2010年4月 Archives

バブルを次々に生み出す金融政策

曽我 純:

金融やIT企業の好業績を受けNYダウは8週連続高となり、08年9月第3週以来の高い水準に上昇した。米長短金利はじわじわ上昇し、ドルは強含んでいる。23日のG20財務相会議共同声明では「世界経済の回復は予想以上に進んでいるが、・・回復がより確固たるものになるまでは政策支援が維持されるべきだ」と謳われ、米国の政策金利も現状維持が続くという期待から、金利の上昇も緩やかなものにとどまっている。

ゼロ金利の恩恵を最もうけるのは金融部門である。3月の米消費者物価指数(食品・エネルギーを除く)は前年比1.1%に低下し、60年代以降では最低の伸びである。銀行間市場での調達コストは0.2%程度であるので、実質金利はマイナスになる。市場で運用すれば儲かるので、金融機関はできるだけ多くの資金を調達し、積極的に運用に取り組み、金融市場だけが活発になる。超金融緩和が実体経済に波及しているかというと、貸出は前年を割れているし、株高以外にはあらわれていない。ゼロ金利による金融部門の利益拡大が株高に結びついている。週末のNYダウは前年を40%以上も上回っており、バブル化しているといえる。月末値で40%以上の上昇は過去30年間で6回にすぎない。米国経済はバブルが弾けたと思ったら、またバブルが発生するという悪循環に陥っている。

非金融セクターの利益も回復しているが、賃金などの報酬の抑制による部分が大きく、米国企業の収益力が本格的に回復しているとは言いがたい。09年10-12月期の雇用コスト指数(非軍事、総報酬)は前年比1.5%と7-9月期と同じ低い伸びとなり、1981年以降では最低である。09年10-12月期の小売売上高は前年比2.0%と雇用コスト指数をわずかに上回ったが、今年1-3月期の小売売上高は7.6%も伸びており、雇用コストが抑えられたままであれば、収益は大幅に改善しているはずだ。

製造業の収益源である輸出増止る

米国の株価が続伸している一方、日経平均株価は2週連続の下落だ。債券利回りも6週間ぶりの低い水準に低下し、円ドル相場は円安ドル高にふれた。株価の上昇力が衰えてきたのは、1-3月期で企業収益の改善が止る兆しが見えてきたからである。22日発表の3月の貿易統計によると、季節調整値の輸出は前月比横ばいとなり、1月を2ヵ月連続で下回った。輸出の回復が止ることは、製造業の売上の増加も止り、収益増も期待できなくなることになる。輸出の動向から予想すれば、月次の製造業の業績は2月以降足踏みとなっているが、1-3月期では前期比11.7%も増加しているため、利益も大幅に伸びているだろう。3月の輸出はピーク(08年1月)の76.3%の水準であり、この水準から大きく伸びることはないのではないか。

輸出の前年比伸び率は3月、43.5%増だが、前月よりも1.8ポイント低下した。前月より伸び率が拡大したのは欧州だけで、米国は29.5%と20.9ポイントも低下し、アジアは52.9%と依然高いが2ヵ月連続の低下である。

08年10月以降、世界的な需要の急激な減少により、在庫は大幅に増加した。在庫の急増に対処するために生産を縮小し、在庫処分に走った。その結果、在庫は適正水準に以下に減少したため、在庫を適正水準に戻すための生産増とそれにともなう輸入の拡大が生じたが、それも一巡したところではないか。

3月の米小売売上高(飲食業除く)は、ピーク(07年11月)を5.5%下回っている。ゼロ金利政策や7,870億ドルの財政政策を出動しても、これだけの回復にとどまっており、今後、こうした政策効果が薄れていくことを考慮するならば、回復の足取りはより緩慢になるだろう。欧州はEUの経済状態の格差が単一の金融政策では運営できない状態に追い込まれており、景気回復は米国よりもさらに遅いペースになることは間違いない。新興国はそれなりの成長を持続するが、米国、欧州の経済が横ばいになれば、生産水準を落とさざるを得ない。世界的に生産は過去1年のような、在庫を積み増すような急激な回復ではなく、需要に見合った水準を模索しながら慎重に進めていくように思う。

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金融依存型経済の終焉

曽我 純:

SECがゴールドマン・サックス(GS)を証券詐欺罪で訴追するニュースにより、株式や商品市場は大幅に値下がりした。07年にGSが販売したサブプライムを組み込んだCDO(担保債務証券)に問題があったというわけだ。ヘッジファンドなどとぐるになって怪しげな商品を開発・販売した例は数え切れず、そうした詐欺的商品の蔓延が米金融機関だけでなく世界中の金融機関の土台を揺さぶったのである。過去の販売に問題があったことよりも、現実に巨額の証券化商品がそのまま放置されていることのほうが問題ではないか。実体経済は緩やかに戻しているが、MBS(モーゲージ担保証券)を中心にマネー経済は巨額の不良資産を抱えた状態を続けており、とても米国のマネー経済が正常になったとはいえない。

