電子部品・デバイスの生産減はやがて半導体製造装置等に影響し、そのときは鉱工業生産の低下を加速させるだろう。

『法人企業統計』によれば、4-6月期の大企業営業利益は前年比2.5倍に拡大した。営業利益拡大の要因は原価と販管費を売上高の伸び以下に抑制したからである。特に、人件費は前年比1.9%削減し、販管費は0.9%減少した。原価の伸びも売上高を1.6ポイント下回り、大幅な増益要因となった。人件費以外のコストの中身は不明であるが、原材料費等のあらゆる支出がカットされたと考えられる。だが、支出の削減は売り手の側からみれば販売減であり、人件費のカットは消費の不振となって跳ね返ってくる。こうした企業の利益捻出法では一時的には利益はでるが、永続的には利益はでない。企業自身が有効需要の芽を摘んでいるからだ。

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