2010年6月 Archives

減少しないモーゲージが米景気回復の重圧に

曽我 純:

世界的に株は売られ、国債が買われている。日本の国債利回りも03年8月以来、約7年ぶりの低くさだ。08年9月以降深刻化した金融危機で景気は冷え込み、主要国の国債利回りは急低下したが、そのときの水準を上回っているのは金融危機の震源地である米国、米国と関係深いカナダ、イギリスの3ヵ国である。日本、ドイツ、フランス、イタリアは当時を下回っており、過去最低あたりにある。金融危機から2年ほど経過したが、欧州や日本の景気は金融危機のさ中よりもよくないことを示唆しているのだろうか。ソブリンリスクに端を発したリスク回避のための安全性の高い国の国債買いによる利回り低下なのか。欧州各国が矢継ぎ早に打ち出した歳出削減による景気への悪影響を織り込もうとしているのだろうか。

1-3月期の米実質GDPは前期比年率2.7%と3四半期連続増となったが、前期に比べれば伸び率は半分以下であり、しかもそのうち1.9%は在庫増によるものだ。昨年10-12月期も在庫の寄与率は7割近くに達しており、過去3四半期の経済の回復は在庫変動に依存していた。景気の急激な落ち込みにより意図せざる在庫増に見舞われ、それを09年4-6月期までに一掃し、今度は在庫を適正水準に戻す動きが、経済成長となってあらわれたのだ。1-3月期の個人消費支出の寄与度は2.1%と高くなったが、耐久財に依存しており、在庫とともに、4-6月期以降不透明である。4月末で切れた住宅減税の影響が、5月の住宅指標に顕著にみられたように、住宅販売が大幅に落ち込めば、今後、耐久消費財などの売上にも影響がでてくのは避けられない。

米国債利回りは3.1%に低下しており、1-3月期の名目GDPの前年比伸び率(2.9%)に接近してきた。今年の米財政赤字はGDPの10.6%と1945年(21.5%)以来65年ぶりの高水準になるが、米国債の魅力は増しているようだ。国債の発行額が増加すると、民間の資金調達が難くなり、市中金利が上昇するといわれているが、そうした心配はいつも杞憂に終わる。長期金利は長期の経済成長力で決まり、そうした需給関係では決まらないからだ。また、国債が増発されるときには、景気は悪く民間の資金需要は弱い。5月の米商業銀行の商工業向け貸出は前年比17.6%減と引き続き大幅なマイナスである。民間の資金需要が減少しているため、行き場のない金は必然的に国債に向うのである。

銀行が国債を買うだけでなく、FRBも買い、外国の政府も買う。ドルは世界の決済通貨であり、決済通貨であるかぎり、海外勢も保有せざるを得ない。非居住者の米債保有高は3月末、3.93兆ドル、そのうち公的部門は2.92兆ドル、03年末比約3倍である。中国は貿易で巨額のドルを入手しているが、その多くは米債に向けられている。ドルで大量に買えるものといえば、米国債以外には見当たらないからだ。

非居住者が保有しているドル資産のなかで気掛りなのは、ピークからは減少したとはいえ3月末、1.28兆ドルも抱えている政府系資産担保証券である。公的部門が0.9兆ドル、民間が0.37兆ドルと公的保有が圧倒的に多い。03年末比では民間の4.6%減に対して公的は3.45倍に拡大しており、もしこれが紙屑になれば、ドルの信認は一気に崩れ、金融恐慌に陥るため、米政府は住宅金融公社を救済せざるを得なかった。

非居住者以外のこの政府系資産担保証券(3月末残高、7.77兆ドル)の主な保有者は商業銀行(1.27兆ドル)、FRB(1.23兆ドル)、連邦・地方政府(0.59兆ドル)ミューチュアルファンド(0.68兆ドル)、マネーマーケットミューチュアルファンド(MMMF、0.46兆ドル)などである。08年第4四半期以降、FRBが政府支援企業やMMMFなどから市場性がなくなった政府系資産担保証券の買い取りを始めたが、今年3月末で終了した。

3月末のモーゲージ残高は14.2兆ドルとピークから3%程度しか減少していない。モーゲージの最大の保有者は政府支援企業で5.05兆ドル、次が3.76兆ドル保有する商業銀行である。モーゲージ・名目GDP比率は1-3月期、97.3%とピークからは約6ポイント低下したが、それでも過去のトレンドからは大きく逸脱している。モーゲージ・可処分所得比率も同様に高く、米国経済はモーゲージの重さに耐え兼ねている様子だ。モーゲージにこれだけのマネーを投下し続けることは、資金が他の必要な分野へ回り難いことでもあり、米国の景気回復を阻害するだろう。