1980年代前半の金融自由化により、米国のマネー経済は著しく拡大していった。1970年代の国民所得に占める金融部門の比率は60年代、70年代を通して高くても13%台であったが、その後はほぼ上昇し続け、1997年には国民所得の18.5%を占めるに至った。1997年以降はやや低下しているが、それでも2008年までの最低は17.2%であり、70年代の水準を大幅に上回っている。一方、非金融部門の比率は80年代以降、顕著に低下し、米国経済を牽引してきたのは非生産部門である金融部門に依存していたことがわかる。なにも生産しない金融部門の支出が有効需要の不足分を補う役割を果たしており、それが米国経済の景気拡大に寄与していた。

今回の金融危機が起こった原因のひとつに、金融機関がレバレッジを効かし負債を拡大させたことが挙げられている。金融負債と実体経済の比較に金融債務・名目GDP比率を利用しよう。同比率は1970年代までは緩やかな上昇を描いていたが、1980年代以降、トレンドが完全に変わっていることがはっきり分かる。実体経済よりも金融債務の伸びがはるかに高く、2009年には金融債務は名目GDPの3.68倍の規模に拡大した。次から次へ生み出される金融商品によって、金融部門の利益は実体経済を上回る伸びをみせ、そうした好調な金融部門が米国の消費性向を高目に維持していたと考えられる。

だが、開拓者時代そのままのような無法者(金融機関)に対する取締りが厳しくなれば、いままでのようにレバレッジをふんだんに効かすような金融操作はできなくなる。自己資本に見合った経営を余儀なくされ、これまでのような高収益は期待できない。市場原理主義を振りかざし、金融機関を野放しにして、法外な利益を生み出すような経済には終止符を打たなければならない。米国経済を牽引してきた金融部門の拡大が止れば、経済が有効需要不足に陥り、これまで経験してきた景気拡大の長期化は難しくなるのではないだろうか。

■ 塩漬け状態の資産担保証券

FRBの『Flow of Funds』によると、Fannie MaeやFreddie Mac等の政府支援企業等が発行している資産担保証券は09年末、8.11兆ドルある。ピークの09年3月末(8.18兆ドル)から3四半期連続で減少しているものの、微々たるものであり、証券の大半は塩漬けになっていると考えられる。発行の内訳は政府支援企業が2.7兆ドル、公的・政府支援企業のプールが5.38兆ドルとなっており、プールが圧倒的である。5.38兆ドルのうち5.21兆ドルはMBSであり、依然増加している。

他方、だれが8.11兆ドルの資産担保証券を保有しているのかをみると、最大の保有者は海外(1.31兆ドル)であり、次が商業銀行(1.27兆ドル)、3位に中央銀行であるFRB(1.06兆ドル)が顔を出している。FRBの4月14日のバランスシート(資産)にはMBSが1.1兆ドル計上されており、3月末でMBSの買い取りを終了したにもかかわらず増加している。FRBの総資産は2.34兆ドルであるので、MBSがその47%を占めていることになる。MBSの買い取りのための資金は預金であり、金融機関が1.06兆ドルをFRBに預けており、すべてはMBSの買い取り資金となっている。要するに、金融機関は不良資産であるMBSをFRBに買い取ってもらうために、自らその資金をFRBに提供しているのである。

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ピーク近い景気先行指数

曽我 純:

2月の景気先行指数は前月比1.0%増加し、これで12ヵ月連続のプラスだ。先行指数は伸びているが、週末、3ヵ月物短期金利は0.23%に低下した。資金需要は引き続き弱く、3月末の全国銀行貸出は前年比2.5%減、しかも減少率は拡大している。なかでも都市銀行は5.4%も減少し、日銀の金融緩和策は銀行の民間部門への資金供給拡大に結びついていない。一方、預金は2.5%増加しており、預金と貸出の差は145兆円に拡大した。金利が下がれば、資金需要が出てくるはずだが、これだけ低下しても、借手があらわれないことは、国内では利益が期待できる分野が見当たらなくなっているからである。

景気先行指数の前年比伸び率は前年が落ち込んでいたため31.4%増と過去最高の伸びとなった。先行指数のディフージョン指数も昨年10月、すべての指標が3ヵ月前を上回る100%となり、経済の全分野で景気が改善していることを示した。その後も高い数値を維持し、2月も90%を付けた。一致指数のディフージョン指数は2月までの4ヵ月のうち3回が100%となり、景気はこれ以上好転しない状態にある。

