過剰な固定資産に苦しむ日本企業

曽我 純:

週初、NYダウは大幅安となったが、後半持ち直し、週末1万ドルを回復した。5月の中国の輸出・輸入が前年比48.5%、48.3%それぞれ伸びたことなどが評価されたようだが、同じ日に発表された4月の米輸出入が前月比で減少したことは話題にならなかった。中国の輸出入が伸びていれば、世界経済の拡大が持続していると解釈しているようだ。

中国では賃上げの争議が続き、ホンダは2つの自動車工場の操業を停止するなど、低賃金によるコスト削減が今までのように機能しなくなってきた。来年から始まる中国の次の「5ヵ年計画」では所得倍増計画が打ち出されようとしており、中国での生産の優位性は徐々に薄らぐだろう。

OECD発表の4月の景気先行指数によると、OECD全体では前月比0.4%伸びたが、中国は0.4%減と昨年12月以降5ヵ月連続のマイナスである。OECDの中国景気先行指数と中国の輸出入統計の示唆するところは違う。中国だけでなくアジア主要5ヵ国の景気先行指数も前月比横ばいとなり、0.5%増のG7を下回っており、アジアの景気は先進国よりも良くなく、先進国がアジアを引っ張っている形ではないか。

OECD全体の景気先行指数は4月も伸びたが、昨年7月をピークに伸び率は低下してきており、世界景気拡大のテンポは弱くなっている。前年比では12.2%と前月よりも0.7ポイント低下したが、5月の伸び率はさらに鈍化するはずだ。

ユーロ圏の景気先行指数も前月比プラスで推移しているが、財政危機に陥ったギリシャは昨年11月をピークに低下し、イタリアとフランスも今年2月以降3ヵ月連続の前月比マイナスである。半面、ドイツは前月比1.0%と5ヵ月連続1%程度の高い伸びを維持しており、ユーロ圏のなかでは抜きん出ている。ユーロ安により、ドイツの輸出は大きく伸びることになり、4年間で800億ユーロの歳出削減を補うことができるだろう。3月までのドイツの貿易統計(非ユーロ国への輸出)をみても、昨年9月を底に急回復しており、3月は過去最高を更新した。この傾向はさらに強まり、ドイツ経済は輸出主導で回復を果たすだろう。ユーロ圏の財政を立て直すにはユーロ安は願ってもない。08年夏まで約6年半続いたユーロ高は、今度はユーロ安の長期トレンドに変わったように思う。


世界景気拡大のテンポの衰えがはっきりしてきたことから、日本の株式は弱含んでいる。OECD景気先行指数の前年比と日経平均株価の相関性は強く、先行指数の伸び率が低下しているときには、株価はほぼ下落している。前年が急低下していたこともあり、先行指数の前年比伸びは過去最高に上昇した。日本企業の利益回復力の先が見えていることが、日本の株価上昇力を削いでいる。今期も営業利益は3~4割の増益を予想しているが、こうした高い伸びは期待はずれになりそうだ。

6月3日、1-3月期の『法人企業統計』が発表されたが、大企業の営業利益は前期を11.3%下回った。08年1-3月期と比較しても36.5%減であり、09年1-3月期の赤字を除けば、02年1-3月期以来の低水準であり、とても本格的な収益回復とはいえない。交易条件の好転により、昨年10-12月期は原価率が大幅に改善したが、今年1-3月期の原価率は前期に比べ悪化したことが収益率の低下となった。売上高よりも原価の伸びを抑えることは、原材料の売り手の売上高や従業員の給与が抑制されたからであり、これでは需要は伸びない。

日銀の交易条件指数は4月まで5ヵ月連続の前年比悪化となり、おそらく4-6月期の原価率も小幅な低下にとどまる程度だろう。収益率低下の基本的な問題は固定資産の過剰保有にある。1-3月期の固定資産・売上高比率は3.07と固定資産は売上高の3倍以上の規模である。09年1-3月期は3.25だが、2年前の08年1-3月期は2.4である。この数値を基に1-3月期の売上高に見合う固定資産の規模を計算すると、現状430.6兆円を94兆円も削減しなければならない。これだけ過剰の固定資産を抱えていると、それを維持するだけで膨大なコストを要するだけでなく、デフレによる資産価値の目減りも加わり、会計上の数値と実際の資産価値の乖離幅は拡大することになる。デフレでは会計基準に基づく数値の信憑性は揺らぐことになる。そもそも固定資本を適正に評価することなどできないのだが、これまでもこれからも、あたかも実態をあらわしているかのように装い、装い続けるだろう。固定資産を正しく測定するには将来のその固定資産の収益率が分からなければ計算することはできないからだ。貸借対照表に計上されている固定資産はそうとうの幅をもつ数値だということを理解しておく必要がある。

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この記事について

この記事は「編集者」の寄稿です。2010年6月13日 20:34.

長期の観点から日米経済を見つめる は以前の記事です。

現実離れした政府の「新成長戦略」 は以降の記事です。

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