これまでの米国経済の回復は最大級の財政・金融政策と在庫循環によるもので、自律的な回復ではない。歳出削減によるEUの景気低迷が影響するほか、モーゲージやそれに関連する証券などが負担になって、米国の成長率はFRBが想定する3.2%~3.7%にとどかないだろう。

翻って、日本経済に目を向けると米国以上に自律的回復は期待できない。1-3月期の名目GDPは前年比1.6%増加したが、これもひとえに外需のおかげだからだ。だが、輸出による回復が内需に繋がるところまでいかないあいだに、輸出が頭打ちになってしまった。5月の輸出は前月比1.2%減少し、過去5ヵ月はほぼ横ばいとなり、4-6月期の成長への輸出の寄与は期待できない。製造業の利益は輸出と連動しているため、今年度第1四半期の業績も予想を下回るだろう。

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現実離れした政府の「新成長戦略」

曽我 純:

政府は18日、新成長戦略を発表した。「強い経済」の実現を図り、2020年度までの年平均成長率を名目で3%、実質で2%を上回る目標を立てた。2000年度までの10年間の年平均名目成長率は1.3%であり、2010年まではついにマイナス0.6%になる見通しだ。こうした段階的な成長率の落ち込みをみると3%という高い成長に転換できる政府のシナリオはあまりにも現実離れしている。

政府のシナリオでは10年間で名目GDPを170兆円増加させなければならないのに、2013年度以降、消費税を引き上げようとしている。他方、法人実効税率は20%台に引き下げ、供給サイドは税金を軽減する。企業には税金を軽くするから、ものをたくさん作り、利益を上げろという方針だ。だが、消費税を上げれば、過去の引き上げ後の動向からあきらかなように、消費が落ち込むのは避けられない。消費が不振になれば企業の売上は落ち、業績は悪化することになる。税率を下げたところで売上が落ちのであれば純利益も悪化するであろう。売上が減少すれば、設備投資マインドは冷え込み、民間部門は疲弊することになる。

税率の引き下げにより、企業の純利益が増加したとしても、長期的な消費拡大が見込めなければ、企業は設備投資を積極化する行動はとらず、利益は内部留保として蓄えられる。企業貯蓄の増加は個人貯蓄同様、有効需要不足の原因となり、GDPを縮小させることになる。

デフレ経済であるため、家計や企業は現預金を積み増す一方、負債を削減している。4月の消費者物価指数は前年比1.2%低下しているが、この下落率が1年続けば、家計の798兆円(3月末)の現預金は年10兆円弱増加することになる。借入は、利子を取られる上に、物価の下落率だけ借入が増える。だから家計は貯蓄に励み、消費を抑える。事実、2000年度と2009年度の民間最終消費支出を比較すると9年の間隔があるにもかかわらず、両者は同じであり、民間最終消費支出が伸びなければ、経済は縮小することを実証している。こうしたデフレ下で消費税率を引き上げることになれば、消費を一層萎縮させることになり、日本経済のマイナス成長率は拡大すことになるだろう。

貯蓄が投資(政府支出と輸出超過額を加えたもの)を上回るというデフレの特徴が日本経済にはっきりあらわれている。将来の不安に加えて、資産選択の観点から貯蓄が最も有利な資産だといえるからだ。貯蓄が投資を上回ればものは売れなくなり、在庫は溜まり、経済規模は縮小していく。政府支出と輸出がその不足分を埋めることによって、貯蓄とバランスすることになる。今後、投資が一定で、輸出が減少することになれば、政府支出が必然的に拡大せざるをえない。

もしそうした経済状態で政府支出が拡大しなければ、経済はそれだけ縮小することになる。企業収益は輸出だけでなく財政赤字に大きく依存していることを忘れてはならない。財政赤字の削減は法人税率引き下げの効果を打ち消すことになる。企業収益の悪化は、従業員の解雇や人件費の削減というかたちであらわれ、それは消費を冷やし、デフレを強め、2020年度までの日本経済を戦後最悪の状態に陥れる。

戦後最悪の経済状態にあるときに、財政の規律を持ち出し、消費税率の引き上げを唱えることは、経済をさらに深い谷に追い込むことになる。年率1%を上回るマイナス成長になれば、財政をはじめ社会保障や年金のすべてが行き詰まり、国民生活は一段酷いことになる。いまはそのような道を突き進もうとしている。現実を反映した前提から出発しなければ、砂上の楼閣を築くだけである。

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過剰な固定資産に苦しむ日本企業

曽我 純:

週初、NYダウは大幅安となったが、後半持ち直し、週末1万ドルを回復した。5月の中国の輸出・輸入が前年比48.5%、48.3%それぞれ伸びたことなどが評価されたようだが、同じ日に発表された4月の米輸出入が前月比で減少したことは話題にならなかった。中国の輸出入が伸びていれば、世界経済の拡大が持続していると解釈しているようだ。