景気先行指数と株価の連動性は強く、先行指数が底を付け、急上昇しているときには、株価も騰勢に転じる。今回、昨年2月に同時に底打ちしており、3月末の日経平均株価は昨年2月末比46.5%上昇した。過去の景気先行指数上昇期における株価上昇率は50%前後となっていることから、今回の株価上昇もほぼ天井に達したと考えられる。

80年代後半のバブル期には先行指数は株価がピークを付ける1年前に最大となっていた。07年6月に1万8,000円台まで上昇したときも約1年前に景気先行指数はピークに達していた。バブルが膨らむときはいつも景気先行指数が下りはじめても、なお株価は上昇し続け、実体経済から離れていった。そのようなバブル期の株価上昇率は2.3倍と通常の上昇率をはるかに上回った。

景気先行指数は2月まで上昇を続けているが、いつこのトレンドが変わるかもしれない。おそらく数ヵ月の間には方向が変化するだろう。先行性の強い一致・遅行指数比率は2月、前月比減と2ヵ月連続して低下していることも、先行指数のピークが近いことをあらわしている。景気先行指数が数ヵ月内に下降することは、株価も同じような軌跡を辿ることになろう。景気先行指数の反落は、企業業績についても不透明感が強まることでもあり、収益面でも株式の魅力は減退する。

企業収益を支える財政赤字

機械受注の足取りは依然おぼつかない。2月の受注額合計は前月比0.4%の微減だが、2ヵ月連続のマイナスである。外需と民需は8.4%、1.1%それぞれ増加したが、官公需が21.2%も減少したからだ。機械受注を支えているのは外需であり、昨年5月を底に回復しつつあり、2月は昨年5月比約2.4倍に拡大した。官公需は昨年10月まで減少していたが、その後も弱く、2月は昨年10月を1.8%上回っているに過ぎない。民需の底はさらに遅く、昨年11月である。船舶・電力を除く民需も同様に昨年11月が最低であり、2月は昨年11月比9.5%増と回復は緩やかだ。

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曽我 純:

週間で2円超の円安ドル高となり、円ドル相場は09年8月以来の円安ドル高となった。3月の米経済指標が発表されつつあるが、景気回復を示す指標が相次ぎ、資金はドルに回帰している。3ヵ月物のドル金利は上昇している半面、円金利は低下しつつある。米10年債の利回りは3.93%と08年10月以来の高い水準に上昇し、金利差からもドルが選好されている。ただ、景気回復の初期段階では、普通、短期金利の上昇速度は速くなるが、今回は極めて緩やかであり、短期金利の変化からも、米景気回復の速度は緩慢であることがわかる。

円安ドル高になれば、国内輸出企業の業績改善は一層促進されることになり、株式が買われることになる。ただ、1月、2月の輸出超過額は合計7,138億円と回復に向かっているが、年間10兆円を超えていたときに比べれば、半分に満たない規模である。原油をはじめ資源が再び高騰しているため、円高ドル安がさらに進行しても、貿易黒字をそれほど増やしはしないだろう。

2月の輸出が前月比で減少すると、鉱工業生産指数も0.9%低下した。米国経済が回復力を強めれば、それが世界経済に波及し、日本の輸出も拡大傾向を持続することになる。日本(2月)とドイツ(1月)の鉱工業生産指数のピークからの回復力は82.9%、82.4%と似ているが、米国は89.9%まで戻しており、ダメージが強かったわりには、回復力は日本、ドイツを上回っている。米国経済は輸入依存度が高いため、景気回復が本格化すれば、輸入は大幅に拡大するだろう。

3月の米消費者信頼感指数が前月を大幅に上回り、米国経済の約7割を占める消費の回復期待が強まり、製造業景況感指数も前月比プラスになるなど、マインドは明るくなってきた。3月の非農業部門雇用者は前月比16.2万人と07年3月以来3年ぶりの増加だ。国勢調査により政府部門が3.9万人増加したが、製造業も1.7万人と微増だが2ヵ月連続増となり、緩やかに雇用は改善しているようだ。

その一方、1月のS&Pケース・シラー住宅価格指数(主要10都市)は前月比0.2%減と4ヵ月連続の低下となり、地価の回復は遅れている。3月の米新車販売は、自動車ローンのゼロ金利などの優遇策により底上げされており、反動減に見舞われる恐れがある。個人消費支出は前月比0.3%増加したが、賃金・俸給、可処分所得は横ばいになるなど、景況感と実際の数値とは隔たりがでてきており、株式の回復などが、実態以上に景況指数などを引き上げているように思う。

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