減少しないモーゲージが米景気回復の重圧に

曽我 純:

世界的に株は売られ、国債が買われている。日本の国債利回りも03年8月以来、約7年ぶりの低くさだ。08年9月以降深刻化した金融危機で景気は冷え込み、主要国の国債利回りは急低下したが、そのときの水準を上回っているのは金融危機の震源地である米国、米国と関係深いカナダ、イギリスの3ヵ国である。日本、ドイツ、フランス、イタリアは当時を下回っており、過去最低あたりにある。金融危機から2年ほど経過したが、欧州や日本の景気は金融危機のさ中よりもよくないことを示唆しているのだろうか。ソブリンリスクに端を発したリスク回避のための安全性の高い国の国債買いによる利回り低下なのか。欧州各国が矢継ぎ早に打ち出した歳出削減による景気への悪影響を織り込もうとしているのだろうか。

1-3月期の米実質GDPは前期比年率2.7%と3四半期連続増となったが、前期に比べれば伸び率は半分以下であり、しかもそのうち1.9%は在庫増によるものだ。昨年10-12月期も在庫の寄与率は7割近くに達しており、過去3四半期の経済の回復は在庫変動に依存していた。景気の急激な落ち込みにより意図せざる在庫増に見舞われ、それを09年4-6月期までに一掃し、今度は在庫を適正水準に戻す動きが、経済成長となってあらわれたのだ。1-3月期の個人消費支出の寄与度は2.1%と高くなったが、耐久財に依存しており、在庫とともに、4-6月期以降不透明である。4月末で切れた住宅減税の影響が、5月の住宅指標に顕著にみられたように、住宅販売が大幅に落ち込めば、今後、耐久消費財などの売上にも影響がでてくのは避けられない。

米国債利回りは3.1%に低下しており、1-3月期の名目GDPの前年比伸び率(2.9%)に接近してきた。今年の米財政赤字はGDPの10.6%と1945年(21.5%)以来65年ぶりの高水準になるが、米国債の魅力は増しているようだ。国債の発行額が増加すると、民間の資金調達が難くなり、市中金利が上昇するといわれているが、そうした心配はいつも杞憂に終わる。長期金利は長期の経済成長力で決まり、そうした需給関係では決まらないからだ。また、国債が増発されるときには、景気は悪く民間の資金需要は弱い。5月の米商業銀行の商工業向け貸出は前年比17.6%減と引き続き大幅なマイナスである。民間の資金需要が減少しているため、行き場のない金は必然的に国債に向うのである。

銀行が国債を買うだけでなく、FRBも買い、外国の政府も買う。ドルは世界の決済通貨であり、決済通貨であるかぎり、海外勢も保有せざるを得ない。非居住者の米債保有高は3月末、3.93兆ドル、そのうち公的部門は2.92兆ドル、03年末比約3倍である。中国は貿易で巨額のドルを入手しているが、その多くは米債に向けられている。ドルで大量に買えるものといえば、米国債以外には見当たらないからだ。

非居住者が保有しているドル資産のなかで気掛りなのは、ピークからは減少したとはいえ3月末、1.28兆ドルも抱えている政府系資産担保証券である。公的部門が0.9兆ドル、民間が0.37兆ドルと公的保有が圧倒的に多い。03年末比では民間の4.6%減に対して公的は3.45倍に拡大しており、もしこれが紙屑になれば、ドルの信認は一気に崩れ、金融恐慌に陥るため、米政府は住宅金融公社を救済せざるを得なかった。

非居住者以外のこの政府系資産担保証券(3月末残高、7.77兆ドル)の主な保有者は商業銀行(1.27兆ドル)、FRB(1.23兆ドル)、連邦・地方政府(0.59兆ドル)ミューチュアルファンド(0.68兆ドル)、マネーマーケットミューチュアルファンド(MMMF、0.46兆ドル)などである。08年第4四半期以降、FRBが政府支援企業やMMMFなどから市場性がなくなった政府系資産担保証券の買い取りを始めたが、今年3月末で終了した。

3月末のモーゲージ残高は14.2兆ドルとピークから3%程度しか減少していない。モーゲージの最大の保有者は政府支援企業で5.05兆ドル、次が3.76兆ドル保有する商業銀行である。モーゲージ・名目GDP比率は1-3月期、97.3%とピークからは約6ポイント低下したが、それでも過去のトレンドからは大きく逸脱している。モーゲージ・可処分所得比率も同様に高く、米国経済はモーゲージの重さに耐え兼ねている様子だ。モーゲージにこれだけのマネーを投下し続けることは、資金が他の必要な分野へ回り難いことでもあり、米国の景気回復を阻害するだろう。

これまでの米国経済の回復は最大級の財政・金融政策と在庫循環によるもので、自律的な回復ではない。歳出削減によるEUの景気低迷が影響するほか、モーゲージやそれに関連する証券などが負担になって、米国の成長率はFRBが想定する3.2%~3.7%にとどかないだろう。

翻って、日本経済に目を向けると米国以上に自律的回復は期待できない。1-3月期の名目GDPは前年比1.6%増加したが、これもひとえに外需のおかげだからだ。だが、輸出による回復が内需に繋がるところまでいかないあいだに、輸出が頭打ちになってしまった。5月の輸出は前月比1.2%減少し、過去5ヵ月はほぼ横ばいとなり、4-6月期の成長への輸出の寄与は期待できない。製造業の利益は輸出と連動しているため、今年度第1四半期の業績も予想を下回るだろう。

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この記事は「編集者」の寄稿です。2010年6月27日 19:05.

現実離れした政府の「新成長戦略」 は以前の記事です。

米バブルの膿が出尽くすまで続く利回りの低下 は以降の記事です。

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