中国では賃上げの争議が続き、ホンダは2つの自動車工場の操業を停止するなど、低賃金によるコスト削減が今までのように機能しなくなってきた。来年から始まる中国の次の「5ヵ年計画」では所得倍増計画が打ち出されようとしており、中国での生産の優位性は徐々に薄らぐだろう。

OECD発表の4月の景気先行指数によると、OECD全体では前月比0.4%伸びたが、中国は0.4%減と昨年12月以降5ヵ月連続のマイナスである。OECDの中国景気先行指数と中国の輸出入統計の示唆するところは違う。中国だけでなくアジア主要5ヵ国の景気先行指数も前月比横ばいとなり、0.5%増のG7を下回っており、アジアの景気は先進国よりも良くなく、先進国がアジアを引っ張っている形ではないか。

OECD全体の景気先行指数は4月も伸びたが、昨年7月をピークに伸び率は低下してきており、世界景気拡大のテンポは弱くなっている。前年比では12.2%と前月よりも0.7ポイント低下したが、5月の伸び率はさらに鈍化するはずだ。

ユーロ圏の景気先行指数も前月比プラスで推移しているが、財政危機に陥ったギリシャは昨年11月をピークに低下し、イタリアとフランスも今年2月以降3ヵ月連続の前月比マイナスである。半面、ドイツは前月比1.0%と5ヵ月連続1%程度の高い伸びを維持しており、ユーロ圏のなかでは抜きん出ている。ユーロ安により、ドイツの輸出は大きく伸びることになり、4年間で800億ユーロの歳出削減を補うことができるだろう。3月までのドイツの貿易統計(非ユーロ国への輸出)をみても、昨年9月を底に急回復しており、3月は過去最高を更新した。この傾向はさらに強まり、ドイツ経済は輸出主導で回復を果たすだろう。ユーロ圏の財政を立て直すにはユーロ安は願ってもない。08年夏まで約6年半続いたユーロ高は、今度はユーロ安の長期トレンドに変わったように思う。


世界景気拡大のテンポの衰えがはっきりしてきたことから、日本の株式は弱含んでいる。OECD景気先行指数の前年比と日経平均株価の相関性は強く、先行指数の伸び率が低下しているときには、株価はほぼ下落している。前年が急低下していたこともあり、先行指数の前年比伸びは過去最高に上昇した。日本企業の利益回復力の先が見えていることが、日本の株価上昇力を削いでいる。今期も営業利益は3~4割の増益を予想しているが、こうした高い伸びは期待はずれになりそうだ。

6月3日、1-3月期の『法人企業統計』が発表されたが、大企業の営業利益は前期を11.3%下回った。08年1-3月期と比較しても36.5%減であり、09年1-3月期の赤字を除けば、02年1-3月期以来の低水準であり、とても本格的な収益回復とはいえない。交易条件の好転により、昨年10-12月期は原価率が大幅に改善したが、今年1-3月期の原価率は前期に比べ悪化したことが収益率の低下となった。売上高よりも原価の伸びを抑えることは、原材料の売り手の売上高や従業員の給与が抑制されたからであり、これでは需要は伸びない。

日銀の交易条件指数は4月まで5ヵ月連続の前年比悪化となり、おそらく4-6月期の原価率も小幅な低下にとどまる程度だろう。収益率低下の基本的な問題は固定資産の過剰保有にある。1-3月期の固定資産・売上高比率は3.07と固定資産は売上高の3倍以上の規模である。09年1-3月期は3.25だが、2年前の08年1-3月期は2.4である。この数値を基に1-3月期の売上高に見合う固定資産の規模を計算すると、現状430.6兆円を94兆円も削減しなければならない。これだけ過剰の固定資産を抱えていると、それを維持するだけで膨大なコストを要するだけでなく、デフレによる資産価値の目減りも加わり、会計上の数値と実際の資産価値の乖離幅は拡大することになる。デフレでは会計基準に基づく数値の信憑性は揺らぐことになる。そもそも固定資本を適正に評価することなどできないのだが、これまでもこれからも、あたかも実態をあらわしているかのように装い、装い続けるだろう。固定資産を正しく測定するには将来のその固定資産の収益率が分からなければ計算することはできないからだ。貸借対照表に計上されている固定資産はそうとうの幅をもつ数値だということを理解しておく必要がある。

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長期の観点から日米経済を見つめる

曽我 純:

今の株式市場は洋の東西を問わず投機色が強いため、経済指標が予想よりも悪ければ、値を大きく下げる。投機だけでなく、株価そのものが高いことも、株価変動を高めている。期待先行で上げていた部分が剥がれつつあるともいえる。米雇用統計の前日に発表された5月のISM非製造業景況指数は55.4と3ヵ月連続の横ばいとなり、完全に頭打ちになっていた。1日に発表された5月のISM製造業景況指数は59.6と前月比0.7ポイント低下しており、米国景気はこれまでの回復から踊場か下降の段階に移行していることを示唆している。

1-3月期の米企業利益は前年比39.8%増加したが、そのうち金融部門は77.2%も急増しており、国内利益の34.7%は金融セクターで占められている。実力で稼ぎ出したものではなく、公的資金の注入やゼロ金利政策のお陰であり、増益をそのまま真に受けることはできない。下院との法案の一本化の作業が行われている金融規制改革法案の成立後には、このような荒稼ぎはできないだろう。

米国経済は金融部門の肥大化により、避けがたい有効需要の不足を回避していた。だが、過去30年におよぶ金融部門の急成長は2008年を境に縮小に転じつつあり、米国経済の構造や成長は変わると考えられる。金融部門の急拡大によって、2000年までの10年間の米実質GDP成長率(年率)は3.4%とその前の10年間(3.2%)を上回り、1960年代以来の高い成長を達成できた。だが、2010年までの10年間は1.7%と一気に90年代の半分に減速する見込みだ。不動産バブルの破裂と金融部門の衰退は、米長期経済成長率を下方に屈折させた。不動産バブルの後始末は長引き、金融部門のウエイトは低下することになり、2020年までの10年間の米成長率は1%台にとどまる見通しである。

経済成長率の低下を顧みず、ITや不動産バブルに酔いしれ、株価は2000年までの10年間に4.1倍に拡大した。その反動か2009年までの9年間では-9.3%である。だが、2009年までの30年間の拡大は、名目GDPの5.56倍に対して株価は12.43倍だ。あきらかに、実体経済に比べて株価は糸の切れた凧のように舞い上がっている。これからは株式が実体経済に収斂していく時代だと思う。長期経済成長率の低下がダウの1万ドル超を正当化できなくなった。低成長予想が市場参加者に受け入れられるようになれば、予想株価収益率も10倍前後に修正されるからだ。


2010年までの10年間の日本の名目成長率(年率)は、2000年までの1.3%から-0.6%へと戦後初のマイナスになる。株価が上がらないのは不思議なことではない。経済が縮小しているからであり、いくら金利を下げたところで、デフレで実質金利が高くなり、借手がでてこないからだ。ゼロ以下に下げない金融政策では実体経済を浮上させる力はなく、それが効果を発揮しているのは株式売買回転率が示しているように、投機が極限にまで推し進められたことだけである。実体経済とは関係のないマネーゲームに現を抜かしているから、本業の実体経済がお座なりになっているともとれる。実体経済がよくないので、ますます投機に走るという悪循環に嵌り込んでいる。

日本の総人口は04年をピークに減少し続けている。4年後の2014年になれば団塊世代がすべて65歳以上になり、09年12月1日時点と比較すれば65歳以上の人口は14.2%も増加し、構成比は26.5%に上昇する。半面、64歳以下の人口は6.4%減少することになり、消費はますます弱く、生産設備は余剰になるだろう。

2009年の人口動態統計(厚生労働省)によると、同年の出生数は107万人と前年を下回り、戦後最低の2005年に次ぐ2番目の少出生だ。出生率(人口千対)は8.5と前年を0.2ポイント下回った。妻の平均婚姻年齢(初婚)は28.6歳と上昇し続けており、10年間で1.8歳上昇した(因みに夫の平均婚姻年齢は30.4歳)。母の年齢別出生数をみると、婚姻年齢の上昇により、34歳以下の母の出生数は前年を下回っているが、35~39歳と40~44歳の高年齢の出生数は増加している。

出生数の減少に加えて、出生時の体重が増加しないことも問題である。男は04年、女は05年まで減少していたが、その後08年まで横ばいで推移している。特に、女は2.96kgと3kgを下回っており、2.5kg未満の未熟児の割合は08年、10.7%と高止まりの状態にある。戦後最低の1975年(5.5%)に比較すると未熟児比率は約倍になっている。男の未熟児比率は8.5%と4年連続最高という思わしくない状態にある。

出生時の体重が少なく、未熟児が多いということは、育児や経済的負担が増すというだけでなく、将来の健康という意味においても重要なシグナルを発していることは間違いない。人口減、高年齢出産、出生時の体重減などが今後、日本経済にボディーブローのように効いてくるだろう。家庭や企業は流布している社会のあり方、常識を今一度捉え直し、再構築する必要がある。

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