単一思考が実体経済と株価の乖離を大きくする

曽我 純:

日経平均株価の上昇はこれで6週連続となり、昨年来高値に接近してきた。日銀の追加金融緩和策や米金融政策の現行長期化などによる金融要因が株価の上昇をもたらしている。金融要因により日本の実体経済と株価は離れていっているように思う。いつまで乖離が続くのかわからないが、それが持続、拡大するほど、株式の崩落は酷くなり、実体経済に打撃を与えることになる。昨年から減少したとはいえ完全失業者数は323万人(1月)と前年を46万人も上回っている。株価が実体経済から乖離し、急落することになれば、経営者の心理は冷え、雇用環境は悪化するだろう。もちろん消費はさらに削減され、景気は腰砕けになる。だから、株価が実体経済から離れたらできる限り、早期に実体経済に近づけるようにしなければならない。それが、経済をみているエコノミストの役目なのだが、実際は、現状肯定派ばかりで異論はほとんどきかれない。

日本経済が90年代以降、20年も不況から抜け出せないのは、こうした経済の現状にたいして当たり障りのない、平凡な説だけが流布され続けてきたことと関係があるような気がする。企業が単一思考で金太郎飴のような社員を好しとする風潮がいまだに改善されていないことが、理論的、合理的な判断する障害となっている。個人的にはAという判断を下したいけれども、上司あるいは会社を前提にすればBという判断を下さざるを得ない。いつも忖度しながら考え、結論を引き出す情けない企業慣行が根強く残っている。社員はいつのまにかそのような思考の人間に仕立てられ慣らされてしまうのである。

日本のエコノミストや証券アナリストは米国に比較にならないくらい少ないが、少ないことに加えて、会社の縛りが強く、個の意見を出し難い。みんなと同じ意見を出し、同じように失敗することがよいことなのである。異説を述べ、それが的中しても、会社ではまったく評価されないのだ。

社長の独裁体制の下では、上司の顔色を窺いながら、上司はどのように考えているかを推し量ることがもっとも重要なのである。その上司はまたその上の上司のことを考えながら考えを進めるという経路なのである。だからエコノミストは経済をみるのではなく上司をみながら仕事をすることになる。これでは異説などでてくるはずがないばかりか、色眼鏡を通して経済をみることになり、すぐれたエコノミストを育てることもできない。これはエコノミストだけの話ではなく、会社の意思決定に携わる人にも言えることであり、本来の仕事ではないところにエネルギーを使っていることが、仕事を非効率にし、生産性をおとしているのである。

実体経済の回復は製造業主導でなされている。製造業が良くなってきた理由は単純で、輸出が回復してきたからだ。昨年2月、輸出は3.9兆円まで落ち込んだか、今年1月は5.8兆円まで戻ってきた。これからもこの傾向が持続すれば、製造業の業績はさらに改善するけれども、この傾向が頓挫してしまうと、直ちに製造業の業績に暗雲が垂れてくる。2月上中旬の輸出は前年比46.8%増と1月よりもさらに伸びたが、季節調整値で前月を越えることが難しい情勢にある。昨年2月を底に3月以降10ヵ月連続の前月比増が止ることになれば、製造業の業績回復に赤信号が点る。

『法人企業景気予測調査』(調査時点、2月25日)によると、1-3月期の国内需要判断BSI(大企業製造業、「増加」-「減少」社数構成比)は1.5%と前期比11.4ポイント低下し、2四半期連続の低下となった。海外需要判断BSIも13.3%と前期比小幅減ながら、2四半期連続で悪化した。売上高や経常利益のBSIも2四半期連続で低下し、貴社の景況判断BSIも同じ動きをした。

大企業製造業の09年度下期の売上高は前回調査より増額され、経常利益も上方修正された。下期の大企業製造業経常利益は上期の3.4倍に拡大し、全規模全産業の下期増加額の5割以上を占める見通しだ。大企業非製造業の下期売上高は昨年5月調査に比較して今年2月調査までの3回の調査でいずれも下方修正され、経常利益は下期が上期を下回っている。来年度についても、大企業非製造業の業績に大きな変化はなく、経常利益も今年度並みになるだろう。
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この記事は「編集者」の寄稿です。2010年3月21日 23:50.

米金融政策を決める銀行貸出の動向 は以前の記事です。

輸出の拡大が途切れ交易条件が悪化するなかでの株高 は以降の記事です。

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