長期の観点から日米経済を見つめる

曽我 純:

今の株式市場は洋の東西を問わず投機色が強いため、経済指標が予想よりも悪ければ、値を大きく下げる。投機だけでなく、株価そのものが高いことも、株価変動を高めている。期待先行で上げていた部分が剥がれつつあるともいえる。米雇用統計の前日に発表された5月のISM非製造業景況指数は55.4と3ヵ月連続の横ばいとなり、完全に頭打ちになっていた。1日に発表された5月のISM製造業景況指数は59.6と前月比0.7ポイント低下しており、米国景気はこれまでの回復から踊場か下降の段階に移行していることを示唆している。

1-3月期の米企業利益は前年比39.8%増加したが、そのうち金融部門は77.2%も急増しており、国内利益の34.7%は金融セクターで占められている。実力で稼ぎ出したものではなく、公的資金の注入やゼロ金利政策のお陰であり、増益をそのまま真に受けることはできない。下院との法案の一本化の作業が行われている金融規制改革法案の成立後には、このような荒稼ぎはできないだろう。

米国経済は金融部門の肥大化により、避けがたい有効需要の不足を回避していた。だが、過去30年におよぶ金融部門の急成長は2008年を境に縮小に転じつつあり、米国経済の構造や成長は変わると考えられる。金融部門の急拡大によって、2000年までの10年間の米実質GDP成長率(年率)は3.4%とその前の10年間(3.2%)を上回り、1960年代以来の高い成長を達成できた。だが、2010年までの10年間は1.7%と一気に90年代の半分に減速する見込みだ。不動産バブルの破裂と金融部門の衰退は、米長期経済成長率を下方に屈折させた。不動産バブルの後始末は長引き、金融部門のウエイトは低下することになり、2020年までの10年間の米成長率は1%台にとどまる見通しである。

経済成長率の低下を顧みず、ITや不動産バブルに酔いしれ、株価は2000年までの10年間に4.1倍に拡大した。その反動か2009年までの9年間では-9.3%である。だが、2009年までの30年間の拡大は、名目GDPの5.56倍に対して株価は12.43倍だ。あきらかに、実体経済に比べて株価は糸の切れた凧のように舞い上がっている。これからは株式が実体経済に収斂していく時代だと思う。長期経済成長率の低下がダウの1万ドル超を正当化できなくなった。低成長予想が市場参加者に受け入れられるようになれば、予想株価収益率も10倍前後に修正されるからだ。


2010年までの10年間の日本の名目成長率(年率)は、2000年までの1.3%から-0.6%へと戦後初のマイナスになる。株価が上がらないのは不思議なことではない。経済が縮小しているからであり、いくら金利を下げたところで、デフレで実質金利が高くなり、借手がでてこないからだ。ゼロ以下に下げない金融政策では実体経済を浮上させる力はなく、それが効果を発揮しているのは株式売買回転率が示しているように、投機が極限にまで推し進められたことだけである。実体経済とは関係のないマネーゲームに現を抜かしているから、本業の実体経済がお座なりになっているともとれる。実体経済がよくないので、ますます投機に走るという悪循環に嵌り込んでいる。

日本の総人口は04年をピークに減少し続けている。4年後の2014年になれば団塊世代がすべて65歳以上になり、09年12月1日時点と比較すれば65歳以上の人口は14.2%も増加し、構成比は26.5%に上昇する。半面、64歳以下の人口は6.4%減少することになり、消費はますます弱く、生産設備は余剰になるだろう。

2009年の人口動態統計(厚生労働省)によると、同年の出生数は107万人と前年を下回り、戦後最低の2005年に次ぐ2番目の少出生だ。出生率(人口千対)は8.5と前年を0.2ポイント下回った。妻の平均婚姻年齢(初婚)は28.6歳と上昇し続けており、10年間で1.8歳上昇した(因みに夫の平均婚姻年齢は30.4歳)。母の年齢別出生数をみると、婚姻年齢の上昇により、34歳以下の母の出生数は前年を下回っているが、35~39歳と40~44歳の高年齢の出生数は増加している。

出生数の減少に加えて、出生時の体重が増加しないことも問題である。男は04年、女は05年まで減少していたが、その後08年まで横ばいで推移している。特に、女は2.96kgと3kgを下回っており、2.5kg未満の未熟児の割合は08年、10.7%と高止まりの状態にある。戦後最低の1975年(5.5%)に比較すると未熟児比率は約倍になっている。男の未熟児比率は8.5%と4年連続最高という思わしくない状態にある。

出生時の体重が少なく、未熟児が多いということは、育児や経済的負担が増すというだけでなく、将来の健康という意味においても重要なシグナルを発していることは間違いない。人口減、高年齢出産、出生時の体重減などが今後、日本経済にボディーブローのように効いてくるだろう。家庭や企業は流布している社会のあり方、常識を今一度捉え直し、再構築する必要がある。

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この記事は「編集者」の寄稿です。2010年6月 6日 19:10.

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