2010年7月 Archives

経済指標を等閑にした株式

曽我 純:

週後半の持ち直しにより日経平均株価は週末比4.2%上昇した。米国株式が5営業日連続増となったことによる他律的な上昇である。日本経済に関する経済指標は株式売りのシグナルを発していたが、これらをすべて等閑視してしまった。自らの判断ではなく、他者に追随したツケが回ってくることは、90年代以降の経済を思い出せば明らかなことだけれども、いつもの思慮に欠ける投資判断がなされてしまった。

8日には5月の『機械受注』が発表されたが、受注総額は10.8%減少し、昨年11月以来の低い水準である。内需関連はことごとく不振で外需だけが伸びた。内需が沈み外需が伸びたため外需・受注総額比率は43.7%と前月より5.8ポイント上昇し、08年5月以来の高い比率となり、過去最高(08年1月)に近づいてきた。機械受注は外需に支配されており、外需が伸びなければ設備投資関連は動きが取れない事態に陥っている。設備投資の先行指数になると言われている民需(船舶・電力を除く)を外需が上回る状態が4-6月期も続くだろう。

外需はピークでは月1.5兆円を上回るときもあったが、金融危機以降激減し、09年2月には3,000億円程度に縮小した。その後、順調に回復したが、3月以降はほぼ横ばいとなり、トレンドは変わってきた。一方、民需(船舶・電力を除く)の回復は遅れ、昨年11月にやっと底を打った。底は打ったものの回復力は極めて弱く、5月は前月比9.1%減少し、昨年11月の底を7.2%上回っているだけだ。昨年11月の最低水準は上回っているものの、90年代の3回のボトムをいずれも下回っており、今の水準自体が異常であることを裏付けている。

機械受注の外需と輸出の相関関係は強く、今年の初めまで両者は回復していたが、数ヵ月前から回復の勢いは衰えてしまい頭打ちとなっている。機械受注が発表された日に6月上中旬の貿易統計が明らかになったが、輸出は前年比22.5%と前月よりも13.8ポイントも低下した。下旬が加われば6月分も変わってくるが、5月の伸びを下回るのは確実だし、おそらく、前月比でも減少するはずだ。5月も前月比マイナスとなっているので、6月も減少すれば2ヵ月連続減となり、輸出のピークアウト感が強まるだろう。そうなれば生産の低下も予想され、製造業の業績も期待できなくなる。
5月の輸出額は前年比32.1%と3ヵ月連続の低下なり、6月は20%台へとさらに低下する見通しだ。輸出のなかでも変動の激しい半導体等電子部品は5月、前年比25.6%と1月の83.2%をピークに4ヵ月連続で伸び率は低下している。5月の世界半導体売上高は前年比47.6%伸びたが、前月に比べれば2.8ポイント低下しており、日本の半導体産業の力が落ちてきたとはいえ、世界景気の減速下では、半導体の伸びも鈍るだろう。

OECDによると、5月の景気先行指数は前月比0.1%と6ヵ月連続で伸び率は低下しており、世界景気拡大のテンポはあきらかに鈍化してきた。欧州を中心に採られる緊縮財政や脆弱な金融部門が実体経済に悪影響することは避けられず、今後、景気先行指数は現状レベルを維持することができなくなるだろう。

OECD景気先行指数の前年比伸び率は10.7%と依然高いが、2月を境に低下しており、今後、急速に鈍化していく見通しである。日本の輸出もOECD景気先行指数とほぼ似た動きをしており、輸出の前年比伸び率は大幅に低下し、企業業績のピークアウト感も強まるだろう。利益という株価の決定要因があやふやになる状況では株価の戻りは一時的であり、下落リスクは引き続き高いと判断している。

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週刊マーケットレター(100712).pdf

曽我 純:

先週発表の日米の経済指標は景気の先行きに不安を感じさせる内容であった。その前の週にも米国の住宅統計に減税切れの影響が顕著にあらわれ、日本の貿易統計も前月比減となるなど、これまで景気を支えていたところが失速してきた様子が明らかになってきた。米国も消費者信頼感指数の大幅低下や製造業景況感の後退、さらに雇用の勢いのなさ等の弱い指標が相次いだ。ここまではっきりと景気不透明のシグナルが点れば、株式売り、債券買いの姿勢が強まるのは当然である。

