2010年3月 Archives

曽我 純:

先週末、日経平均株価は7週連続上昇し昨年来高値を更新した。週央に発表された2月の輸出(季節調整値)が前月比1.7%減と12ヵ月ぶりのマイナスになったことなど何処吹く風である。今年度下期の企業業績の回復は偏に製造業に依存しており、非製造の下期への貢献は期待できない。製造業の業績がこれほど急速に戻しているのは、輸出が急回復しているからだ。2月の輸出額は5.12兆円、前年を1.6兆円上回っており、これが、製造業の稼働率を高め、収益を引き上げているのである。2月の輸出額は前年比45.3%増加したが、化学製品、非鉄、ベアリング、半導体、自動車等の伸びは総額をはるかに上回った。他の事情が変わらなければ、輸出が伸びれば製造業の利益は自動的に拡大する。だが、その輸出に黄信号が点りはじめたことは、これまでのような楽観的な見通しだけで、製造業の先行きを判断することはできないことでもある。

2月の総合消費者物価指数は前年比1.1%低下し、マイナス幅は4ヵ月連続の縮小となった。食料・エネルギーを除く指数(コア)も同じ1.1%の低下だが、前月より0.1ポイント縮小しただけである。食料もマイナスだが、光熱、家庭用耐久財、教養娯楽用耐久財などの下落が著しく、需要の減少により、物価が下落していることが窺える。

他方、昨年8月、国内企業物価指数は前年比8.5%も下落していたが、6ヵ月連続してマイナス幅は縮小、2月は1.5%減となった。消費者物価指数(コア)はマイナス幅が拡大した状態が続いている半面、国内企業物価指数の下落率が縮小することは、企業にとって嬉しいことではない。

消費者物価指数(コア)から国内企業物価指数を引いた数値(前年比の比較)は昨年8月、7.6ポイントに拡大した後、今年2月には0.4ポイントまで縮小した。昨年までは交易条件はプラスに効いていたが、今年に入りプラスの効果は薄れてしまい、このまま推移すれば企業収益にマイナスに影響してくるだろう。先週末の日経商品指数17種は前年比20.8%も上昇しており、企業の原材料費は確実に上昇し、原材料コストはこれまでのように収益の拡大要因から縮小要因へと変わりつつある。

輸出に黄信号が点り、交易条件がプラスからマイナス要因に変わろうとしているとき、株価は昨年来高値を更新した。予想株価収益率は32倍を超えており、どのように考えてみても理屈に合わない。来期の利益が2倍に急増したとしても予想株価収益率16倍である。世界の株式を見回してみても、30倍を超えている国は稀であり、主要国では10倍台である。経済成長率の長期トレンドは一貫して低下し続けており、向こう10年の成長率はマイナスになるだろう。こうした経済環境のなかで、予想株価収益率が突出して高いことはなにを含意しているのだろう。

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曽我 純:

日経平均株価の上昇はこれで6週連続となり、昨年来高値に接近してきた。日銀の追加金融緩和策や米金融政策の現行長期化などによる金融要因が株価の上昇をもたらしている。金融要因により日本の実体経済と株価は離れていっているように思う。いつまで乖離が続くのかわからないが、それが持続、拡大するほど、株式の崩落は酷くなり、実体経済に打撃を与えることになる。昨年から減少したとはいえ完全失業者数は323万人(1月)と前年を46万人も上回っている。株価が実体経済から乖離し、急落することになれば、経営者の心理は冷え、雇用環境は悪化するだろう。もちろん消費はさらに削減され、景気は腰砕けになる。だから、株価が実体経済から離れたらできる限り、早期に実体経済に近づけるようにしなければならない。それが、経済をみているエコノミストの役目なのだが、実際は、現状肯定派ばかりで異論はほとんどきかれない。

日本経済が90年代以降、20年も不況から抜け出せないのは、こうした経済の現状にたいして当たり障りのない、平凡な説だけが流布され続けてきたことと関係があるような気がする。企業が単一思考で金太郎飴のような社員を好しとする風潮がいまだに改善されていないことが、理論的、合理的な判断する障害となっている。個人的にはAという判断を下したいけれども、上司あるいは会社を前提にすればBという判断を下さざるを得ない。いつも忖度しながら考え、結論を引き出す情けない企業慣行が根強く残っている。社員はいつのまにかそのような思考の人間に仕立てられ慣らされてしまうのである。

