現実離れした政府の「新成長戦略」

曽我 純:

政府は18日、新成長戦略を発表した。「強い経済」の実現を図り、2020年度までの年平均成長率を名目で3%、実質で2%を上回る目標を立てた。2000年度までの10年間の年平均名目成長率は1.3%であり、2010年まではついにマイナス0.6%になる見通しだ。こうした段階的な成長率の落ち込みをみると3%という高い成長に転換できる政府のシナリオはあまりにも現実離れしている。

政府のシナリオでは10年間で名目GDPを170兆円増加させなければならないのに、2013年度以降、消費税を引き上げようとしている。他方、法人実効税率は20%台に引き下げ、供給サイドは税金を軽減する。企業には税金を軽くするから、ものをたくさん作り、利益を上げろという方針だ。だが、消費税を上げれば、過去の引き上げ後の動向からあきらかなように、消費が落ち込むのは避けられない。消費が不振になれば企業の売上は落ち、業績は悪化することになる。税率を下げたところで売上が落ちのであれば純利益も悪化するであろう。売上が減少すれば、設備投資マインドは冷え込み、民間部門は疲弊することになる。

税率の引き下げにより、企業の純利益が増加したとしても、長期的な消費拡大が見込めなければ、企業は設備投資を積極化する行動はとらず、利益は内部留保として蓄えられる。企業貯蓄の増加は個人貯蓄同様、有効需要不足の原因となり、GDPを縮小させることになる。

デフレ経済であるため、家計や企業は現預金を積み増す一方、負債を削減している。4月の消費者物価指数は前年比1.2%低下しているが、この下落率が1年続けば、家計の798兆円(3月末)の現預金は年10兆円弱増加することになる。借入は、利子を取られる上に、物価の下落率だけ借入が増える。だから家計は貯蓄に励み、消費を抑える。事実、2000年度と2009年度の民間最終消費支出を比較すると9年の間隔があるにもかかわらず、両者は同じであり、民間最終消費支出が伸びなければ、経済は縮小することを実証している。こうしたデフレ下で消費税率を引き上げることになれば、消費を一層萎縮させることになり、日本経済のマイナス成長率は拡大すことになるだろう。

貯蓄が投資(政府支出と輸出超過額を加えたもの)を上回るというデフレの特徴が日本経済にはっきりあらわれている。将来の不安に加えて、資産選択の観点から貯蓄が最も有利な資産だといえるからだ。貯蓄が投資を上回ればものは売れなくなり、在庫は溜まり、経済規模は縮小していく。政府支出と輸出がその不足分を埋めることによって、貯蓄とバランスすることになる。今後、投資が一定で、輸出が減少することになれば、政府支出が必然的に拡大せざるをえない。

もしそうした経済状態で政府支出が拡大しなければ、経済はそれだけ縮小することになる。企業収益は輸出だけでなく財政赤字に大きく依存していることを忘れてはならない。財政赤字の削減は法人税率引き下げの効果を打ち消すことになる。企業収益の悪化は、従業員の解雇や人件費の削減というかたちであらわれ、それは消費を冷やし、デフレを強め、2020年度までの日本経済を戦後最悪の状態に陥れる。

戦後最悪の経済状態にあるときに、財政の規律を持ち出し、消費税率の引き上げを唱えることは、経済をさらに深い谷に追い込むことになる。年率1%を上回るマイナス成長になれば、財政をはじめ社会保障や年金のすべてが行き詰まり、国民生活は一段酷いことになる。いまはそのような道を突き進もうとしている。現実を反映した前提から出発しなければ、砂上の楼閣を築くだけである。

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この記事は「編集者」の寄稿です。2010年6月20日 21:52.

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