日経平均株価は4月のピークから約2,000円、NYダウは約1,500ドルそれぞれ下げた。他方、日本の国債利回りは1.0%を目指すほどに低下し、米国は09年4月以来の3.0%割れとなった。いずれも金利の歴史に残る記録的な低利回りといえる。

1930年代の米大恐慌でも利回りは大幅に低下したが、2%台に低下したのは1934年であり、経済成長率が2桁のマイナスになったからといって、直ちに、国債利回りが急低下したのではない。その後も低下し続け、1940年には1%台にまで下落した。大恐慌から抜け出し正常な経済に戻るには長期の時間を必要とすることが、国債利回りから窺い知ることができる。

今回の米国の不動産大不況も数年で治癒するような病ではなく、5年以上の時間を要するのではないか。景気は在庫調整などで一時的に回復したが、実体経済には病巣が残っており、その部分を根絶しなければ再び経済は下降していくことになる。5月の住宅販売の落ち込みは、不動産バブルが弾けきっていないことを裏付けており、モーゲージ残高がピークからそれほど減少していないことは、実体経済から依然不釣合いなほど、家計がモーゲージを保有していることを示している。

1933年、米国はニューディール政策で景気回復を図るが、効果は限定的で国債利回りは低下基調を変えることはなかった。1933年の米名目GDPは1929年の約半分に落ち込んでしまい、1929年を越えたのは第2次世界大戦開始後の1942年であり、元に回復するには12年掛かった。実質GDPは7年後の1936年に1929年を越えたけれども、それは1933年まで物価が大幅に下落するデフレの嵩上げによるものであり、実質が回復したからといって景気が本当に良くなったわけではない。1934年以降も物価の上昇は緩やかであり、1938年、1939年には再びマイナスに陥り、実際にデフレから抜け出すことができたのは第2次世界大戦に突入してからである。

米国債利回りの上昇はデフレが収束したことを確認してからということになるが、それでも上昇力はきわめて緩慢であり、2%台の低い水準は1955年まで続き、年平均で3%を超えたのは1956年である。1955年までの20年間、米国債利回りは3%未満の低い状態が続いたのである。

こうした米大恐慌後の米国経済と国債利回りの動きを検討してみると、米不動産大不況がかなりの確度で終息したといえるまでは、長期間、国債利回りは低い水準で推移する可能性が高いということである。経済成長率が正常なところまで回復したとしても、不動産バブルの膿が出尽くすまでは、国債利回りはなかなか本格的に上昇するところまでいかないかもしれない。10年毎の米名目経済成長率(年平均)は1970年代の10.0%から2010年までの10年は4.0%に低下する見通しであり、2020年まではさらに減速するだろう。こうした成長力の衰えも国債利回りの低下を促しているように思える。

■ 増益率のピークアウト感が株売り・債券買いを促す

日本の国債利回りはすでに13年間も2.0%以下の水準にある。2010年までの10年間の名目経済成長率がマイナス0.6%になることを勘案するならば、現状1%程度の利回りも下がりすぎとはいえない。すでに経験しているが1%以下に下がることは、なにも不思議なことではない。

5月の小売業や卸売業の販売額は前年比2.8%、0.7%といずれも前月の伸びを大幅に下回った。しかも、拡大しているのは自動車や燃料などの一部の業種に偏っており、これらの業種が不振に陥れば、プラスからマイナスへの変化は速いだろう。輸出減に連動して鉱工業生産も5月、3ヵ月ぶりの前月比減となった半面、在庫と在庫率はいずれも2ヵ月連続増となり、国内需要の不振などで思うように、ものがでていっていないようだ。1-3月期の生産は前期比7.0%増加したが、4-6月期は1.9%の伸びに低下するだろう。『家計調査』によれば、5月の勤労者世帯の可処分所得は前年を6.2%も下回った。これでは消費が伸びるわけがない。

6月調査の『短観』の業況判断は大企業で12ポイント改善したが、先行きは2ポイントの改善にとどまっている。経常利益見通しも大企業では、10年度上期の39.7%に対して下期は10.5%に鈍化する。特に、製造業の下期は2.7%と昨年度並みの水準にとどまると予想している。経常利益の伸びは09年度下期がピークとなり、伸び率はどんどん低下している。そのようなときには株式の魅力はなくなる。最近の経済指標に基づけば、短観の上期経常利益予想は下方修正されるだろう。下方修正を予想させるような指標が公表される度に、株式は大量の売りを浴びるだろう。

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