日本のエコノミストや証券アナリストは米国に比較にならないくらい少ないが、少ないことに加えて、会社の縛りが強く、個の意見を出し難い。みんなと同じ意見を出し、同じように失敗することがよいことなのである。異説を述べ、それが的中しても、会社ではまったく評価されないのだ。

社長の独裁体制の下では、上司の顔色を窺いながら、上司はどのように考えているかを推し量ることがもっとも重要なのである。その上司はまたその上の上司のことを考えながら考えを進めるという経路なのである。だからエコノミストは経済をみるのではなく上司をみながら仕事をすることになる。これでは異説などでてくるはずがないばかりか、色眼鏡を通して経済をみることになり、すぐれたエコノミストを育てることもできない。これはエコノミストだけの話ではなく、会社の意思決定に携わる人にも言えることであり、本来の仕事ではないところにエネルギーを使っていることが、仕事を非効率にし、生産性をおとしているのである。

実体経済の回復は製造業主導でなされている。製造業が良くなってきた理由は単純で、輸出が回復してきたからだ。昨年2月、輸出は3.9兆円まで落ち込んだか、今年1月は5.8兆円まで戻ってきた。これからもこの傾向が持続すれば、製造業の業績はさらに改善するけれども、この傾向が頓挫してしまうと、直ちに製造業の業績に暗雲が垂れてくる。2月上中旬の輸出は前年比46.8%増と1月よりもさらに伸びたが、季節調整値で前月を越えることが難しい情勢にある。昨年2月を底に3月以降10ヵ月連続の前月比増が止ることになれば、製造業の業績回復に赤信号が点る。

『法人企業景気予測調査』(調査時点、2月25日)によると、1-3月期の国内需要判断BSI(大企業製造業、「増加」-「減少」社数構成比)は1.5%と前期比11.4ポイント低下し、2四半期連続の低下となった。海外需要判断BSIも13.3%と前期比小幅減ながら、2四半期連続で悪化した。売上高や経常利益のBSIも2四半期連続で低下し、貴社の景況判断BSIも同じ動きをした。

大企業製造業の09年度下期の売上高は前回調査より増額され、経常利益も上方修正された。下期の大企業製造業経常利益は上期の3.4倍に拡大し、全規模全産業の下期増加額の5割以上を占める見通しだ。大企業非製造業の下期売上高は昨年5月調査に比較して今年2月調査までの3回の調査でいずれも下方修正され、経常利益は下期が上期を下回っている。来年度についても、大企業非製造業の業績に大きな変化はなく、経常利益も今年度並みになるだろう。
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米金融政策を決める銀行貸出の動向

曽我 純:

日経平均株価は5週連続で上昇し、1月第2週に付けた昨年来高値に近づいてきた。外人買いが継続しており、3月第1週の買い越し額は2,615億円と昨年来高値を付けたとき以来の金額に膨らんだ。おそらく先週も外人の積極買いにより上昇し、先週末の株価は前年を50%以上上回った。東証1部の売買代金(委託)に占める外人比率は3月第1週、59.9%と09年の53.9%を上回り、存在感を増してきている。先週末の世界の主要株価はいずれも前年よりも50%以上、特にナスダックは66%も高く、高値警戒感がでており、いつまでも外人買いが続くと期待するわけにはいかない。

2月の米小売売上高は前年比3.9%増加したが、伸び率の5割弱はガソリンの販売増によるもので、家電や衣料など前年割れの業種もあり、全体的に回復しているとはいえない。しかも伸び率は昨年12月の5.6%から2ヵ月連続の低下だ。一方、1月の米財輸入額は前年比13.7%増加したが、前月比では昨年12月までの4ヵ月連続増が途切れ、景気回復の足取りが確りしていないことを示唆している。3月のミシガン大学消費者信頼感指数は72.5と2ヵ月連続で低下し、消費者マインドの改善も足踏みしている。

