ユーロはどこまで下がるのだろうか

曽我 純:

5月10日、EUとIMFによる7,500億ユーロの緊急融資制度の創設、欧州中央銀行(ECB)の国債買い入れ、日米欧6中銀のドル資金供給の再開などを打ち出したにもかかわらず、ドルユーロ相場は先週末、1ユーロ=1.236ドルと週末ベースでは06年4月第3週以来約4年ぶりのユーロ安ドル高となった。リーマンが破綻する前の08年7月以降、ユーロは急激に下落しているが、そのときの安値を下回り、新たな水準を模索する展開になっている。

ユーロ安ドル高の急激な進行が、ユーロ建ての債権価値の目減りに拍車を掛け、投機業者たちは資金をドルなどに疎開させている。ユーロ安により、ドル建て商品の購入メリットは消滅、景気の不透明感も広がり、原油価格は1ヵ月で12.6%も下落した。OECDの景気先行指数は3月、前年比12.8%も伸び過去最高を更新している。おそらく伸び率は近々ピークアウトするはずだ。商品市況は景気先行指数に遅行する傾向が強いことから、このまま続落するだろう。最高値を更新した金も例外ではない。

ユーロ安ドル高はユーロからの輸出を促すことになり、景気にはプラスに作用する半面、輸入物価の上昇を惹起し、インフレに過度にこだわるECBの金融政策を引き締めに傾かせることになる。ユーロ圏の消費者物価指数は4月、前年比1.5%と昨年7月(-0.7%)を底に上昇しつつある。物価上昇率はユーロの政策金利(1.0%)を超えており、ECBにとっては、いまの政策金利の水準は到底容認できるものではない。金融危機に陥っている異例のケースだから、やむなく据え置いているが、金融システムが安定すれば、実体経済を考慮することなく、ECBは利上げに踏み切るのではないか。それによって、欧州経済の成長は再度後退を余儀なくされることも考えられる。

急速なユーロ安ドル高が進行しているが、ドイツの長期金利は2週連続、2%台を維持している。先週発表された1-3月期のドイツの名目GDPは前年比3.0%と前年同期が-5.2%と大幅に落ち込んでいたため、5四半期ぶりに前年を上回った。ただ、08年1-3月期にはとどいておらず、水準そのものは依然低く、景気回復の足取りは重い。回復に力強さは感じられないことから、2010年の名目成長率は2%台にとどまるだろう。ただ、成長率から予想すれば、ドイツの長期金利は下限近くまで低下してきており、米独の長期金利差の観点からのユーロ安圧力は減じてきている。

ユーロはどこまで下がり続けるのだろうか。これに対する答えは、ユーロ経済が米国経済に比較して強くなれるかどうかにかかっている。経済が強いか弱いかの指標として実質GDPを使用することにする。99年の統一通貨ユーロが誕生してから2008年までは概ね、ユーロの経済成長率(前年比)が米国を上回っていた。それが、2009年以降は第2四半期を除けば、2010年1-3月期まで、金融危機の震源地である米国の成長率がユーロ圏を凌駕している。特に、09年10-12月期の格差は1.3ポイントと96年以降では最大になった。こうした米国の経済成長率がユーロを上回る状態が続くことになれば、ユーロの地位はさらに低下するだろう。

ユーロ圏の各国は緊縮財政を迫られているが、1-3月期のユーロ圏の実質経済成長率が前期比0.2%のような千鳥足で、財政支出をカットすれば、経済はもっと疲弊することは必至である。経済が悪化すれば、財政はますます逼迫し、財政の脆弱な国の国債は売り込まれ、ユーロ売りが加速することになる。今回のEUの基金創設(5,000億ユーロ)のうち600億ユーロは欧州委員会が債券発行し、融資資金を調達する仕組みになっているが、財政危機に直面している国に対しては、しばらくこうした方法による資金手立てに依存せざるを得ない。

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この記事は「編集者」の寄稿です。2010年5月16日 12:09.

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