米国の資金需要は引き続き弱く、2月の商業銀行貸出は前年比8.3%減と今回の減少過程でマイナス幅を更新した。特に、商工業貸出は不振であり、前年を18%も下回ってしまった。不動産貸出も-2.4%と3ヵ月連続のマイナスだ。不動産貸出のマイナス幅が小幅であることは、不動産関連の不良債権を多くを抱えたままであり、銀行の収益率低下の原因でもある。全米商業銀行の自己資本利益率は3年連続の低下となり、09年は0.85%と1%を下回った。06年の13.02%と比較するとまさに雲泥の差である。貸出は大幅なマイナス状態だが、預金は2月、前年比5.5%と伸び率は鈍化しているが、それでも流入し続いている。預金の流入と貸出の減少により、銀行は余剰資金を国債と現金に振り向けざるを得なくなっている。こうした資産は安全ではあるが、収益率は低く、不良債権を清算する原資がなかなか確保できないことになる。不良債権処理の遅れ、貸出減、収益減、不良債権処理の遅れという悪循環に陥っているかもしれない。

このように貸出が減少しているときには、FRBは政策金利を引き上げることはない。過去のFFレートと貸出の関係をみると、貸出の前年比伸び率が底を付けたことが確認されてから、引き上げられていることが読み取れる。たとえば、93年3月に貸出は底打ちしたが、3%のFFレートが引き上げられたのは94年2月である。約1年近いタイムラグがある。
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追加緩和策でも貸出は伸びない

曽我 純:

「日銀が追加緩和策を検討」の報道を受け、週末の株価は前日比200円以上上昇した。昨年の12月1日、日銀は新型オペを発表したが、市場はそのときと同じ反応を示した。今回のオペは固定金利で年0.1%と金利は同じだが、貸出期間は倍の6ヵ月に延ばし、規模も拡大する方針。金融機関は0.1%で借りることができるので調達しやすくなるが、貸出が減少し、すでに預金を持て余しているので、借入の条件を緩和したからといって、貸出が伸びるわけではない。激しいデフレ下にある経済環境では、個人も企業も負債の負担が自然に増える借金を現状以上に借りるようなことはしないだろう。家計や企業を問わずできるかぎり、借入は返済し身軽になりたいのが本音だと思う。そうしなければ、デフレ経済を生き抜いていくことができないからだ。

日銀当座預金の伸び率低下につれて、2月のマネタリーベースは前年比2.2%に鈍化してきた。昨年4月の8.2%の高い伸びからみるみる低下し、新型オペも効果を上げているとはいえない。特に、日銀券発行高は1月までの3ヵ月連続の前年割れからプラスに転じたものの、0.1%の微増であり、マネー需要は弱い。家計や企業に0.1%で貸し付けるのであれば、需要はでてくるかもしれないが、銀行がピンはねし高い金利で貸すことになれば、需要は萎んでしまう。

非生産者である大銀行が豪華な本支店を構え、高給を取る仕組みは、90年代のバブル崩壊後もまったく改められていない。金融業のようなマネーの仲介者が、ものやサービスを供給している業種よりも高い利益や給与を得るという不思議な現象があたりまえのように続いている。高コストを是正すれば、貸出金利を下げることができるだろう。高コストの銀行は倒産しかねないような金融機関の競争が働く仕組みを作らねばならない。

90年代の半ば以降15年もの長期間、国民は利息に期待することができなくなった。金融機関はほとんど無きに等しい利息しか払わず、ほぼコストゼロで入手した資金を貸し出し、利益を稼いできたのだ。デフレ経済では現金選好が強まるため、利息は期待できないけれども、預金はする。貸出は減少するため、金融機関の資金運用は国債しかない。日銀は買いオペで金融機関保有の国債を買い取り、日銀券を発行する。

1月の「家計調査」によれば、勤労者世帯の可処分所得は前年比-1.9%と8ヵ月連続の前年割れである。消費支出は横ばいとなり7ヵ月連続のマイナスがやっと止ったが、自動車・液晶テレビ等の耐久消費財への支出拡大によるものであり、全体的には引き締め姿勢に変わりはない。平均消費性向は前年比1.7ポイント増とこれで前年比プラスは6ヵ月連続である。可処分所得の減少下で、消費を維持するために平均消費性向は上昇している。見方をかえれば、貯蓄性向は低下しており、家計の貯蓄力は徐々に衰えている。貯蓄額は少なくなる一方、高齢者の急増により、貯蓄の取り崩しが進行するだろう。昨年9月末、家計は747兆円の預金を保有しているが、今後、預金は減少し、金融機関の国債購入余力は低下するだろう。

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